仕事を辞めたいと思っているのに、なかなか決断ができない…という人は少なくないようです。なぜ、辞めたいのに最後の決断ができないのか、そして後悔のない決断をするにはどうすればいいのか、元リクナビNEXT編集長であり、現在は転職支援サービスを手掛ける黒田真行さんに伺いました。

目次
辞める決断ができない理由とは?
会社を辞めたいと思っているのに決断できないのは、自分の中でまだ「辞めるべきかとどまるべきか」の白黒がついていないから。「残ったほうがいいのかも」という気持ちがどこかにあるから、決断できないのだと思われます。
例えば、「会社の方針に納得がいかないけれど、同僚など周りの人たちは好き」、「上司と気が合わなくて辞めたいけれど、仕事自体は自分に合っている」など、何らかの後ろ髪を引かれる要因があるはずです。
しかし、辞めるのか、それとも辞めないのか、自分の気持ちをはっきりさせないと、いつまでも悶々としてしまい、先に進むことができません。前向きにイキイキと働くためにも、自分に向き合い、辞めるのか、辞めないのかをじっくり考えることが重要です。
決断が「早すぎる」ケースと「遅過ぎる」ケース
退職を決断するタイミングには、その決断が「早すぎるケース」「遅すぎるケース」「適正であるケース」の3種類があります。ただ、「適正なタイミング」は人それぞれ異なります。ここでは、早過ぎるケースと遅すぎるケースを理解して、自分にとっての適正なタイミングを考えてみましょう。
「早すぎるケース」で多いのは、本人の感情の沸点が低く、ちょっとした仕事や人間関係のトラブルでも「こんな会社辞めてやる!」という気持ちが先走り、深く考えずに辞表を叩きつけてしまうパターン。辞めた後に「勢いで辞めるべきじゃなかった」「もう少し頑張ればよかった」と後悔する人も多いようです。
それよりも多いのは、決断が「遅すぎるケース」。辞めたいと思っているのに「今辞めるのは時期尚早では」「もう少し今の環境で頑張ったほうがいいのでは」などと考えてしまい、判断が遅れるパターンです。
もういよいよ限界だ…と思っても、メンバーがまだ育っていないから、このビジネスが好きだから、今辞めるとプロジェクトに迷惑がかかるから…などといろいろな理由を付けて、辞めずに頑張り続けてしまう人は実はとても多いのです。
後で「もっと適切な時期に転職すればよかった」と後悔しないためにも、以下の方法で早めに「辞める・辞めない」の決断をしておくことをお勧めします。
「辞める、辞めない」を決断する方法
辞めるのか、それとも辞めないのか、決断するときの判断方法をご説明します。たとえ「辞める」と決断しても、仕事の関係や転職活動の進み具合によってすぐには辞められないという場合も考えられます。
時間は有限であり、転職市場の流れもどんどん変わっていくので、「辞めたい」という気持ちがあるならば早めに次の方法で決断し、先に歩みを進めることをお勧めします。
なりたい自分を想像して、今の環境で叶えられるか考える
自分はどんなふうに働きたいのか、どうすればご機嫌に働けるのか、自分にとっての理想の状態をできるだけ具体的に考えておくと決断しやすくなります。「ここにいても理想の状況には到底至れない」と思えたら、辞める決断ができますし、「頑張れば(もしくは時が経てば)至れるかも」と思えたら、辞めないという決断ができます。
「辞めない」という決断をすることも実はとても大事で、自分の気持ちがはっきりすると「辞めたい」というモヤモヤがなくなるという効果があります。
一番もったいないのは、辞めたいと思いながらズルズル働き続けること。モチベーションが上がらないし、いつまでもモヤモヤした気持ちを抱えて働くことになります。理想の自分と今の環境とを比較して気持ちをはっきりさせれば、ズルズル、モヤモヤから解放されイキイキ働けるようになるでしょう。
辞めたい理由を書き出し、分類する
辞めたいと思う理由を書き出して細かく分解し、「自分の努力や頑張り、時間の経過などで変えられるもの」と「変えられないもの」に分類してみましょう。その結果、変えられないものが多ければ「辞めたほうがいい」、変えられるものが多ければ「辞めないほうがいい」と決断することができるでしょう。
例えば、社内の人間関係がギスギスしていて嫌だ→特に今の上司と合わないというケースは、「変えられる」に当てはまります。多くの場合、上司が異動したり自分が異動したりして、ずっと上司・部下の関係であり続けるケースは稀だからです。それに気づければ、「いつかは状況が変わるのだから、目の前の仕事に専念しよう」と思えるようになるでしょう。
それでも決断できないときは、第三者に相談を
前述の方法でも決断できないという場合は、信頼できる第三者に相談するという方法があります。友人や家族でもいいし、昔の上司や先輩などでもいいと思います。どういう理由で辞めたいと思っているのか聞いてもらい、自分の意見がおかしくないかどうか、確認してもらうといいでしょう。
辞めたい理由に筋が通っているか他者に確認してもらうだけでも、自分の意思決定に自信が持てるようになります。もし判断にズレや間違いがあったら、相手からの指摘をもとに「辞める・辞めない」を再度考え直してみましょう。
そのためにも1人ではなく、できれば複数の人に意見をもらうことをお勧めします。転職エージェントやキャリア相談サービスなどを活用してプロの意見を聞く方法もあります。
「辞める・辞めない」の判断は人に相談しにくいものなので、どうしても1人で悶々と考えがちですが、それゆえに判断軸が狂うケースも見受けられます。いろいろな人の意見を参考にしながら、自分自身が「正しい」と思える道を選んでほしいと思います。
辞めるか、辞めないか──後悔しない決断をするためには?
20代の若手は、「今は売り手市場だから」とライトに辞める決断をする人が多いように感じます。人材不足の折、特に若手は引っ張りだこなので、たとえ勢いで辞めてもすぐに転職先は見つかるでしょう。
しかし、辞めたいと思ったときに辞めて転職回数ばかりを重ねると、将来的に「転職回数が多くキャリアが安定しない人」と思われてしまうかもしれません。ベテランになってからしっぺ返しを食らい、後悔することのないよう、「辞めたい理由」と十分に向き合ってから退職を選びましょう。
一方で、自己犠牲精神が強く、辞めたいのに「今抜けたら周りに迷惑がかかるから」と我慢してしまう人もいますが、あくまで「自分軸」で考えるべきです。特に20代は、その後のキャリアの礎となる貴重な経験を積めるときです。
そんな時期に我慢して働き続けるのは、貴重な20代を無駄に過ごしてしまうことになりかねません。辞めたい気持ちがあるならば、できるだけ早く自分と向き合い、辞めるのか、辞めないのか、自分の気持ちをクリアにするべきだと思います。
ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役 黒田 真行さん
1989年リクルート入社。以降、転職メディアの制作・編集・事業企画に携わる。2006年~2013年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2013年リクルートドクターズキャリア取締役などを経て、2014年ルーセントドアーズ株式会社を設立。「ミドル世代の方々のキャリアの可能性を最大化する」をテーマに、日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。