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発見!日本を刺激する成長業界28 洋上風力に追い風!世界の建設ラッシュに日立が挑む
安定して強い風が得られる海の上。そこに風車を建てる洋上風力発電は、実証実験で良好な結果が続出し、世界各地で大規模な実用プラントの計画が立ち上がっている。この有望分野に、技術革新のためのエンジニアニーズが急増中だ。
(取材・文/井元康一郎 撮影/平山 諭 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:12.11.30
2020年には世界規模で4兆円超、新たな成長産業の誕生か
 風を電力に変える発電用風車。その風車をより風が強く、安定度も高い海上に大量建設し、効率よく発電しようという洋上風力発電が今日、クリーンエネルギー利用の有望株として大いに注目を浴びている。
 建設費の高さがネックとされてきたが、世界各地の実証実験では設備稼働率が陸上の倍近くにもなる40%前後のスコアを続出し、近い将来、天然ガス発電並みのコストに収まるとの見方が有力だ。
 世界各国が大規模開発計画を打ち出しており、市場調査会社の富士経済は2020年の世界市場規模について、2011年の約3800億円から約4兆3000億円へと10倍以上に成長すると予測。以後も代替需要で安定的に推移するとしている。将来性豊かな新ビジネスの登場だ。
洋上風力発電の世界市場予測
(2012年は見込み、以降は予測)出典:富士経済「発電・蓄電・給電・変換 先端新技術の将来展望 2012」 2010年:3,940億円, 2011年:3,864億円, 2012年:5,480億円, 2013年:7,392億円, 2015年:22,180億円, 2020年:43,442億円
日立製作所/独自の「ダウンウィンド方式」大型風車で日本の海を発電所に
 洋上風力発電をターゲットに風車を開発しているのが、風車業界では新興勢力の日立製作所だ。悪天候に強いダウンウィンド方式を採用し、メンテナンスフリー性を高め、日本、さらに世界へと打って出る。
簡単ではない洋上風力発電、だからこそ日本に勝機がある
2000kWの風力発電システム「HTW2.0-80」

2000kWの風力発電システム「HTW2.0-80」

日立製作所が風力発電に本格参入! 洋上風力に注力
 将来のエネルギー戦略に関する議論が沸騰している日本。既存の発電に加えてクリーンエネルギーの拡大が叫ばれ、太陽光発電が目玉として取り上げられている。しかし、世界を見渡せば、クリーンエネルギーの目下の主役は風力発電だ。総量としては太陽光の10倍以上の設備容量を持ち、すでに高い運用実績を上げている。
 旧世代機のトラブルがネガティブに報道されることもあるが、実際のフィールドを見るとアメリカ、中国、欧州など多くの国で新鋭機の建設ラッシュが続くなど、需要はむしろ加速している。
「世界の風力発電の設備容量は累積で約240ギガワット(2億4000万キロワット)に達していますが、日本の風力発電はその100分の1を占めるにすぎません。山地が多く、風力発電には不向きな風況の場所が多いことがその一因です。ただ、自然エネルギーとして利用しやすい風はぜひ有効活用したいところ。洋上風力発電は格好のソリューションになると期待しています」
 日立製作所の風力発電事業プロジェクトを指揮する大和田政孝氏はこう語る。

 風力発電といえば風の「強さ」が決め手になると思われがちだが、実は重要なのはそれだけではない。風の強さが短時間で頻繁に変わらず安定していること、風向きがなるべく一定であることといった風の「品質」は、風の強さにも増して重要となる。日本に風力発電がなかなか増えない原因は、地形の複雑さによる風の悪さにもあった。
 その問題をクリアする期待のソリューションとして急浮上しているのが、地形の影響を受けにくい海に風車を建てるという、洋上風力発電だ。日本は国土の面積は世界で62位だが、EEZ(排他的経済水域)の面積は世界6位という海洋大国。生かすべき海域はいくらでもあるというわけだ。
「洋上風力発電とひと口に言っても、実際には簡単なものではありません。発電で重要なのは、何にも増してライフサイクルコスト。すなわち設置や維持、廃棄などの費用に対して、寿命までにどれだけの電気を生み出せるかが風車の価値なんです。現時点では洋上風力発電は陸上のものに比べて1.5倍くらいの発電量を得られますが、基礎工事の費用は通常の2倍かそれ以上かかります」
2015年の販売を目指す、5メガワット級の大型風車
 しかし、日立製作所がビジネスを大々的に進めようとしているのは、ある程度の勝算があるからだ。季節風の吹く日本は洋上であっても、ヨーロッパに比べると不安定。そこに一般的な風車を持ってきても合わないことがある。では、どうするか。
「私たちは風への追従性がよく、不意な風向きの変化や台風などの暴風にも強い『ダウンウィンド方式』を採用するなど、日本の気象への適合性が高い風車を開発することで、まず日本でシェアを獲りたい。将来はそのノウハウを生かして、世界にも高品質、高機能な風車を売っていくつもりです」

 風力発電の市場で優勢なのは欧州や中国の巨大メーカーで、日本勢の存在感は薄い。日立はその中で、洋上風力発電に適した5メガワット級風車を看板に事業の拡大を目論む。大きな風車を安くつくるだけでは、特に新興国メーカーとの競争に勝つのは難しい。しかし、洋上用の風車には陸上用とは異なる、独特のノウハウが求められるという。
「簡単にはメンテナンスに行けないため、壊れにくいことはもちろん、一部が壊れても稼働し続けられるような冗長性を持たせたり、自律制御を進めることなどが必要になります。設置にコストがかかる分、耐久性の長さも重要になる。日本の強みである総合技術力を大いに生かせる分野だと思います」

 5メガワット級風車は2014年の実証実験を経て、2015年に販売を開始すべく、鋭意開発中とのこと。ビジネスの先行きは未知数だが、大和田氏には自信がある。
「入社以降、宇宙航空など新規事業を長く手がけてきました。そのワクワク感をもう一度味わえるのは、技術者冥利に尽きますね」
大和田政孝氏
株式会社日立製作所 電力システム社
電機システム事業部 発電機システム本部
チーフプロジェクトマネージャー

大和田政孝氏
風車のモノづくり革新はこれからが本番、多彩なエンジニアが必要に
ウィンド・パワーかみす洋上風力発電所で稼働する風車(写真提供:株式会社ウィンド・パワー・いばらき)
ウィンド・パワーかみす洋上風力発電所で稼働する風車
(写真提供:株式会社ウィンド・パワー・いばらき)
風車の製造現場
風車の製造現場
実は技術革新の連続だった「風力発電の開発史」
 日立が洋上風力発電を主眼に開発している5メガワット級大型風車。スバルブランドで知られる富士重工業とのジョイントビジネスとしてスタートした風車事業だが、「グローバル市場の拡大に向けて大規模投資が必要になったのを機に」(大和田氏)、日立が同社の風力発電部門を買収した。
 その現場で風車の開発に携わっているエンジニアのひとりが加藤裕司氏だ。現在の主力である2メガワット級風車の開発段階から参画してきた、古参メンバーである。加藤氏は風力発電の魅力について語る。
「人間の文明の根幹であるエネルギーを自然の中から生み出していくための技術開発には、とてもやりがいを感じます。自然はとても奥深いもので、やればやるほど知られていない現象が見つかったり、問題と思っていなかったことが思わぬ障害となることもある。常に技術革新が求められるのも興味深いところです」

 これまでの風力発電の開発史を見ると、絶え間ない技術革新の集大成だという。 「最初は古典的な誘導モーターを使った誘導発電で、系統電力の周波数(50/60MHz)に合わせた運転しかできず、効率はとても低かった。しかし、揚水発電に使われる可変速システムが応用されてからは運転の自由度が大幅に上がり、今では永久磁石発電の電力をコンバーター、インバーターを使って系統に適合させるものも出てきています。微風から定速まで、高い効率で発電ができるようになりました」
 大幅な進化を遂げた風車だが、技術革新はこれからが本番だ。風車の技術革新とは、ブレード(翼)や機械部分の改良による効率の引き上げといった性能面だけではない。強風での倒壊防止、耐久性向上、普及に欠かせないコスト削減まで、さまざまなファクターが存在する。そして日立製作所では、洋上風力発電に向けた適合技術を用意している。
ダウンウィンド方式と宇宙航空の知見に技術優位性
 第1はダウンウィンド方式という、大型風車ではほかにほとんど例がない方法の採用だ。通常、風車は扇風機のようにブレードの回転面が風上を向いている。それに対してダウンウィンド方式は、発電機を収めた「ナセル」側が風上を向き、回転面は風下向きだ。
「ダウンウィンド方式は、支柱に風が遮られるというデメリットもありますが、洋上発電にはとても向いているんです。暴風時には発電を止めてブレードを風と直角の『フェザー』という状態にして力を逃がすのですが、それでも真横から風がきた際にはものすごい力がかかります。ダウンウィンド方式だと、その力が通常方式の3分の2くらいになるんです。力がかかりにくければ強度に余裕が出て軽量化につながります。軽量化は風車本体だけでなく、例えば海底の基礎工事や洋上につくる浮体のコスト削減にもなる。風車開発で1割コスト削減をすることは、発電効率を1%上げること以上に重要なのです」

 第2は、風車自体を壊れにくくする設計だけでなく、壊れてもなるべく動かすというシステムの考案だ。
「陸上の風車は通常、故障した場合などにいつでも修理することが可能です。しかし、洋上の場合は現地まで船で行き、機材を陸揚げするなどは頻繁にできません。そこで大切になるのが、飛行機やロケットのように、通常なら止めて即整備となるような重要部品が壊れても稼働させる、『ワンフェイルオペレーティブ』の思想です」
 日立製作所と富士重工業は、ともに宇宙航空技術を得意としている。そこで蓄積された知見、一見関係の薄い風車に生かされているのである。

加藤裕司氏
株式会社日立製作所 電力システム社
電機プラントシステム部
チーフプロジェクトマネージャー

加藤裕司氏
 さまざまなノウハウが必要とされる風車開発だが、最初から風車を専門に勉強してきたエンジニアはほとんどいない。これまで製品としての市場が小さかったから当然だ。事業強化にあたり、日立は風力発電開発への社内公募を行ったが、応募してきたエンジニアのスキルはモーター、空調家電、強電などバラバラだったという。
「面白いのは、それぞれのスキルが風車をよくするのにとても役立つものであったこと。風車というのは空力設計はもちろん、巨大な発電機部分の機構設計、ブレードや支柱をより強く、軽くつくるための材料工学、さらには制御盤の設計で必要な弱電分野、施工のための建設や土木と、かなり広範囲の技術を統合して開発されます。自分のスキルを大事にしながらも、ほかの領域についても豊かなイメージを持てる、好奇心旺盛な人が開発に向きますね」
 風を受けてのんびり回っているように見える風車の開発は、想像以上にエキサイティングなものであるようだ。 
スキルよりヤル気!発想力と学習力の高いエンジニアには大チャンス
洋上風力発電の特徴は、産業としての裾野の広さ
 クリーンエネルギーの中でも注目技術となっている洋上風力発電。一見特殊な分野であるような響きだが、産業の裾野はきわめて広い。アセンブリーメーカーとしては日立製作所、三菱重工業などの国内メーカーや、エネルコン、GE、シーメンスといった海外勢が名を連ねる。

 忘れてならないのは、風車は本体設計だけではないということ。炭素繊維複合材やアラミド繊維材などの超軽量・高寿命素材メーカー、風車向けに必要なスペックである高強度と軽量化を両立した発電ユニットメーカー、蓄電装置や系統連系のためのグリッド(送電網)コントロールシステムメーカー、さらには浮体や海底基礎などを手がけるゼネコン、造船など、洋上風力発電に何らかの形で関与する産業分野はかなり広い。

 洋上風力発電を通じて新エネルギー分野の研究開発やモノづくりに参画したいというエンジニアは、アセンブリーメーカーだけでなく、これらの分野の企業を幅広く見ておくといいだろう。
求められるスキルはシステム、電機、機械の3分野が有力
  洋上風力発電のエンジニアに求められるスキルは幅広いが、主なものはシステム、電機、機械の3分野だ。システムとは単なるソフト開発ではなく、風に合わせて発電量を最大にするような電力制御ロジックを考えたり、流体シミュレーションを行ったりするエンジニアで、それらの実務経験を持っていれば転職には大いに有利。
 シミュレーションエンジニアはモノづくりだけでなく、風力を導入しようとしている電気事業者に風車のライフサイクルコストを提案するなど、顧客対応にも入り込むため、対人スキルも重要になる。

 機械は風車の機構設計。数十メートルにも及ぶ巨大なブレードが、風を目一杯受けた大きな力を受け止める可変ピッチ機構、首振り機構、風車の回転体の重量を担持しながら発電機にその力を伝えるリンケージ機構など、その仕事はダイナミックだ。宇宙航空経験者ならばジャストミートで、造船や重機などの重量物の設計経験者にも大いにチャンスありと言える。

 電機は発電やパワー半導体などの強電分野、家電をメインとする弱電分野の両方のエンジニアにチャンスがある。モーターやオルタネーターの経験はとくに有用だろう。また、洋上風力発電では特に重要となる、各種センサーのエンジニアにもチャンスがある。
 その他、軽合金や樹脂などの素材エンジニアや、蓄電装置など周辺設備のエンジニアにも、要素技術メーカーやアセンブリーメーカーに入れる余地がありそうだ。
 自分の技術が海の上に建てたでっかい風車を動かし、それがエネルギーを生み出す。大和田氏が語ったように「技術者冥利」に尽きるはずだ。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
洋上風力発電はこれからが旬の事業。エンジニアにとってはパイオニアになれるチャンスです。私がもしエンジニアで、好きな部分の開発ができるとすれば、ブレードをやってみたいです。いくつか特殊な形がありますよね。自分だけの高性能ブレードをつくりたい!

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