織田信長とソフトバンク孫正義氏、二人の「プレゼン」その共通点は?──澤円のプレゼン塾(その6)

ソフトバンク孫正義さんのプレゼンは、なぜ聴衆の心を鷲掴みにしてしまうのか。前回例に挙げた織田信長との共通点は何か(前回記事はこちら)。澤円のプレゼン塾・第6回はいよいよプレゼンの「核」を作るために絶対不可欠なものについて、解説していきます。

ソフトバンク孫正義さんが聴衆を虜にしたプレゼンの「核」

前回は織田信長さんを例に、プレゼンテーションの核を作るヒントを考えてみました。もう一つ、かなり最近のプレゼンテーションの例を挙げてみましょう。

今度は、マイクもスピーカーもインターネットもPowerPointも全てそろった現代の話です。例として登場いただくのは、孫正義さん。

まさに今の日本を代表する経営者の一人ですね。先日行われた株主総会での孫さんのプレゼンテーションは、「独壇場」と伝えられるほどのパッションが込められたものだったそうです。

孫さんが語りかける相手は、5000人を超える株主、一般招待客、そして報道陣の人々です。プレゼンテーションをする側としては、かなり気合いの入る人数ですね。

孫さんが伝えたことは、売上高、営業利益、純利益のほか、通話接続率が業界トップであることや、新たな社外取締役にこれまた超有名な経営者である永守さんが就任したこと、アメリカでの事業計画に関する展望などでした。

注目すべきは「去年ここで自分は大ボラを吹いた」と言い放ったことです。「1年前の今日、この場所で、営業利益1兆円と大風呂敷を広げ、大ボラを吹いた」と語ったあとで、実際に営業利益が1兆円を突破したことを報告しました。日本で営業利益が1兆円を超えた企業はNTT社、トヨタ社、そしてソフトバンク社の3社しかなく、到達までの期間が33年という驚異的なスピードであったことを語ります。(NTT=118年、トヨタ=65年)

そして、2040年には「時価総額200兆円」という大風呂敷を広げました。「株主の皆さん、30年後には20倍になるよ。約束はできないけれど言うだけはタダだから言っておく。(株券を)タンスのどっかにしまっておいて」というコメントを添えて。

さて、孫さんのプレゼンテーションの核はなんでしょうか。孫さんは「ソフトバンクは成功した企業だ」というイメージを植え付けることと同時に、「これからも成長を続ける」「これからも挑戦を続ける」ということを明確に宣言することで、「投資する価値の高い企業である」ということをアピールしたわけです。

見事です。思わず投資したくなります(笑)。
単に数字を報告するのではなく、数字にメッセージ性を持たせることによって、投資を促す必然性を示し、明るい未来を約束することで納得感を高めてくれます。

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プレゼンの「核」に必要なのは、未来を語っているかどうか

信長さんと孫さん。例に挙げた二人のプレゼンテーションに共通していることは、「聴いた人が得をするメッセージが含まれている」ことです。プレゼンテーションの「核」に不可欠な要素は、「幸せになるストーリー」なのです。これは、あらゆるプレゼンテーションの共通項であると言い切っておきます。

「え~?障害報告のプレゼンはどうなの?誰も幸せにならないじゃん!」と思う方もおられますよね。はい、もちろんそれも踏まえた上で言っています。そして、その観点は「核」に不可欠な一つの要素を語る上で、とても大事なものです。

何か顧客に対して提案をするプレゼンであれば、「この製品を使えば便利になります」「この機能によって業績が向上します」などの「幸せになるストーリー」は思いつきやすいですね。

では、ネガティブな情報を伝えるプレゼンテーションであればどうでしょう。二つのプレゼンを見てみましょう。

<プレゼン1>
このソフトにはバグがあります。
修正するためのエンジニアはアサインされています。
修正作業は始まっています。
<プレゼン2>
このソフトのバグが明確になり、修正方法も発見されました。
すでにエンジニアがアサインされ修正作業が順調に進んでいます。

同じことを語っているのですが、印象は大分違ってきます。前者の「核」は「バグがある」という事実の方になっており、ハッピーになる要素が少ない。そして、時系列的に言えば、現在の状態の説明までで止まっています。

後者の「核」は「収束の手段が取られている」という内容になっており、事態が前進していることが明確になっています。つまり、時間軸が未来に進んでいるわけです。

伝言ゲームを想像してください。前者であれば「このソフト、バグがあるんだってさ」が主なトピックになり、後者であれば「なんか、エンジニアがバグを直してくれるらしいよ」となるでしょう。つまり、近いうちに事態が改善されることが伝言されるのです。

何が違うのでしょうか。これは「未来を語っているかどうか」という一言に尽きます。プレゼンテーションの「核」には、「未来に関するストーリー」を含める必要があります。

単なる数字の報告のプレゼンであっても、その数字を踏まえた未来予想を加えれば、プレゼンテーションの価値はぐっとあがります。もしその数字が悲観的なものであれば、「改善するためのアイディア」を含めてもいいでしょう。プレゼンテーションには、「未来」を含めることがとても大事なのです。

そしてもう一つ。必ずオーディエンスが「核」の中に含まれていることです。

ただ第三者的に聴いているだけでは、オーディエンスの心は動きません。心が動かなければ、体は動きません。プレゼンテーション終了と同時に脳内のメモリはクリアされ、誰かに伝言されることはなくなるのです。

自分が含まれているストーリーは誰かに話したくなります。そして、その伝言を聴いた人も、その核に取り込まれます。そしてまた次の人に伝えられ……と続いていくわけです。

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聴いた人が幸せになるプレゼンの「核」に共通するもの

信長さんのプレゼンにも、孫さんのプレゼンにも、オーディエンスが含まれています。だからこそ、兵士は戦場に向かい、投資家はソフトバンク社の株を買うのです。

人は、自分が主語になっている話をするのが一番得意です。ということは、オーディエンスを核の中に取り入れてしまえば、聴いていた全員が自分を主語にして他の人に対して語れることになります。

きちんとした「核」があれば、いくら伝言のステップが増えても、きちんと伝わっていきます。純度の高い「核」をいかに作るかが、あなたのプレゼンテーションを価値あるものにする第一歩なのです。
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著者プロフィール

澤 円(さわ まどか)氏

大手外資系IT企業 テクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年より、現職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術
Twitter:@madoka510

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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