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踏んでからでは遅すぎる!法律グレーゾーンに潜む地雷(1)特許編 特許のあるメカニズムを改良して使ったら違法?
日々の業務で「これってもしかして法律違反なんじゃ……」と、ふとわいてくる疑問。そこで今回、エンジニアが陥りがちな業務事例を通して、法律的な“白黒ジャッジ”をつけたい。3回連載の第1回目は「特許」。
(取材・文/宮尾有希 総研スタッフ/山田モーキン イラスト/内山弘隆)作成日:06.01.25
 納期が迫っている、ライバル社との熾烈な競争に負けられない……などのせっぱつまった理由で、反則スレスレの技を使ってしまうエンジニアは多いと聞く。そこで、ギリギリで勝負している現場からの「どこからが法律に触れるのか?」というグレーな疑問を3回連載で、法律の専門家に直接ぶつけるこの企画。
  第1回目のテーマは、昨今話題の「特許」について。ソフト開発に携わっていたエンジニアに、日々の業務の中で「これって特許法に違反してるの?」と不審に思っていたことに関して話をお伺いしたうえで、“特許の専門家”である弁理士にアドバイスを求めた。
今回の相談者
O・Sさん(30歳) O・Sさん(30歳)
半導体の装置メーカーでソフト開発を行っていたプログラマ。約10年の勤続後、先月退社したばかり。
今回の法律アドバイザー(監修)
千且 和也氏(きさらぎ国際特許事務所弁理士) 千且 和也氏(きさらぎ国際特許事務所弁理士)
平成4年弁理士登録
日本弁理士会新人研修講師
日本弁理士会特許委員会委員長
相談ポイント1  「アイデアの借用」は法律違反?
 お客様から「A社みたいな機能を、おたくの装置にも付けてよ」と頼まれると、まず断れません。そういうときは、その機能についてA社が特許を取得しているかどうか社内の者が調べます。もし取得されていなかったら、お客様に頼み込んでコッソリA社の装置を見せてもらうんです。内部構造はバラバラに分解しないとわかりませんが、ある程度のエンジニアだったら、装置の動きを見せてもらうだけで、その機能を実現するためにどのようなロジックを用意すればいいか推測できるんです。あとは取扱説明書をお客様に見せてもらったりして、自らロジックを組んで自社装置にその機能を搭載してしまいます。大手の競合会社もいろいろある中で、自社のものを使い続けていただくためには仕方ないんです……。こういうアイデアの借用って、何かの法律に触れるのでしょうか?
A. まねしたアイデアが特許取得されてなければ、法律違反にはならない
 その機能について特許が取得されていないのならば、アイデアをまねしても特許法を侵害することにはなりません。ただしソフトウェアの場合、記述されたプログラムに著作権があるので、それを模倣すると著作権を侵害する可能性があります(機能そのものには著作権は発生しません)。一方、特許権が取得されている場合、機能を意図的にまねをしたわけではなくても、知らないうちに特許権を侵害してしまうケースもあります。開発の際には必ず特許について調べるほうがいいでしょう。
相談ポイント2 もし、借用したアイデアの特許を他社が取得してしまったら……
 お客様からの要望に応えて他社の機構をまねすることは、他社でもやっているようです。だから今のところ「お互いさま」という“なあなあ”が成立しています。もしだれかが「それはうちのアイデアだぞ!」と騒ぎ始めたら「そっちだってうちのをまねしてるじゃないか」という泥仕合になると思うんです。ただ、もし将来的にうちが借用したアイデアで他社が特許を取得したら、過去にさかのぼって請求されることになるのかどうか、そこだけは心配です。
A. 原則、まねした時点までさかのぼって請求されることはない
 特許権の効力は、特許が成立してから発生します。従って、原則的にはまねした時点にさかのぼってとがめられることはありません。
  しかし、出願公開(特許庁により特許申請の内容が公開されること。まだ特許は成立していない)された技術を利用した場合は警告を受ける可能性があります。警告を無視すると特許が成立したときに「補償金請求権」を根拠に、警告時点にさかのぼってライセンス料を請求される場合があるので注意してください。出願公開がされた技術であることを知らずにまねしてしまったのであれば、あまり感心できませんが、致し方ないですね。
相談ポイント3 特許に関して、どうやって調べたらいいの?
 新しいメカニズムを開発するときは、設計が終わった段階で『これ、確か特許が取られてるよ』と上司に指摘されたときだけ、社内の詳しい者が調査します。調べるといっても、国内の、それもライバル社の特許だけを調べていて、海外の特許については見ていないようです。詳しく調べるべきなのかもしれませんが、納期がタイトすぎて……。現場レベルで対応しようにも、そういう教育を受けたことがないので、特許について、どこでどうやって調べたらいいのかわからないんですよね。本当は特許についてチェックするような専門の部署をつくるべきなんでしょうけど、圧倒的に人員が足りないんです。
A. 海外で販売・稼働させる場合には注意が必要
 装置を日本国内でのみ販売・稼働させるのであれば、国内の特許だけ注意していればよいでしょう。装置を海外で販売・稼働させるのであれば、販売・稼働させる国の特許にも注意する必要があります。
  調査方法についてですが、膨大な特許を調べ上げるのは容易ではありませんので、弁理士や調査機関などに頼んだほうがいいと思います。ただ、すべてを依頼すると金額もかさみますから、まずは自社で扱っている分野だけでも日ごろから気をつけて見るようにしてください。特許庁のウェブサイトにある「公開特許公報フロントページ検索」から、キーワードや国際分類などで検索することができます。
相談ポイント4 既にある特許を「一部改変」して申請しても受理される?
 今は、私がいた会社でもどんどん特許を申請しています。特許自体で儲けたいからというより、たくさん特許を取得していたほうが株主や営業先に対して“ハクがつく”という考えのようです(笑)。そのため、既に特許を取得されている他社のロジックを参考にして、一部分を変えて申請することもあるようですが、その程度の改変で特許申請が受理されるものなのでしょうか? 辞めてしまった今となっては、受理されたかどうかわからないのですが……。」
A. 改変による審査基準はここ数年で厳しくなってきている
 特許が成立するためには「新規性(まったく新しい発明・考案)」と「進歩性(公知技術より技術的に優れている)」のいずれも必要です。世の中で成立している特許の大多数は、先行する特許を改良したものといえますが、どの程度の進歩性が認められれば特許を取得できるのかという見極めはなかなか困難です。「同じような開発にかかわっている方が簡単に思いつくような内容か否か」が見極めのポイントですが、その判断基準はここ数年で厳しくなってきています。もし改良が認められて特許が成立したとしても、基本となる機構や考案について特許が取得されている場合は、基本となる特許に対してライセンス料を払う必要がありますので注意しましょう。
  特許の申請にかかる費用についてお話しすると、出願の印紙代は1万6000円です(ほかに弁理士などに依頼する場合、弁理士報酬が発生)。正式に審査を受けるためには出願から3年以内に「出願審査請求」をする必要がありますが、その審査請求の印紙代が約20万円前後になります。出願から3年間は「先願権(先に出願したほうが特許を取得できる権利)」を確保したまま業界の動きなどを見て「出願審査請求」を行うべきかどうか判断できるので、積極的に特許を出願するのもひとつの有効な戦略といえるでしょう。
(コラム) 今回の法律アドバイザーから、特許に関する注意ポイント
 小泉首相が「知的財産立国」を打ち出したことを背景に、2005年、特許権に関する紛争などの知的財産に関する訴訟を取り扱う「知的財産高等裁判所」ができました。知的財産についての関心は年々高まっていますが、まだまだ認識の甘い企業も多いのが現状です。
  技術開発にかかわる方が特許権に注意を払わないでいると、ある日莫大な損害賠償を請求される可能性もあります。特許申請しないことで自社の貴重な発明を利用され、間接的にエンジニアが損をしているかもしれません。今回の相談者が勤務するような小さな会社で知的財産部をつくることは難しいでしょうが、せめてひとりだけでも、特許について専任に引き受ける職員を雇うなどの対策を取ってほしいと思います。
  特許について判断するときに大切なのは、自分の都合の良いように解釈しないこと。むしろ不都合に解釈するくらいでちょうどいいと思ってください。無自覚に他社の権利を侵害することは企業犯罪の第一歩です。特許に関して疑問が生じたら、すぐに弁理士に相談してください。
次回予告(2/8) トラブル急増中の「派遣業務形態」に関してクローズアップ
 
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山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ  
山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ
今回から3回連載でスタートした、エンジニアが陥りがちな法律トラブルをテーマに具体的な事例を通して、その問題点をチェックするコーナー。今回のテーマ「特許」に関しては、青色発光ダイオードの「中村裁判」が最近では世間の注目を集めましたが、今後ますますエンジニアにとって重要なテーマとなりそうです。

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