仕事でイライラしてしまうのはなぜ?原因と怒りとの上手な付き合い方を解説

仕事の場面ではイライラしたり、カッと頭に血がのぼったりしても、 そのまま感情を相手にぶつければ人との関係や仕事に支障をきたしかねません。人はなぜイライラするのか、自分のイライラ感情と上手に付き合うためにはどうしたらいいのかについて、日本アンガーマネジメント協会理事の戸田久実さんに聞きました。

仕事でイライラしているビジネスパーソンのイメージ画像
Photo by Adobe Stock

仕事でイライラしてしまうのはなぜ?

朝の満員のエレベーターで無理して乗り込んでくる人、いい加減な返事しかしない後輩、口ばかり出してくるけど自分は働かない同僚、丸投げしてくる上司など。仕事に関するシーンではイライラすることが少なくありません。

些細なことで腹を立ててしまうことに自己嫌悪に陥ったり、嫌な気分を増幅させて他の仕事にまで影響が出たり。自分の怒りの感情を持て余している人もいることでしょう。そもそもなぜ人はイライラするのでしょうか。

イライラの原因は、心に潜む「べき」という感情

さまざまな要因がありますが、イライラは自分の思った通りになっていないときに抱く感情、つまり心に潜む「べき」という思いが正体です。「はず」と言い換えてもいいでしょう。「こうあるべきなのに」「ああなるはずだったのに」など、理想や願望、譲れない価値観を象徴する言葉です。

例えば、オンライン会議にいつも時間ギリギリにならないと入室してこない部下へのいら立ちは「上司よりも先に来て待機しているべき」という「べき」があり、しゃべってばかりで仕事に集中しようとしない同僚にイラっとするのは、「仕事中は雑談を控えるべき」という「べき」があります。そうした「べき」が破られたときに、怒りという感情が生まれます。

もう1つは、自分の心と体の安全が脅かされそうになったときに抱く感情でもあります。例えば電車に乗ろうとしているときに、後ろの人が急に押してきて危ない思いをしたら、怒りで対応し身を守ろうとする本能があるからなのです。

イライラという怒りには、どんな特徴があるのか

イライラ、怒りは自然に湧いてくる感情で、喜怒哀楽の1つ。自分を守るための防衛感情でもあり、怒りの感情そのものは悪いわけではありません。

ただ、怒りやイライラは、周囲に伝染しやすく、チカラ関係の上の人から下の人に向かいがちです。

例えば、外での会議を終えた上司が、イライラしながらパソコンを叩き始めたら、空気はピリピリしますし、怒りの矛先は部下に向かうこともあります。怒られた部下は八つ当たりと感じても上に跳ね返すよりは、さらに自分よりもキャリアや立場が下と見なす相手に怒りを向けてしまうこともあるでしょう。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

仕事のイライラに向き合うポイントは?

このように仕事でのイライラは、パワハラの連鎖になりかねません。では、自然に湧いてくるイライラや怒りの感情と上手に付き合うにはどうしたらいいのでしょう。

「べき」は人によって違うことを認識しよう

人は自分が大切にしている「べき」が破られたときに怒りが生じますが、その「べき」に正解があるわけではなく、人によって異なり、時代の流れで変わるものもあります。

例えば「メールは早めに返信するべきだよね」という場合の “早め”には、24時間以内にと考える人もいますし、その日のうちにと考える人もいます。中には、リモートワークの浸透によって、受信したら即返信があるべきと考える人もいるかもしれません。

自分の考える「べき」が他の人にとっても当たり前とは限らないことを認識しましょう。

自分の「べき」のOKゾーンを知ろう

例えば、「書類の提出期限は守る」は共通のルールであっても、その提出期限に対しての「べき」は人によって異なることがあります。

「期限当日の朝までに提出すべき」と思う人もいれば、「当日の終業時間までに提出すれば期限を守ったことになる」と考える人、「前日までに間に合いませんと一報を入れれば問題なし」とする人もいるでしょう。

そのため、自分の「べき」の境界線を明確にすることが重要なのです。
次の三重丸で「べき」の境界線を考えてみましょう。

  1. 許せる(OK)ゾーン(自分の「べき」と同じ、100%OK 理想的)
  2. まぁ許せるゾーン(イラッとはするけれど許容範囲)
  3. 許せない(NG )ゾーン(許容できない)
「べき」の境界線_イメージ画像
出典元:日本アンガーマネジメント協会

先ほどの事例、「書類の提出期限は守るべき」で当てはめて考えてみましょう。

  1. 決められた期限内に提出する
  2. 間に合わない場合、前日の就業時間内までに相談がある
  3. 相談もなく期日を守らない、または 前日の就業時間を過ぎての相談

以上のように自分の「べき」の境界線、特に「自分にとってのNGゾーンはどこからなのか」が明確になっているかを振り返りましょう。

「まぁ許せるゾーン」を広げよう

「まぁ許せるゾーン」を広げると許容範囲が広がり、イライラしにくくなります。例えば、「少なくとも終業前の午後5時までは待つことにしよう」「せめて、遅れると一報があればOKと考えよう」など、「少なくとも○○なら」「せめて○○なら」といった言葉を頭につけて考えてみると、どこまでなら許容できる範囲かを想定しやすくなります。

このように、「べき」の境界線を明確にすることで、怒る必要のあることとないことが明確になります。さらに、「期限はきちんと(ちゃんと)守ってほしい」という曖昧な言葉ではなく、相手と共通認識になるような言葉で、守ってほしい「べき」を伝えられるようにもなります。

NGゾーンへの対応はリクエストで伝えよう

喜怒哀楽は自然な感情ですから、怒ることがいけないわけではありません。許せないNGゾーンに対しては、伝えてもいいのです。自分の中にためこまず、相手に上手に伝えるようにしましょう。

部下や後輩を叱ったり同僚を注意したりすることは、相手に改善を促すための行為ですが、言い方によっては、文句を言っているとしか受け取ってもらえません。

例えば、「どうして締め切りを守れないのですか」「あなた以外、全員が提出済みですよ」という、責めるような言い方ではなく、「次からは17時までに提出してください。間に合わない場合は、せめて前日の就業時間までには相談してください」というように、「こうしてほしい」というリクエストで伝えましょう。

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仕事でイライラしたときはどう対応したらいい?

このように自分の「べき」を明確にして対処することは、さまざまなイライラに有効となります。続いては、仕事でイライラすることの多いシーンを例に、その対応法をご紹介します。

仕事でイライラしていることに悩むビジネスパーソンのイメージ画像
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CASE1:上司が仕事を丸投げしてくることにイライラする

「なんで私の状況を把握せずに、こんなに仕事を頼んでくるのかな」と考えているだけでは、現状は変わらず、怒りとストレスがたまるだけ。与えられた仕事のどこまでなら自分で対処でき、どこからはキャパシティオーバーなのか。「べきの境界線」を明確にした上でリクエストを伝えましょう。

<対応例>
「今はこんな現状で、水曜日までに私が一人でできるのはこのうちの7割です。残りの3割を仕上げるためにはせめて金曜日まで時間をいただけませんか」というように、問題解決に向けての行動を選択しましょう。

CASE2:自分の仕事への評価が低いことにイライラする

評価が低いことへのイライラは、「自分はここまでやっているのだから、もっと評価されるべきだ」という、自分の「べき」が破られたことによるものです。しかし、上司が評価基準にしているものと頑張っているポイントがずれている可能性があります。

<対応例>
「どうして私の評価はこんなに低いのですか?」では、文句を言っているように聞こえがち。「今回の評価の基準を教えてもらえますか?私としては、〇〇で結果を出し、こちらを評価していただけると思っていました。今後のためにどこを努力したらいいのか教えていただきたいのです」など、教えてもらいたいという視点で聞きましょう。

怒りに任せた行動をせずに、やり過ごす方法は?

仕事でイライラすることはいけないことではありません。ただし、避けたいのは怒りに任せた衝動的な行動をとることです。イライラなどの怒りの感情を抱いてから理性が働くまでに、6秒かかると言われています。その6秒をどうやり過ごすか、そのトレーニングをしておきましょう。

イライラ度を採点する

1つの方法が、「イラっと採点」です。怒りを感じたら、そのレベルが10点中何点になるのか採点しましょう。

例えば、通勤電車で押されたことにイラっとしたのは2点、同僚の自慢話へのイライラは5点など、採点することに意識が向かうので、6秒をやり過ごしやすくなります。また、自分はどのようなことで、どの程度の怒りが生じることがあるのか、怒りの傾向を客観的に把握することにも役立ちます。

<怒りの点数基準>
0=まったく怒りを感じていない状態
1~3=イラッとするが、すぐに忘れてしまえる程度の軽い怒り
4~6=時間が経っても心がざわつくような怒り
7~9=頭に血が上るような強い怒り
10=絶対に許せないと思うぐらいの激しい怒り

イライラを記録する

怒りに振り回されず、自身の怒りを理解するために、怒りを感じたことを記録する「アンガーログ」をつけるのもおすすめです。

イライラした、怒りを感じた日付と場所、出来事、どう思ったのか、どう感じたのかを記録することで、自分の怒りのパターンが把握でき、客観視しやすくなります。

例えば、「5月25日 職場にて 会議で発言をしたら上司が最後まで聴かずに頭ごなしにダメ出しをしてきてイラっとした。ひとまず最後まで聴いてほしいし、頭ごなしに否定するべきではない」というように、日々記録をとり続けてみましょう。

仕事でイライラした気持ちの解消法

仕事でイライラしたときや怒りを感じたとき、すぐに頭の中を切り替えるのは難しいこともあります。気分を変えるための気分転換メニューを用意しておきましょう。

3分でできること、5分でできること、昼休みにできること、さらに半日、1日など、時間別に複数のメニューがあることで、イライラから早く抜け出すことに役立ちます。

ストレスをためているビジネスパーソンのイメージ画像
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イライラ気分への転換メニュー例

オフィスの自席でスマホやパソコンの画面に視線を移すだけできることを用意しておく

  • 心が和む推しやペットの写真の待ち受け画面
  • 好きな犬や猫の動画
  • お気に入りのフレーズをメモ帳機能に貼っておく

3分でできること例

  • 窓辺に行って伸びをする、深呼吸をする
  • トイレに行って手を洗う
  • 好きな香りを含ませたハンカチをかぐ

5分できること例

  • 歯を磨く
  • コーヒーを淹れる
  • ストレッチをする

特に疲れているときや睡眠不足のとき、心配ごとを抱えているときなどは、「べき」を破られたときの怒りやイライラが大きくなりがちです。そうならないために、体調管理をし、ストレスを抱えていると思ったら適度に休息を取ることもイライラへの大事な対処法になるでしょう。

戸田 久実さん

立教大学文学部を卒業後、株式会社服部セイコー(現セイコーグループ株式会社)にて営業を経験後、音楽会社の社長秘書に転職。2008年、アドット・コミュニケーション株式会社を設立。アンガーマネジメント、アサーティブコミュニケーション、アドラー心理学をベースに、企業や官公庁の研修講師や講演を行う。著書に『怒りの扱い方大全』(日本経済新聞出版)、『アンガーマネジメント』(日経文庫)など。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事。

取材・文:中城邦子 編集:馬場美由紀
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