育児、シングルマザー、LGBT…どの道を選択しても「主たる道」を歩けるように

 働く女性たちが抱えている多くの課題について多角的に情報を交換することを目的として、毎年夏に開催される『国際女性ビジネス会議』が20回の節目を迎え、東京、お台場の会場に国内外から集まった約1100名の参加者が集結。女性の働き方やダイバシティについて話し合われた。

 年齢や経験、性別や国籍に関係なく、自分の前向きな気持ちや情熱をシェアしようと国内外から志の高い人たちが集まる日本最大級の働く女性のビジネス会議を運営するのは、市場創造型マーケティング&コンサルティング会社のイー・ウーマン。1996年から始まった国際女性ビジネス会議は、これまで企業や団体に参加要請をかけたことがなく、参加者は全員、自分の意志で、意欲を持って参加している。イー・ウーマンによると、過去19年間の参加者満足度は99.6パーセントとなっている。

 同社の代表取締役社長、佐々木かをり氏は、働く女性のためのコミュニティサイトやセミナーを日本でいち早く立ち上げたパイオニア的存在で、現在、内閣府「規制改革会議」委員を務めている。

佐々木かをり氏「今年のテーマは”Make History”、誰もが主たる道を歩める社会を」

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 冒頭では、VTRとともに「SOHO時代の生き方/働き方」「女性とインターネット」「ダイバーシティ〜多様性が生み出す経済成長」「ボーダーを超える発想・行動」など、歴代の会議テーマを振り返った。

「昨年、自分たちの手でゲームやルールを変えていこうという思いを込めて、『ゲームチェンジャー』というテーマに決めました。20回の節目を迎えるにあたり、それ以上のかっこいいテーマを、と考えたとき、”Make History, 歴史を動かす”という案が浮かびました」と佐々木氏は語った。

「この20年を振り返ると、女性が活躍するためのさまざまな法案ができました。けれどそのやり方は、男性のための本道、主たる道を変化させないまま、女性のための脇道を作ってきたのではないかと思っています。今では多くの女性たちのために『脇道』が整備されているため、歩きやすく感じていますが、これからは主たる道、『本道』の幅を広げ、ひとつの道にしていかなければなりません。どの道を選択しても、誰もが主たる道を歩いていると感じられたら良いですよね。なので、今年は”Make History”を会議テーマにしました」

霞が関では「ゆう活」を推進、安倍首相「活躍する女性の数は2年で90万人に倍増」

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 その後、サプライズ・ゲストとして、安倍首相が登壇し、「この2年間で、仕事を持って、活躍する女性は90万人増えました。OECDも日本の女性が積極的に働いていることを評価しています」と言及。7月1日に霞が関で実施された「ゆう活」(早めに退社し、夕方から夜の時間帯を家庭生活の充実や趣味、自己研さんに充てる)を取り上げ、「長時間残業が代名詞になっている霞が関の職員も、朝早くきて、夕方5時には帰る試みをしました。これまでのような長時間労働を前提とした働き方を見直していくきっかけにしたい」と語った。しかしながら、その後、講演した野田聖子議員からは「自民党のミーティングは朝8時から始まるが、保育園は9時から。子を持つ母親にとって朝は戦場。その時間帯のミーティングには出られない」との指摘もあった。

 また、ある調査結果によると、女性を登用している企業のほうが株価が3割以上高い可能性があると安倍総理は言及。「女性の活躍推進のため、保育士の確保や男女の役割分担の変革、シングルマザーを含む多様な働き手への対応など、政府はより一層の支援を行なっていく」。

女性初の経団連役員&シングルマザーの吉田晴乃氏「時が解決してくれることもある」

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 BTジャパン株式会社代表取締役社長であり、経団連で女性初の役員に就任した吉田晴乃氏は、シングルマザーとして国内外で通信の仕事と育児を両立してきた経験について講演。「時が解決してくれることが大いにある」と参加者たちを励ました。

「娘が小さかった頃、海外を飛び回ることも多く、ベビーシッターさんに預かってもらっていました。家に帰り、”Mummy, you are in my heart, always”と、書かれているのを見たときは、胸がはりさけるような思いでした。娘が思春期になって、摂食障害になっていても気づいてあげられなかったこともありました。けれど、シングルマザーとして、稼がなければいけないし、生活していかなければならないし、生きていかなければなりません。そうやって過ごしてきて今みなさんに伝えたいことは、時が解決することって本当にあるということ。そんな娘も今では大学生です。仕事の弱音を吐くと、「それが経営というものよ。みんなの期待を背負っているんだから」と的確な助言をくれるようになりました。また、彼女はインターンシップをしているので、いろいろな相談を受けます。私はそんな時、ベストコーチだなって思うんです。お母さんをしながら働いてきたことが、今こうして役立っています

 また、吉田氏は女性であるメリットについて、経団連の役員に就任して2週間目に渡米した際の経験を例に出して語った。

 日本の役員とアメリカの役員が向かい合った際、アメリカ側の女性たちが吉田氏をパッと見て、その後、CV(英文経歴書)を確認している様子だったという。

「化粧室などで偶然鉢合わせした際に、『あら、その靴すてきね。どこで買ったの』『今度、日本を訪問するときは絶対に連絡をするわね』『がんばりなさいね』と声をかけてきてくれたんです。そういったコミュニケーションができるのは、女性同士であること、マイノリティであることの強みでもあります。

 「今こうして振り返ると、娘が口にした”You are in my heart, always”は本当なんです。私が経団連にいることも、これまでやってきた功績も、辞めて数年もしたら誰も覚えていないでしょう。でも、たった一人、私の娘は絶対に忘れない。そうやって、私が燃やした”頑張り”は自分の子どもや子孫に受け継がれていく。だから、一生懸命にやりたい」と、吉田氏は講演を締めくくった。

13人にひとりの割合でLGBTが存在、課題となる職場環境の整備と理解

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 4月に渋谷で同性パートナーシップ条例が制定されて以来、語られることがより多くなったLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)の労働や消費についても、午後から行われた円卓会議『LGBT 大切な働き手、大切な消費者』の中で議論された。LGBTを中心として広がる消費に関する調査や、『レインボー消費マーケット』に関する研究を重ねる電通ダイバーシティ・ラボの阿佐見綾香氏、LGBT当事者を公言した国内初の議員として知られる東京都世田谷区議会議員の上川あや氏、日本でも同性結婚が認められる平等な社会作りを目指すNPO法人EMA日本理事長であり、デンマーク大使館上席政治経済担当官の寺田和弘氏、NHK国際放送局WORLD NEWS部記者の山本恵子氏が登壇。活発な意見が交わされた。

 阿佐見氏いわく、電通ダイバーシティ・ラボが4月に実施した調査によると、日本のLGBT人口は7.6パーセントで、13人にひとりの割合でLGBTが存在するという結果が出た。この割合は、AB型の人や左利きの人とさほど変わらない。しかしながら、そのうち約60パーセントは一度もカミングアウトをしたことがないと回答している。

 一方、LGBT層および関連する一般層における商品・サービスの市場規模は5.94兆円と報告され、LGBTを含む新しい人間関係が社会に受け入れられることで生まれる消費スタイルを”レインボー消費”と位置付け、同ラボではさらなる研究をすすめていると阿佐見氏は語った。

 世田谷区議会議員の上川氏は、27歳まで男性として会社勤めをし、その後、性転換手術を受けて、OLとして4年間勤務した。

「戸籍、健康保険証、住民票、役所に出すあらゆる書類は、性別を必ず記述しなければならず、属性が抜きがたく存在して、家を借りる時などにもそれが支障となる。けれど、前例がないことには法律はなかなか変わらないため、法律を変えたくて議員に立候補することにしました」と上川氏。「街頭に立った当初は罵声も浴びましたが、日々街頭に立ち続けることで、温かい声を贈られることが増えていきました。社会のコンセプトも制度も、多くの努力で変えられる」

 「『カレシいるの?』『カノジョいるの?』と聞く人は多いけれど『好きな人はいるの?』と聞く人は少ない。そういった意識が広まり、LGBTを語っても語らなくても問題視されない、そんな社会作りを目指しています」

 世界で初めて同性婚を合法化したデンマークに精通する寺田氏は、LGBTがもはや社会で問題視されておらず、戸籍の性別も、日本のように性別適合手術を条件とすることなく、自己申告のみで変えられることなどに触れた。また、日本社会において企業が留意すべき点について言及。

「たとえば、同僚が結婚するとお祝い金をもらえるが、パートナーが同性の場合は長く一緒に住んでいるにも関わらず、もらえない。夫婦で単身赴任が決まったら扶助が出るけれど、同性同士だとその扶助もない。ゲイであるにも関わらず、女性のいる店で日本の古い接待に付き合わされる。そのように性に関わるシステムは男女ベースになっているので、LGBTの人たちの気持ちがそがれることはたくさんあります。そういったことに対して、企業がどこまで理解し、準備できるかが課題です」

取材・文・写真=山葵夕子

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