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厳選★転職の穴場業界 第14回 太陽光発電 エコ発電の代表選手!進化を続ける太陽電池
風、光、海の干満、地熱など、自然のパワーを使う再生可能エネルギー利用技術。中でも太陽光発電は、インフラの整備や安定度などさまざまな点で優等生的存在だ。太陽電池セル製造時のエネルギー消費量削減、セルの寿命延長などの新技術もあって、CO2削減技術としての期待も高まっている。
(取材・文/伊藤憲二 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:06.07.12
業界動向:CO2を削減する太陽光発電が世界で人気急上昇
 自然の力を利用する再生可能エネルギー利用技術は、大気中のCO2濃度増大による地球温暖化を防ぐ、環境技術として注目されている。その中でも2番手の風力発電を大きく引き離して市場の約8割を占めているのが、太陽光発電だ。
 太陽光発電は、文字どおり太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換する技術。1954年にアメリカで発明されたこの技術は、当初は人工衛星など特殊な用途に用いられていた。しかし発明から半世紀がたった今日では、家庭用電源や小規模発電プラントなど、民生用にも広く用いられている。

 市場も急成長中で、京都議定書に基づいてCO2削減を政策で後押ししているヨーロッパ、脱石油を試みるアメリカ、さらには電化が進んでいない発展途上国など、多くの国や地域で年率換算数十%という高いオーダーで需要が伸びている。太陽光発電協会は、国内市場規模は2010年に、約3770億円に達する見通しであるという。

 太陽光発電には天気が悪いと発電効率が落ち、また夜にはまったく発電できないという欠点がある。それらを解消すべく、現在のシリコン系太陽電池に替えてエネルギー変換効率の高いCIS(銅-インジウム-セレン)、ガリウム系や有機化合物系、色素増感型などの新セル、または電気を貯蔵するための蓄電ユニット、太陽電池モジュール全体の効率をアップさせるための電力安定装置など、各分野での技術開発が盛んに行われている。エンジニアにとっては、さまざまな対象で自分の力量を大いに試せる場といえる。
注目企業:高性能&長寿命の太陽光発電モジュールで世界に挑むMSK
 太陽エネルギーを電力に変換する太陽光発電モジュールづくりの専業メーカー、MSK。不純物の混入を防止するパネル製造法をはじめ、二十余年の間で培った無数のノウハウが同社の基盤だ。商品企画から生産技術までを幅広く手がけるエンジニアがその技術を語る。
■シリコン系太陽電池セル(5インチと6インチ) ■ソーラーLEDライト TST-502
太陽光の照射によって電気を発生させる太陽電池セル。定格出力は小さい5インチ(125mm)角のもので1枚当たり2.2〜2.5W、6インチ(156mm)角のもので約3W。いずれもシリコン系太陽電池セルで、光を反射させたときに紋様が浮き出るのが多結晶(写真右)、均一の色合いのものが単結晶タイプ(写真左)。現在、低コストの色素増感型セル、エネルギー変換効率に優れたCIGS(銅-インジウム-ガリウム-セレン)など、非シリコン系セルの開発競争が展開されている。 MSKが試作したソーラーLEDライト。太陽電池パネルに結晶系モジュールを使用し、ニッケル水素電池に充電する。日中6時間の充電で最大5時間点灯可能。電池交換不要であることから、災害時の非常灯などに最適だ。太陽電池は家庭用、産業用発電はもちろんのこと、こうした日用品や携帯電話の充電器(計算上は2.5インチ角のセルを用いて1日でフル充電可)、キャパシタやバッテリーと組み合わせた非常用・無停電電源、船舶向け電源など、用途開発はまさにこれからが本番だ。

建材一体型、窓ガラス組み込み型などユニークな太陽電池づくり

 重電、家電、半導体などの分野の大手企業が名を連ねている太陽光発電業界において、唯一の専業メーカーとして業績を伸ばしている企業がある。屋根そのものが太陽電池という建材一体型モジュール、窓を太陽電池化するビルガラス太陽電池など、ユニークな商品開発で知られるMSKだ。
 1967年に電子部品の輸出入商社として発足したが、84年に手がけた大手メーカーの太陽光発電モジュールのOEM生産をきっかけに技術を蓄積し、今では自社でモジュールを開発している。長野県の佐久にある工場は、単体としては世界最大級の年間100MW相当の生産能力をもっている。2005年は売上高が前年比でおよそ2倍になるなど、世界での太陽光発電需要の急増を受けて業績も好調だ。

「太陽光発電モジュールの開発は本当に面白い。無限と言ってもいい太陽光エネルギーから電気を取り出すということにまずワクワクしますし、CO2削減の面で社会的にも有用。技術的に高いレベルが要求される一方、アイデア商品的な発想もどんどん生かすことができます」

 商品開発部で太陽光発電モジュールの開発に携わっている伊藤隆氏は、太陽光発電の面白みをこう語る。伊藤氏は大学で太陽電池を学んだが、卒業後は制御機器メーカーに就職し、ビル向け空調システムの開発を手がけていた。太陽光発電への夢を捨てきれず、96年にMSKに転職。現在は住宅の屋根を太陽電池化する建材一体型をはじめ、独創的な商品を生み出している。
 MSKは太陽電池セル自体は製造せず、セルメーカーの製品を使ってモジュールを開発している。このモジュールづくりのノウハウは、実は太陽光発電の高性能化を図るうえできわめて重要となる。

25年後も劣化しないモジュールづくりを支える生産技術

 かつて、太陽電池セルには劣化問題があるといわれていたが、今日の劣化率は30年で数%にすぎないという。シリコン薄膜を使う関係上、太陽電池セルの製造には相当の電気エネルギーを要する。ここで排出されるCO2を太陽光発電で取り返すのに、単結晶で15年、多結晶で7年ほどかかるといわれる。つまり、理論上は製品寿命を迎えるまでのエネルギー収支は大幅にプラスになるのだが、その理論値を達成するのは口で言うほど簡単ではない。
「太陽光発電モジュールは構造こそシンプルですが、信頼性、耐久性を高めるには、さまざまなノウハウが必要なんです。太陽光発電のパネルは太陽電池セルをガラスと樹脂フィルムで挟んでつくりますが、その隙間は充填剤で埋められます。ガラスと本来長寿命である太陽電池セルが劣化を起こすのは、この封止技術が甘くて、空気や不純物が混じってしまうのが主因なんですよ」

 MSKの品質管理はパネルの製造から組み立て、出力を調整するパワーコンディショナーまで、モジュール製造のすべてにわたっている。複数のセルメーカーの製品を効率よく、しかも破損率を極少に保って組み付けられる生産ラインもすべて自社で開発した。同社の太陽光発電モジュールは、25年の経年変化を想定したテストでもほとんど性能劣化がないという。
「いい製品を開発するためには、太陽光発電のエンジニアは商品開発だけでなく、生産技術まで視野に入れる必要があるんです」
 太陽光発電というと専門性が高く、専門スキルをもつエンジニアだけが携わるというイメージがあるが、伊藤氏はそんなことはないと語る。
「別に太陽電池開発の経験がなくても、太陽光発電モジュールに生かせるスキルはいくらでもあります。セル開発には半導体デバイスのスキルが必要ですが、モジュールなら構造設計や機構設計といった機械分野、パワーコンディショナーやインバーターなどでは高電圧を含めた電気や回路設計の知識が生かせます。専門知識よりは創意工夫する力のほうが大切ですね」
 世界市場が急拡大している太陽光発電は、再生可能エネルギーに関心のあるエンジニアにとってまさに転職の穴場だ。

伊藤隆氏
株式会社MSK 商品開発部
伊藤隆氏

大学では電子工学科で太陽電池関連技術を学ぶ。卒業後に制御機器メーカーでビル向け空調設備の開発を手がけた後、MSKに転職。屋根設置型、建材一体型、ウインドーシェード型といったさまざまな太陽電池モジュールを作り出した。
MSKの社屋横にある、外壁を太陽電池セルで覆った建物
穴場求人:人材ニーズが立ち上がり、技術競争の激化でチャンス拡大も
 太陽光発電業界での人材ニーズはまだ立ち上がったばかりだが、求人の登場頻度は着実に増えている。リクナビNEXTでは「太陽光発電」「太陽電池」などをキーワードに検索をかけるか、太陽光発電を手がけている企業名で直接検索すれば、求人情報を得られる。
 太陽電池を手がけている企業は重電、高分子、家電、半導体、制御機器、電力、さらには大手ゼネコンと多くの業界に点在しているので、多少の予備知識があると探しやすい。

 太陽光発電エンジニアに要求されるスキルはさまざま。太陽電池セルではシリコン、ポリマーといった材料系や半導体プロセスなど、モジュール設計では構造設計や機構設計などの機械系、大型プラントでは太陽の入射角を確保するための可動パネルを装備するケースが多く、メカトロニクスの知識も役に立つ。
 また、弱い光でも効率よく発電したり、セル間の電圧のばらつきなどを調整するパワーコンディショナー、出力を調整するインバーターなどのパワーエレクトロニクスも、コア技術のひとつ。パワー半導体を使った回路設計の経験があると転職に有利だろう。今後は昼間発電した電気を貯蔵するといった進化も予想されており、バッテリーモジュールやキャパシタモジュールの知識も歓迎される。

 太陽光発電の商品開発はこれからが本番。「これからは太陽光発電だけでなく、太陽熱エネルギーも同時に利用するといった試みもなされるでしょう。また、5cm角の太陽電池で携帯電話は十分駆動できるので、ポータブル電源としての使い方も考えられる」(太陽電池エンジニア)という声があるように、太陽電池を使ったユニークな商品の企画力も求められている。
太陽電池業界のエンジニアニーズ
・ セル開発はシリコンをはじめ有機、無機化学、製造プロセスの経験要
・ モジュール本体の設計は構造・機構設計など機械工学の知識が生きる
・ パワーエレクトロニクス、セル実装などでは電気、電子のスキル必要
・ 太陽電池については未経験でも転職後に勉強すれば十分カバーできる
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 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 
高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
 今回の取材で驚いたのは、「太陽電池セルはほとんど劣化しない」という言葉でした。購入を考える多くの人は、節電で元を取る前に発電能力が落ちては意味がないけど、20〜30年後なら仕方がないか、と思っているのではないでしょうか。それがわずか数%の劣化率。これをもっとアピールすれば市場が膨らむと思いました。今後も新しい技術をレポートします。

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