ポジティブ流行りにモノ申す!ヒロシが勧める「頑張りすぎない人生」

松岡修造、NON STYLE井上による、ポジティブになれる金言満載の日めくりカレンダーが話題を集めているが、「ヒロシです…」から始まる自虐ネタでおなじみの、お笑い芸人・ヒロシさんのネガティブカレンダー「まいにち、ネガティブ。」が密かな人気だ。1万部売れればヒットと言われるカレンダーにおいて、9月に発売以降すでに4万部を売り上げている。

「ピンチはピンチでしかない」

「苦しいときほど笑え…笑えるくらいならとっくに笑っています」

このようなネガティブワードに、「頑張りすぎないでいいんだ」「自分らしく生きればいいんだ」と勇気づけられた人が多いようだ。

そんな“生粋のネガティブ”ヒロシさんにインタビューを敢行。ネガティブ・ルーツを探るとともに、今のポジティブ流行りをどう思うか聞いてみた。

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ヒロシさん
1972年生まれ、芸歴21年目。1995年にお笑いコンビ「ベイビーズ」として活動開始。解散後、ピン芸人に転向。「ヒロシです…」から始まる自虐ネタが人気を集め、2004年、2005年と2年連続R-1ぐらんぷりで決勝進出を果たす。趣味はキャンプ、キャンプ動画を撮影して自らYouTube「ヒロシちゃんねる」を開設している。今年9月に発売した日めくりカレンダー「まいにち、ネガティブ。」がスマッシュヒット中。

いじめっ子を見返す…が長年の心の拠り所に。蓄積されたネガティブな感情が今に活きる

――そもそも、ヒロシさんが今のネガティブな芸風に至ったのは、どういういきさつからなのでしょうか?

 小さい頃から、いじめられっ子でした。おとなしくて人見知りで、引っ込み思案で、いじめられても反撃もできずにただ黙って下を向いているだけの子どもでした。

 そんな僕の当時の心の拠り所が「お笑い」。小学生の時に漫才ブームが起こって、ツービートさん(ビートたけしとビートきよしのコンビ)に憧れていました。いじめられるたびに、「お笑い芸人になってTVにいっぱい出て、いつかあんたたちよりいい生活をしてやるんだ」と思い、耐えていました。

 そして23歳の時にコンビでデビューし、その後ピンになって今のスタイルでTVに出られるようになったのが30過ぎのことです。…鬱屈した思いを30年近く拠り所にして生きてきたんだから、そりゃ筋金入りのネガティブになりますよ(笑)。

 コンビ時代は、キレ芸でした。大人になっても人見知りは変わらなくて、舞台での緊張が半端なくて…大声でキレることで緊張が和らいだんです。でも、コンビ解散後ピンになったら、コンビよりも何倍も緊張するんですね。緊張のあまり客席をどうしても見られなかったから、「下を向いてブツブツ自虐ネタを言う」という今のスタイルに落ち着きました。ネガティブに生きてきた長年の蓄積がありますから、自虐ネタには困りませんでしたね(笑)

周りに流されて、無理にポジティブに考えるのはおかしい。自分のやりたいことで頑張ればいい

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――そんな中、昨今では「ポジティブ」な考え方がもてはやされています。そんな風潮をどう思われますか?

 おっしゃる通り、頑張りが求められる風潮になっていると感じますね。もちろん、「自分が決めたこと」に対しては頑張らないといけないと思いますが、周りの雰囲気に流されて無理に前向きになったり、無理やり頑張ったりするのは、僕はちょっと違うと思うんです。

 元からポジティブな人はもちろんそれでいいし、考えを少し変えることでポジティブになれるならばそれでいい。でも、本当はやりたくない、向いていないのに、自分をだましてまで頑張るのは、少しおかしいでしょう?やると決めたことをやり抜くのも大変だけれど、「自分に無理をしない」という意味ではよほど健康的だと思いますね。

 僕はお笑いは大好きで、やり抜くと決めているけれど、メディアに対して気の利いたことを言ったり、先輩芸人に気にいられるべく取り入ったりはできない。だからTVから呼ばれにくくなったのかもしれませんが、自分を偽ってまで無理をしたくないし、好きなこと、できることで勝負したいと思っています。

今いる世界がすべてじゃない。自分らしく生きられる場所はほかにもあるはず

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――とはいえ、自分の仕事や境遇に悩み、辛い思いを抱えながらも、毎日鞭打って頑張っているビジネスパーソンも多いと思います。

「この仕事は自分には本当に無理だ」と心から思ったら、無理せずに辞めていいと思いますよ。いじめを受けている子にも言いたいですけど、今いる世界がすべてじゃない。少し視点を変えれば、もっと楽に、自分らしく生きられる環境があるはずなんです。

 実は、芸人になる前に半年間だけ保険の営業をやったことがあります。でも、人見知りでネガティブで、作り笑いも苦手な僕には全く向いていなくて、契約も全然取れない。1カ月で「やっぱりダメだ」と会社に行かなくなりました。無断欠勤です。

 そうしたら、上司が家まで来ちゃって。当時は実家住まいだったから親が部屋に入れちゃったんですよね(苦笑)。

 給与を支払っているのに契約が1件も取れないまま会社に来なくなるのはどうなのか、まだ何も会社に価値を返してもらっていないと言われ、なるほどおっしゃる通りだなと。そこで、給与分だけでも契約を取ろうと半年間だけ頑張り、その後本格的にお笑いの道を目指しました。短いながらも会社員を経験してみて、「やっぱり自分にはお笑いしかない」と思えたから、そっちで頑張ろうと思ったんです。

好きなことを突き詰めれば、いずれ無理せず働ける環境に出会える

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 ただ、イヤイヤでも何とか続けられているならば、続けたほうがいいと思いますよ。お笑い芸人なんかよりも何倍も安定しているし、社会的にも認められていますからね。

 それに、イヤだと思いながらも続けられているということは、何か少しでも「好き」と思える部分があるんじゃないかな。その「好き」の部分を見極めて、そこだけを突き詰めてみる、という方法はあると思います。好きと思える業務を突き詰めて、その仕事に特化できるような立場を目指すとか。そうすれば、今いる環境で、いずれ無理せず働けるようになる。

 無理をしない働き方って、いろいろあると思うんです。今、僕はキャンプに凝っていて、芸人仲間とよく行くんですが、それに必ず参加してくれる「キャンプマスター」みたいな会社員の友人が1人いるんです。芸人同士で行くから平日が多いんですが、そいつは営業マンで忙しいのに休みを取って、しかも名古屋からわざわざやってくる。

 彼のすごいところは、僕たちとのキャンプを生きがいに仕事を頑張っているということ。我々の時間に合わせるためにどうすればいいか考え、「営業でナンバーワンの成績を挙げれば、誰も文句は言わないし時間の融通も付けられるようになる」と、がむしゃらに仕事を頑張って本当にトップを取ったんです。そして、それを大変なこと、しんどいことと捉えていないんですね。キャンプのためだから、しんどい仕事も苦労とは感じなくなり、彼らしく生きられるサイクルを確立できているんです。

無理しない範囲で努力して、一生「芸人ヒロシ」で生きていく

――これからヒロシさんは、どのような方向を目指していかれるのでしょうか?

 ゆくゆくは今の事務所を、他のタレントも抱えるまでに大きくして、所属タレントの売り上げで何もせずに生きていきたいですね。間に入る仕事が一番儲かりますからね(笑)。

 なんて言いつつ、好きで選んだお笑いの道ですから、このまま一生「お笑い芸人・ヒロシ」で生きていくんだと思っています。ひな壇で器用に喋れるタイプじゃないし、未だに「この世界、向いていないんじゃないか」と思うときもあるけれど、何とか食えていますからね。それに、ネタを披露してドンと受けた時の喜びは何物にも代えがたい。これを味わいたいから、無理はせずとも多少頑張って、この世界にい続けているんです。

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▲ネガティブワードがくせになると評判の「まいにち、ネガティブ。」

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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