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ロボットクリエイター高橋氏×はてなCTO伊藤氏スペシャル対談 ソフト×ハードの融合が生む10年後の刺激的な未来
ロボカップ世界大会4連覇の「ロボットクリエイター」高橋氏。独自のネットサービスを次々とリリースする「はてなCTO」伊藤氏。日本のモノづくりとIT業界を代表するトップエンジニア二人が、エンジニア適職フェア会場で未来を語る!
(取材・文/ぱうだー 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:07.11.01
2004年、米国『TIME』誌「最もクールな発明」に選ばれた、身長35p程のロボット「クロイノ」。その生みの親であるロボットクリエイター・高橋氏。一方、65万人の会員と、1日10億アクセスを集める画期的なWebサービスを次々と世に送り出す「はてな」の最高技術責任者・伊藤氏。日本のモノづくりとITを牽引するトップエンジニアのお二人が今回のエンジニアフェア会場でハードとソフトが融合する、ロボット・Webの未来を語った。
高橋智隆氏
■高橋智隆氏 プロフィール
1975年生まれ。京都大学工学部物理工学科メカトロニクス研究室を卒業する2003年、ロボットの技術開発・製作・デザインを手がけるロボ・ガレージ創業。オリジナルロボット製作に取り組むほか、ロボットを次世代産業の軸と位置づける数多くの企業に力を貸している。また「Team OSAKA」のキーメンバーとして、ロボカップ世界大会2004〜2007年現在まで4連覇中。
伊藤直也氏
■伊藤直也氏 プロフィール
1977年生まれ。ニフティ(株)を経て2004年9月より人力検索サイトなどユニークなネットサービスを展開するはてな(株)の最高技術責任者(CTO)。



はじめに お二人の最近の取り組みは?
高橋氏 「女性型ロボットの実現に尽力」
私はこれまでいろいろなロボットを製作し、サイエンスアートとして発表してきました。こうしたオリジナルのロボットはすべて私ひとりで製作しています。 今日は「クロイノ」という小さなロボットを持参しました。これは身体の中に24個のモーターとバッテリー、それから小さなコンピュータが入っています。これは、ロボットの歩行解消する特許技術の実証機でもあります。『TIME』誌に紹介されたのは、このロボットです。

こうして自らロボットを創る傍ら、企業とコラボレーションしての開発もおこなっています。最近ファンが増えてきたホビーロボット分野で、「マノイPF01」というロボットを商品化しました。

これ(右画像)は女性型ロボット「FT」。細身に部品を収めること、歩行安定性を確保すること、が難しく、女性型二足歩行ロボットが存在しなかったんです。そうした課題を克服した上で、ファッションモデルのアドバイスをもらって女性らしい歩行動作を実現しました。
伊藤氏 「1日10億アクセスを支えるプログラムを開発し運用」
僕がCTOを務める「はてな」は「人力検索はてな」から始まりました。Googleに代表されるプログラムによる一般的な検索エンジンと違って「渋谷でうまいとんこつラーメン屋さんは?」なんていう質問の答えをユーザーが支える仕組みです。そこからサービスがブログ、ソーシャルブックマークと広がってきました。ソーシャルブックマークは「個人が管理しているブラウザのブックマークを公開したらどうなるか?」という興味で始めたものです。

「はてな」の会員は65万人。1日10億アクセスです。先日のニールセン調査によると日本のトラフィック規模としては「はてな」はコミュニティ部門で8位。9位は「2ちゃんねる」となっています。

そんな「はてな」のスタッフは約20人ですが、サーバーは約400台。社内で自作するなどして用意しています。運用サーバーはデータセンターにありますが、社内には開発サーバーがごろごろ置いてあり、冷却効果を考慮して、基板むき出しのままにしています(笑)。この金色のフレームは京都で特別に作ってもらったんですよ。400台もあると設定が大変なんですが、まとめてセットアップできるよう専用のプログラムを作って運用しています。
テーマ1:「はてな」ユーザーが高橋さんに質問!
日々たくさんのユーザーを集める「はてな」。今回、事前にその「はてな」で「高橋さんにこんなことを聞いてみたい!」という質問を募集した。1000人にも及ぶ質問の中から、いくつかを厳選し、伊藤氏が高橋氏にぶつけてみた。「はてな」ユーザーに送る高橋氏の回答はいかに?
Q1 「ロボット開発にはどのくらいのコスト・期間をかけているのか?」
高橋氏
私のロボットは基本全部自作なので、自分の人件費を入れずに考えると(笑)、コストはだいたい1体100万円くらいでしょうか。いちばん高い部品はモーターユニットで、1万円くらいの物が24個とか。
期間は1体につき、丸一年くらいですね。でも企業と一緒に開発するときは納期がある。発表前夜にホテルでプログラミングなんていうこともありました(笑)。

Q2 「ロボットのデザインで参考にするキャラクターは?」
高橋氏
やっぱり『鉄腕アトム』ですね。手塚さんのキャラクターはかっこよさとかわいさのバランスが絶妙なんです。
私や伊藤さんは『ガンダム』『マクロス』の影響を受けた世代だと思うんですが、私の原点は幼稚園のときに家にあった『鉄腕アトム』。その当時、「ロボット科学者になりたい」と思っていました。

Q3 「ロボット開発、今と昔の違いは?」
高橋氏
まず二足歩行ができるようになったことが大きなポイントでしょうね。昔は、やたら複雑な制御と高価な部品を満載して、結局重すぎて身動きが取れないロボットばかりだった。ところが、誰かがラジコンの部品を使っていい加減に(笑)作ってみたら歩いた。頭でっかち故に結果動けないというのが何か皮肉なんですが、結局シンプルで軽量なのがいいということが分かったわけです。この様に原点に戻ってシンプルに考えてみることは、ロボットの分野に限らずとても大事だと思います。
テーマ2:マンガ『GANTZ』が描く未来技術を考える
『鉄腕アトム』『ドラえもん』など、マンガに描かれた未来に触発され、その夢が技術開発のモチベーションとなっているトップエンジニアは多い。今回はさまざまな作品の中から『GANTZ』をピックアップ。未来的なデザインの武器や装備というアイテムが注目される、伊藤氏も大ファンであるマンガだ。今回、なんとその『GANTZ』の制作現場にTech総研のカメラが潜入。会場では、3DCGを駆使した『GANTZ』の精密なリアリティ表現手法を独占映像で紹介した。まず作者の奥さんが描いた絵コンテをもとに、スタッフが3DCGで各パーツを制作。銃などのメカニックなアイテムには3Dのモデリングデータが存在する。背景は実際の写真がベースとなっているが、作品としてのリアルさを出すため、手作業で細かな修正が加えられる。最後に背景を含む各パーツがデジタル化された手描きの人物と合わせて枠にはめ込まれ、吹き出しが書き加えられ完成だ。
『GANTZ』を構成する代表的な未来アイテムである「転送システム」と「パワードスーツ」。その実現可能性と魅力とは?
『GANTZ』(ガンツ)とは?
『GANTZ』
作者は奥浩哉氏。『週刊ヤングジャンプ』(集英社)において2000年31号から連載を開始し、2007年現在、隔週で連載中。単行本は2007年10月現在21巻まで刊行。
原稿は奥氏の描画と3DCGによって制作されており、ShadeやPhotoshopなどを駆使して、背景や効果が精密に描画され、臨場感が高められている。
『GANTZ』
(c)奥浩哉
集英社
『GANTZ』:「転送システム」は実現するか?
●転送システム(作品内の通称:なぞの黒い球体(ガンツ)による転送)について
『GANTZ』
「転送システム」は空間を非連続的に飛び越えるワープという意味合いを持つ。『GANTZ』における「転送システム」は死んだはずの人間たちを「異世界での異星人との戦い」という不条理なミッションに駆り立てるなぞの仕組みである。現代の科学では、量子の状態が瞬間移動する「量子テレポーテーション」として研究が進んでいる。


伊藤氏 「情報の転送量×再現する技術が鍵」
僕は「転送システム」をゲームに使いたい(笑)。物理的な「場所」という制約のない状態は興味深い。子供のころ、赤外線を使っておもちゃの鉄砲で撃ち合うゲームがありましたが、あれは友達と同じ場所にいる必要がありましたよね。今バーチャルな世界では、やっと自分がいる物理的な場所に関係なく、ほかの人といろいろなゲームを楽しめるようになった。でもまだ「ネットの中」という制約に縛られています。
しかし「情報を送る」という視点で考えると、コンピュータの進化で送れる情報量は今後も飛躍的に増大するはず。今ネットでにおいを送ることもできる。情報の転送量×再現する技術が確立されて、遠くにいる相手に自分の感覚を送ることができるようになれば、転送に近いところは実現できるのではないでしょうか。

『GANTZ』:「パワードスーツ(GANTZスーツ)」は実現するか?
●パワードスーツ(作品内の通称:ガンツスーツ)とは?
『GANTZ』
「パワードスーツ」は人間の筋力を増強するために着用するものである。『GANTZ』で「パワードスーツ」を装着した人間は、走るスピードや跳躍力といった身体能力が飛躍的に向上する。また衝撃や圧力に対しても高い防御性を保つとされている。実際に現代の医療分野においては「パワーアシスト装置」という名称で、障害者の行動補助や介護支援で実用化されている。


高橋氏 「身体能力をサポートするさまざまなもの」
これはかなり実現しつつあるのではないでしょうか。実際に研究が進んでいますしね。人間の筋電位を測って外部アクチュエーターに送り、人間以上の力を出すことは可能です。ただうまい構造にしないと、10倍の力が出せるようになっても、人間の骨格が耐えきれない。
もし「パワードスーツ」を人間の身体能力をサポートするという広い意味でとらえるならば、私たちの身近に既にいろいろありますよね。例えばイチローが使っているあるスポーツインナーウエアは、複雑な裁断がされていて、筋肉が動きやすく疲れがたまりにくい工夫がされている。これも一種の「パワードスーツ」だと思います。
実は、ずっと格闘技をしているんですが、夏はとにかく暑い。そんな時、着ていたほうが涼しいというウエアを最近発見し、愛用しています。汗を効率よく吸収・発散することで身体を快適に保つようです。
テーマ3:ロボット・Webの10年後はこうなっている?
さて、次は高橋氏、伊藤氏のお二人に、それぞれの得意分野における将来を予測してもらった。テレイグジスタンスやバーチャルリアリティ、またネットでの新たな人生を可能にするセカンドライフなど、現実とネットを隔てる距離はますます近づいている。お二人がイメージするロボット・Webの刺激的な未来とは? 両者が融合する日はくるのだろうか?
高橋氏 「一家に1台ロボット」
ネットとロボットはどんどん融合していくと思っています。そして、その境目も曖昧かも知れない。ロボットの知はネット上にあるでしょうし。例えば「はてな」の人力検索の一部もロボットが行うかもしれませんね。簡単な答えはロボットで難しいものは人間が行うけれども、利用者にはそれが分からないようになっていたりとか。

15年後くらいにロボットが「一家に1台」の時代を導くのが私の夢。ロボットの普及に伴って新しいロボットの役割が生まれ、我々のライフスタイル自体も変化しているはず。パソコンも携帯もそうやって、普及する中で消費者が育ててきた。
我々エンジニアはそうしたインパクトをもたらすのに十分な、高いポテンシャルを秘めたモノを提案していくことが大切だと思います。

伊藤氏 「現実世界をネットで制御」
僕は10年後、今のWebが現実に与える影響が今よりも広がっていると思います。
例えば今PCは閉じられた存在です。PCを通して得られる情報を現実化する方法といえば、FAXだったりプリンタだったり……あとはカメラくらい。医療の世界ではネットを使った遠隔手術が実現されていますが、その技術が一般化するまでにはまだまだ時間が必要です。
ロボットもそのひとつですが、ハードウェア=現実世界をネットで制御できるような未来になると面白いですね。
最後にエンジニアへのメッセージ
伊藤氏 「日々の妄想を形に!」
技術の話をしているとつい妄想が膨らみますね(笑)。さらに、自分たちが好きな話を多くの方に聞いてもらえる機会があって本当にうれしいです。
でも知識は追いかけるだけでなく、それを形にするのが重要。僕は妄想を形にすることがエンジニアの功績であり、それがあるからこそ、また新しい妄想に耳を傾けてくれる人が増えるんだと考えています。
「はてな」では今までいろいろな妄想を形にしてきましたが、これからもその努力を続けていきたいですね。ぜひエンジニアのみなさんも日々の妄想を形に! がんばってください。
高橋氏 「モノづくりは本能的な喜び」
私の携わっているロボットに限らず、新しいものを世の中に送り出すエンジニアという職業は幸せだと思います。社会が複雑化してはっきりと説明しにくい仕事が多い中、モノづくりには人間の本能的な喜びを感じる素晴らしさがある。皆様のエンジニア的幸福をお祈りしております。
まとめ「エンジニアだからこそ、未来を現実にできる」
ロボットというモノづくりを通して未来を創る高橋氏。WebというITの世界で新たな価値を創造する伊藤氏。日本を代表するトップエンジニアのお二人は、ジャンルは異なれど「面白いと感じることを現実にしたい」という熱意は共通していた。当日の会場は普段メディアでしかお目にかかれないお二人を生でみようという来場者で埋まった。新しいものをつくり出すモチベーションに突き動かされるトップエンジニアの言葉。真剣に聞き入っていた多くの来場者の視線もお二人同様、情熱的だった。
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山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ 山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ
高橋・伊藤両氏は、今回「初対面」だったのですが、お互いが取り組んでいるテーマについてざっくばらんに質問し合ったりして、そのお二人のやりとりが大変興味深かったです。ぜひまた次の機会に、お二人の対談の場をつくれたらと考えています。

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