お笑いコンビ・東京ダイナマイトのハチミツ二郎さん。芸人としての活動を継続しつつ、昨年4月よりIT関連企業の株式会社ソノリテで正社員として働いています。芸人と会社員の「二足のわらじ」を履くようになって1年、ハチミツ二郎さんが2つの仕事を両立し続ける理由や、仕事観の変化などを伺いました。
ハチミツ二郎さん
お笑い芸人。東京ダイナマイトのツッコミ担当。高校卒業後、東京NSCを経てインディーズで活動しながらお笑い活動を続け、2001年に現・東京ダイナマイトを結成。芸人を続けながら、これまで飲食店経営やプロレスラーとしても活動。昨年4月に株式会社ソノリテに就職、二足のわらじを続けている。
目次
クラウドファンディングで出会ったIT社長に「社員にならないか」と誘われる
高校を卒業した翌日に吉本興業の養成所に入って、そこからずっとお笑い芸人です。芸人のかたわら、プロレスや飲食店などいろいろな仕事に携わってきましたが、いずれも「芸人・ハチミツ二郎」としてやってきました。自分の名前を出すことによる集客効果もありますし、別分野での経験をお笑いの仕事に活かしたいという思いもあったからです。
昨年春、今の勤務先であるソノリテに「正社員として働いてみないか」と声を掛けてもらったときも、これまで通り「ハチミツ二郎」としてやろうと思っていましたが、いざ始めてみると芸人と会社員の仕事は使う筋肉が全然違う。全く別の仕事だなと感じています。
会社員になったのは、クラウドファンディングを通して今の勤務先の社長に出会ったのがきっかけ。2019年に、コンビニから成人向け雑誌がなくなったことを憂いて仲間と「エロ本制作プロジェクト」を立ち上げ、クラウドファンディングで製作費を募ったんです。リターンは本に名前を載せるなどですが、最も高額な20万円支援のリターンは「8ページのロングインタビューを載せる」というもの。それに応募してきたのが今の社長でした。変わった人ですよね(笑)。
その社長と会って話す中で、「会議に出て、アイディアを出してギャラをもらえるような仕事ってないですかね?」と軽い気持ちで聞いてみたんです。いろいろなアイディアを思いつき、発信することが多いのですが、あくまで芸人活動の一環のものであって、なかなか形にできなかったので。すると、「うちならできますよ。いっそ思い切ってうちに就職してみませんか?」と言われまして。「お笑いの仕事で来られない日は休んでもいい、その分給与から天引きするだけなのでうちとしては問題ない」と言われ、就職を決めました。
初めは正直言って、「芸人が会社員になったら面白いんじゃない?」ぐらいの感覚でした。いわゆるサラリーマンを経験したことがなかったので、たとえ短期間で辞めることになってもネタになるし、得るものがありそうだと思いました。
そして、昨年4月1日付で入社。1日が水曜日で、水木金と出社したのですが、翌週に緊急事態宣言が発令されて、それ以降はずっとテレワークです。オフィスに出社してみんなでランチ食べて…ときにはお弁当を作っていったりして、夕方仕事が終わったら「お疲れ様です」と言って帰るという生活を思い描いていたのですが、わずか3日で終わってしまいました(笑)。
メイン業務は保守報告書作成。担当者サインは「ハチミツ二郎」
▲舞台の合間にPCを広げ、リモートワーク
初めて経験した「会社員の仕事」は想像通りでした。机に座って、みんなが一斉にPCに向かって仕事を始める。その姿を生で見て「これこそサラリーマン!」と思ったものの、みんなが何をしているのかはサッパリわからない。
しばらくの間、導入研修を受けましたが、初めはちんぷんかんぶんでした。なにしろクリックとダブルクリックの差もわからなかったぐらいですから。でも、ワードやエクセルの操作を覚え、教わった通りに表を作ったり図面を作ったりを繰り返すうちに徐々にコツがつかめてきて、いくつかあった社内テストはいずれも一発でクリアできました。
最近は、新たにホームページ制作の研修を受けています。覚えることが多すぎて四苦八苦していますが、新たに学べること、没頭できることがあると楽しいですね。ホームページ作りを覚えるにつれ、以前覚えた図面づくりを忘れていくという点は問題ですが(笑)。
現在のメイン業務は、クライアントに対する保守報告書の作成業務。企業のホームページの不具合や改修などを受け付け、エンジニアが対応するのですが、何月何日にどんな依頼を受け、誰が対応し、いつ解決したのかをとりまとめて記録し、クライアントに提出するという仕事です。
うちの会社は、社員はニックネームで仕事をするのもOKなので、社内チャットでは「ハチミツ二郎」で登録しています。自分が提出する保守報告書にも「ハチミツ二郎」と記しているから、気づいて驚いているクライアントもいるかもしれませんね。
劇場に立つ間に仕事、出囃子が鳴ったらPCを落とす
イメージしていた「会社員生活」は数日で終わり、完全にテレワークに移行しましたが、結果的にはお笑いの仕事との両立がしやすくなりました。
お笑いの仕事が忙しくても、PCさえ持っていれば両立は簡単です。1日3ステージある日も、1回のネタ時間は10分程度だから3ステージ合わせても30分ほど。待ち時間は1時間ほどあるので、その間PCを開いて仕事をしていればいい。そして自分たちの出囃子が鳴ったらPCを落としてステージに向かえばいいんです。
とはいえ、最近はコロナの影響で舞台に立つ機会も減りました。以前は全国各地のお祭りとか、ショッピングモールでのイベントなどに呼ばれるなどの営業も多かったのですが、去年はゼロ。今年もおそらくゼロだと思います。祭りやイベントなんて、密を生み出すようなものですからね。二足のわらじを履いたつもりが、会社員の一足のみになっている日もあります。
幸いなのは、会社員としての仕事が面白いこと。保守報告書作成というルーティン業務のほか、入社前に社長が言っていた通り、いろいろなプロジェクトに参加したり、アイディアを発表できたりする場があるんです。
例えば、コロナ禍でテレワークになったことで、一人暮らしで誰にも合わずうつ状態になる若者が増えていますが、IT企業としてそういう社会問題を解決できるようなサポートができないか?という議論を進めている最中。僕はそこに、お笑い芸人として何かしらの「笑い」の要素を加えられたらと思っています。いいサポート方法が生み出せれば、それをクライアントにも展開するなど、新たな事業になればいいなと考えています。
「お笑い×AI」など、やりたいことがどんどん浮かぶように
▲舞台のほかYouTube「東京ダイナマイトチャンネル」でも活動
「二足のわらじを履くようになって、双方の仕事にいい影響が出ているか」と聞かれることがありますが、芸人としての方向性は変わりません。ただ、ITの世界をのぞいたことで、芸人としてやってみたいことは増えました。
今ってAIでいろいろなことができるんですよね。例えば、ライブ会場でカメラをアーティストに向けるのではなく、客のほうに向けて、どの曲で何人が泣いて、どの曲で何人が笑顔になっているのか、どの曲のときに皆がノリノリに飛び跳ねているのか測れる。そのデータをもとに、ライブの構成を考えたりしているそうです。
これをお笑いに持ち込めないかな、なんて考えています。ネタがウケているかどうかは、今までは拍手や笑い声の大きさでしか測れませんでしたが、ルミネTheよしもとなどにカメラを持ち込んでお客さんを映せば、たとえば「笑い声は上がっていないけれどみんなニヤニヤしていて実はウケている」なんてこともわかる。そういう笑いも測れたら、これからのネタづくりや劇場運営などに活かせそうですよね。
また、毎日の天候と客の入りを記録して分析すれば、何月何日にどれぐらいのお客さんが劇場に足を運んでくれそうかある程度予測ができます。集客が弱そうだったら、宣伝を強化するとか、大入りになりそうだったら人員を補強するなどの対応ができるようになる。…完全にビジネスマンの目線になっていますが(笑)、面白そうなこととか、お笑いに役立ちそうなことがいろいろ思い浮かぶようになった。こういうアイディアをどんどん実現して、お笑いの現場で「二足のわらじ効果」を発揮できたらと思っています。
ずっとボケ続けてきたから「ボケなくてもいい」環境が新鮮
▲舞台上でのハチミツ二郎さん
これまで、芸人としては、いつのたれ死んでもいいと思っていました。フラッと飲みに行った先で、ぽっくり死んじゃったとか。芸人っぽいじゃないですか。
でも奥さんや子どものことを考えると、今はそうはいかない。芸人としてのスタンス自体は変わりませんが、二足のわらじを履くようになって、思いのほか「会社員」の部分が心の支えになっていると感じます。
実は昨年末、新型コロナに罹患し1カ月間、入院していました。感染後あっという間に重症化し、一時は危篤状態になってICUで8日間眠り続けていたそうです。ありがたいことに回復し復帰することができましたが、1カ月以上、お笑いの仕事も会社員の仕事もできなかった。でも、IT健保に加入していたおかげで傷病手当がもらえたんです。会社員のありがたさを思い知りました。
そもそも、売れっ子であっても芸人の給与は浮き沈みが激しいもの。奥さんは「二足のわらじを履いてサラリーマンもやる」と言ったとき、喜んでいましたもん。安定収入が得られますからね。これまで福利厚生がどんなものか知らずに生きてきましたが、家族手当もあるし、もし自分がぽっくり死んでも何かしらの保障があるのは心強いですね。
今は、お笑い芸人として活動を続けつつ、お笑いとITをどこまでリンクできるか目指したいという思いが強いですが、いつかはもっと違うことにも挑戦してみたいと思っています。つまり、チャンスがあれば、三足目も履いてみようかなと。仕事柄いろいろな経営者と会う機会が多いのですが、僕の活動を知って「うちの会社とも何かやらないか」と声を掛けてもらうことが増えました。将来的には、IT以外のビジネスを経験してみるというのもアリかなと思っています。
今まで、何かいいアイディアを思いついても、芸人だから全部ボケてきたんですよね。でも、会社員だとボケなくていいから純粋にアイディアで勝負できる(笑)。それが楽しいんです。20年以上さんざんボケてきたので、これからはボケなしで意見やアイディアを発信する機会を増やしていきたいと思っています。
副業が当たり前になれば、楽しい仕事が選びやすくなる
大手企業を中心に副業解禁を解禁する企業が徐々に増えてきているそうです。20代の人であれば、近い将来多くの人が僕みたいに二足のわらじを履くようになると思います。
今の仕事がしんどい、向いていないと悩んでいる人もいるかもしれませんが、副業が当たり前になれば、「楽しい」と思える副業を選んで挑戦してみればいい。本業があれば、収入が低くても楽しい仕事、面白い仕事を選ぶことができるし、その仕事に就けることで本業のほうにも張り合いが出るだろうし、双方の仕事にいい影響が出ると思います。
どんな仕事を選べばいいかピンとこなければ、僕みたいに真逆の仕事を選んでみるのもいいかもしれません。双方のギャップが大きいから、それぞれの仕事の良さが見えてくるんじゃないかな。だからこそ、お笑い×AIみたいにリンクするアイディアが浮かぶとすごくワクワクしますしね。コロナ禍で先行きが不透明な中だからこそ、みんなが複数の仕事を楽しんでやれる時代が早く来ればいいなと思っています。
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