キャリアの構築過程においては体力的にもメンタル的にもタフな場面が多く、悩みや不安を一人で抱えてしまう人も多いようです。そんな若手ビジネスパーソンのお悩みを、人事歴20年、心理学にも明るい曽和利光さんが、温かくも厳しく受け止めます!今回は、お金に関する不安を抱える、25歳男性からのお悩みです。
曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。
ボーナス減額で生活が苦しい。お金に関する不安、どう解消すればいい?
<相談内容>
CASE48:「手元にお金がないことが不安です…」(25歳・広告代理店勤務)
新卒で今の会社に入社して3年目です。会社の規模は小さく、もともと給与水準はそれほど高くありません。一人暮らしの家賃、生活費に加え、奨学金も返しているのでお金に余裕はありません。でも、好きな仕事ですし、真面目にコツコツやっていれば少しずつ昇給し、貯金もできるだろうと思っていたのですが…。
昨今の情勢を受けて業績が悪化し、ボーナスが減額となってしまいました。ボーナスで生活費を補てんしていたところもあり、急に「手元にお金がない」ことに不安感を覚えるようになりました。このまま業績が戻らず、給与まで減額になったらどうしよう、ボーナスももっと減ったらどうしよう、会社が倒産してしまったら…考えるほどに不安が増していくのを感じます。
「老後には最低2000万円必要」などと言われていますが、とても貯められるとは思えません。お金に対する不安を少しでも軽減するには、どうすればいいのでしょう?(営業職)
「好きな仕事」と「稼げる仕事」のトレードオフで考えるしかない
相談者は、まだ25歳。会社員として真面目に働いているのですから、お金に対して必要以上に不安になることはありません。…と、本当ならばズバリと言ってあげたいところです。
20代は本来、お金の心配をするよりも、自分に投資してほしい時期。勉強など能力開発のために使ったり、いろいろな集まりに顔を出して人脈を広げたりすれば、それが自分の武器となり、いずれ使ったお金が何倍にもなって返ってくるものです。
ただ、我々を取り巻く経済環境は決して明るいとは言えません。
国税庁の民間給与実態統計調査によると、1997年には467.3万円だった日本人の平均給与は、2019年時点で436.4万円に減少しています。2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、賃金カットやボーナス減に踏み切らざるを得ない企業が増えており、さらに平均給与は下がると見られています。
そんな中、相談者は勤務先の業績悪化を目の当たりにし、実際にボーナスカットを経験しています。奨学金の返済も家計を圧迫しているはず。不安を抱くのも当然です。
相談者は「今の仕事が好き」とのことですから、現在の勤務先に業績を回復させられる体力が残っているようならしばらく様子を見たほうがいいと思いますが、お金がないことが本当に不安で、一刻も早くこの状況から脱したいのであれば、「好きな仕事・やりたい仕事」と「稼げる仕事」のトレードオフで考えるしかないと思います。
多くの人は、好きなこと、やりたいことを仕事にしたいと考え、勤務先を選択しています。相談者も、おそらくそういう思いで今の会社・仕事を選ばれたのでしょう。
ただ、平均年収を業界ごとに見ると、大きな差があることがわかります。例えば、一定の原材料や在庫を持たねばならないメーカーは相対的に利益率が低く、給与水準も低いとされています。一方で、在庫等を持たず「人が最大のリソース」である金融やコンサルティング業界は、給与水準が高いと言われています。
もちろん、業界だけでなく個社別にも差があります。自らの努力や工夫で、利益が取れるビジネスモデルを追求している会社は、利益率が高く給与額も高い傾向にあります。
やりたい仕事かどうかはいったん脇に置いておき、利益率が高く給与水準が高い業界や利益が取れるビジネスモデルの会社をピックアップし、その中から相談者が相対的に「やりたい」と思える仕事を探して転職する…というのが、「お金がなくて不安」という相談に対する根本的な解になります。
ただ、「いくらあれば不安が消えるのか」は人それぞれ異なります。相談者が給与アップ転職に踏み切るならば、「お金軸」と「やりたいこと軸」の2軸を考え、どのバランスで折り合いをつけるのかあらかじめ考えておいてほしいですね。
お金がない不安から逃れるために、とにかく給与がもらえる会社に移って金銭的には満足できたとしても、いずれ「やりたい仕事に就けていない不安」「やりがいが得られないことに対する不安」という新たな問題にぶつかる可能性があるからです。
今よりいくらぐらい給与が増えれば安心できるのかを考え、やみくもにお金ばかりを追わず、やりがいもある程度は重視しながら行動することをお勧めします。
支出を見直し「締めるところと使うところ」のバランスを取ろう
これは極端なアドバイスかもしれませんが、今より生活費をぐっと抑えることで余剰金を確保し、「手元にお金がない」という不安を軽減する方法もあります。
デフレが続く今の日本では、固定費を抑えて生活するのはそこまで難しくないはず。住宅の賃料は低下傾向にありますし、ディスカウントスーパーや安くて美味しい外食チェーンもたくさんあります。
相談内容から生活水準まではうかがい知ることができないので、相談者がすでに切り詰めた生活を送っているのであれば別ですが、家計簿をつけるなどして現在の支出を洗い出すことで、余分な出費に気づけるかもしれません。
ちなみにですが、私が27歳のときは、家賃3万円の風呂なしアパートに住み、自己投資のためのお金を確保していました。そして昨夜の夕食は352円の牛丼並盛ですが、大満足でした。やり方はいろいろありますが、こういう方法で固定費を抑えるのも一つの方法です。
そして可能であれば、やはり20代には自己投資も考えてほしい。自分への「投資」は「消費」ではなく、自分の中に残り続けるもの。若いうちの能力開発や人脈への投資は、いつか必ず役に立ちます。お金の不安を解消するために安易に副業に走るよりは、日常生活を見直して自己投資の資金を確保するほうが、将来得られるリターンは大きいはずです。
「締めるところは締め、使うところは使う」とバランスを取ることで、「ただ倹約するだけでなく、必要な投資もできている」という実感が得られ、将来への不安を軽減できるかもしれません。無理のない範囲内で、ぜひ検討してみてください。
アドバイスまとめ
給与を増やせる場所に移るしかない。
やりがいとのバランスを考えて決断を
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