「スキルを磨きたい」「もっと稼ぎたい」といった理由から「ダブルワーク」に興味を持つ人が増えています。
一方、企業が副業を解禁する動きも活発化し、ダブルワークを実現しやすい環境になってきました。
そこで、ダブルワークを実施するための条件・メリット・始め方・注意点・社会保険や税金などについて、組織人事コンサルタント・粟野友樹氏、社会保険労務士・岡佳伸氏の監修のもと解説します。

目次
ダブルワークとはどのような働き方?
「ダブルワーク」とは、大きく「副業」と「兼業」に分類できます。
「副業」は主となる仕事(本業)を持ち、空いた時間で別の仕事をすること。本業に比べ、業務量・労働時間・収入を少なく抑えたものです。
「兼業」は複数の仕事を同時に掛け持ちしている状態。それぞれの仕事の分量・収入に差がないこともあります。個人事業主やフリーランスといった形態で働いている方によく見られるスタイルです。
現在、多くを占めるのは、会社に勤務しながら終業後や休日などに「副業」をするパターン。パート・アルバイトなどとして雇用されて働くケースもあれば、人的ネットワークやマッチングサイトなどを通じて業務を請け負うケースもあります。
ダブルワークができるのはどんな会社?
どのような会社であればダブルワークをすることが可能なのでしょうか。従業員のダブルワークに対して寛容な姿勢であったり、推奨していたりする企業の特徴をお伝えします。
就業規則で兼業・副業を認めている
原則として、「就業規則」で兼業・副業を認めている会社であれば、ダブルワークが可能です。
かつては副業を禁止している企業が大半でしたが、近年、副業・兼業を許可する企業が増加しています。
副業を認めることが、従業員のモチベーション向上アップ、離職防止、スキルアップなどにつながるという考え方が広がっているのです。
「ダブルワークOK」の会社の特徴
ダブルワークに寛容な企業の特徴として、次のような傾向が見られるようです。
働き方の自由度が高い企業
特にIT・ネット企業などは、リモートワーク制度の導入率が高く、エンジニア人材の獲得のため自由な働き方ができる環境を整備しています。副業の文化も根付いているケースが多いでしょう。
「成果報酬」型の企業
売上や成果に応じて報酬を支払うモデルの企業では、契約社員が多い背景もあり、従業員の自由な活動を制約しない傾向があります。「営業」「講師」などの職種を抱える企業には、このタイプが多く見られるようです。
個々の専門性が高く、裁量権が大きい企業
「コンサルタント」「士業」などスペシャリストが集まっている企業では、個々が専門性を活かして社外活動をする文化が根付いています。
シフト制の企業
接客・警備・倉庫・ドライバーなど「○日勤務して○日休み」といったシフト制の企業・職種では、シフト外の時間の使い方を制約しない傾向があります。
ダブルワークをするメリットと仕事の例
ダブルワークをするメリットは、収入を増やせることだけではありません。
ダブルワーク経験者からは、次のような声が聞こえてきます。
- 離職・転職しなくても他の仕事を経験し、新たなスキルや経験を得られる
- 自分のスキルが社外でどの程度通用するのかを試し、今後キャリアを積んでいく上での課題をつかめる
- 本業で収入を確保しながら、やりたいことに挑戦できる
- 異業種や他社の考え方・やり方を知ることで、視野が広がり、柔軟な発想ができるようになる
- 社外の人脈が広がり、将来的な転職・起業の足がかりができる
- 本業では「できて当たり前」とされることも、副業先では感謝され、貢献できる喜びを感じる
特に、最近ダブルワークを実践する人に多く見られるのが「本業ではできない経験を副業で積みたい」という動機です。
例えば、次のようなケースがあります。
勤務先の大手企業では営業部門に所属。マーケティングに興味があるが、異動希望を出しても叶わない。そこで、営業スキルを活かしてスタートアップ企業でサービスの拡販を担う副業を開始。マーケティングのサポートも行い、Webマーケティングの知見を磨いている。いずれはマーケティング職への転職を目指す。
本業の会社では人事部門で採用を担当。副業では、小規模ベンチャー企業の採用活動を支援するほか、以前からやってみたかった「人事制度企画」にもチャレンジ。人事領域での業務経験の幅を広げ、人事スペシャリストとしてのキャリアップにつなげたいと考えている。
ダブルワークを始めるには
ダブルワークを始めるにあたってまずするべきこと、仕事の探し方などをお伝えします。
ダブルワーク可かどうか就業規則を確認する
まずは勤務先企業の「就業規則」で、副業・兼業に関する規定を確認しましょう。
「可」なのか「不可」なのかはもちろん、条件や手続きを理解します。
副業OKとしている企業でも、多くの場合、申請して承認を得る必要があります。
「同業他社での副業NG」など、禁止事項が設定されていることもありますので、違反がないように注意しましょう。
なお、会社の規定では副業を認められていたとしても、「実質NG」であるケースもあります。
直属の上司や同僚が副業に否定的な考えを持っていると、副業をすることで人間関係に支障が生じたり、職場での居心地が悪くなったりする可能性もあります。本業での昇進・昇格に影響することもないとはいえません。
上司や人事に相談し、本業でもしっかりと成果を出すことが大切です。
社会保険や税金について知っておく
ダブルワークをするということは、複数の会社と契約を結び、複数個所から収入を得るということです。社会保険や税金について理解しておくことも重要です。
ダブルワークでできる仕事を探す
ダブルワークをしようと決めたら、仕事を探すには次のような手段があります。
人脈を活用
すでに副業をしている人たちは、人脈を通じて仕事を見つけたケースが多いようです。
例えば、「前職の取引先」から依頼を受けたり、「SNSでつながっている人」などから情報を得たりすると、経験・スキルや志向に合う仕事を見つけやすいといえます。
マッチングサービスを活用
副業・兼業したい人と企業を結ぶマッチングサービスも多数あります。
「クラウドソーシング」「シェアリングサービス」「副業・フリーランス向けエージェント」などで検索するとさまざまなサービスやマッチングサイトの情報を入手できます。
自身の職種分野や希望条件に合うサービスを選ぶといいでしょう。
ビジネスSNSでオファーを待つ
ビジネス特化型SNSで自己PRを発信し、自身の経験・スキルを必要とする企業からのオファーを待つ手もあります。
求人サイトで検索
求人サイトには「業務委託」「副業可」などの求人広告も掲載されています。これらの条件を指定して検索してみるといいでしょう。
ダブルワークを始める際に気をつけたいポイント
ダブルワークにはプラス面だけでなくマイナス面もあります。始める際には、以下のポイントに注意してください。
始める目的をできるだけ明確にする
「○○スキルをさらに磨くため」「○○の経験を積むため」など、「何のためにダブルワークをするか」という目的を明確にしておきましょう。
そうすることで本業と良い相乗効果を生み出せる可能性がありますが、目的が曖昧では今後に活きる経験にはならないかもしれません。
なお、「目先の収入アップ」はメインの目的にしないほうがいいでしょう。経験者からは「労力をかけたほど稼げない」という声も聞かれます。
収入の観点で考えるなら、「将来の収入アップにつながる経験を積む」という観点で仕事を選ぶことをおすすめします。
無理なく続けられる仕事を選び、スケジュールを管理する
ダブルワークによって労働時間が長くなることで、健康に支障をきたしてしまうこともあります。
本業のパフォーマンスを落とさないようにするためにも、スケジュールのコントロールが利きやすく、無理なく続けられる仕事を選びましょう。
副業先の「期待値」を確認する
副業者と副業者を受け入れる企業の間に、「役割」「目標」に対する意識のギャップが生じることがあります。
企業側が「しっかりコミットして責任を持ってほしい」のに対し、副業者側が「サポート程度でいい」と考えているケースなどです。
後々トラブルにつながることもありますので、最初の段階で企業と話し合い、「期待値」を確認しておきましょう。
各種「義務」事項を意識する
就業規則等の副業について定める規定には「秘密保持義務」「競業避止義務」などが含まれています。くれぐれも本業に損害を与えることのないよう、情報の漏洩などには十分に配慮してください。

【Q&A】ダブルワークでの社会保険や税金の基礎知識
ダブルワークをする際の社会保険・税金面の疑問にお応えします。
Q.ダブルワークでは、複数の会社の社会保険に加入する?
A.副業であっても、社会保険の加入条件を満たしている場合、社会保険への加入が必要となります。
健康保険・厚生年金保険については、社会保険適用拡大の対象となる従業員数101人以上の企業で働く、以下のすべてを満たす人が対象になります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2か月を超える雇用の見込みがある(フルタイムで働く方と同様)
- 学生ではない
上記の社会保険拡大企業(従業員数101人以上)以外で働く場合も、下記の条件を全て満たす場合、社会保険加入になります。
- 社会保険適用企業で働く
- 厚生年金は70歳未満、健康保険は75歳未満の人
- 正社員又は1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上であるパートタイマー・アルバイト等
雇用保険の加入条件は、以下の両方を満たしている場合です。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上ある
- 継続して31日以上の雇用見込みがある
ただし、雇用保険は主たる生計を維持する1社のみ加入扱いなので、本業の企業で加入することになります。
Q.ダブルワークの収入に対して、税金はかかる?
A.副業をすると、「所得税・復興特別所得税」「住民税」が課税される可能性があります。状況によっては、これに加えて「個人事業税」や「償却資産税」が課されることもあります。
「所得税」は、1年間の総所得金額から所得控除を差し引いた課税所得に応じ、税率(5%~45%)を段階的に適用して算出されます(算出された所得税に2.1%の復興特別所得税も課税)。
「住民税」とは、都道府県民税と市町村民税の総称。課税所得に対して約10%が課されます。
Q.ダブルワークをする場合、年末調整はどうすればいい?
A.年末調整とは、自身に代わって会社が仮の形で確定申告を行ってくれるものです。年末調整ができるのは、本業(主たる給与を受け取っている1カ所)のみ。副業に関して年末調整はできないため、自身で確定申告をする必要があります。
確定申告が必要なのは、以下のケースです。
- 副業がパートまたはアルバイトであり、年間収入が20万円以上
- 副業がパートまたはアルバイト以外(業務委託など)であり、年間所得が20万円以上
まとめ
近年、「キャリア自律」という言葉が注目されています。個人が自身のキャリアプランを企業に委ねることなく、主体的に考え、キャリアを構築していくことを指します。
自分自身でキャリアを構築していくために、ダブルワークは有効な手段です。戦略的に活用してはいかがでしょうか。
近年は、「リモートワーク制度」「週休3日制」など、柔軟な働き方の制度の導入が進んでいます。働き方に関する企業の制度とうまく組み合わせながら、効果的なダブルワークを実践してみてください。
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組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡 佳伸氏
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。