2020年度から予定されている小学校でのプログラミング教育の必修化。子を持つ親にとっては気になる話題ですが、何のために学ぶ必要があるのかを理解している人は少ないのではないでしょうか。今回は、NECを退職後、小・中学生プログラミング教室を運営している原正幸さんが、子どもたちと向き合う中で感じた、プログラミングを積極的に学ぶ“価値”について伺いました。
プロフィール
原 正幸(はら まさゆき)
日本電気株式会社(NEC)に入社後システムエンジニア、ビッグローブ株式会社での商品企画を経て独立し、大手企業の新入社員教育などに従事。子どもが生まれたことを機に、子どもの未来教育を行う株式会社プロキッズを設立。東京都港区と茨城県つくば市に子ども向けプログラミングスクールを開校し、国立名古屋工業大学の非常勤講師も務める。
目次
「将来食べていけるスキルを身につけさせたい」という親のニーズ
――プログラミング教室では、どのような授業をされているんでしょうか?
まず、生徒は、小学3年生から中学3年生までが対象です。教室は東京都港区の御成門と、茨城県つくば市にあり、子どもたちにプログラミングに取り組んでもらっています。
カリキュラムは、フランチャイズで教材などを仕入れることも検討しましたが、まだまだ未開拓の分野であり、子どもたちのリアクションに合わせてより良い学びを提供したいという気持ちがあり、自社でオリジナルのものを用意するようにしました。
――スクールに通われている生徒や保護者の方は、どのようなことを期待しているのでしょうか?
生徒は、やはり「楽しいから」という理由が大きいと思います。一方、保護者の方々は、「将来食べていけるスキルを身につけさせたい」であったり、「自分の仕事を手伝ってもらいたい」であったりと、理由はさまざまのようですね。最近は、2020年からはじまる小学校のプログラミング教育の必修化を見据えて入学される方も増えてきました。
入学希望者が集まらないピンチを救った、交通指導員のアドバイス
――現在は生徒も増えてきたとのことですが、開校当初の反応はいかがでしたか?
やはり集客には苦労しました。当初はいきなり教室をもたず、需要を探るためにイベントをやって顧客の反応を見ながらサービスを磨いた上で開校に臨みましたが、なかなか子どもたちが集まってきませんでしたね……。SNSやホームページなど、オンラインでは思いつく限りの広告を出しましたが、反応はありませんでした。
今から思えば、スタートの段階では、こうしたやり方ではなく、アナログな方法を取るべきだったんだと思います。実際、効果があったのは、小学校の下校に合わせて行ったチラシ配りでした。
とはいえ、チラシ配りも最初からうまくいったわけではありません。最初の頃は黒のジャケットを着て小学生たちにチラシを渡そうとしていたんですけど、まったく受け取ってくれなくて。
後から、「これは見た目がまずいんだな」と気がつきカジュアルな服装に変えると、少しずつ受け取ってくれる子どもが増えていきましたが、チラシを受け取ってもらえても、相変わらず教室まで来てくれる子はいなくて……。
そんなある日、横断歩道で小学生の見守りをしていた交通指導員のおじさんから声をかけられたんです。「こんなチラシじゃダメだよ」と言われました。話を聞いてみると、「小学生のポケットに入るサイズに折りたたんで、とにかくポケットに入れて家まで持って帰ってもらわなきゃ」と言われたんです。
それで言われるままに折りたたんで配ってみると、ポケットに入れて持って帰ってくれるようになり、間もなく小学2年生と4年生のお子さんが、お母さんと一緒にスクールを見に来てくれて、最初の生徒になってくれたんです。交通指導員のおじさんがいなかったら、今ごろどうなっていたかわかりません(笑)。
「野球を上手になりたい」「朝寝坊をなくしたい」子どもたち自らプログラミングで課題解決
――その生徒たちは、プログラミングに興味があったんでしょうか?
いえ、ゲームには興味があったようですが、プログラミングはまったくの未経験でした。ただ、スクールで教えていると、メキメキと上達していきましたね。
今では、生徒のなかには、「いつか自分の知識では教えられなくなりそう」と思わせるようなレベルの高い子もいて、先生冥利に尽きます。プログラミングは、教室を離れてもインターネットで調べて学ぶことができますから、どんどんレベルアップしていくんですよ。
こんなふうに、プログラミングは、まずは子どもたちが「プログラミングって面白い」と思ってさえくれれば、主体的に学んで自然と上達していきますから、私の学校では子どもたちが“楽しく”学べる環境を第一に考えています。先生も、みんな熱意をもって生徒たちと接してくれていますね。
――プログラミングを覚えると、どのようないいことがあるのでしょうか?
ひとつは「思考力や想像力が身に付く」という点です。よく例に出すのが自動販売機の話で、普通は、「自動販売機とは?」と聞くと、「ジュースが出てくる機械」くらいの答えになりますよね。でもプログラミング的思考を身に付けた子に聞いてみると、「お金を判別する」「ボタンを押す」「ジュースを出す」「お釣りを出す」など、ものごとを分解するスキルがついていきます。
さらに、私がとくに重視しているのが「自己解決力」です。人工知能など、技術の進歩が激しい時代が来ているので、自分で行動して、正解を見つけ出す力がなによりも大切だと考えているからため、私たちの教室では、正解を出すこと自体を目的とせず、楽しみながら試行錯誤してもらいたいと考えているため、テキストにもあえて答えを載せていません。自分で考えたり、先生や周りの子に聞いたり、インターネットで調べたりして、「自分で主体的に動けば解決できる」と思ってもらいたいんです。
こうした方針なので、生徒から出てくるアイデアもバラエティ豊かで面白いですよ。たとえば、野球が好きな子がいるんですが、彼は、「安定したスイングをしたい」という課題を持っていたんです。これをプログラミングで解決するために、手につけるデバイスでスイングの動きを可視化できる装置を作りました。
また、「オリジナルの目覚まし時計を作ろう」というカリキュラムでは、「目覚まし時計の目的は、目を覚まさせることであって、音を鳴らすことではない」というところから考えてもらいました。そうすると、時間が来たら音が鳴るだけの目覚まし時計ではなく、みながそれぞれにアイデアを練り始めるんです。ある子は、「二度寝をなくしたい」と考えて、そのために4桁の計算問題に正解しないと鳴り止まない目覚まし時計を作ってくれました。
子どもたちが思い描く可能性を信じてあげられる大人でいたい
――すごいですね!小学生がそんな高度なものをプログラミングできるなんて驚きです。
そうですよね。ちょっと昔だったらイメージするだけで終わっていたものが、今ではパソコンさえあれば、目の前ですぐに作ることができるんです。
そのためには、子どものアイデアに対して、「そんなの無理だよ」と決めつけず、「面白いね!」「こうしたら作れるんじゃない?」という態度で向き合う大人が絶対に必要です。
プログラミングは、実際さまざまな可能性を秘めていて、使う人次第でユニークなものを生み出すことができますから、そのことを知るだけでも、十分に学ぶ価値があると考えています。
――他にはどのような取り組みをされているんでしょうか?
直近では、2018年5月に「CODE LAND」というイベントを行いました。これは、段ボールと、イギリスで人気のマイコンボード「micro:bit」を使って、「魔法のプログラミング腕輪」を子どもたちに作ってもらうというものです。その腕輪を使って、魔法のように宝箱を開けてもらうために、様々なミッションにチャレンジしてもらいます。そこでゲットしたアイテムを使って進めていきますので、ゲームのように楽しみながらプログラミングに触れることができます。
このようなイベントを行っているのは、プログラミングをパソコンの画面の中だけで完結させず、もっと世の中のモノに広げて考えてもらいたいと考えているからです。最近は、スマホだけでなく、家電などのIoT製品も次々と出ていますから、プログラミングを応用できる範囲はどんどん広がっています。ぜひ、私たちのイベントでプログラミングの楽しさを感じてもらいたいですね。