異動後の仕事がうまくいかないと感じるのはなぜ?対処法の4ステップを専門家が伝授

異動後 仕事ができないのは自分だけだろうか?どうやったら仕事がうまくできるのか?──異動後、仕事がうまくいかないと悩む若手ビジネスパーソンに向けて、「経験学習」「アンラーニング」に精通した青山学院大学経営学部教授・松尾睦氏に、対処法のアドバイスをいただきました。

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異動後に「仕事ができない」と感じる原因とは

部署を異動した後、「前のように仕事がうまくできない」と感じる人は、経験から学んだことを固定化してしまっている可能性があります。過去の成功体験に縛られ、既存ノウハウに固執しているため、新しいノウハウをうまく獲得できないのかもしれません。

私が行ってきた調査データによると、ビジネスパーソンの多くは社会人になって3年目くらいで独り立ちします。指示されなくても自身で判断して行動できるようになるのです。これは多くの職種で共通しています。

そして、5~7年の経験を積むと、トラブルシューティングができたり部下の育成ができたりと、「安心して任せられる」「頼りになる」存在になる人が多くなります。

このように、同じ部署で20代を過ごせば、自分の「型」が確立されるわけです。その段階でまったく異なる部署に異動すると、自分の型が通用せず、戸惑うこともあります。そこで自分の型にこだわり過ぎると、活躍することが難しくなります。

ここで必要となるのが、「アンラーニング(学びほぐし)」です。硬直した知識・スキルをほぐして、新しく組み立て直すのです。

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異動後の「仕事ができない」を解決する対処法

では、異動後に仕事がうまくいかない状態から脱却するためにはどうすればよいのでしょうか。アンラーニングに向かう4つのステップをお伝えしましょう。

【STEP1】異動を「成長のチャンス」と捉える

優れたリーダーになる人たちの多くに、ある共通点が見られます。「異動」を機に大きな成長を果たしているのです。「異動先が過酷な環境だったが、困難を経験したことで成長できた」と語る人は少なくありません。

「前の部署は居心地がよかった。ずっとあの場所にい続けたかった」と思うこともあるでしょう。しかし、自身の今後のキャリアを俯瞰し、この異動を「成長の源泉」と捉えてみてください。

異動してすぐには成果を挙げられないかもしれません。しかし、そんな状況だからこそ、「新たなスキルを身に付けるチャンス」「この状況を乗り越えれば一皮剥ける」というマインドセットが大切です。

【STEP 2】目的・役割を明確に認識する

前の部署でのやり方が異動先で通用しないとしたら、仕事の「目的」「役割」に対する認識がズレていて、それに気付けていない可能性があります。目的・役割を問い直し、修正を図りましょう。

ただし自分1人で考えてもわからないと思います。そこで、上司や先輩にこのような投げかけをしてみてください。

「私は前の部署でこんなことを大切に、こんな目的・役割を意識して仕事をしてきました。この部署で求められていることは異なるのでしょうか」

こう問いかけてみる、あるいは紙に書いて見せるなどすると、「この部分はいいけれど、ここはちょっと違うね」など、修正のフィードバックを得られるでしょう。目的・役割を正しく認識したとたん、パフォーマンスが上がるケースは少なくありません。

そして、このような視点を持って発信ができる人は、高く評価されるものです。まだ成果を挙げられていなくても、成長への期待感を抱かれるでしょう。

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【STEP 3】「ロールモデル」となる人を設定し、学び取る

アンラーニングを成功させている人たちの事例を見ると、多くの場合、異動先の部署で「仕事ができる先輩」に着目し、その人を「ロールモデル」として学んでいます。

このとき、スーパーマンのような万能な人物を選ぶと、自身とのギャップが大きく「こんなふうにはできない」と委縮してしまうかもしれません。

そこで、年齢が近く、自身とタイプが似ていて、話しかけやすい人を選ぶといいでしょう。その人の行動を観察する、質問をするなどして、その部署の仕事に必要な要素を吸収していきましょう。

このときに大切なのは、「一から教えてください」ではなく、「自分はこれまでこうしてきましたが、」「自分はこう考えていますが、」と、自らの意見を持って問いかけることです。

これなら、相手にはそれほど負担がかかることもありません。頼られれば悪い気はしないものなので、「応援してあげよう」と思ってもらえる可能性があります。

そして、異動後の「うまくいかない」は、新たな職場で人間関係を築けずにいるケースも多いようです。

その点、まずはロールモデルにしたい人と距離を縮め、関係を築くことで、他のメンバーとも自然につながり、組織になじんでいけるでしょう。「アンラーニング」と「人間関係構築」と、一石二鳥の効果を得られます。

なお、なじみのない領域に「管理職」として異動した人の場合は、部下に教えてもらってください。部下に教えを請うことで、部下との距離感が近くなり、関係が築きやすくなります。

【STEP 4】自身の「強み」を伸ばす

自身の「強み」を伸ばしていくことは、キャリア構築の基本戦略です。前の部署での経験を通じて認識した強み──例えば、「情報収集力」「分析力」「折衝力」「リーダーシップ」といったものを、今の部署ではどのように使えるか考えて実践してみてください。

例えば、前の部署の上司や先輩などに「私の強みは何だと思いますか?」「どんな仕事に対して評価をしてもらえていましたか?」などと聞いてみるといいでしょう。

親や兄弟、友人などからも、「あなたはこういうことが得意だよね」と、自分では気付いていなかった特性を指摘してもらえる可能性があります。

自分が理解している強みや才能を分析できる診断ツールもあります。自分が持っている強みを正しく認識して伸ばしていく意識をしてみましょう。

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そのように自分の強みを認識して今の部署に適した形で活かす一方、新しい強みを増やしましょう。キャリア構築の過程での「異動」のメリットは、これまで使っていなかった力を引き出し、伸ばせる点にあります。自身の中の潜在的なスキルを発掘するチャンスなのです。

ここでも、「ロールモデル」を持つことが重要です。「こんなふうに成長したい」というゴールを設定したとき、ロールモデルがいればお手本にしやすく、早くスキルを身に付けられるでしょう。

部署内にロールモデルとなる人がいなければ、他部署や取引先などで探せばいいのです。社内に見当たらなければ、社外のコミュニティに参加して探す手もあります。

異動により「自分がやりたいこと、目指すことと違う場所に来てしまった」と意欲が下がってしまう人もいると思います。そんな状況では、とにかく「できること」「強み」を増やしていきましょう

そうして自身が成長を遂げれば、新たな「やりたいこと」が生まれてくることもありますし、もともとやりたかったことにつながっていくかもしれません。

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「アンラーニング」×「ジョブクラフティング」を心がける

「ジョブクラフティング」という考え方があります。これは仕事の意味を捉えなおしたり、仕事の進め方を工夫したりすることです。

ジョブクラフティングによってキャリアを切り拓いたAさんの事例を紹介しましょう。Aさんのケースは「異動」ではありませんが、転職後に不本意な仕事を与えられました。

当時、20代半ばだったAさんは、書籍作りに意欲を燃やして出版社に転職。ところが、与えられた仕事は、書籍の売上を集計するデータ入力でした。「こんな作業はアルバイトに任せればいいのでは?なぜ自分が?」と不満を抱いたものの、自分なりに仕事の意味を考え、創意工夫しました。

具体的には、書籍をジャンルごとにグループ分けをし、グラフを作成して売上データを比較することで、売れ筋テーマを分析しました。そして、「このテーマはよく売れている」「売れている本には○○という傾向が表れている」と、上司に提言したのです。

Aさんのデータがマーケティングに活かせること、そして独自に工夫する姿勢が認められ、Aさんの担当業務はランクアップ。次々とチャレンジングな仕事がもたらされ、戦略の提案まで担うようになりました。

実はAさん、現在は役員への昇進を果たしています。若い頃の「ジョブクラフティング」がキャリアの発展につながったのです。

学びほぐしをしてスキルの組み替えをする「アンラーニング」と、自分ならではの仕事へのアプローチを創造する「ジョブクラフティング」。この両輪で臨めば、異動による変化にも適応し、成長につなげることができるでしょう。

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1回経験しておけば、この先の異動・転職でも再現できる

長いビジネス人生、この先にも異動、あるいは転職といった環境変化を何度か経験することになるでしょう。しかし、一度「アンラーニング」「ジョブクラフティング」を経験しておけば、変化に遭遇するたびに再現することができ、継続的な成長につながります。

「プランド・ハプンスタンス・セオリー」というキャリア理論があります。スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱したもので、日本語では「計画された偶発性理論」などと訳されます。

「キャリアの8割は、本人が予想しない偶発的な出来事によって決まる」「偶発的な出来事を意図的にキャリア形成に活かそう」「主体的に偶発的なチャンスを生み出す行動をとろう」という考え方です。

予期せぬ異動も、異動先でうまくいかないことも、キャリア形成のチャンスと捉え、自身の成長に活かしてください。

青山学院大学 経営学部 経営学科 教授 松尾 睦氏

松尾 睦氏プロフィール画像小樽商科大学商学部卒業。北海道大学大学院文学研究科修士課程(行動科学専攻・社会心理学講座)修了。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程(人間行動システム専攻)修了(博士(学術))。Lancaster大学経営大学院博士課程修了(Ph.D in Management Learning)。塩野義製薬、東急総合研究所、岡山商科大学商学部 助教授、小樽商科大学商学部 助教授・教授、神戸大学大学院・経営学研究科 教授、北海道大学大学院・経済学研究院 教授を経て現職。
仕事のアンラーニング:働き方を学びほぐす』(同文舘出版、2021年)『経験学習リーダーシップ:部下の強みを引き出す』(ダイヤモンド社、2019年)『経験学習入門:職場が生きる人が育つ』(ダイヤモンド社、2012年)ほか著書多数。

取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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