ヨッピーが、視覚障がい者向けプログラミング講座に潜入取材―IT機器の進化が生んだ新しい可能性

つくば市にある筑波技術大学で開催された、「科学へジャンプ」が主催する視覚障がいのある中学生・高校生を対象としたプログラミング体験講座。
IT機器を活用してRubyやC#のプログラミングを体験する様子を見学してきました!

視覚障がいを持つ中高生向けにプログラミングの体験講座

こんにちは!「パソコン歴20年にして、
いまだにショートカットキーすらマトモに使いこなせない豚」ことヨッピーです。

本日は筑波技術大学に来ております。

筑波技術大学は2005年に開学された聴覚・視覚に障がいを持つ人を対象とする国内唯一の国立大学で、情報システムや情報通信、機械工学など、産業技術系の学部も設置されています。

本日はその筑波技術大学で、認定NPO法人サイエンス・アクセシビリティ・ネットが事務局をつとめる「科学へジャンプ」が視覚障がいを持つ中高生向けにプログラミングの体験講座を行うとのことなので、見学しにやってきました。

見慣れない機器がたくさん!

これ、なんだと思います?

実はこれ、「ドットビュー」という機械でディスプレイ上に表示されている領域を点字に変換してくれるデバイスなんだそうだ。

絵柄などのデザインをこのように点字に変換し、それに触れることで視覚障がい者でも形を知ることができる。

こちらはディスプレイに表示されている文字列を点字に変換してくれる機器。こちらも同じく、手で触ることによって情報を読み取ることができる。

ちなみに「ドットビュー」が約100万円以上、点字ディスプレイもお値段20万円以上なのでかなり高額!

こういった機器を活用しながら、今日は中高生向けにプログラミングの講義をするとのことです。視覚障害を持っている人のプログラミングってどうやって進めていくんだろう。

写真は中学生向けの授業なのですが、課題は「プログラムで図を描いて動かすこと」で、使用言語はRuby。

まず「dxruby」というライブラリを使えるようにする

 


require 'dxruby'

 

Image オブジェクトを生成

 


Img1 = Image.new(640, 480, [0, 0, 0])

 

白い四角形を img1 に描く

 


img1.box_fill(100,100,250,200,[255,255, 255])

 

ここから無限ループスタート

 


Window.loop do

 

img1 領域を描く

 


Window.draw(0, 0, img1) end

 

という具合に、教官の指示に従ってキーボードを叩き、プログラムを書いていく。

教官の指示は全て点字で書かれたテキストで配られているので、参加者は指先で文字を読み取り、それに従ってキーボートをたたきます。こういう、点字を印刷できる専用のプリンターもあるらしい。

打ち込んだプログラムを、今度は読み上げソフトで読みあげながら、間違っているところがないか検証。そうやって一行ずつプログラムが出来上がっていくのである。

そんなふうに書けば「なんとかやっていけそう」くらいに思うかもしれないけど、端から見ている限りでは頭の中のカーソル位置と、実際のディスプレイ上のカーソル位置がズレていたりする場合は、結構修正が大変そうな印象を受けました。

暗闇の中で、手探りで迷路を進むようなものである。

目隠してキーボードを打つようなものだから、まあそりゃそうだよね……。

逆に言えば普段、いかに「目」に頼ってPCを操作しているかがわかる。

そして、こちらは高校生向けの講座。

「Windowsソフトを作ってみよう!」というものだそうです。使用言語はC#。

ちなみに、人によって障がいの度合いは様々で、全く見えないという人もいれば、ルーペを使って拡大しながらであれば、なんとかディスプレイの文字が読み取れる、という人もいる。

1: using System;
2: using System.Windows.Forms;
3:
4: class Hello: Form
5: {
6: public static void Main()
7: {
8: Hello hw = new Hello();
9: Application.Run(hw);
10: }
11: }</p>

僕にはもう何をしているかすらサッパリわからないのですが、印象的だったのは高校生のクラスになるとめちゃくちゃ速くキーボードを打つ人が出てくることです。

特に速かったのがこちらの彼。

ショートカットキーを駆使した画面切り替えもスムースだし、めちゃくちゃ高速に設定された読み上げソフトの音声を適宜確認してプログラムを書き上げる。

これ、僕なんかよりめちゃくちゃ早いやんけ!

ここまでショートカットキー使いこなしてへんぞ!

キーボードを打つ手がたどたどしかった中学生たちも、習熟することで彼くらいのスピードでプログラムを書けるようになるのかもしれない。

ちなみに視覚障がい者がパソコンを使う場合はマウスを一切使わず、キーボードの操作だけで全てを完結させるそうだ。

目が見えないとカーソルの位置を把握するのが難しいから、という理由で、考えてみれば当たり前のことなんだけど、同じようにマウスを一切使わずにパソコン操作しろって言われたら、目が見えてる僕でもかなり難しい気がする。

視覚障がい者がパソコンを習熟するには、そういった一つひとつの問題を克服する必要がある。

ちなみにアクセシビリティの観点※から、例えばMicrosoftなんかだと発売されているソフトウェアはキーボード操作のみで全ての操作が行えるように設計されているらしい。

※アクセシビリティ:高齢者や障がい者なども含めたあらゆる人間が、環境に囚われずに情報やサービスにアクセスできる環境を構築すること

今度は中学生の講座に戻る。先ほど打ち込んだプログラムによって描かれた図形を、ドットビューで確認。白い四角い図形がドットビュー上に表示されているのがわかる。

さらにプログラムを追加し、矢印キーの操作によって図形が動くように設定し、その速度を変化させたりする。僕からするともはや完全に意味不明であります。

この日のレジュメは本日の主催でもある「科学へジャンプ」のHPにも載っているので、実際にどういうことをしているのかを知りたい人は、こちらで教材を見てみると良いかもしれない。

ひととおり図形を描いたり、動かしたりっていう作業が終わったあと、「この、絵をカーソルで動かす、というプログラムが発展すると、シューティングゲームが作れます!」という教官の言葉に、「おお~!」と声をあげる中学生たち。

ひょっとしたら、この中から将来ゲームクリエイターになる人が出てくるかもしれない。

ちなみに高校生向けの授業でも無事、exeファイルを作ってポップアップウィンドウを開く、というような挙動まで組むことに成功。

視覚障害を持っていてもプログラマーとして活躍している人はいるそうなので、同じくこの中から敏腕のスーパーハッカーが爆誕するかもしれない。

プログラムの他にも「科学へジャンプ」ではこういったキットを使って小さいコンピューティングシステムを作るような講座も開催しているらしい。

左が一般的に使われるボードで、右が視覚障がい者向けに拡張したもの。左のサイズのままだと視覚障がい者には扱いづらいので、右のようにプラグを増設して扱いやすいようにしているそうだ。構造的には同じらしい。なるほどな~!

あとは画面奥側にMicrosoftの社員がボランティアで講師サポーターとして参加している人がいたり、様々な人、企業の協力によって成り立っていることがわかる!

8,568通り、あなたはどのタイプ?

先生にお話を聞いてみた


「拝見していたんですが、視覚障がいの方でも慣れればパソコンを使えるようになるんですね……!」


「そうですね。IT機器の進化によって障がい者の可能性が広がったことは間違いないです。私がこういった活動に関わりはじめた頃は、読み上げソフトもない時代ですから視覚障がいを持つ方は、点字に翻訳されたものくらいしか情報を取りにいけなかったんですね。

『何かを勉強したい』と思っても教材が点字で発売されていなければ情報すら得られないじゃないですか」


「たしかに。『これを勉強したい』と思ってもマイナージャンルとかで点字の翻訳本がないと勉強のしようがないですもんね」


「その通りです。ところが、インターネットとIT機器の発達によって、読み上げソフトを使ってインターネットから情報を得られるようになった、と。これがすごく画期的なんです」


「なるほど、たしかに。選択肢はめちゃくちゃ増えたでしょうね。他にも『スマホがあればどこかにお出かけする時に、地図アプリの音声案内で迷わずにたどりつける』とかもあるだろうなぁ」


「そうそう。あとは人との繋がりですね。この『科学へジャンプ』という取り組みは、もちろん障がいを持つ子供たちに科学技術への興味を持ってほしい、という想いもあるんですが、大事なのは仲間を増やすことなんですよ。

例えば全国から参加者を募ってサマーキャンプをやったりするのですが、そこで知り合った人たちと仲間になってね。読み上げソフトを使ってメールでやりとりして励まし合ったり、便利な情報を共有したりっていうコミュニティを作ることが大事なんです。それにもやっぱりインターネットが大きな役割を担ってますね」


「なるほど……。IT機器の進化によって、障がい者の人の仕事も変わったりするんですかね?」


「昔は視覚障がい者の方の仕事として『あん摩、鍼、灸』が多かったのですが、ソフトやハードの発達によって視覚障がい者でもパソコンを使った事務作業もできるようになってそういった仕事に就く人も出てきましたね。中には服のデザイナーをしている人もいますよ」


「デザイン!? さすがにデザインは難しいのでは!?」


「視覚障がいの人の中には触覚が発達している人がいたりするので、洋服の素材の質感や肌触りといったものをデザインする専門家として活躍してるんですよ。仕事にも少しずつ多様性が出てきてますね」


「困ってることとか今度の課題とかはあるんですかね」


「それはもうまだまだたくさんありますよ。例えば、冒頭に出てきた視覚障がい者向けの機器は市場が小さいからやっぱり高価なんですよね。

100万円を超えるような機器を揃えるのは家計にとって大きな負担になりますし、読み上げソフトなんかも高機能なものはやっぱり高いですよ。

我々の活動も含めて、もう少し社会の関心が集まればもっと値段も下がってくるのかなと思ってますが……。だから応援してください!」


「なるほど!応援します!」

8,568通り、あなたはどのタイプ?

障がい者向けデバイスや教育プログラムの可能性

そんなわけでこの日のカリキュラムは終了。

「参加者の子供たちにはこれからも頑張ってほしいなぁ」と思う一方で、僕だって明日事故や病気で視力を失うことがないとは言えないだろうし、自分の親や身内に同じようなことが起こらないとも限らない。

さらにいえば日本が超高齢化社会を迎えるにあたって、何かしらの身体的な障がいを持つ人が今度増えていくことは間違いないわけで。

その日のためにもこういった障がい者向けのデバイスや教育プログラムの整備なんかについては、もっと大きな社会の関心事になっていけばいいんじゃないかな、と思う次第であります。

ネットやITって、「人との繋がりが希薄になる」なんて言って毛嫌いする人もいるけど、逆に人と繋がったり、可能性を広げるような良い面もしっかりあるっていうことはもっと広まってほしいぞ~~~!

■この記事を書いた人

ヨッピー

プロの無職。平日毎日更新のおばかサイト「オモコロ」にて体を張った実験記事を執筆。ほかにも「Yahoo!こちら検索探偵」「トゥギャッチ!」などで活躍中。TwitterIDは@yoppymodel

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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