新型コロナウイルスの感染拡大で社会構造の変化が起こり、キャリアを見直したいと考えるビジネスパーソンも増えているようです。
そのような中で、転職を考えてみたものの、
「コロナ禍で自分が働く業界や興味がある業種・企業がどう変化したのかわからない」「転職した後、その業界や企業がどうなっていくのか」
「そもそも本当に今、転職してもよいのか」
など不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は、事業戦略のエキスパートであるシンクタンク・日本総合研究所の吉田賢哉さんに、転職に必要な業界・企業研究に必要な視点を、コロナ禍で変化した業界動向、「Afterコロナ」の予測と併せてうかがいました。
プロフィール
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
吉田 賢哉(よしだ・けんや)
さまざまな業界の企業を対象に成長戦略や新規事業を中心とした業務に従事。そのほか、経営ビジョン・中長期計画の策定、組織開発、マーケティング、パートナー戦略、リサーチ・市場予測など幅広いテーマにも対応し、多角的・総合的な観点から企業の発展を支援している。
目次
転職活動において「業界研究」は重要。複数業界を比較分析する
転職の仕事選びは、人生に大きな影響を与えるものです。人生の多くの時間を仕事に割くわけですから、それを充実させるため、やりたい仕事をイメージすること、やりたい仕事がどの業界で実現できるのかを研究することが大切でしょう。特に、未だ新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けている現在は、各業界の動きをつかんでおきたいですね。
オススメしたいのは、転職先として本命業界の研究だけでなく、あなたにとって次点の業界も必ず研究対象に加えて、複数業界を同時に研究しておくことです。
もし、あなたがA業界の将来性に魅力を感じたとしても、A業界だけしか知らない場合は、それが「非常に魅力的」なのか、「ほんのちょっと魅力的」なのかを判断することは、なかなか難しいのではないでしょうか。
複数業界を同時に研究すれば「将来性についてA業界はB業界よりも魅力的だ」、「A業界の将来性は、5つの業界の中では、2番目に魅力的だ」といった比較検討が可能になります。つまり、ほかの業界を知ることで、あなたはより妥当性の高い判断基準を手に入れることができ、業界研究の質を高めることができるのです。また、比較対象を用意して研究・判断できれば、本命業界の思わぬ懸念点が見えてくることもあるでしょう。本命ではなかった業界が急に輝いて見えてくるといった発見もあるかもしれません。
このように、複数業界を対象とした幅広い業界研究は、転職活動をする上で納得のいく決断をするための助けとなることでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大は国内の業界にどんな影響を与えているのか
ところで、新型コロナウイルスの感染拡大は、国内の各業界にどのような影響を与えたのでしょうか。改めて振り返って整理してみましょう。
外出・移動の制限により観光客やインバウンドを見込んだ業界に大きなダメージが
まずは、マイナスの影響を受けた業界。これは皆さんも認識されているとおり、人々の外出・移動が制限されたことで利用客が激減し、売り上げが落ちた業界です。ホテル・旅行業界、飲食業界、交通(鉄道、航空)業界などが挙げられます。
特に、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催に向けてインバウンド(訪日外国人観光客)の需要を見込んで力を入れてきた業界や企業が大きなダメージを受けました。同様にコロナ禍以前から、売上高にインバウンドの占める割合が高まっていた百貨店業界なども業績を落としています。
企業のIT活用、巣ごもり需要の増加が追い風になった業界も多数
一方、プラスの影響を受けた業界もあります。
ソフトウェア・情報処理業界、通信業界を中心に、関連した電子機器製品・部品を作るメーカー業界、その関連企業(専門商社など)で業績を伸ばしたケースが見受けられます。これらの業界は、コロナ禍以前より働き方改革による「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進」などで徐々に活性化していました。今回、感染拡大を防止するため、企業がテレワークや在宅勤務を導入したことで、企業のIT活用が一気に拡大したことから、今まで以上に多くのビジネスチャンスを手にしたと言えるでしょう。
ほかにも、自宅で過ごす時間に関連した消費、いわゆる「巣ごもり需要」が増えたことで、通販やデリバリーの需要が拡大し、ECサイトなどの業績が向上しました。これに伴い、商品を配送する物流業界も活性化しています。また、スーパーなど小売業界は、自炊が増えた影響で食品の売り上げが伸びました。
なお、食品メーカー・関連する専門商社などでは、小売向け販売がプラスとなった一方で、外食業界の停滞を受けて飲食店向け販売はマイナスとなっているようなケースも存在します。このように、コロナの影響を一概にプラス・マイナスで判断できない業界もあります。

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今後、コロナ禍前の生活に戻り始めたら?「Afterコロナ」で各業界はどう動くのか
今後、コロナ禍が落ち着いた「Afterコロナ」では、各業界はどうなるのかを予測してみましょう。
マイナスの影響を受けた業界も業績は回復する見込み
マイナス影響を受けた業界については、スピードに差はあれ、元に戻ると考えています。例えば、コロナ禍以前は、インバウンドビジネスは需要拡大が続いており、これからも拡大していくものと見込まれていました。中長期の視点で見れば、インバウンドビジネスは再び成長基調に乗っていくと思われます。とはいえ、国内の人の流れが回復するよりも、外国人の訪日が回復するのは、かなり先になるでしょう。それゆえ、インバウンドへの依存度が高いビジネスを手掛けている場合は、本来の調子に戻るまで、しばらく我慢のときが続きそうです。
プラスの影響を受けた業界に反動はあるものの、以前の状況に戻ることはない
一方、プラスの影響を受けた業界は、コロナ禍から大きく上振れした分、一時期より売り上げが落ちたり伸び悩んだりすることがあるかもしれません。しかし、コロナ禍以前の状況に戻ってしまうことはないでしょう。
例えば、テレワークや在宅勤務に伴うオンラインのツールやサービス提供などは、徐々に市場は拡大していくことが期待されていました。そんな折、コロナ禍に陥り、市場拡大のスピードが加速され、思っていた以上に多くの人がIT活用やDX推進を経験しました。この経験の中で、利便性を感じたユーザーは、コロナ禍収束後もテレワークや、オンラインツールの活用を続けるでしょう。
さらに、普段の社会活動の中に入り込んだツールやサービスをベースとして、新しい周辺のサービスが生まれることもあるかもしれません。例えば、在宅勤務を可能にするというサービス水準から発展し、在宅勤務をより快適にして、生産性を高めるようなITサービスが、これから花開いていくことなどが考えられます。
また、コロナ禍で生活様式が変化し、デリバリーサービスも日常生活に定着しました。今後は、デリバリーと別のサービスを組み合わせた新サービスの開発が進む(今は配達の対象ではないものが、配達されるようになっていく)といったこともありうるのではないでしょうか。例えば、飲食店の料理をデリバリーするだけでなく、自宅で家族が作ってくれた料理を届けてくれるサービスが登場するかもしれません。また、モノだけでなくサービスを運ぶという発想で、15分単位で家事手伝いのスタッフを送り込むような事業を展開する企業が現れるかもしれません。
コロナ禍以前からの変化に関連した業界にも引き続き注目する
ここまで、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた業界について解説しましたが、コロナ禍以前から起きていた社会構造の変化や技術革新によって変わりつつある業界も、引き続き注目しましょう。例えば、今も着々と高齢化が進んでいることから、高齢者向けのビジネスは拡大が見込まれます。医療・福祉関連業界では、需要の拡大が見込まれますし、多くの需要に効率的にこたえていくために、ロボット活用などが進んでいくのではないかと考えられます。
また、自動車業界では、電気自動車の開発、あるいは「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス/あらゆる交通手段による移動をシームレスにつなぐシステム)」の対応などが課題になっています。業界の変化にうまく対応することができる企業は、今後も伸びていくでしょう。
さまざまな業界で活用法が模索されており、可能性が広がっている「AI(人工知能)」分野にも注目が集まります。AIに関するソフトウェア開発・サービスを手がける企業が有望視されているほか、AIに関連したメーカー(電子部品・製造装置・AI搭載ロボットなど)も活性化していくかもしれません。
業界だけでなく企業の「変化対応力」にも注目を
結論として、これから転職を考えるときは、次の2つの視点を持って業界研究・企業研究に臨むことをオススメします。
- コロナ禍のような一時的な変化だけに惑わされず、今後の世の中を中長期で見通し、良い影響を受けていそうな業界を探す
- 同じ業界の中でも適切に変化に対応し、新たなビジネスチャンスを切り開くことができそうな企業を探す
「転職成功のためには業界研究が重要」と、冒頭でお伝えしました。業界研究をする際に意識していただきたいのは、その業界で起きている「変化」をつかむことです。
今回のコロナ禍で、深刻なダメージを受けた業界の中にも、独自の工夫によって立て直しつつある企業も存在しています。
例えば、外食業界では多くの企業の売上が落ち込みましたが、いち早く「テイクアウト」サービスに注力した企業では、損害を抑えることができたケースも少なくありません。また、国内外の観光利用が激減した宿泊業界においても、「シェアオフィス」「ワーケーション(ワーク+バケーションの造語)」といったコロナ禍で新たに生じた需要に着目し、少しでも顧客を取り込もうと努力している企業も見られます。景況が悪化したときでも、その変化に対応し、新たなビジネスチャンスを探すことはできます。コロナ禍にあり、総じて業界各社の業績が悪い状況であっても、新たなビジネスチャンスに挑もうとする企業が存在します。
業界の全体傾向を見て、「この業界は良い」「この業界は悪い」と分析することは大切ですが、良い業界でも悪い業界でも、生じている変化をうまく利用することで業績アップにつなげている企業が存在しています。ですので、どんな業界であっても、その業界の変化に注目し、その上で、その変化に業界・企業がどのように対応しようとしているのかを調べていけば、あなたにとってより魅力的な転職先が見つかり、業界の変化に対して面白いチャレンジができるチャンスが広がるのではないでしょうか。業界研究の際は、ぜひ複数の業界を研究し、それぞれの業界の変化にも着目してみてください。
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