伝説のプログラマーが説く「時間通りに絶対終わらせる」仕事の進め方

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長時間労働が大きな社会問題となっている昨今。「ノー残業デー」や「プレミアムフライデー」など、長時間労働を是正するような取り組みが一部の企業で行われています。けれど「そうは言っても、なかなか早く帰れない」「そもそも仕事が終わらない」と悩んでいるビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。

Windows95の生みの親のひとりであり、「右クリック」「ドラッグ&ドロップ」を現在のような形に設計したというソフトウェアエンジニアの中島聡さんは、著書『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』(文響社)が10万部を超えるベストセラーとなっています。著書では「ロケットスタート時間術」を公開している中島さんに、「どんな要因があっても絶対に早く仕事を終わらせる」仕事の進め方を伺います。

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中島聡さん
UIEvolution Founder / neu.Pen CEO

1960年、北海道生まれ。高校在学中からアスキーでパソコン雑誌の記事執筆やソフトウェア開発に従事。早稲田大学大学院理工学研究科修了後、日本電信電話(NTT)を経て、1986年日本マイクロソフトに転職、設立に携わる。1989年に米国マイクロソフトに移り、次世代OSのユーザーインターフェイスの設計に従事。Windows 95、Internet Explorer 3.0/4.0、Windows 98のソフトウェア・アーキテクト(チーフ)などを務める。2000年にマイクロソフトを退職後、UIEvolution株式会社、neu.Pen Inc.を設立。現在シアトルに在住し、ソフトウェア開発と執筆活動を続けている。著書に『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である』 (文響社)など。

職場に束縛されるような働き方は意味がない

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——日本では長時間労働が大きな問題となっています。中島さんは長らくアメリカを拠点とされ、現在もシアトルにお住まいですが、アメリカと日本との労働環境の違いについてどのようにお考えでしょうか。

中島:日本は全体主義的というか、「個人の理由」を尊重しない雰囲気がありますよね。納期を間近に控えて、みんなで残業を余儀なくされているときに、ひとりだけ「あ、今日は子どもの父兄会があるので、僕は帰ります」とは言いづらい。

アメリカはお互いの事情を尊重し合うカルチャーなので、「今回は僕ががんばるから、次回は頼むよ」なんて、わりと融通が利くんです。アメリカにもワーカホリックな人はいますが、家族の事情には寛容です。ちょうど昨日も重要な会議があったのですが、普段四六時中働いているような人に、奥さんから「水道管が破裂しちゃって大変だから」と連絡があって。昼間に帰っちゃいましたけど、それも全然許されますし。

——日本では、たとえば「子どもが熱を出したから、保育園に迎えに行く」のも仕方がないことなのに、申し訳なさそうに帰宅する人が多いように感じます。

中島:日本ではどうしても長時間がんばっている人が評価されて、成果を挙げた人、生産性を上げている人がなかなか評価されにくい。もちろん、アメリカでも気持ちの部分ではそういうところもありますよ。実際、本当に優秀な人はいつも仕事のことを考えています。けれども、ずっと職場に束縛されるような働き方は意味がありませんよね。「みんなが残業するから」「上司が帰らないから」ずるずると職場にいないといけない、みたいな。

——職場にいる間に自分の仕事を終わらせられればいいのですが、突発的に仕事を頼まれたり、電話やメール対応に追われたりして、結局腰を落ち着けて仕事ができるのが、19時以降……ということもあります。

中島:僕にとって最悪の日は、Eメールしてミーティングして終わっちゃうような一日ですよ。「仕事をしているような気」にはなるんですけどね。僕の仕事はプログラムを書くことなので、そういった本来の知的労働に時間を費やしたい。職種によってそれは異なりますが、やはり何か実になる成果をあげたいですよね。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「ギリギリまでやらない」から仕事が終わらない

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——さまざまな要因がありながらも、多くの人が「仕事が終わらない」と常に時間に追われているような感覚を持っていると思います。中島さんが考える「仕事が終わらない人の特徴」とは、どのようなものでしょうか。

中島:大きく分けて、この三つに集約されます。まず安請け合いしてしまう。それから仕事を請けてもギリギリまでやらない。そして計画の見積もりをしないということですね。

——……すべて思い当たる節があります。

中島:とにかく、安請け合いはしないことは鉄則です。誰かに何かを頼まれたら、「ちょっと確認するので、見積もる時間をもらえませんか」と言う。手をつけてみないとわからないことって多いじゃないですか。これは僕のやり方なんですけど、「見積もる」と言っておきながら、ちょっと試しにやってみるんですよ。プロトタイプを作ってみて、できるかどうかの感覚をつかんでから「できますよ」と言う。しかもそのときにもう8割方できている、というのが理想ですね。

——それは上司に確認してから行うのですか?

中島:いや、勝手に作っちゃいます(笑)。これを言うとみんなに驚かれるんですけどね。「正式に受注していないうちからそんなことをしたら、無駄になるんじゃない?」って。確かに無駄になることもあります。でも僕自身、それを作るプロセスで得られるものもあるし、もしそれがクライアントに対する場合、「これから企画を作ります」という会社と「すでにこんなものがあるんですけど」と言う会社があったら、後者のほうが魅力的じゃないですか。

それこそマイクロソフト時代は「作ったもん勝ち」で、やりたい仕事があれば手を挙げる代わりにプロトタイプを持っていって、その仕事の担当になっていました。ある意味ズルいんですよ。

「まずやる」「早くやる」ことを習慣づけると、そのプロセスもどんどん早くなっていきます。野球選手もボールが飛んでこようがこまいが、素振りをしますよね。それと同じです。ですから、どれだけ早くやっても、厳密にはそれが無駄になることはありません。自分がやりたい仕事をするための、努力の一環でした。

——確かに「自分がやりたい仕事」なら、夢中になって早く仕事に取り組めそうです。ただ、仕事は必ずしもやりたいことばかりではありませんし、そもそも「やりたいことが特にない」という場合もあります。そういうときはどうすればいいでしょうか。

中島:集中力というのは、本当に好きでやりたいことでしか、なかなか発揮できません。けれどもやりたくない仕事をしなければならないなら、徹底的に効率化するしかありません。「やりたいことをやるために」早く終わらせる、ということがモチベーションになると思います。

朝は誰にも邪魔されません。僕は朝起きてから2時間、メールチェックもせずに自分の仕事を一気に行います。本当に集中した2時間なら、日中の8時間よりも生産効率の高い時間になると思いますよ。「朝は最強」です。

「やりたいことがない」という悩みもよく聞きますね。「自分に正直になる」というか、意外と忙しいときに限って、やりたいことが出てきますよね。学生時代、試験勉強しなきゃいけないときに、別のことをはじめてみたり……そういうときに思い浮かぶのが本当に好きなことなんじゃないかな。それに、広くアンテナを張っている人と話したり、本を読んだり、なるべく多くのインプットを行うことで、見えてくることもあると思います。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

ロケットスタートで仕事の8割を終わらせる

——仕事が終わらない人の特徴として「ギリギリまでやらない」ことを挙げていらっしゃいましたが、中島さんはとにかく「早めに取りかかる」のでしょうか。

中島:そうですね。よくある「ラストスパート」というのが、諸悪の根源なんですよ(笑)。僕の場合、「ロケットスタート時間術」と呼んでいるのですが、はじめの2割ほどの期間で8割の仕事量をこなして、残り2割の仕事を8割の期間で仕上げていきます。自分では「100%できた」と思っていても、だいたい粗が見つかって、結局間に合わなくなってしまうんです。

それに、どうせ人間は完璧じゃないから、無理に欠点を隠そうとしなくていい。僕自身、たとえば短時間にガッと集中して80%くらいの資料を作るのは得意だけれど、それを100%にするのはあまり得意ではありません。ですから、「こういうことは苦手なんだ」と普段から周りに言っておくんです。そうすると80%を100%にするのが得意な人がブラッシュアップしてくれる。そうやって、お互いに得意なところを見つけあって仕事をしていくと、チームとしては生産性が上がります。

仕事においてはチームワークも重要ですから、全体として成果を挙げるにはどうしたらいいか。その中で自分は何が得意で、何ができるのか。そして何が重要なのかというところは意識しています。

——最後に追い込みをかけるような形で、自分のやるべきことだけに追われていると、全体を見渡す余裕もなくなりそうです。そのためにも、ロケットスタートが重要なのですね。

中島:そうです。それと、大事な仕事を見極めて、優先順位をつけることも重要です。僕は若いころから、上司にわりと言い返すタイプだったんですよ。「今、これをやってもしょうがないんじゃないですか? それよりこっちをやりましょうよ」って。

——勇気がありますね! 上司から「なんでもいいからやれ」と目をつけられませんか?

中島:ちゃんと話せば通じますよ。上司だって、その人なりの成果を挙げなければなりません。その立場を考えて、その人にとって重要なことをすればいいんです。上司は必ずしも、何が大事で何が大事ではないかを言ってくれるわけではありませんよね。けれども、大事なところを外すとやはり、怒られるんですよ。常に何が大切なのかを判断して、優先順位をつける仕事のやり方を身につけなければ、いつまで経っても仕事は終わりません。

会社では、なんでもがむしゃらにやって成功している人ばかりではないですよね。「なんかこの人、要領よくやっているな」という人も成功している。それは、別に悪い意味でもなんでもなくて、大事なところをしっかり押さえているということなんですよ。

——優先順位のつけ方にまだ自信がないなら、「こっちのほうが優先順位高いですよね?」と事前に上司とコンセンサスを取っておけば、物事もうまく進みそうですね。

中島:そうですね。よくあるじゃないですか。報告するだけだったり、ぐちぐち話すばかりで、結局何も決まらなかったりするような会議って。でも、自分がいてもしょうがない会議に出て、本来やるべき仕事が遅れるくらいなら、会議はサボってでも仕事を仕上げたほうが、会社にとってもいいはず。そこらへんの割り切りは必要だと思います。

できない理由を考える前に、まずやる

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——「ロケットスタート時間術」を実践するうえで大切なことはなんでしょうか。

中島:まず、「締め切りは絶対に守るもの」と考えることです。そう考えると、「だいたい10日くらいでできます」なんてあやふやなことは言えなくなりますよね。締め切りを絶対に守るための仕事のやり方を実践せざるをえなくなる。最初の2日に集中して8割方作って、残り8日で精度を高める。あるいは取り掛かってみて、予想以上に時間がかかりそうにならば、できるだけ早く納期の延長を申し出る

締め切りが守れない人はだいたい外的要因で追い詰められて、だんだんつらくなるんですよ。それよりもまず自分で自分を追い詰めるほうがつらくないじゃないですか。

——締め切りを守れなかった理由を考えるよりは、まずやる、ということですね……。

中島:いろんな理由を挙げて「それは難しいよ」なんて言われますけど、やるか、やらないか、どちらかしかないんです。厳しい言葉に聞こえるかもしれませんが、僕自身、何が得意で何が苦手なのか、上司や周囲に隠さずさらけ出してきました。それが結果的にいい循環を生んだと思います。当然、結果を出さなければいけませんから、がんばらなくちゃいけないんだけど、そうすることで自分の得意な仕事が回ってくるんですよ。得意なことだからこそ成果も挙がるし、そうすれば会社もよろこんでくれる。

自分の職業や職場、上司に対しても、もうちょっとわがままでもいいんじゃないか、と思うんです。「どうせ、こんなもんだ」とあきらめずに、自分の置かれた環境のなかで興味のあるものを見つけて、面白い企画を立てる。自分のいる会社に面白みが感じられないなら、自分が熱意を持てる企画を考えて、周りを説得していく……。

熱意」って実は、結構重要だと思うんです。もし今、閉塞感を持っている人がいるなら、そう感じていること自体が不利かもしれない。多少楽観的でもいいから、情熱を持っている人のほうが説得力もあるし、周りを動かす力がある。説得力のある人は、まず自分を説得できているんですよ。だからこそ、夢中になって仕事に取り組むことができる。「仕事が終わらない」と悩む間もなく、仕事を終わらせられるはずですよ。それほど情熱を持てる仕事を探してみるのもいいのではないでしょうか。

WRITING:大矢幸世+プレスラボ

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