「仕事で思ったような評価がもらえない」と悩む若手ビジネスパーソンは少なくないようです。自分では頑張っているにも関わらず、評価されないのはなぜなのでしょう?考えられる原因と対処法について、人事・採用コンサルタントの曽和利光さんに伺いました。

仕事で評価されない原因
一生懸命仕事に向き合い一定の成果も上げているのに、なかなか評価されなければ、上司や会社に対して不満や不信感を抱いてしまうのは当然のことです。ただし、この場合は会社側に問題があるケースもありますが、実は自分自身に評価されない原因があることもあるのです。
会社に原因がある場合
仕事が評価されない原因が会社側にある場合、主なケースとして次のようなことが考えられます。
会社のフィードバックや説明が不十分
最初の原因としてよくあるのは、会社が適切に評価を行っていても、フィードバックが不十分なために被評価者の納得が得られないケースです。会社の研修不足も一因と思われますが、「あなたはなぜこのように評価されるのか」について、具体例を挙げて部下に説明できる管理職は、実はあまり多くはありません。
例えば、会社が相対評価を採用する場合、その人が努力して一定の成果を上げても、それを上回る人が他にたくさんいれば、当然ながら高く評価はされません。ただ、それが正当な評価であっても、その「相場観」も含めた根拠が明確に示されなければ、「自分をきちんと見てくれていない」と不満を感じる人も多いでしょう。
評価をするために必要な情報を収集できていない
評価制度に問題がなくても、それを行うために必要な情報が取れていないケースもあります。本来なら「どんな場面でどんな行動をしたか」という事実の積み重ねが評価の基となるはずですが、業務の忙しさもあり、部下一人ひとりの行動を記録し、必要な情報を収集している管理職は案外少ないのです。
事実の裏付けがないと、上司は単なる印象や偏った認識を基に評価を行いがちなので、「自分は十分に評価されていない」と不満を感じる要因になってしまうでしょう。
仕事の成果が数字だけで判断される
会社の評価制度自体が適切ではないこともあります。よく見られるのが、数値などで可視化された成果だけが評価され、成果に至るまでのプロセスを見ないケースです。
一般的に数値で表せる成果はわかりやすく、評価も簡単ですが、成果を出すまでの創意工夫や、頑張ったものの具体的な成果に結びつかなかった仕事などは、定量的に測ることができません。また、役割を超えて同僚をサポートしたり、働きやすい職場づくりをしたりする「組織市民行動」と呼ばれる行為も、組織に大きく貢献するものであるにも関わらず、評価の対象になりにくいでしょう。
上司にバイアスがあるため正当な評価が受けられない
心理学では「類似性効果」と言いますが、人は誰しも自分に似たタイプの人物に好感を持つ傾向があり、これは、上司が部下を評価する際にも当てはまります。同じような成果を上げている部下が複数いる場合、自分と似たタイプの部下を無意識のうちに高く評価し、似ていない部下には低い評価を下すことがあるのです
例えば、直属の上司は「足で稼ぐ営業」、あなたは「慎重に戦略を練って行動する営業」である場合、両者のタイプが大きく異なるため、頑張っても評価されにくい可能性は考えられます。これは上司個人の問題だけでなく、そのバイアスを修正しない組織の問題でもあると言えるでしょう。

自分個人に原因がある場合
次に、会社や上司ではなく、自分側に評価されない原因があるケースをご紹介します。「いや、自分は頑張っている!」という人も、下記の状況が自分に当てはまらないかどうかをチェックしてみましょう。
自分の努力や頑張りを上司にアピールしていない
「お天道様が見ている」「陰徳を積む」という言葉があるように、日本人には「地道に頑張っていれば報われるはずだ」と期待する傾向があります。そのため「自分の努力を自ら主張するのは恥ずかしい」などと考える人も少なくありません。
しかし残念ながら現代は、自分から積極的に上司にアピールしないとなかなか正当な評価は得られません。なぜなら、フレックスタイム制やリモートワークなどにより空間・時間を共にしない「非同期」な働き方が広がっているため、管理職が日々の部下の行動を把握するのが難しくなっているからです。
また、管理職の大半がマネジメントだけでなく、自ら現場も担当する「プレイングマネジャー」として働いており、どうしても部下一人ひとりにまで目が行き届かなくなっていることも要因です。
頑張りの方向性がずれている
頑張っても全然評価されない場合、そもそも会社や上司から求められていることや期待されていることと、自分の頑張りがずれている可能性もあります。例えば、「今期は顧客数を増やしたいから、新規開拓に注力してほしい」と期待されているのに、1社1社との関係性構築に力を入れ過ぎて新規開拓がおろそかになっているケースなどは、高い評価は得られないでしょう。
それでも、従来の「勝ちパターン」を継承できる仕事なら、比較的明確な目標設定がされているものです。しかし、時代の変化が激しく、新しいアイデアや創造性がより求められる昨今は、会社や上司から提示される目標そのものが曖昧であることも少なくありません。
その中で評価を得ていくためには、「たぶんこういうことだろう」といった勝手な判断で行動するのはNGです。進むべき方向性を上司と丹念にすり合わせ、相互理解を深めた上で「自分に何が求められているのか」を把握し、それに沿って行動するという姿勢がこれまで以上に必要となるでしょう。
自己評価が高すぎる
仕事の評価に不満を抱える人の中には、「自己評価が異常に高い」人が一定数存在します。実は正当に評価されているのに、自己評価がそれを上回るために「評価されていない」と思い込んでいる可能性も、ゼロではありません。
実は、特定の分野において能力の低い人ほど、自分の能力を過大評価してしまうという傾向があります。この心理現象を「ダニング・クルーガー効果」といいますが、自己認知力が不足しているために「自分はできる」と思い込んでしまっているのです。本人的には頑張った!と思っていても、周りと比べてみると実はそうでもなかった…というケースは意外にあります。
仕事で評価アップされるためにやっておくといいこと
仕事で評価されない原因が、会社の評価制度や運用にある場合、個人が直接改善へ働きかけるのは難しいかもしれません。しかしそれ以外にも、自分の成果を自分でしっかり開示するなど、個人でできることはいろいろあります。仕事の評価を上げるためにやっておきたいことをご紹介しましょう。
自分の成果や頑張りを上司と共有する
上司が評価してくれないなら、自分から普段の努力や頑張りをどんどんアピールしましょう。「アピールなんて気が引ける」という人もいるかもしれませんが、前述したように、今は評価を上司任せにしてはいけません。これからは評価される側が自分の行動や成果を可視化し、上司に開示して納得してもらうという「説明責任」が問われる時代なのです。
お勧めしたいのは、普段から報連相で現状を共有すること。特に求められなくても日報や週報を送ったり、相談したり、浮かんだアイデアをぶつけるなど、事あるごとに上司とコミュニケーションを取りましょう。
また、上司が部下の行動記録を取らないのなら、自分自身で仕事のプロセスや成果を詳細に記録することをお勧めします。面談で「自分が半年間やってきたことはこれです」など、努力をファクトベースで提示することができれば、上司はあなたの頑張りを正しく把握でき、評価も変わってくるでしょう。
求められている「期待のすり合わせ」を習慣化する
会社や上司が今どんな働き方を求めているか、何に注力してどんな成果を挙げてほしいかについては、必ず詳細に確認をしましょう。それを怠り、自分の判断で勝手に良かれと思うことをしていては、期待とのずれが生じるのは火を見るより明らかですが、意外に確認できていない人が多いのです。
その上で「自分はこの考えで進めていますが、方向性は大丈夫ですか?」と、進捗ごとに上司と期待のすり合わせを行い、フィードバックをもらうことが非常に重要です。「日本人は、世界一ネガティブフィードバックをもらいたがらない」などと言われるように、中途評価を仰ぐことが苦手な人も多いと思います。
しかし、自分の行動にずれがあった場合に修正するには必要なので、できる限り意識して行うようにしましょう。それによって、より会社や上司の期待に添った仕事ができるようになるはずです。
周りと自分を比較して、自分の「当たり前水準」を上げる
多くの場合、仕事において頑張ったかどうかは相対的に評価されます。どうしても自分の評価に納得できない人は、まず自分の頑張りではなく、他人の頑張りに目を向けてみましょう。
同じ部署やチームの人がどれぐらい努力し、どんな工夫をして、どれぐらいの成果を挙げているのかを確認すれば「自分はまだまだ。もっと周りは努力している」などと気づけるかもしれません。
その上で、頑張りのギアをもう一段上げてみましょう。自分より評価の高い人を目安に個人目標を設定したり、日々の業務一つひとつにおいて「いつもより少し上」を目指してみたりすると、自分の「当たり前水準」も徐々に上がっていくと思われます。
上司との信頼関係を築いてバイアスを取り除く
前述したように、評価は類似性バイアスにも影響されます。本来なら管理職として自己改善してほしいところですが、上司も人の子なので、部下の行動にフィルターをかけて見てしまうことがあるのです。
「印象や先入観のために正当に評価されない」と思われる場合は、そのバイアスを逆手に取って、上司に信頼されるための自己開示をしていくことが効果的かもしれません。平たく言えば、上司の自分に対する印象を良くして、フィルターをプラスに転じるための行動を取ることです。
時間や約束ごとをきちんと守るのは当然ですが、他の人が避けがちな雑務や、地味な仕事も率先して引き受けたり、上司に「急ぎで頼みたい」と言われた仕事は優先的に取り組んだりするなど、一つひとつの行動で信頼を重ねていくことが大切です。それによって、上司もネガティブなバイアスから逃れて、より客観的で冷静な判断をしてくれる可能性があります。

仕事でより評価してもらうためには
繰り返しになりますが、仕事への評価は受け身で待つものではなく、自分でつかみ取るものです。もはや陰でひっそり努力したところで誰にも何も伝わらないことを理解し、意識を変えていきましょう。
「評価してもらえない」と不満を持つ人の中には、転職を考える人もいるかもしれません。ただ、みなさんに知っておいてほしいのは、評価への不満を持ちやすいのは昇格・昇給直前や、役職に登用される直前など、もう少しでステップアップできそうな段階であるケースが少なくないことです。なぜかというと「本来自分はもっと上のはず」と自覚するからこそ、評価に対する悩みや不満が生じるものだからです。
その場合、「評価制度が悪い」「上司が悪い」という理由で転職に走れば、ステップアップを目指したこの数年間の努力がリセットされてしまうことになるでしょう。評価されないと悩むことは、決してネガティブな側面だけではありませんので、早まることなくより良い選択をしてほしいと思います。
最後に、ビジネスパーソンにとって評価はとても重要であり、高く評価されることが外発的な動機づけとなって「もっとよい仕事をしよう」というモチベーションにつながります。
一方で、とりわけ創造性が求められる仕事では、「自分が楽しいから取り組む」という内発的動機の方が、より大きな成果を生むこともあります。仕事によっては、他者の評価を気にせず懸命に取り組むことで質が高まり、自然に評価もついてくることを忘れずにいてほしいと思います。
株式会社人材研究所・代表取締役社長 曽和利光氏
1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)など著書多数。新刊『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版)、『シン報連相~一流企業で学んだ、地味だけど世界一簡単な「人を動かす力」』(クロスメディア・パブリッシング)も話題に。