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4〜6月にリリースが予定されているグローバル向けプラットフォーム統一に注目が集まるグリー。3月に開催されたグリーのパートナー企業を対象にした「GREE Platform Conference 2012」で語られた戦略や海外の最新動向をお伝えする。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡 関本陽介)作成日:12.04.24
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グリー株式会社
代表取締役社長 田中 良和氏 |
日本企業のビジネスモデルは、競争の激しいグローバル経済の中でどこまで通用するか。グリーのゲームプラットフォームは世界共通の基盤として開発が進められている。「世界で通用するサービスを日本から発信し、それが成功することを示したい」──3月に都内で開かれたパートナー企業向けイベント「GREE Platform Conference 2012」で、グリー代表取締役社長の田中良和氏は高らかに宣言した。
カンファレンスの冒頭でグリーの田中社長は、急速なスマートフォンの普及に伴う事業シフトと、「GREE Platform」のグローバルでの可能性について語った。
また、田中氏は4〜6月期に世界統一の「GREE Platform」を提供すべく、順調に開発を進めていると述べた。さらに話題は、先日世界で配信された「Zombie Jombie」に移る。
「『Zombie Jombie』のデザインはアメリカのマーケットに受け入れられるように、GREE International, Incのアメリカ人デザイナーが担当しました。これまでに培ったノウハウを適用する事で成果を残せたことが、我々の大きな自信につながった。あとは、個々のゲーム単位でどううまく展開していくかです。今後は、日本のタイトルも順次ローカライズして展開していきたい」 グリーの今後のグローバル展開についての具体的な施策もいくつか紹介された。先日発表のあったレベルファイブとのグローバル市場における包括的業務提携や、2月にフランスパリで発表されたUbisoftとゲームロフトとの協業など、国内外を代表するゲーム会社との提携、決済面としては、PayPalをはじめとした現地の決済手段の対応を今後とも積極的に行っていくと述べた。 また、エンターブレイン社の「ファミ通GREE」を2012年6月末より月刊で発行することについて、「『ファミ通GREE』が月刊化されることは非常にエポックメイキングなことだと思っています。若手の開発者の顔も積極的に出し、さらに大きく発信をしていきたい」と抱負を語った。さらに、2012年6月に「Electronic Entertainment Expo(E3)」を初めとするグローバルイベントにも積極的に参加し、昨年の東京ゲームショウ同様に、業界および一般ユーザーへの認知度を上げていくと表明した。 そして、サービスの利用向上に向けた監視体制の強化についても言及。3月21日にプレスリリースで出した「プラットフォーム事業者6社によるソーシャルゲームの利用環境向上等に関する連絡協議会を設置」について、その取り組みを説明した。「社会に受け入れられるサービスを提供していくことが大事。日本で代表される産業に育てていきたい」と、ユーザーに対するサービスの内容・品質の向上のため、スピーディな対応を改めて要請した。
■「利用環境向上委員会」の設置
田中氏は最後に、「10億人が利用するサービスを作る」というグリーの目標を掲げた。 |
続いて登壇したのは、グリー執行役員・マーケティング事業本部長の小竹讃久氏。パートナーにグローバル市場向け「GREE Platform」の概要について説明を行った。まず、「GREE」を10億人が利用するサービスするためには、パートナーからさまざまなコンテンツを提供してもらうことが不可欠と訴えた。 小竹氏は、プラットフォームとコンテンツの成長サイクルが日本でも世界でも変わらないことをデータで示し、「早くコンテンツを提供すれば、プロモーションなどによる集客効果でプラットフォームからの流し込みが続き、より多くのメリットを享受し続けられる」と、先行者のメリットが大きいことを説明し、「先行者の得る果実は大きい」と、繰り返し強調した。 続いて4〜6月期に「GREE」が「GREE Platform」にて提供するSDKの提供内容や、アプリ料率とアプリ審査についての変更点、配信のエリアなど具体的な内容について明かした。さらに、パートナー企業に対して、「世界各国へのローカライズサービス」「クラウドサービス」「安全品質を実現するデバックサービス」「ユーザーサポート」などのサポート体制について説明。広告プラットフォームについても、アプリ紹介サイトのICSと提携し、「GREE」専用枠を確保していることを示した。 |
グリー株式会社
執行役員 マーケティング事業本部長 小竹 讃久氏 |
グリー株式会社
取締役 執行役員CFO 国際事業本部長 青柳 直樹氏 |
「グローバルソーシャルゲーム」をテーマとしたパネルディスカッションでは、海外向けソーシャルゲームを提供するデペロッパー企業の代表者がパネリストとして登壇した。グリーからは、アメリカから急遽帰国した取締役 執行役員CFO 国際事業本部長の青柳直樹氏が参加した。
最初のテーマは、ソーシャルゲーム業界が最も懸念している「果たしてモバイルソーシャルゲームは海外で通用するのか?」という内容。青柳氏は、自身がCEOを務めるGREE International, Inc.が3月15日にリリースしたソーシャルゲーム「Zombie Jombie」を例に挙げ、その手応えを力強く語る。
青柳氏は日本と海外の収益性の違いについてもこう語っている。
「アメリカでゲームを配信する前に他の国でテストをした方がいいのか?」という質問では、市場規模が圧倒的に大きいアメリカでローンチする前に、同じ英語圏で価値観の近いカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの国でタイトルを先行でリリースして、様子をみることが多いという。 |
また青柳氏は海外に向けてのゲーム調整について、「国が違うだけで、継続率や課金率が変わってくる。それはモチーフが合わないのか、ゲーム自体がいけないのか、直すべき優先順位はまだわからないが、まだまだ伸びそうだと感じています。特に南米では、2年前のタイトルでも、丁寧に対応することで1位を取れたりする。海外での収益性はこれからも上がるはずです」と、語った。
青柳氏は最後に、「『Zombie Jombie』が通用するとわかったのは、日本のソーシャルゲーム業界にとって大きい。日本のソーシャルゲーム作りのノウハウを活かして、ユーザーあたりの売り上げと継続率を上げていけば、今アメリカで先頭を走る人たちをいずれ追い抜けるのではないか」と、述べた。
続いてのセッションは、開発本部GREE Platform統括部長の伊野友紀氏から「GREE Platform SDK Ver.3」で提供される機能について説明がなされた。「GREE Platform SDK Ver.3」は、グローバル向けプラットフォームに進化する「GREE Platform」向けの開発ツールキット。今までのSDKの進化としていくつかの改善がなされている。例えば、招待機能についての改善。「GREE Platform SDK Ver.3」では、電話帳、Facebook、Twitter、Gmailなどとの連携機能が実装されることにより、これまでよりも招待しやすくなる。その他通知機能については、プッシュ通知などが追加される。 また、「GREE Platform」自体の機能改善としてGREE Platform API群との通信が、SDKと開発側サーバーの両方でやり取りできるようになる。このことにより、Platformの利用方法が今までの従来の経由方法だけではなくなるので、実装の幅が広がり自由度が増すことがあげられる。 またWebアプリをネイティブアプリ化する「WebView App SDK」が提供される。この「WebView App SDK」を活用することでウェブプラットフォームとネイティブアプリ両方から収益が上げられる事が期待できる。「ブラウザゲームのノウハウを使いながら、運用やイベント、ページ構成などができる」と伊野氏は述べた。 グローバルに展開する上で問題となる各国のユーザーが用いる言語の判別についてはPeople APIを実装する事により解決される。People APIでは、ユーザー情報に国コード(Region)、地域コード(Subregion)、言語コード(Language)、そしてユーザー自身が設定する時間帯(Timezone)の4つのデータが付加されて返答される。これらを区分することで、ユーザーからの「日本にいるけど韓国語を使いたい」といった要望にも応えられる。またゲーム提供においては、国や地域を限定した配信や、国ごとにゲーム内容を変えて配信できるようになる。認証方式については、(1)簡易認証、(2)フリーメール、(3)SMS/IVRと3段階にわけた認証方式が提供される。 |
グリー株式会社
開発本部 GREE Platform統括部長 伊野 友紀氏 |
世界には日本語や英語と違い、右から左に読む言語もある。今回のSDKでは、そういった文化に合わせたコンテンツ提供の制御も可能となる。最後に「GREE Platform SDK Ver.3」は、集客、活性化、収益化の3点に重点を置いて開発が行われており、グローバル化に関しては、言語や文化の違い、宗教上の習慣などを考慮して設計していく必要があると述べられた。
午後のセッション「経営者の視点から見るグローバルプラットフォーム」では、エンターブレイン代表取締役社長の浜村弘一氏がモデレーターを務め、コーエーテクモゲームス、バンダイナムコゲームス、コナミデジタルエンタテインメントら経営陣のパネリストに田中社長が参加し、積極的な意見交換が行われた。田中社長は、「スマートフォン向けのコンテンツは、フィーチャーフォンとは違い、グラフィックスと世界観を活かせるところに利点がある。社内でも積極的に『見ただけで遊びたくなるゲーム』を目指して開発していきたい」と語るなど、改めてスマートフォンへのシフトに対して意欲を示した。
また、田中社長はスマートフォンへのシフトは、単純にグラフィックなどのクオリティが上がるだけではないと発言。全世界で共通のシステムが使用され、ネットワークへの接続も容易なスマートフォンが、本格的にゲームプラットフォーム化すれば、これまでネットワーク面で制約を感じていたゲームクリエイターたちが、本当に作りたいゲームが作れる時代が来るだろうと予測している。
田中社長は「Zombie Jombie」の成功や、中国でもカードバトルのゲームが好評であることを紹介。日本で好評なビジネスモデルが、世界でも十分通用すると語った。だが同時に、海外でも受け入れられるモチーフやデザインである必要性についても補足。ゾンビは日本では一般的ではないが、欧米では有名なモチーフを取り入れ、ゲームデザインは日本でしか受けていなかったカードバトルを採用していることを例に挙げた。「Zombie Jombie」は和洋折衷な作品であり、こういった取り組みを続けていくことは、日本でしかヒットしないものと、日本以外でも受け入れられるものが見えてくると田中社長は言う。
さらにディスカッションの最後で、日本のソーシャルゲームを世界で成功させることへの使命感にもこのように語っている。
「GoogleやFacebook、Amazonを始め、全世界で利用されているWebサービスのほとんどはアメリカで誕生している。ユーザーとして利用する分には便利で楽しいのですが、この事実は日本の産業を作るという意味では問題視しなければいけないと考えています。日本から世界で通用するWebサービスが出せることを証明していきたい。ゲームは日本でビジネスとして成長し、世界へ羽ばたいていったコンテンツ。我々の産業が20年、30年後にあるかどうかの保証はありません。だからこそ、ここで立ち止まらずに、このチャンスにかけたいと思っているのです」
「開発者の視点から見るグローバルプラットフォーム」では、開発者たちが実際のサービス展開で学んだノウハウなどを中心にディスカッションされた。登壇者は、スクウェア・エニックス、セガオンラインエンタテインメント、カプコンの開発責任者と、グリー執行役員メディア事業本部長吉田大成氏。モデレーターは芸者東京エンターテインメントCEOファンタジスタの田中泰生氏が務めた。 吉田氏はグリーが展開している各国の開発拠点(日本を含めた)の統括責任者である。その吉田氏が日本で展開したグリーの開発ノウハウを活かし、海外各国の文化や嗜好を活かした開発を進めているという。また海外で展開するカルチャライズにはパターンがあると指摘。国に合わせてキャラクターや絵柄、サイズなどを大きく変えるものもあるという。日本のソーシャルゲームで人気がある「カードゲームは海外で受けいれられるか」という質問に吉田氏は「結果として受け入れられている」と言う。Zyngaのゲームと比べるとARPU(客単価)は高めであり、アップデートに合わせて売り上げが上がるなど、日本と同じようなビジネスモデルとして成立しはじめているという手応えがある。ただし、全てがこのカードバトルの形でビジネスが行なわれるのではなく、あくまで1つのケースだと補足した。 最後にモデレーターの田中氏が質問をしたのが、「グローバル向けのタイトルの付け方について」。吉田氏は、単語は2つ、多くて3つというこだわりがあり、前半がモチーフや世界観、後半は遊び方をひと言で表現しており、ネイティブのチェックも行っていると語った。また、「探検ドリランド」は世界に通じる名前にしたいと考えており、グローバルでもこの名前は変えずに出していきたいという。 これまで幾多の日本企業が挑戦してきた世界戦略。かつては成功した製造業の海外進出モデルも、今となっては競争力を失いつつある。しかしWebサービス、ソーシャルゲームのマーケットには大きな可能性がある。パートナー企業を引き連れ、その未知の市場を独自のビジネスモデルで切り拓くグリー。その勢いはとどまるところを知らない。 |
グリー株式会社
執行役員 メディア事業本部長 吉田 大成氏 |
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2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る
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