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「mixi」上で、クリスマスシーズンに実施しているソーシャル・キャンペーン企画「mixi Xmas」。この大規模なイベント実現のためにタッグを組んだのは、ミクシィとバスキュール号のエンジニアたちだった──
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:12.05.11
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「mixi Xmas」は、「mixi」上でつながる仲の良い友人と一緒に、クリスマスを楽しもうという企画だ。キャンペーンページ上に飾った靴下のベルを鳴らし合ったり、プレゼントを“おすそ分け”しながら、クリスマスまでの時間を友人とコミュニケーションを楽しむことができる。
このキャンペーンのはじまりは、2009年に遡る。SNS「mixi」は普段からコミュニケーションプラットフォームとして使われており、その可能性を活かした新しいキャンペーンを模索していた。その1つとして季節をテーマにしたイベントの実施というアイデアが浮上していた。実施時期やタイミングなどから、まずは、クリスマスに焦点が当てられた。その実現に向け、「SNSが持つ可能性を最大限に引き出し、できるだけ世の中にインパクトのあるイベントを実現したい」という考えを共有し、プロジェクトを一緒に推進できるパートナー探しが進められた。
プロジェクト参画の意思を示したのが、優れたクリエイティブの実績とノウハウを持つバスキュールだった。
「ミクシィとはこれまで、いくつかのプロジェクトで実績を作ることができてはいました。ソーシャルグラフを持つ『mixi』のプラットフォームを活用するという経験はありませんでした。その中でソーシャルなキャンペーンを作り出すという新しい挑戦に、バスキュールとしては大きな可能性を感じていました」
打ち合わせを繰り返す中、新しいコミュニケーションの展開により大きな可能性を感じた。デジタルの世界で最大のクリスマスイベントを実現し、ビジネスとしても成立することを証明する。これが、両社がタッグを組んだプロジェクトチームの目標となった。
バスキュール/バスキュール号
取締役・ テクニカルディレクター・プロデューサー 田中 謙一郎氏
バスキュール/バスキュール号
テクニカルディレクター 北島 ハリー氏
ミクシィ・
ソーシャルエンゲージメント推進グループ マネージャー 中野 彰氏
ミクシィ・
ソーシャルエンゲージメント推進グループ 横島 太志氏 |
初回:全てが手探りの中、プロジェクトは進められた。
「初回となる2009年を振り返ると、生みの苦しみという表現になると思います」
確立されたスキームのないところでの手探りの出発。全てが新しい経験となった、と北島氏は話す。
手探りで作業が進む中、創り込みの部分でも工夫があった。細かい部分ではあるが、使い方は誰にでもわかりやすくするため、凝りすぎないことに重点をおいたという。
2009年の開発は11月半ばにスタート。「mixi Xmas」の開発期間はわずか3週間だった。PC版しか用意していなかったにもかかわらず、期間を通じて約100万人以上のユーザーが参加した。 2回目:より多くのユーザーに使ってもらうためのUI/UX 第2回目となる2010年、mixiFES(世界的サッカーイベントと連動したキャンペーン)でも、ミクシィとバスキュールは協業。両社のコラボレーションノウハウは徐々に蓄積されていった。そんな中、夏の終わりから、新しい「mixi Xmas」の準備が始まる。 2010年の一番の課題は、フィーチャーフォンへの対応だ。“フィーチャーフォンでできることしか機能としても追加しない”というポリシーを最初に設定し、そのための新たなUIデザインが設計された。また、「フィーチャーフォンからのアクセスによる膨大なトラフィックを、イベントにどのように取り込むか?」はプロジェクトメンバーにとって、新たなチャレンジとなった。負荷に対しての対策はGAEを活用し、トラフィックを“さばく”のではなく“制御する”という仕様を設計することを心がけた。 また、2010年は「mixi」ユーザー間のバイラル効果だけでどこまで参加者数が伸びるかという試みを実施した年でもあった。例えば、クリスマスイベントの状況を、イベント用のアプリ内だけに閉じられることなく、「mixi」のホーム画面に表示される広告領域へ告知できるソーシャルバナー、友達にプレゼントのおすそ分けができるクーポンの配布などだ。「mixiボイス」、「mixiフォト」など、当時登場していた新しい「mixiアプリ」のAPI利用も実装した。 結果として2010年シーズンは、バナーなどで何も告知することなく、キャンペーン開始から58時間で参加者が100万人を突破。25日間のキャンペーン期間で約260万人が参加するなど、改めてソーシャルグラフのバイラルの威力を見せることができた。 3回目:新しい価値の提供というさらなる挑戦
2年連続でクリスマスイベントは成功を収めることができた。しかし、2011年に入りソーシャルネットワークをめぐる環境の変化は著しく、スマートフォンの普及、Twitter、Facebookの伸張など、国内マーケットの環境変化に対応することがまず求められた。 その直前の5月にはミクシィとバスキュールの合弁会社「バスキュール号」も生まれていた。本格的なソーシャル時代の到来とスマートフォンの普及を見据え、ソーシャルグラフを活かしたマーケティングサービスとオリジナルメディアを世に送り出すのが目的である。ソーシャルサービスでの訴求力を高めたいクライアント企業にソリューションを提供することも事業目的の一つだ。
2011年のクリスマス・プロジェクトは、単体でのイベント成功だけではなく、来年以降のソーシャル時代を見据えた様々な仕掛けを組み込む実験の場にもなった。プロジェクトに途中参加したミクシィ側のエンジニアである横島太志氏は、そのことについて以下のように語る。 アプリケーション部分を主に開発するバスキュール号側との調整はもとより、プレゼントを提供するクライアント企業、配送業者、決済会社など複数の関係者に対応し、それぞれに向けたI/Oを作り込むという作業を進めていった。 |
10月に転職したばかりの小尾龍太郎氏は横島氏と共に、ギフトの配送・決済のシステムを作り込むほか、在庫管理システムを担当することになった。
「転職したばかりで、ミクシィでの開発ルールやイベントの概要を理解するので最初は精一杯。同時にコードも書かなければならない。『mixi』のシステムの基本は、Perlで書かれているのですが、実はPerlでの本格的な開発は初めてでした。結構タフな2カ月間でした」
ほかに、新たな取り組みでしたものとしてはスマートフォン対応が挙げられる。
「スマートフォンブラウザ用のUI設計には苦労をしました。インタラクティブ性と負荷を考え、ベルを鳴らす演出をPC版のFlashに少しでも近づけようとがんばりました。現状のスマートフォンブラウザでできることは最大限盛り込んだつもりです」
と、田中氏は語る。
また、Twitter連携も今回実施した新しい取り組みである。2011年11月に発表されたミクシィとTwitter社との事業提携の最初の試みでもあった。これまでもTwitter上の情報を「mixi」の友人たちと共有することができたり、「mixi」のつぶやきをTwitterに連携させるなどの連携は可能であった。しかし、mixi Xmas 2011では、キャンペーンページの中でよりシームレスになり、アプリから直接、ハッシュタグを自動付加した状態でツィートできるようになった。
また、話題のキーワードやハッシュタグを表示するTwitterの「トレンド」の最上部にプロモーション広告を表示する「プロモトレンド」を活用した連携の試みも採用された。結果として100万人登録達成まで49時間、昨年度より9時間早かった。
「協賛スポンサーも年々増えています。プレゼント商品の提供だけでなく、各社のブランドキャンペーンとの連動やシステム連携も有機的になってきており、クライアント企業からの評価はおしなべて高かった。期間中、プレゼント交換会という企画で提供したデジタルアイテムを有料で購入した課金ユーザーも多く、ギフト消費も大きく伸びました」(中野氏)
ただ、この収益ばかりが注目されることは本意ではないとメンバーは口を揃える。
「たしかに、SNS上でのクリスマスイベントではどのぐらいの価格やジャンルのプレゼントが好まれるかという、ソーシャルマーケティング上の貴重なデータは得られました。ただこれはあくまでも、多くのユーザーがその友人と楽しんでいただけたイベントの成果の一つにすぎない」
と、中野氏は言う。
「収益だけを目的に走りすぎると、将来にわたって継続するにはうまくいかないと思う。あくまでもコミュニケーションの活性化を重視すべき」と、田中氏も話す。
「バスキュールの人たちは、アプリのクオリティやディティールで決して妥協しない。僕らがこれでよしと思っても、さらにそれを上回る表現が出てくる。ここまでやるのか、というのが率直な印象」
今回のバスキュールとの協業を経ての、横島氏や小尾氏の感想だ。
「ユーザー体験をよりリッチにしていくことへの執念のようなものさえ感じました。僕らプラットフォーム側としてもそれに応えて、機能を実装していかなくてはと思う。お互いが刺激し合い、よい意味での相乗効果が生まれました」
と、中野氏も言葉を添える。
かたやバスキュール側でも、「SAPだけではとうてい物流とのシステム連携などはできません。ユーザーデータをベースに行動分析を重ね、それをシステムに反映させていく力はさすがだと思いました」(北島氏)
「毎日膨大なアクセスがある『mixi』というサービスを運営している現場からの視点は、我々にはないもの。その運用経験には我々としても強い信頼を持っています。だからこそ、アプリ開発の側からは、ああしたい、こうできないかと思い切った提案ができる。それを端から『無理だ』と言わずに、きちんと聞いて対応してくれる」
と、田中氏も言う。
ミクシィとバスキュールのジョイントベンチャー「バスキュール号」では、友人同士の位置情報を共有するiPhoneアプリ「Pelo」(ぺロ)を開発し、2012年2月にリリースした。「mixi」とTwitterの双方からログインでき、店舗キャンペーンとの連動や災害時などの情報共有にも利用できる。このように、スマートフォンの機能を活かしたアプリやイベント企画が今年も続々と生まれそうである。
業務系システム開発にてエンジニアとしてのキャリアをスタートさせ、その後、iアプリやBrewアプリの開発を担当。前職では、モバイル向けの公式サイトやソーシャルゲームの開発に従事。2011年2月にミクシィへ入社。大手クライアント向けのタイアップコンテンツの開発をメインに、開発の効率化や改善を担当。 |
大学卒業後、物流をはじめとした基幹システムエンジニア、広告代理店のソリューション部門においてweb広告営業と制作・開発ディレクションを経て、2008年にミクシィ入社。入社後は、飲料メーカー、スポーツブランド、映画などの広告制作ディレクション案件を多数経験。 |
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2000年よりバスキュールに参画し、テクニカルディレクターとしてバスキュールの代表的なデジタルクリエーションの事例作りに関わる。「ポケモンだいすきクラブ」「ユニリーバAXE」など数多くの広告案件のテクニカルディレクションを手掛け、デジタル広告分野の国際的な受賞歴も多数。現在は、バスキュールの広告案件全般のテクニカルディレクションの統括をしつつ、バスキュール号の新規ソーシャルサービスの立ち上げに関与している。 |
大学卒業後、システムエンジニアとして業務系アプリケーションの開発に従事。2008年バスキュール入社。主にFlashを用いたキャンペーンサイトの開発・運用を担当。「ポケモン」「ユニクロ」「ユニリーバ」などの実績がある。現在は、ソーシャルグラフを利用したアプリケーションのテクニカルディレクションおよび開発を担当している。 |
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