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超こだわりの“一筋メーカー”探訪記 この分野なら任せなさい!

缶詰一筋89年!
アキバ名物「おでん缶」の歴史と進化

秋葉原名物といえば「おでん缶」。出かけたときに自動販売機で買って食べた読者も多いだろう。でも、おでん缶が現在「5代目」で、開発企業が天狗缶詰なのを知る人は少ないはず。おでん缶の知られざる歴史を紹介します。

(取材・文・撮影 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:12.10.22

7種類のおでんがたっぷり!5代目の「こてんぐ」

リニューアルで変わるおでんの具材、見込み違いも?

おでん缶

おでん缶「こてんぐ」。左が「牛すじ大根入り」、右が「つみれ大根入り」

「今、おでん缶の『こてんぐ』は5代目なんです。私は3代目から担当していますが、中の具材はかなり変わっていますよ。味付けも同様です。例えば、4代目にがんもどきを入れたのですが、5代目では外しました。売れなかったんです(笑)」
アキバで人気のおでん缶を開発しているのは、天狗缶詰株式会社の市古政幸氏と、彼の部下の女性のたった2人。というより、同社の新製品開発はこの2人が担っている。

おでん缶には通常の「こてんぐ」に加えて、賞味期限3年保証の「災害・備蓄用」、5年保証の「長期保存」がある。基本的な中身は同じで、「さつまあげ」1個、「三角こんにゃく」の串刺し1本、「結びこんにゃく(しらたき)1個、「ちくわ」1個、「うずら卵」2個、「大根」1個に加えて、「牛すじ大根入り」は「牛すじ」が2個、「つみれ大根入り」なら「つみれ」が2個加わる。

「おでん缶はホットベンダー(加温できる自動販売機)で売られる場合もありますよね。缶を長時間加温するとその高い温度で繁殖してくる菌もありますから、菌を抑制する資材(具材や調味料など)選び、検証を重ねています。販売先にも一定の期間で新しいものに交換するようお願いしていますから、品質はご安心ください(笑)」

品質管理から開発専任になった「缶詰の技術者」

天狗缶詰

天狗缶詰株式会社
企画・開発部
開発課
課長
市古政幸氏

市古氏が高校卒業後に進学したのが、「日本で唯一の包装容器及び容器詰め食品のプロを育てる」という東洋食品工業短期大学。「缶詰の技術者」を育てる大学でもあり、卒業後に天狗缶詰に入社した。今年で19年目になるベテランだ。
「私は愛知県出身ですから、地元の会社に就職しようと思いました。天狗缶詰を選んだのはやはり大手ですし、自宅から通える距離にあったので」

天狗缶詰の主力事業は業務用缶詰の開発と販売。うずら卵やマッシュルームなど高いシェアを誇る商品も数多く、納入先は学校給食、社員食堂、レストラン、ホテルなど多岐にわたる。
開発案件は具材の種類や味付けを変えるといった「仕様変更」がほとんどで、全く新しい商品開発は少ないという。それでも多彩な商品の開発を一手に引き受けているわけだが、開発部門の設立はわずか7〜8年前とのことだという。

「最初は製造の工程管理や食品の品質管理が仕事でしたが、徐々に開発も兼務するようになりました。開発案件が増えたので今の部署ができましたが、開発の専任者になったくらいで、仕事の中身はほとんど同じでしたね。変わったのは仕事の進行です」

初代の発売は1985年、リニューアルの試行錯誤が続く

社内の情報共有と業務管理は、していなかった?

おでん缶

災害・備蓄用のおでん缶(3年間常温保存)

おでん缶

今年8月に発売された、5年間の長期保存ができるおでん缶

市古氏によれば、開発部門が立ち上がってから業務の進行が次のようになったという。
顧客や営業部門から開発の依頼がくると、その内容は社内システムで共有され、社長や部長などの管理職が案件を決裁する。許可された案件については、様式に沿った書類が作成され、スケジュールが組まれる。そして、具体的な開発が始まる……。

これって、とっても当たり前の業務プロセスではないのか?
「それまでは注文が入るとメモ書き程度で書類をつくり、その場その場で対応していました。まあ、勝手にというとあれですけど(笑)。開発が増えてきたので、システム化されたんですね」

そんな市古氏がおでん缶を担当したのは「3代目」から。その話の前に、おでん缶の歴史を簡単に見ていこう。
初代のおでん缶が生まれたのは1985年。195gのジュース缶の中に、「さつまあげ(串刺し)」1本、「三角こんにゃく(串刺し)」1本、「ちくわ(串刺し)」1本、「つみれ2個+うずら卵1個」(串刺し)1本が入っていた。
おでん缶が誕生に至った経緯とは?
「う〜ん。当時の担当者がもういないので、ちょっと……」

3代目から3種類を発売、4代目には「がんも」にチャレンジ

おでん缶

市古氏と共に開発を担当する女性

おでん缶

品質検査室

リニューアルした2代目は1993年の発売。1990年に串刺しを三角こんにゃくだけにしたマイナーチェンジの後で、290gの「7号缶」にしてボリュームをアップさせ、「さつまあげ」2個、「三角こんにゃく(串刺し)」1本、「三角こんにゃく」1個、「ちくわ」1個、「うずら卵」1個とした。さらにイージーオープンの蓋を採用した。

市古氏が担当した3代目へのリニューアルは2005年。3種類を発売するという快挙(?)に出た。ベースは「さつまあげ」2個、「三角こんにゃく(串刺し)」1本、「三角こんにゃく」1個、「ちくわ」1個、「うすら卵」1個と、新たに「昆布」1個が追加。そして、これらに「牛すじ」が2個入った「牛すじ入り」、「つみれ」が2個が入った「つみれ入り」、「大根」が1個が入った「大根入り」の3規格としたのだ。

その後、2006年9月からの4代目では、すべての規格に大根が投入された。
「殺菌処理や保存の問題で使える具材は限られるのですが、それでも『人気ランキング』に入るような具材は既に入れていました。そこでさらに、ランキング上位の大根をすべての規格に追加し、『牛すじ入り』と『つみれ入り』に加えて『がんも入り』を発売しました」
また、「三角こんにゃく」が1個とその串刺しが1本だったのを、「三角こんにゃく」を串刺しの1本にして、「結びこんにゃく」1個を加えたことも特徴。その理由とは……。
「同じ三角こんにゃくが2つ入っていても仕方ないですからね」

現在の「5代目」が完成!備蓄用に長期保存できる製品も

さつまあげを減らして、うずら卵を増やす……なぜ、今ごろ?

「『がんも』は挑戦だったんですけどね、人気が出なかったんですよ。それと、昆布がね。缶の内側に貼り付いてしまうことが多くて、入っているかどうかもわからないことも……。で、5代目からはこの2つは外しました」
昆布には「だしを取る」という役目もあったのだが、よい昆布エキスが登場して、それを使うことで解消できたという。その5代目は2010年9月に発売。「牛すじ入り」と「つみれ入り」の2規格に戻し、加えて「さつまあげ」を2個から1個に減らし、逆に「うずら卵」を1個から2個に増やした。

「さつまあげを減らしたのは、2個入っていても多いかなという理由です。うずら卵を増やしたのは、2つでもいいかなと思ったのと、うちの主力商品ですので(笑)」
同時に、鰹節系の調味料も変更した。風味を増強させて、抗酸化作用を高めたのだ。おでんや調味料を缶に入れた後に加熱殺菌するが、この際には缶の空気を抜いて真空状態にする。しかし、わずかに酸素が残っていて内容物が酸化すると、風味が劣化する場合もあるという。そこで、もともと抗酸化作用のある鰹節で工夫をしたのだ。

おでん缶
おでん缶

品質検査を行っている缶詰の材料

つくって終わりではなく、「賞味期限」との闘いが続く

おでん缶
おでん缶

その後、中身は変えずに3年間の常温保存ができる「災害・備蓄用」が、今年8月には5年間の「長期保存」が発売された。ただ、5年へと保存期間を延ばしたことで、新たな問題も出てきた。
「乾パンや水などは別にして、缶詰の賞味期限は3年が一般的。5年はかなり長めです。内容物もそうですが缶の保証が普通は3年なんです。ですので、5年用の開発に当たっては製缶会社ではなく、自社で缶のテストと検証を繰り返しました」

内容物については「さつまあげ」が大きな課題になった。5年後を想定したテストでは、さつまあげに弾力がなくなり、食感が悪くなってしまったのだ。そこで練り込む材料に新しいものを加えて、アミノ酸の結合を強化させ、もともとの弾力を強くした。
「このため、加熱殺菌する前のさつまあげはかなり硬くなりました。味はともかく、ちょっと食べにくいかも」

また、開発で苦労するのは、缶詰の宿命とも呼べる「賞味期限」だという。1カ月後には問題なくても、3年後、5年後の変化を確認しなければいけないからだ。高温機に入れてテストするのだが、「温度が10度上がると化学反応は2倍になる」という計算式からテストの期間を考えるという。
「1年くらいは置きますね。テストがうまくいかなければ、ほかの材料に置き換えるなどして作り直します。材料自体は問題なくても色や匂いが変わったらダメですし、おでん缶は内面に塗装してあるので、ここもチェックします。製缶会社に頼んで分析してもらうこともあります」

加熱殺菌の熱がおでんを変える、ぎんなんは使えない……

カレー味、洋風味、味噌味など、おでんの味付けを検討中

今後のおでん缶について市古氏は、さらなる備蓄用の開発を考えており、新しい味付けのテストもしているという。その味は、カレー、洋風、味噌などだそうだ。開発の壁となっているのが、保存期間の長い缶詰に欠かせない「加熱殺菌」。

大型の殺菌装置の中に缶詰を並べて、蒸気を当てるなどして温度を上げ、缶の中の細菌を殺す。いくらおいしい食品をつくっても、この熱処理で味が変わってしまうのだそうだ。
一方、おでん缶では各具材に味付けはせず、注入液(だしのスープ)を入れた後の加熱殺菌で味をしみ込ませているとのこと。大切な製造工程でもあるのだ。

「例えば、濃い味噌を入れると、殺菌後に真っ黒になってしまうんですよ。おでんによく使われる練り物は大丈夫ですが、白菜やキャベツなどの野菜は溶けますし、ホウレン草は緑色が変色してしまいます。だから、使える具材とそうでない具材が出てくるんです。本当はおでん缶に『ぎんなん』を入れたいんですけど、熱に弱いんですよ」

殺菌装置

加熱殺菌を行う殺菌装置

殺菌装置

缶をいくつも並べて入れる、殺菌装置の内部

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