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世界市場へ進出する日本唯一の大型風車メーカー
風車を量産化!三菱重工業で地球エネルギーを生み出せ
世界で競う大型風車メーカー、三菱重工業。地球温暖化を防ぐため、自然エネルギーへの需要が高まる中で、その風車事業が世界から注目されている。長崎造船所・風車発電事業ユニットは、環境に貢献する技術を最大限発揮できる場だ。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:08.11.12

【Part1】風車!自然エネルギーを地球に活かすエンジニアの夢

再生可能エネルギー開発で、世界の風車メーカーの競争激化

 地球環境の保全と経済成長とを両立する再生可能エネルギーとして注目される風力発電。そのCO2排出量は、建設・運転・廃棄を含むライフサイクル評価では火力発電の30分の1から14分の1までと、かなり小さい。環境問題の切り札としては、原子力発電も注目も集めるが、燃料や放射性廃棄物の処理コストなどをトータルに見た場合は、風力発電は原子力以上にCO2排出削減効果が高いとされる。

 風力発電に対する世界の需要をみると、2004年までは、世界で新設された風力発電施設は年間800万kW(キロワット)止まりだったのが、2005年には対前年度比40%増の1150万kWに急増、さらに2007年末には2000万kWを超えた。これがさらに2012年には5100万kW、2017年には1億400万kWにまで伸張すると見られる。年率20%以上の成長率だ。

 年間2000万kWの新規設備だけで事業規模は約3.6兆円と試算されている。火力発電設備の4〜5兆円に比べても、かなり巨額のビジネスということになる。こうしたマーケットをめぐって、今世界の風車メーカーの間で大競争が起きている。これまでは欧州の専業メーカーが先行していて、現在もヴェスタス社(デンマーク)がトップシェアを占めている。しかし、米GE(ゼネラル・エレクトリック)や独シーメンスが専業メーカーの買収などでこの市場に参入してきている。


三菱重工、大型風車で欧米勢に対抗


 こうした世界マーケットに挑むのが三菱重工だ。風車の開発・生産拠点は長崎市にある長崎造船所。三菱重工発祥の地で、大型風車以外にも、太陽電池や火力発電プラントなど次世代エネルギー開発が行われている。

 三菱重工の風車開発は、スタートが1980年とすでに30年近い実績がある。当初は自衛隊払い下げのヘリコプターの翼で羽根(ブレード)を試作した。1987年には、ハワイ島に出力300kWの風車を37基建設。その後の歴史は、出力の増強、風車の大型化への挑戦だった。時代を先取りした事業ではあったが、赤字続きで一時は撤退の一歩手前まで行ったこともあるという。

 しかし、造船や原動機で培った技術を使って、事業を継続。それが最近の需要の急拡大で、あらためて注目されるようになった。2006年には国内最大となる出力2400kW機(=2.4MW(メガワット))の大型風車「MWT92/2.4」の開発に成功。これは発電出力だけでなく、ロータ直径(92m)でも国内最大で、クラス最長44.7m翼の採用により、低風速域(風速毎秒8.5m付近)での高効率な発電を実現する。また、強風を受け流す独自技術(スマート・ヨー)の導入により、風速毎秒70mという猛烈な台風にも耐える設計となっている。

 2006年10月からは、これまで社内に散らばっていたリソースを集中し、風力発電事業ユニット(BU)が誕生。事業にかかわる意思決定がスピードアップした。


量産化技術とサプライチェーンが鍵に

 三菱重工は国内では風車のトップメーカーとはいえ、世界シェアは2%程度と小さい。
「これまで数百億円のベースで推移していた事業規模が、2008年度は連結ベースで1500億円に達する見込み。『MWT92/2.4』を主力製品に、米国に加え、欧州・アジアの市場を開拓することで、2000〜3000億円のビジネスを目指す。」というのは、風力発電事業ユニット事業戦略課の土橋課長だ。

 風力発電所設備は、大きく、風車本体・タワー・発電制御盤などからなる本体部分と、昇圧変圧器盤などの電気部分、さらに系統連携部分からなるが、三菱重工が納入するのは、本体部分だ。

 風車本体は同社で開発・設計を行なう。また開発・設計だけでなく生産も行なうのが翼(ブレード)になる。他の要素部品となる発電機や増速機(ギア)を含む部品は他のメーカーから導入している。
「全体の8割は購入品で、三菱はそれらをアセンブリする。そのため、世界中から優秀なサプライヤーを探し、また育てることも重要な仕事」(土橋氏)になる。自動車メーカーと同じで、サプライヤーを複数確保し、それらとの強固なサプライチェーンを構築し、安価でかつ性能のよい部品を提供してもらうことが、国際競争に打ち勝つためには不可欠だというのだ。

「需要拡大を考えると、サプライチェーンの構築と量産技術が鍵を握る。三菱重工はエネルギー・プラントが得意だが、これはどちらかというと一品モノ生産に近い。この一品生産のDNAを、いかに量産型の発想に変えていくかが重要だ」とも、土橋氏は言う。
 これまではマーケットは売り手市場。品質と数量の確保が求められていたが、今後はコスト削減の努力も重要になる。その一方で、より大出力・高効率を求められる次世代型の洋上風車の技術開発にも取り組む。

「自然エネルギーを活かして地球環境に貢献するのは、技術者として大いに夢のある仕事。また、海外市場が主になるので、海外で仕事をするチャンスも増えてくる。弊社には伝統的に技術者を大切にする風土がある。さらに風車開発独自の環境として、過去のしがらみに縛られないベンチャーマインドも重要。中途採用のエンジニアも、気兼ねなく仕事に打ち込める」
 と、土橋氏はエンジニアにとっての風車発電事業の魅力を語っている。

風力発電事業ユニット 事業戦略課
土橋功次課長

【Part2】風の動きを読みながら、高品質の電気をつくる。機械、電気の幅広い知識が求められる

プロジェクト開発からメンテナンスまで

 世界の風車メーカーは買物品のアセンブリメーカーがほとんど。三菱重工の場合は大型客船からロケット迄多種・多様の製品を作っており自社開発能力があります。ブレードを自社開発するほか、、バックには風洞試験技術をもつ長崎研究所などR&D部門の支えがあるのが強みになっています。

 発電所というのは、単に発電すればいいというものではない。電気の品質が常に求められます。特に風車の場合は入力となる風が変動するため、発生電力の変動が生じます。従って、風車の場合は、電圧、出力の変動をいかに平準化し、いかに効率的な発電を行うかが重要となります。
 風力は自然が相手。風の変動を考えた設計が必要。また、市場のニーズに合わせ風速の強・中・低のカテゴリーに合わせた羽根やナセルの開発が必要になります。
 私は、入社以来、風車一筋。メンバーが10人規模のときからかかわってきました。現在は、技術サービス課をまとめていますが、これまでの15年で風車事業の全体に関わってきました。

 風車の事業は、新規商談の受注・納入にかかわるプロジェクト計画から、風車用FPR翼・ナセル・タワーなどの開発・基本設計、さらに製品・詳細設計、部品調達という流れになります。また、納入後は定期メンテナンスやトラブル対応を行う技術サービスがあります。アフターサービスを通して、顧客の新たなニーズを聞き出し、それを新開発に繋げていくわけです。これらの各部署が緊密な連携をもって仕事を進めていきます。
 火力、原子力プラントなどに比べると、風車は規模が小さいので、風車自身はもちろんのこと仕事の全体を見ることができ、それが風車エンジニアとしての面白みであり仕事のやりがいに繋がります。

風力発電事業ユニット 技術サービス課
岩崎 薫課長

アメリカ駐在で風車への熱い期待を実感

 私自身は機械が専門ですが、お客さまと話をするときは、電気のことも聞かれます。日頃から他部門、他技術のことにも関心をもって、情報を集め、知識力を向上させていくことが欠かせません。
 現在のメインの市場は海外であり、エンジニアも海外で仕事をする機会も多い。初めて自分が担当したプロジェクトは、1999年、アメリカのワイオミング州に納めた風車です。零下20度になることもある寒冷地。厳しい環境下での運転条件が求められました。その引き渡しを終えて、この仕事への自信を得ることが出来ました。また、4年間、アメリカ駐在を経験しましたが、日本とはまた違う、風力発電への期待を肌で感じました。

 日本では性能や安全性といった品質が重視されますが、アメリカでは性能・安全性と同時に組み立てやすさやメンテナンス性も同時に重視されます。これから世界のメーカーと伍して競争していくためには、重要な視点です。
 これから一緒に仕事をしていくエンジニアとしては、専門として発電機、モーターなど回転モノをやった経験のある人は同じ回転機械である風車には取り組み易いと思います。また、特殊な技術は必要ありませんが、機械材料、材料力学といった機械工学、電気工学の基礎知識は必要ですね。それらの専門を軸に、縦横に知識を広げていくことができる職場だと思います。


【Part3】ものづくりの伝統と進化──長崎造船所の魅力

スピーディーな意思決定。変化する三菱重工業

 長崎造船所には、これまで日本の産業を担ってきたという自負があります。優れたエンジニアを終身雇用し、専門性をじっくり育て、国家として必要なものを作り出してきました。私自身がキャリア入社なので、そのことをより強く感じます。風車発電分野を例に挙げても、事業的には永年厳しい状況が続いたにも関わらず、日本のエネルギー政策を下支えする使命感の下、研究開発を続けてきました。それが今花開こうとしています。

 これからの三菱重工業はより国際競争力を高めなければなりません。かつ、風力発電事業もそのひとつですが、中量産品ビジネスを戦略的に拡大し、投資と利益のバランスの取れた事業構造で持続的収益拡大を実現する必要があります。重点事業には、キャリア採用を含め、機動的に人材を投入できる体制もさらに強化する必要もあります。

 こうした変化への対応は、たとえば人事部門でも始まっています。これまで少なかったキャリア採用者を今後大量に迎えるために、私のような入社後数ヶ月の者が全社横断のキャリア採用者向け教育体系構築プロジェクトに長崎造船所代表として参加し、教育体系基準・制度づくりを行なっています。新しい人の声を聞いて、事業推進に価値があるものであれば、積極的に取り入れようという革新的な風土を肌で実感した瞬間でした。

総務部 人事教育グループ
辻 拓己氏

風車をつくりたい、社会と地球に貢献したいという情熱


 長崎造船所ではいま、キャリア採用者の定着化と早期戦力化を最重要テーマの一つに掲げ、さまざまな施策を展開しています。入社後のキャリア採用者の声を反映し、「入社後一番困った当たり前のこと」、「暗黙知になっている弊社独自のルール・社内用語」などを学ぶ導入研修はもちろんのこと、入社後半年〜1年目のフォロー研修、キャリア形成プラン支援などに今後も力を入れていきます。環境さえ整えれば、エンジニアはその能力を最大限に発揮してくれるはず、という信念が私たちにはあります。

 キャリア採用に当たっては、自分の技術に誇りをもち、風力発電をはじめとした弊社の事業に魅力を感じている人の話をまずお聞きしたいと思います。また、他部門との調整やお客さまのニーズを引き出すことも大切ですので、コミュニケーション能力や協調性も重視します。そしてなにより、技術によって社会に貢献し、地球環境を支えていくという三菱重工全体の事業に共感できる、というところがポイントです。

 明治期以来、綿々と引き継がれた三菱重工のものづくりのDNA、さらにこれからのグローバルマーケットを相手にした果敢な事業戦略──この伝統と革新をさらに推し進めるために、キャリア採用エンジニアの力が是非とも必要です。

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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
「風車は小さいから、イチからジュウまで関わることができるんだよ」というお話に、うなづきながら「全然小さくないのではー」と心の中で叫んでいてた私。三菱重工業社の中では、きっと小さい部類に入るのでしょうが、スケールの大きなエピソードです。「これから始まる新たなエネルギー開発の仕事だから、まだ教科書はないんだよ」って、お話も夢がありますよね。自分たちの手で、未来の教科書を作っていくチャンスをぜひ!

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