キャリアの構築過程においては体力的にもメンタル的にもタフな場面が多く、悩みや不安を一人で抱えてしまう人も多いようです。そんな若手ビジネスパーソンのお悩みを、人事歴20年、心理学にも明るい曽和利光さんが、温かくも厳しく受け止めます!今回は、不本意な異動で今後のキャリアに悩む24歳男性からのお悩みです。
曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。
マーケティング部志望なのに、営業部門へ異動…納得できない!
<相談内容>
CASE42:「不本意な異動を言い渡された!本音を言えば今すぐ辞めたいけれど…」(24歳・消費財メーカー勤務)
ある消費財メーカーに新卒入社して2年間、総務業務を担当していました。この仕事にやりがいを感じていたのですが、この4月に希望しない営業部門に異動になり、転職したほうがいいか悩んでいます。
就活時はマーケティング志望で、面接では大学時代に企業とコラボして新商品開発を行った実績や、マーケティングに必要な知識を独学したことを伝えて、「将来的にマーケティング職に就ける可能性がある」と言ってくれた今の会社に入社しました。
ただ、入社した後に、ジョブローテーションにより、多くの社員が若手のうちに一度は営業を経験すると知りました。うちの営業は担当する小売店を回り、自社製品を売り込むのが重要な仕事。かなり泥臭く、タフな仕事と聞いています。実際、営業に配属された同期はすでに数名辞めています。そもそも営業はまったく志望していませんでした。
今はまだ本社にいますが、うちの泥臭い営業でしかも地方配属になったら…と思うと本気で憂鬱です。本音では転職したいですが、キャリア的にどうなのでしょうか?誰もが通る道とあきらめ、我慢すべきでしょうか?
「営業経験」が次世代リーダーコースに組み込まれている可能性
結論から言うと、今の会社で頑張ったほうがいいと思います。
適当にジョブローテーションを組んでいる会社などはなく、一人ひとりのキャリアを考え意図的に人事異動が行われています。そしてどの会社でも内々に、将来が嘱望されている人が歩む「リーダー育成コース」が用意されています。
以前は30歳ぐらいまではみんな一律に育成し、成長度合いを測りながらリーダー候補を選抜するというケースが多かったのですが、最近では次世代リーダーの選抜が早期化しています。優秀な人を早めに選抜し、短期間でいろいろな経験をさせて重要な役職をあてがわないと、あっさり転職してしまうからです。
相談者の勤務先では、この「営業部門での経験」がリーダー育成コースに組み込まれているのではないでしょうか。「多くの社員が若手のうちに一度は営業を経験する」という事実から、営業職の人数が多く、営業の頑張りが会社の屋台骨を支えていること、営業現場で得た経験がその後のキャリアに活きると捉えていること、が推察されるからです。
「泥臭い営業なんてやりたくない!」と飛び出してしまう前に、営業経験がリーダー育成コースに組み込まれているかどうか、確認してみることをお勧めします。総務部門の上司など気心の知れた、かつ社内事情に詳しそうな人にこっそり聞いてみてはどうでしょうか。もしくは、「経営幹部の経歴から推察する」という方法もあります。
経営幹部の経歴は、自社ホームページの「会社概要」などで紹介されているケースがあります。その経歴の中に営業経験があるか、確認しましょう。大企業であれば、経営幹部ではなく部長やマネージャークラスでもいいかもしれません。近しい役職者に営業経験の有無を質問してみるといいでしょう。
その結果、多くの役職者が営業を経験しているのであれば、相談者が次世代リーダーとして期待されている可能性は大いにあります。営業を経験した後に、その経験を活かしてマーケティングとして活躍して、さらにステップアップしてほしいと思っているのかもしれません。
「別に出世したいわけじゃないんだけど…」と思われるかもしれませんが、出世コースに乗っている人のほうが「成長できる仕事」をアサインされるチャンスが多いはず。ビジネスパーソンとして早期にスキルアップできる可能性が高いので、期待されているならば乗らない手はないと思います。
なお、営業職の人数が多い会社の場合、営業経験の有無が「将来の組織マネジメント力」を左右する可能性があります。将来偉くなったとき、営業経験がないと悲しいかな「あの人は現場を知らないのに偉そうなことを言って…」と思われてしまいがちなのです。この点から見ても、営業経験は相談者の将来にプラスに働くと思います。
転職したとしても、同じようなステップをたどる可能性が高い
それでも「やっぱり営業はいやだ。転職したい」と思ったら…相談者はおそらく、マーケティング職に就ける会社を探すのでしょうが、マーケティング部門は人気が高く、経験がモノをいう仕事でもあるため、未経験者が採用される可能性は低い職種です。ただゼロではないでしょうから、まずはポテンシャルを評価してくれる未経験可の求人を探してみましょう。ただおそらく転職先でも、営業部門など別の部門を経験してからマーケティング部門へ…というステップをたどることになると予想されます。
転職先で「営業部門への配属リスク」を減らしたいならば、応募企業のキャリアステップを確認するしかありません。将来的にマーケティング職に就くには、入社後どんなキャリアを積めばいいのか、面接の場などで確認しましょう。マーケティング職として活躍している人の経歴を質問してみるのもいいかもしれません。
ただ、それならば今の会社で頑張ったほうがいいと、私は思います。就活の面接時に「将来的にマーケティング職に就ける可能性がある」と言ってくれたのですから、わざわざ転職して一からやり直さなくても、今の環境で頑張れば、将来的に希望が叶う確率は高いと思われます。
そして、営業の仕事はまさに「マーケティング」。普段の仕事の中で、いくらでもマーケティング職としてのトレーニングができます。
例えば、エリアの動向を調査し、消費者が求めているものを推察して、担当する店舗への提案内容を考える。店長やスタッフがメーカーサイドに何を求めているのかを想像し、それを提案に組み込む。相手のソーシャルタイプを探ってコミュニケーション方法を組み立てる。これらはすべて、マーケティングの一環です。学生時代に勉強した統計学などの知識を発揮すれば、「営業として頭角を現しつつ、マーケティング職としての土台を作る」ことも十分可能です。
営業の最前線で、小売店やエンドユーザーのニーズをくみ上げ、生声をもとにマーケティングし続け、日々の営業に活かす…という経験は非常に貴重。営業で数年間経験を積み、その経験を武器に満を持してマーケティング部門への異動を志願してはいかがでしょうか?
アドバイスまとめ
出世コースに「営業経験」が組み込まれているならば将来的にマーケティング部門で力を発揮してその後経営幹部へ…
というシナリオも十分あり得る
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