このところ、「レジリエンス」という言葉をよく耳にするようになりました。これは、「精神的回復力」「抵抗力」「復元力」「耐久力」などを意味する心理学用語で、ビジネスパーソンに必要な力ととらえられています。人材採用の場面でも「レジリエンスが高い人がほしい」などと言われます。
さて、これに関連して、「エゴ・レジリエンス」(略称:エゴレジ)という言葉もあります。これは、1950年、当時スタンフォード大学の大学院生だった米国のジャック・ブロック氏が提唱したもので、「状況に応じて柔軟に自我を調整し、日常的ストレスにうまく対処し適応できる力」と定義されています。
心理学で「エゴ」といえば、自我・自己・自分のことを指します。これと「レジリエンス」が結びついた「エゴレジ」は、日々の生活の中でストレスを感じたとき、エゴのバランス機能を調整して元気な自分に戻ろうとする力です。
心理学博士であり、「エゴレジ研究所」の代表を務める小野寺敦子さんによると「エゴレジは、本来は誰もが持っている力ですが、これが弱っていると些細なことでメゲたり落ち込んだりしやすくなってしまいます」とのこと。
そこで、エゴレジを高める方法を、小野寺さんに教えていただきました。
目次
オーバーコントロール/アンダーコントロールのバランス調整力が大切
エゴには、2タイプの機能があります。
「オーバーコントロール」…衝動や感情を過剰に抑制する
「アンダーコントロール」…衝動や感情を自由に表出する
例えば、仕事の締め切り目前に、あらゆる誘惑を退けて頑張っている状態が「オーバーコントロール」、一仕事終えお酒を飲んでカラオケを歌っているときが「アンダーコントロール」の状態です。
時と場合によって、その状況に適したレベルにオーバーとアンダーを柔軟に調整する「スイッチ」が「エゴレジ」です。
張りつめた緊張状態にあるときに気持ちをリラックスさせる。逆に、ダラダラしてしまっているときに自分に喝を入れる。このように「オーバー」と「アンダー」の間の「行ったり来たり」を繰り返すことでエゴの調整ができるというわけです。
エゴレジが高い人は、イヤなことがあったとき、メゲそうなときも、「オーバー」と「アンダー」のバランスを調整しながら、直面した課題を解決することができるのです。
それでは、エゴレジを高める方法の一例をご紹介しましょう。
●思いやりの「一手間」をかける
例えば、仕事の関係者に書類などを郵送する際には「いつもありがとうございます」「お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願い致します」「今後、一緒にランチに行きましょう」など、相手を気遣うメッセージを添えてみましょう。受け取った相手は「思いやりのある人」という印象を持ち、あなたが困ったときには支えてくれるはず。損得勘定ではなく、相手を思いやる気持ちを持つことがエゴレジアップにつながります。
●初めてのこと、慣れないことも、まずやってみる
いつもとは違う仕事のやり方をしてみるのもいいですし、スマホに新たなアプリを入れて機能を使いこなせるようにする、といったことでもOK。「やり方を覚えるのが面倒くさい」「うまくできないかもしれない」などという思い込みが強いと、エゴレジを高められません。
●たまにはいつもと違う道を通ってみる
会社からの帰り道など、いつも決まって同じ道を通る人、「今日はこっちから行ってみよう」などルートを変える人がいた場合、エゴレジが高いのは後者のタイプが多数。困ったとき、行き詰まったとき、すぐに何か別の方法を探すことができる人が多いのです。
遠回りでムダに思える時間、意味がないように見える行動――そういったものを大切に思う気持ち、余裕のある心を持つことがエゴレジをアップさせます。
●誘いに乗ってみる
飲み会、交流会、イベント、セミナーなど「行ってみない?」「来ない?」と誘われること、ありますよね。ここでも「面倒くさい」「興味ない」と断らず、積極的に出向きましょう。期待せずに参加した会で思いがけずすばらしい出会いや感動があるかもしれません。そんな体験をすれば、好奇心が湧いてきて、チャレンジに前向きになれるでしょう。
●毎日、「〇〇が面白かった」と言えるようになる
1日の終わりに、その日あった面白い体験、こんないいことがあった、こんな素敵な人に会った、こんなことで褒められた…を意識してみてください。それを友人や家族と話し合うのもいいでしょう。
通常は「今日、何か面白いことあった?」と聞かれても「別に…」となることが多いかもしれません。
でも、日常生活で面白エピソードを見つけること、話すことを習慣づけていると、エピソードを探そうとする意識が活性化されます。ものを見る視点や考え方、感じ方の角度が変わっていき、エゴレジがアップします。
●たまには「あるがまま」で過ごす
いつも時間を気にしてセカセカしている人、スケジュールどおりに進まなくてイライラしている人もいますよね。スマホを手放せず、常にメールやメッセージの着信を気にかけている人も多く見られます。
たまには、携帯電話を家に置いて外出し、時間や約束に追われない時間を過ごしてみましょう。物理的に通じない状態になり、携帯電話の存在を気にしなくていいようになると、なんとなく「心地よい開放感」を味わえると思います。そして、何にもとらわれず、心のあるがまま、のんびり過ごしてみてください。たまにはペースダウン、スピードダウンすることも大切です。
―― まずはちょっとした行動を変えてみることから、エゴ・レジリエンス力の強化につながります。始めやすいことから取り組んでみてはいかがでしょうか。
小野寺敦子氏/心理学博士、「エゴレジ研究所」代表
上智大学大学院 文学研究科教育学専攻 博士前期課程修了(文学修士・教育学)。東京都立大学大学院 人文科学研究科心理学専攻 博士課程単位取得。博士(心理学)の学位授与。
現在は、目白大学 人間学部心理カウンセリング学科 教授、目白大学大学院 現代心理学専攻 教授、目白大学大学院 心理学研究科 博士後期課程 教授を務める。
日本心理学会、日本教育心理学会、日本発達心理学会、日本パーソナリティ心理学会、日本健康心理学会などに所属。
著書に『 「エゴ・レジリエンス」でメゲない自分をつくる本 ~ego-resilience~』( 一藝社)『親と子の生涯発達心理学』(勁草書房)『手にとるように発達心理学がわかる本』(かんき出版)など。エゴレジ研究所