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積極的にエンジニア採用を続けるグリー。グリーの開発環境などの知識がない中途入社者に一刻も早く仕事に慣れてもらうべく、現場エンジニアが指揮官となり、「GREE BootCamp」と呼ばれる初期研修を実施しているという。その狙いを聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:12.05.14
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「BootCamp」とは、アメリカで新兵訓練施設を意味する俗語。その訓練を一般向けエクササイズにアレンジした「Billy’s BootCamp」で、その単語は日本でも知られるようになった。ちなみに、「ブートする」と言えば、コンピュータ用語ではマシンの起動を意味する。AppleのIntel MacでWindows OSを起動する仕掛けも「BootCamp」と呼ばれている。
グリーで2011年12月から始まっている中途採用エンジニア向けの初期教育も「BootCamp」だ。短期間の集中教育で、転職エンジニアにグリーの開発環境に慣れてもらい、いち早く仕事の最前線で活躍してもらうためのプログラムだ。
「これまではOJTに頼ってきたのですが、最近は中途入社者が月に10〜20人にもなり、OJTを受け持つ現場の側も負担が大きくなってきました。初期研修を受け持つ専任のチームやしっかりした教育プログラムの必要性が高まってきました」 カリキュラムは大きくレクチャー(座学)とワークショップに分かれる。レクチャーでは、「GREE」のネットワーク構成やソーシャルアプリケーション開発手法、アクセスログ解析のシステム、「GREE Platform」の構成などを一通り学べる。グリーのエンジニアを率いるCTOの藤本真樹氏は必ず登壇して、グリーならではの開発環境の全体像を語っている。 中途採用のエンジニアは新卒新人とは違い、それぞれの技術の実務経験者である。とはいえ、全員がソーシャルアプリケーション開発出身者やネット業界出身者とは限らないし、インフラ系や組込み系のエンジニアはソーシャルアプリケーション開発の技術をすべて理解しているわけではない。アプリ開発者でも業務アプリケーションしか経験してこなかった人には、ソーシャルアプリケーションは新しいチャレンジだ。インフラからアプリまで一通りの概要をつかむには、「BootCamp」のレクチャーは重要な意味を持つのだ。 |
開発本部 開発企画室
佐藤 真広氏 |
初期研修のメニューでグリーならではと思われるのが、もう1つのワークショップだ。ここでは実践的なソーシャルアプリケーション開発が行われる。
「実践的な開発のセッションを採り入れたのは、いかにも研修然としたやり方はしたくなかったから。この業界は変化が早いので一つ覚えたら終わりではない。常に新しい技術をキャッチアップする姿勢、自分で問題を解決する習慣を身につけてもらいたかったからです」と、佐藤氏。
「BootCamp」の“新兵”たちは「ニュービー」(newbie;新人の意味)と呼ばれる。ニュービー2〜3人ごとにチームを組み、それぞれに1人の助言者(コーチ)が付く。チーム編成にすることで、小なりといえどチームマネジメントの訓練になる。コーチ役は入社数年の社員から選ばれる。チームに始終付きっきりというわけではなく、通常業務との兼任。朝のミーティングや課題のレビュー時にキャンプに顔を出す。
キャンプといっても専用に隔離された部屋があるわけではない。開発本部のエンジニアが執務を行う大部屋の一角にコーナーを設けているだけだ。先輩たちの日々の仕事の様子を肌身で感じながら、一刻も早く現場で働きたいという思いを胸に新人たちは訓練に励む。
「GREE BootCamp」は入社3日目から始まり、期間は12〜13日間が目安。ただ、最終プレゼンに成果物が間に合わなかった場合は、キャンプから卒業できず、訓練期間が延長になる。いわば「留年制」があるのだ。
「まだそれに該当する人は出ていませんが、卒業のレベル設定は必要ですから」(佐藤氏)
開発本部 リーダー/エンジニア
吉川 毅氏 |
ワークショップで採り上げられる課題は、ソーシャルアプリケーションを楽しむ仕掛けをを自由に考え、開発するというもの。 アプリケーション内のキャラクターやレアアイテムの数や、アプリケーションの推移によって仕掛けの設定をどう変えるかなどはすべて新人たちの企画・設計に任される。もちろんコーディングも全員が行う。同社で使われている「Ethna」(PHPを利用したWebアプリケーションフレームワーク)などの使い方を覚えることも重要なので、最終的にはPHPでコーディングすることになっているが、モックアップを自分の得意言語で書く人もいるという。 成果物の発表は週に1回で期間中に2回。自己紹介、企画意図などをスライドで発表し、成果物のデモを行う。単なるデモというよりは、実際のアプリケーション配信を模した環境で動かしてみせるのだ。大型スクリーンに表示されるプレゼンの様子は、社員の誰もが通りすがりに見ることができるので、ニュービーにとっては緊張の一瞬。先輩エンジニアにとっては思わぬ逸材を発見するチャンスでもある。 |
「グリーのエンジニアのマインドとはどういうものか、それをつかんでもらうことが『BootCamp』の最大の狙いです」
と語るのは、「BootCamp」でレクチャーのテーマ設定やワークショップの課題づくりに具体的に関わる吉川毅氏だ。グリーのエンジニアマインドとは開発者が、企画・提案から実際のコーディング、さらにアプリケーションの分析やチームマネジメントまで、狭い職能を超えて、サービス全体に主体的に関わる姿勢を指している。
「アプリケーションをもっと楽しく面白くするためにいろいろな工夫を重ねる。決して仕様書通りに書きましたというプログラムではないのです。そこに見られる自発的な開発姿勢は、グリーのエンジニアマインドそのものと言ってもよいと思います」と、吉川氏。
まっさらな白いカンバスに自由に絵を描き、それが動き出すことで、ユーザーがワクワクする。アイテムを所有したユーザーはそれを誰かと交換したり、共有したくなる。そうしたユーザーの感じ方や、ユーザー同士のソーシャルな関係性に気づくこともまた、「BootCamp」での課題だ。
「BootCamp」を開始して4カ月。成果物を発表したにも関わらず、「納得がいかない。最後までやらせてください」と、“留年”を自主希望する人もいるという。成果物は完成できたのだから、後は職場のOJTでも構わないと思うのが通常だが……。
「最後まで粘っていいものを作りたい。サービスとしてよりよいものを提供したいという気持ちはよくわかりますよ。決して留年を勧めるわけではありませんが、成果物へのこだわりも、グリーのエンジニアマインドのもう一つの側面ですからね」
レクチャーのテーマは概論レベルとはいえ、転職エンジニアにとっては、他社にはないグリーの技術力の高さを知る最初の機会でもある。
「決してわかりやすく語ってもらう必要はない。ありのままに語ってほしいと講師役の社員には要望しています。中にはニュービーたちには全然ついていけない専門的な話題があるかも。そういう難易度の高い専門分野の話が次から次へと出てくることで、グリーの技術レベルと人材の豊富さを実感してもらえれば」と、吉川氏。
現在グリーは海外にも開発拠点を広げている。2月にはアジア各拠点の新人エンジニアたちが東京で研修する機会があった。彼らも一緒に「BootCamp」研修を受け、成果物を英語でプレゼンしたという。
「彼らの技術力に驚きました。みんなアジアのエンジニアに負けていられないなと思ったのではないでしょうか」と、吉川氏はその刺激を語る。グローバルで統一される「GREE Platform」での開発を目指すグリーにとっては、この初期研修は日本と海外のエンジニアが相互に切磋琢磨しつつ、グリーの開発コンセプトやエンジニアマインドを全世界に広げていく重要な役目も持っているのだ。
「BootCamp」のプログラムは、2012年4月入社の学卒新人にも適用されている。また今後はエンジニアだけでなく、ディレクター職としての採用者にも適用していく。ワークショップの課題に、現在のWebアプリケーション開発だけでなく、スマートフォンのネイティブアプリ開発を盛り込むというプランもある。
こうして新卒・中途・職種、さらに拠点を問わず次第に整っていく初期研修体制に、「自分の入社時にはこのような取り組みはなかった。改めて受けさせてくれないか」と申し出る現役のエンジニアも出てきたという。「BootCamp」の厳しい訓練を経て羽ばたく新人エンジニアたち。グリーの未来を背負うエンジニアたちの表情は、キャンプの2週間ですっかりたくましくなっている。
Webアプリケーション受託開発会社、情報サービス企業を経て、2010年にグリー入社。 |
2007年グリー入社。エンジニアの研修体制のほか、中途採用にも関わる。 |
このレポートに関連する企業情報です
2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る
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