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世界で10億人のユーザー獲得を目指し、開発力の強化に乗り出したグリー。サンフランシスコ、ロンドン、北京、シンガポール、ドバイなどに続き、今年6月に開設されたのが大阪スタジオである。同社の採用戦略と大阪の開発現場を徹底取材した。
(取材・文/中村仁美 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/濱野哲也)作成日:12.11.27
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2012年6月、グリーはソーシャルアプリケーションの開発拠点として、大阪にスタジオを開設した。これまで北海道と沖縄にサイトパトロール・センターを設置しているが、アプリ開発拠点の開設は東京以外では初めてのもの。9月に報道関係者向けに行われたスタジオのお披露目では、同社執行役員・吉田大成氏が「大阪から代表作となるゲームを一つでも多く発信したい」と話している。
SNSなどのソーシャル・サービスはこれまで東京一極集中の傾向が強かったが、西日本に開発拠点を据えることで、何が変わるのか。大阪進出の意義を語るのは、メディア事業本部Worldwideスタジオ Osaka事業グループ・シニアマネージャーであり、スタジオ長を務める戸田伸一氏だ。
「大阪には2つの可能性があります。第一は優秀なソフトウェア開発人材がたくさんいること。第二は優秀なパートナー会社がたくさんあるということです。グリーとしても、ここを攻めないともったいないということで、大阪のスタジオ設立を決めました」
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メディア事業本部 Worldwideスタジオ
Osaka事業グループ シニアマネージャー 戸田 伸一氏 |
東京にいると忘れがちだが、関西は実はコンソールゲームやアーケードゲーム、あるいはパチンコなどの遊技機分野では分厚い企業蓄積のある地域。任天堂は本社を京都市に置いているし、コナミやカプコンの創業も大阪だ。近年はソーシャルゲームを手がけるSAP企業も続々と誕生している。この地に開発拠点をすえて、人材の掘り起こしを狙うというのは当然の戦略といえる。 大阪スタジオは、大阪の中心地、梅田駅から徒歩約5分のオフィスビル「梅田ゲートタワー」の中にある。戸田氏が、大阪スタジオの立ち上げ準備を始めたのは2012年3月のこと。当初は「4畳半ぐらいのレンタルオフィスからのスタートでした」と振り返る。準備を始めてから半年、毎月5人ずつぐらいの割合で人材が増え、現在はディレクター、エンジニア、クリエイターを含め約30人の陣容となっている。 戸田氏自身は、2011年7月にコンソールゲーム開発会社からグリーに転職。大阪スタジオ長に就任するまでの数カ月は東京オフィスで「戦国キングダム」の運用に携わりながら、スマートフォン向け新ゲームの企画、立ち上げを行っていた。 大阪スタジオの最大のミッションは、冒頭の吉田執行役員の言葉にもあるように、新規のヒットタイトルを生み出すことだ。大阪スタジオは、アメリカや韓国、シンガポール、イギリス、中国などで設立されたアプリ開発拠点とはもちろん、東京本社ともライバル関係になるという。 「東京本社との違いがあるとすれば、大阪はゼロから新規タイトルを立ち上げるため、よりチャレンジしやすい環境にあるということでしょう。その一例が大阪スタジオ初の新タイトル『Wacky Motors(ワッキーモーターズ)』。このゲームタイトルを世に出すにあたり、さまざまな挑戦をしました」(戸田氏) |

「Wacky Motors」はクールでスタイリッシュなキャラクターやマシンを育てながら、ギャングのお宝を狙って熱いバトルを繰り広げる3Dソーシャルレースゲームだ。単にスピード勝負だけでなく、マシンをぶつけ合ったり、ミサイルで吹っ飛ばしたりなど、アクション映画も顔負けのハードなバトルが繰り広げられる。
「これまでグリーは『探検ドリランド』を代表にカードゲームでヒットを出してきました。一方、『Wacky Motors』は見ればわかるとおり、コンソールゲームに負けないグラフィック性能とアクション性を楽しめることに加え、カードゲームの要素も盛り込んだ、これまでのグリーにはなかった新しいゲームタイトルとなっています」と戸田氏は、新しさを強調する。
この「コンソールゲームに負けないグラフィック性やアクション性」のつくり込みこそが、大阪スタジオの第一のチャレンジだ。それは車の操作方法を見てもわかる。「Wacky Motors」は端末を左右に傾けてカーブを切り、タップしてドラフト、アイテム欄をタッチするだけで“特技”を繰り出せる。まるで実際にハンドル操作をしているような臨場感、キャラクターのレベルが上がるにつれ難易度が上がるコース設定が、ユーザーのドライブ感を刺激する。Google Playのレースカテゴリーで人気トップを維持している(2012年11月5日現在)のもうなずける。
世界最速のギャングを目指す本格レースゲーム!「Wacky Motors」
「Wacky Motors」が行った第二のチャレンジはグリー初の有料ダウンロードゲームであるということだ。
「リリース当初は500円でしたが、現在は99円で配信しています。ソーシャルゲームは無料で遊べるというイメージが定着しているのか、有料でユーザーを獲得するのはなかなか厳しいのが現状です。有料でヒットタイトルに育て上げることができるのか、現在も挑戦が続いています」(戸田氏)
そのほかにも、世界中のユーザーに楽しんでもらおうと、海外でも受け入れられやすいキャラクターデザインを追求したり、最大8人まで同時対戦ができる通信バトル機能を搭載しているのも新しい試みといえるだろう。
現在、大阪スタジオでは、この「Wacky Motors」に加え、同タイトルと同じキャラクターや世界観を再現した「Wacky Pilots(ワッキーパイロッツ)」のブラッシュアップにも注力している。さらに、新たなカードゲームの開発も始まっている。
「『Wacky Motors』や『Wacky Pilots』はまだまだ改善すべきところがあります。それらを改善していくことで、私たちが目指しているコンソールゲームに負けないソーシャルゲームが実現できる。もちろん新タイトルの開発も進めており、今年の冬までに、全く新しいタイトルを4本リリースする予定です」
と、戸田氏。次にリリースされるタイトルにも、大阪スタジオならではの新たな挑戦が込められているにちがいない。

大阪スタジオでは現在、エンジニア、ディレクター、クリエイターの3職種を募集している。いずれにおいても、新規ソーシャルゲームの立ち上げからリリース後の運用改善までを一貫して担当することが共通している。戸田氏の前職はコンソールゲーム開発のディレクターで、企画からリリースまで、ゲーム制作の一連の工程に携わってきた経歴を持つ。骨の髄からの“ゲーム屋人生”。そこから導き出された一つの人材像がある。ひと口でいえば“ガッツ”のある開発者だ。
「即戦力として活躍が期待できるのは、私のようにゲームコンテンツのプロデュース経験のある人やWebサービスの立ち上げ、運用経験のある人です。しかしそのような経験よりも、私たちがさらに重視していることがあります。それは、まずはチャレンジ精神旺盛であること。次に、成功するまで諦めない気持ちを持っていることです。大阪スタジオからはまだ、ヒットタイトルは生まれていません。しかしこのスタジオを盛り上げるには、かならずヒット作を生み出すことが条件です。そのために欠かせないのは、決して諦めない前向きさ。そんなガッツを持っている人にぜひ来てほしいですね」(戸田氏)
とはいえ、前向きさのあまりに「おれも」「私も」と全員が自己主張ばかりだと、戦国バトルゲームのように「群雄割拠」状態に陥ってしまいかねない。チームでの開発には常に協調性が求められる。
「アグレッシブに、そして謙虚に。例えるならば、赤い炎ではなく青い炎のような人です。そんな人にこそ、このスタジオの仲間になってほしいと考えています」と戸田氏は語る。
そのほかにも対人コミュニケーション能力や調整能力、社内外の関係者と円滑にプロジェクトを進める折衝力、論理的に自分の考えを説明できるロジカルシンキングの力なども必要だ。
「例えば個人でサイトを運営していたり、コミュニティで講演や開発をしたりしているなど、常に自己研鑽に努めている人などにも、ぜひ挑戦してきてほしいですね」(戸田氏)

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大阪スタジオの様子
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グリー大阪スタジオで働く面白さは何だろうか。それは戸田氏が転職先としてグリーを選んだ理由とも重なるものだ。 |
むろん、「東京が、大阪が」と、ドメスティックに競争する時代ではもはやない。大阪スタジオが狙うターゲットはグローバル・マーケットだ。
「まずは『Wacky Motors』と『Wacky Pilots』をさらに洗練させていき、なんとしても欧米市場でヒットさせたいですね。私たちの野望はそれだけにはとどまりません。世界には、コンソールゲームを楽しみたくてもゲーム機本体がなかなか手に入らない地域や国がまだまだあります。そんな地域や国の人たちも、スマートフォンなら持っているかもしれない。そんな国々に暮らす人たちにも楽しんでもらえるようなゲームを、いつかリリースしたいと考えています。世界に向けて新しいサービスを生み出したい、そのために失敗を恐れず果敢に前に進む──そんな人こそが、私たちの理想像です」

1980年東京都八王子生まれ。子供のころからゲームが好きで、大学卒業後コンソールゲーム開発会社に入社。企画からディレクション、プロデュースまでを担当する。「これからはソーシャルゲームの時代になる」と考え、2011年7月グリーに入社。2012年3月より大阪スタジオの立ち上げに携わり、現在に至る。
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2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る
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