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Webサービス・ゲーム系企業がこぞって人材を奪い合う!?
ゲーム開発エンジン「Unity」
スキルの転職市場価値
スマートフォン向けアプリ・ソーシャルゲームからコンソールゲームまで、幅広い開発環境をサポートしているゲーム開発エンジン「Unity」。Unityの最新技術動向とともに、人材市場での価値、今後の人材育成などについてレポートする。
(取材/広重隆樹 文・撮影/総研スタッフ 馬場美由紀)作成日:13.07.25
日本での売上は世界第2位、大注目のゲームエンジンUnityが担う意味

 この4月に全世界でユーザー数が180万人を突破したというゲーム開発エンジン「Unity」。スマートフォンやゲーム機などのさまざまなプラットフォームに対応できる向けた統合型ゲーム開発環境として、多くのゲーム開発者に利用されている。実際にゲームを動かすのを画面が確認することができるなど、ツールが充実しているだけではなく、個人の開発者や小規模スタジオに対してのサポート体制があることも、ユーザー数を伸ばしている大きな要因だ。

大前 広樹氏
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社
日本担当部長
大前 広樹氏

 3月には、ソニー・コンピュータエンタテインメントとの戦略的提携を発表。その後、数日を経て、「Unity 4 for Wii U」を任天堂とのライセンス契約を結んだデベロッパーに対して無償で提供するというゲームエンジンを発表している。

 ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン日本担当ディレクター大前広樹氏は、自身がUnityの機能に惚れ込み、日本市場におけるUnityのエバンジェリスト的な役割をずっと担ってきた。
「Unityが支持される理由は、エコシステムとしての開発者向けのプラットフォームが確立されているから。ゲーム開発に必要なKPI設定も手軽に設定ができますし、PHOTONCLOUDは5秒で立ち上げることが可能です。アセットストアというUnityのデジタルマーケットでは、ほかの人が作った優れたアセットを買うこともできるし、自分も売ることができます。ゲームエンジン本体だけではなく、そうした外側のサポート部分も充実しているのです。ビジュアルを確認しながら作れる開発環境もありますし、関連書籍も多数出ている。また、海外との共同開発でも同じ環境を共有しながら開発できるというメリットもありますね」

 また、Unityによってゲーム開発者の要件も変わってくるという。
「CやC++のプログラムができて、3DCGのツールが使えることがゲーム開発者の条件だった時代は変化していくと思います。100人で作っていたゲームが10人で作れるようになり、Unityによってこれまでゲームデザインのセンスは抜群になるのに、それを動かすことができなかったクリエイターたちが、誰でもゲームを作ることが可能となります。ただ、Unityが使えるかどうかはそれほど大した重要なことだとは思いません。Unityは手足の延長だし、筆と絵の具のようなもの。むしろ、Unityを使えることでこれまで埋もれていた価値も掘り出される可能性を提供していきたい。誰でも手軽にゲームを開発することができ、開発者たちを幸せにすることユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの役目だと考えています」

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社 日本担当部長 大前 広樹氏
株式会社フロム・ソフトウェアにてゲーム機向けマルチプラットフォーム開発環境の設計・開発やミドルウェアの導入などを担当し、2009年に独立。 2010年よりUnity Technologiesの日本担当ディレクターとして、Unityの普及や、ゲーム開発がもっと楽しくなるための活動に注力している。BBT大学ITソリューション学科助教。
高まるUnityエンジニアの採用ニーズ

「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」のヒットに代表されるように、ネイティブアプリに注力する企業も増えてきた。ゲーム開発の効率化と開発スピードを上げるUnityによる開発経験を持つエンジニアの採用ニーズも高まっているという。

「ブラウザゲームからネイティブアプリの開発にシフトしている企業にて、Unity経験者を求めるニーズが急増しています。しかし、現在の転職市場にはそれほどUnity開発の経験者はほとんどいないため、Unityを用いて本格的にゲーム開発に取り組んでみたいというエンジニアには絶好のチャンスと言えるでしょう」
 と語るのは、リクルートキャリアのキャリアアドバイザー山田大貴氏だ。

 Unityを使えば個人でも簡単にゲームが作れるようになったことで、プロと素人の垣根がなくなってきた。個人でゲームを開発したり、新しい技術を学ぼうという意思やスタンスを評価したいという企業は多い。だが、だからこそゲームそのもののクオリティを求められるようになる。
「Unityはあくまでも開発ツールなので、単に使ったことがあるということだけではなく、どう使いこなしているかが重要です。より表現を細かくしようとか、基本の機能だけでは作れない詳細な仕様を知っていることなどが、重要な評価ポイントになっていくでしょう」

山田 大貴氏
株式会社リクルートキャリア
山田 大貴氏
Unityを活用し、ネイティブ開発に特化するコロプラの取り組み

 スマートフォン向けネイティブアプリの開発エンジンとして、Unityをいち早く採用したことで知られるのがコロプラだ。既に30本以上のゲームをネイティブアプリでリリースし、さらにUnityエンジニアの拡充を目的としたUnity特訓プロジェクト「Unityブートキャンプ」を社内で開催するなど、Unityを積極的に活用している。Unityに対する取り組みを聞いた。

 コロプラがUnityに着目し、導入を決めたのは2年前。それまでコンシューマゲームを開発する企業が天文学的な開発予算をかけてつくっていたゲーム開発エンジンだが、Unityはその機能を驚くほど安価で実現することができる。現在、同社のスマートフォン向けカジュアルゲームブランド「Kuma the Bear」からリリースしているネイティブアプリは、すべてUnityを用いて開発しているという。

「Unityはメンバーが皆同じ土俵に立って開発ができるし、開発の効率を革命的に向上させることが可能です。現在はスマートフォンのネイティブゲームを開発する『Kuma the Bear開発部』を立ち上げ、Unityによる開発を行っています。国内でUnityでのゲーム開発について一番ノウハウを持っているのはコロプラといっても過言ではないでしょう」
 と、Unityに対する取り組みを語るのは、代表取締役社長・馬場功淳氏だ。同社が開発するスマートフォン向けゲームは、そのほとんどがネイティブもしくはWebブラウザとのハイブリッドタイプで開発している。

馬場 功淳氏
株式会社コロプラ
代表取締役社長
馬場 功淳氏
Webだけでは食べていけない。エンジニアの大胆な意識改革が必要

 同社は現在Unityエンジニアを積極的に採用している。もちろんUnity開発経験は必要だが、それ以前に、ゲームをつくることが好きであることが条件。さらに求めたいのはエンジニアとしての「素直さ」だ。
「Unityの手軽さは捨てがたいが、Unityが使えるだけでは面白いゲームはつくれません。これからのゲーム開発エンジニアには、エンジニアリング能力以上に、クリエイティブ能力が求められるようになります。そのためには、これまでの固定観念を捨て、結果やデータに対して客観的に向き合えること、そして周囲の人の意見にまずは素直に耳を傾けられる資質が必要だと思っています」

 馬場氏がエンジニアに求めたいのは、大胆な意識改革だ。 「これからのスマートフォン向けゲームはどんどんネイティブ化していくでしょう。ブラウザゲームが開発できるというスキルだけではこの業界で生き残っていくのは難しい。ネイティブでゲームが開発できることが、これからの必須スキルです」

 よほどの高い専門技術を持たない限り、Webしかできないエンジニアのニーズは減っていくと語る馬場氏だが、こうした時代には、企業側でもエンジニアのスキル拡充に対する施策は必須だ。コロプラでは「Unityブートキャンプ」と呼ばれる特訓プロジェクトを始めた。それに伴って社内の開発体制の見直しも常に行っている。スマートフォンゲームの好調で大きく業績を伸ばしている同社。エンジニアの意識改革と企業側の環境整備はうまく合致している。

株式会社コロプラ 代表取締役社長 馬場 功淳氏
九州工業大学卒業後、大学院博士課程時代に「iアプリ」の開発にのめり込む。2003年、PHS「AirH"Phone」にヒントを得て「コロニーな生活」を開発し、個人サイトとしてサービスを開始。2005年「コロニーな生活☆PLUS」の提供を開始。携帯電話の位置情報登録を利用したシミュレーションゲーム「位置ゲー」を初めて立ち上げて、口コミで全国からファンを集める。2008年、ユーザー増加のため退社。同年10月、株式会社コロプラを設立。
完全内製でネイティブアプリ開発を行うUnityエンジニア
Kさん
Kuma the Bear開発部
Kさん
Nさん
サービス統括本部
Nさん

 馬場氏と共に社内で「Unityブートキャンプ」を立ち上げ、塾長として企画・運営に携わったのがKさんだ。前職はWebサイトの開発エンジニアで、コロプラの入社前は仕事でゲーム開発に携わったことはなかった。だが、手軽にゲームをつくることができるUnityを知り、趣味でゲームを開発するようになり、当時40万円もした有料版も個人で購入するほどはまったという。

 だが個人だけでゲーム開発をするのには限界がある。Unityの知識と理解力を買われて、2011年10月に同社に入社。馬場氏が立ち上げたネイティブアプリ開発の部署に配属され、Unityを使ったさまざまな試行錯誤を繰り返してきた。その後、ネイティブアプリをメインにする「Kuma the Bear開発部」でリーダーとして多数のゲームを開発。「Unityブートキャンプ」では塾長も務めた。
「Unityブートキャンプでは、具体的に企画を考えることから始め、ツールの使い方などを学びます。ツールの使い方は3日もあれば覚えられますが、実際のゲーム開発は3週間で実施しました。第一回は10人ほどが参加し、2人ずつの5チームで新作をつくりました。ここで開発されたゲームは実際にリリースもされています」

 同じく「Unityブートキャンプ」にアサインされたのが、サービス統括本部でUnityによる開発を行っているNさん。キャンプに参加するまではスマートフォンのネイティブフレームワーク部分を担当していた。
「Unityブートキャンプに参加する前は、OSのアップデートで追加された機能追加や課金システムなど、ネイティブとインフラをつなぐ仕事をメインにやっていました。でもずっとゲームをつくりたいと思っていたので、キャンプの話が出たときには本当に嬉しかったですね。3Dのモデリングは趣味でやっていたし、ゲームが大好きなのでいつも自分で演出をいろいろと考えていました。まさに待ち望んでいたというかんじです」

 キャンプでは「森のでんわばん。」という電話が鳴ったらすぐタップして取るという指一本で楽しめる早押しゲームを開発した。すでにGoogle Play、App Storeでリリースされ、同社の人気ゲームとなっている。キャンプ後Nさんは、フレームワーク開発からゲーム開発の部署に異動となった。ゲームを開発したことのないエンジニアが、Unityを活用することで、ゲーム開発の最前線に立つことができた一例だ。現在は、Unityを使ったゲーム開発はもちろんのこと、メンバーに日々Unityのノウハウを教えることもNさんの役目となっている。

 Unityの普及により、これまでエンジニアが任されていた実装部分を、非エンジニア(例えばデザイナー)でも容易にできる時代になってきた。コーディングして実装できるだけではエンジニアの優位性は保てない。エンジニアにも企画を考え、表現できるような、よりクリエイティブなスキルが必要となる。Unityで自らのスキルをパワーアップした、二人のエンジニアたちがつくるゲームにこれからも期待したい。

[コラム] 大盛況!「PHOTONCLOUD × UNITY GAMEJAM」が開催

 Unityが世界中で最も採用されているゲームエンジンなのは、先に述べたようにユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが個人開発者および小規模スタジオを支援していることも大きい。開発者向けの勉強会やイベントへの協賛も積極的に行っている。6月29日〜30日の2日間にわたり開催された「PHOTONCLOUD × UNITY GAMEJAM」もそのひとつだ。

 イベントは日本Androidの会秋葉原支部 Unity部の主催により、「Photon Cloud」を提供しているGMOクラウドのオフィスで開催され、先着40名の技術者やデザイナーが徹夜で開発した。1チーム5名×8チームに分かれ、それぞれがUnityとPhoton Cloudを使い、2日間でゲームを開発した。初心者からプロまで経験値もさまざまだったが、日本Androidの会秋葉原支部Unity部の鎌田泰行部長をはじめとするスタッフがサポート。今後もこうした勉強会は続けていくという。

 CodeIQ(コードアイキュー)では鎌田部長から「Unity」に関する問題が出題中です。ぜひあなたのUnityスキルをチェックしてみてくださいね!
https://codeiq.jp/ace/kamata_yasuyuki/q417

鎌田 康行氏
日本アンドロイドの会
秋葉原支部 Unity部 部長
鎌田 康行氏



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