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世界から199社66団体が出品し、来場者は10万人以上に マルファミリーの二足歩行ロボット「キングカイザー」が見事優勝に輝いたROBO-ONEグランドチャンピオンシップは、隔年開催のロボット技術に関する世界最大級の展示会、2007国際ロボット展の会場で行われた。今年の展示会には世界各地から199社66団体が集い、それぞれがもつ技術力を存分にアピール。世界から多数のメーカー関係者、マスコミ、もちろん一般参加者も来場し、開催4日間の合計入場者数は10万人以上に上った。 展示内容も産業用ロボットからエンターテインメントロボットまで、さまざまな用途、タイプのものが勢ぞろいするなど、極めて充実したもの。センサー技術、画像認識技術、モーターやアクチュエーターなどの動力技術など、多くの分野で次世代技術の提案も多数見かけられた。今回はこのうち特に「サービスロボット」について、注目のモデルをピックアップした。 |
「たこ焼きロボット」に黒山の人だかり――東洋理機工業 サービスロボットエリアの中でとりわけ多くの見物者を集めていたのは、ロボットシステムインテグレーターである東洋理機工業のブース。その理由は、産業用ロボットのアームを使って作られた「たこ焼きロボット」だ。 たこ焼きの金型に油をひき、生地を注入してタコを入れ、焼けてきたら竹串でひっくり返すという作業を全自動で行う。コミカルな動きが人気のもとだが、実はうまく作れずに失敗するケースも多い。東洋理機はなぜたこ焼きロボットを出品したのか。 「われわれは産業用ロボットの設置からソフトウェア開発までを手がけるロボットシステムインテグレーターです。今日、工場内では既にさまざまなロボットが相当に高度な作業を行っていますが、最近になってそのロボットを、工場から社会に出してみたいと思うようになったんです。そのためには新たに用途開発をしなければならない。たこ焼きはそのアドバルーンなのです」 代表取締役の細身成人氏は開発の動機をこう語る。察する読者もいるだろうが、この会社は大阪にある。 「たこ焼きは簡単にできるように見えますが、まさに最高難度の職人技なんです。人間は目で状態を見ながら、手の感覚も使ってたこ焼きを作りますが、これをロボットでうまく作るのは本当に難しい」 いちばんの難点は、粘り気のある生地が半焼けになったところでうまく金型から外すことと、生地が竹串にくっつかないようにすることだったという。ロボットにとって苦手な「粘性」との闘いだったのだ。 「毎日、普通の仕事が終わってから真夜中までプログラムを必死に考えました。竹串を、らせんを描きながら金型の底まで到達させるようにして、そこからたこ焼きを半分だけ返すようにしてみたら、初めて少しうまくいくようになったのです。鉄板の温度分布や変化の解析は、±1℃以下の精度で行いました」 こうした苦労の末に、ロボット展開催の数日前に完成したというたこ焼きロボット。まずは店頭などでの集客用に、「コミュニケーションツール」として使ってもらえるように頑張ると語る。 対人地雷を根こそぎ見つけ出す「地雷探知ロボット」――富士重工業 富士重工業のブースで存在感を放っていたマシンは、地雷源を走り回り、埋設された対人地雷を探し出すという「地雷探知ロボット」だ。箱型の簡素なボディの前後に一対ずつ、4輪のキャタピラーをもち、前部には地雷探索のためのセンサーを搭載したアームが装備される。エンジンは26馬力の3気筒ディーゼルで、操縦はリモートコントロールだ。対人地雷を探索する車両は通常、建機並みの大きさだが、富士重工のロボットは既存のものよりはるかに小型で、これまで走行が難しかった場所にもスイスイと進入できるのが特徴だ。 一見、とても簡素なマシンに見える地雷探知ロボットだが、多くの試行錯誤から得られたノウハウが至る所に投入されており、革新性は世界でも高い評価を受けている。仮に市販すると1台5000万円以上になるという高額なマシンだけに、多少損傷しても帰還できるように設計されている。 キャタピラーを4輪方式にしたのは、地雷を踏んで破損しても残ったキャタピラーで運行できるようにするためだ。前面および下面は、デルタ社製の4o厚防弾鋼板で覆われ、内部の機器や駆動システムが損傷しないように配慮されている。 「地雷探知ロボットの開発は、何から何まで初体験の連続で、エンジニアとしてはとても興味深いものでした」 戦略本部・システム技術課長の石川和良氏は、開発の様子をこう振り返る。そして、「地雷を見つけるロボットを作るには、まず地雷のことを知らなければならない」と思ったという。 「対人地雷について大きさ、形、爆発力など、さまざまな角度から検証しました。さらに日本に1社だけある火薬メーカーに協力してもらい、対人地雷の威力に相当する火薬を爆発させて威力を勉強しました。爆発地点から5m、10m、20m地点に板ガラスを設置して、それぞれどのようなダメージを受けるかなどです。初めて爆発を見たときはびっくりしましたよ」 このロボットが完成したのは2005年。その後クロアチアの地雷原をテストフィールドとして実証試験を行ったが、異物の発見率はほぼ100%。そのうち地雷と識別できた割合も50%を超えるなど、極めて優秀な成績を収めたという。サービスロボットは、軍事技術としても大きな価値をもつジャンルなのだ。 韓国生まれのヒューマノイド、開発の狙いはソフト標準獲得!?――ロボティス モジュールを組み合わせることで、ヒューマノイドをはじめ多様な形のロボットを簡単に作れるホビーロボット「バイオロイド」。このロボットメーカーが韓国のロボティスだ。ブースでは新型ヒューマノイド「ユリアロボット」が二足歩行で軽やかにステップを踏み、スムーズな歩行運動を披露するなどのデモンストレーションで注目を集めた。 単に二足歩行をするだけでなく、CCDカメラや小型PCが組み込まれ、無線LANでネットワークに接続されるなど、通信端末として機能するのも大きな特徴だ。開発担当役員で創業メンバーのイン・ヨンハ氏は、ユリアの開発の目的についてこう語る。 「ヒューマノイドというと、今はもっぱらエンターテインメント性が評価されていますが、将来的には世の中を歩き回ってさまざまなものを見聞きする、自分の分身のような存在になれると思っています。そういうロボット開発が盛んに行われる時代が来たときに、私たちはロボットのソフトウェアライブラリを販売提供していきたい。そのための先行開発デバイスとして作ったのが、このユリアなのです」 |
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ヨンハ氏は小型ロボット競技であるマイクロマウスコンテストの世界チャンピオンになったのを契機にロボティスを創業。現在は開発を手がけるかたわら、東大大学院で人工物工学を専攻。中でも人工知能を得意としているという。 「ロボット開発のためのソフトウェアファームを作ることについては、ある程度展望が見えてきています。ユリアのOSはWindows XPベース。ロボットに必要なリアルタイム性をもたせるのは容易ではありませんでしたが、ロボット用として使えるめどはつきました。ロボット開発の間口を広げるためには、誰もが開発しやすい環境が大事。Windows XPで動き、Visual C++による開発も可能というのは、エンジニアから支持してもらえると思います」 このユリア、今年の3月にはエンターテインメントロボットとして市販される予定。ロボット家電が流行するお国柄ということもあってか、ロボット展では韓国勢がかなりの追い上げを見せていた。 |
サービスロボットは今日、開発者側がユーザーのニーズを探索する段階にあり、既に大きな市場を築いている産業用ロボットに比べると産業規模はまだまだ小さい。が、将来は介護ロボット、作業ロボット、エンターテインメント、サービスの無人化など、さまざまな分野で利用されるようになると考えられている。 自動車メーカーや工作機械メーカーをはじめ、有力企業がヒューマノイドロボットを熱心に開発しているのも、将来需要を見込んでのこと。そのため、市場の形成より先に人材ニーズが立ち上がるという現象が発生している。リクナビNEXTでは「ロボット」をキーワードに検索すると、産業用ロボットに交じってサービスロボットの求人を見つけることができるだろう。 スキルニーズは産業用ロボットに極めて近く、メカトロニクス系の知識があればソフト、ハードとも基本的に大丈夫だろう。 ソフトではロボットを動かすための基本となるRTOS、ロボットの自律行動のためのAIアルゴリズム、画像や音声などの認識アプリケーション、無線LANなどの通信・ネットワーク系、電子・電気回路用の組み込みOS、といった幅広い経験が歓迎されそうだ。 ハードでは、ステッピングモーターやパワーモーター、アクチュエーターなどの駆動系を用いたメカトロニクスの機構設計、バッテリーや外部電源からの給電回路などのパワーエレクトロニクス、ロボットの目となる3Dカメラ、姿勢制御やモノをつかむといった行動にかかわるジャイロセンサーや圧力センサーなどセンサーまわり、マンマシンインターフェースなどの経験があると、転職もより容易だろう。 将来を見据えた技術リサーチでもニーズはある。脳から直接機械にコマンドを送れるBMI、並列データフロー演算やニューロコンピュータなどの非ノイマン型コンピュータの研究を直近に手がけていれば、研究所への中途入社も可能だろう。こちらは公募されないことも多いので、関心がある場合は直接企業にアプローチするのがベターだ。 エンジニアの夢であるロボット開発は、驚くほど身近な存在になっている。 |
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