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超こだわりの“一筋メーカー”探訪記 この分野なら任せなさい!

チョコ

チロルチョコ一筋51年!
    小さな1粒に込める世界観

小さくてかわいいチロルチョコ。1962年に誕生してから今年で51年です。定番のチョコも美味しいけれど、次々と生み出される新作もまた楽しみ。バレンタインデーの今日は、そんなチロルチョコの秘密に迫ります。

(取材・文・撮影 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:13.02.14

誕生から半世紀、独自路線で顧客の心をつかむチロルチョコ

1日に10〜20種類の試作品を開発、「まずはつくってみようよ」

チョコ

人気の定番、「ストロベリー」、「コーヒーヌガー」、「ホワイト&クッキー」、「ミルク」

「チロルチョコは1年に20〜30の新商品が出ます。その種類は累計で300種類と公表していますが、実は数えたことがないんです(笑)。パッケージを変えた復刻版などを含めると、確実にもっと多いですね」
こう語るのは5年前に入社し、以降に発売されたほぼすべてのチロルチョコに携わった開発室室長の松嶋祐介氏。チロルチョコには企画・デザインの担当チームが3人、研究・試作の担当チームが3人おり、松嶋氏はこの2つの部署を統括している。
「企画と研究の橋渡し的な立場ですが、どちらかというと試作中心の研究開発職です。1日に10〜20種類の試作品を開発しています。次から次へと考え、つくっていくので、前のものは半分くらい忘れていますね」

同社では市場調査などのマーケティングはしていない。営業担当者が販売先であるコンビニ、スーパー、問屋などの意見をヒアリングする程度だ。こうした顧客の意見と社内から上がった企画が融合されて、試作品がどんどん開発されていく。
ただ、累計300種類以上となると、以前の商品と似たものが出てきそうだが……。
「パッケージを変えて再発売する以外は、以前と同じ商品は出しませんが、社風がポジティブなんですね。既存の商品をベースにして、食材の配合を変えたり、新しい材料を加えるなどは全然OK。『まずはつくって、食べてみようよ』という考え方です」

3つ山の初代チョコから1粒にシフト、思わぬ課題はバーコード

チロルチョコ

チロルチョコ株式会社
開発室 室長
松嶋祐介氏

チロルチョコの定番といえば「コーヒーヌガー」、「ミルク」、「ストロベリー」、「ホワイト&クッキー」など。大ヒットしたのは「きなこもち」で、今年で10年目となる人気商品だ。冬場限定発売で主に10月〜翌年1月に生産するが、年間ではなく期間で見ればダントツの出荷数になるという。
このチロルチョコ、1962年の発売当初は横に長く、正方形のチョコが3つあった。1個10円の低価格で人気となったが、オイルショックにより20円、30円と値上げを余儀なくされると、しだいに売れ行きが落ちていった。顧客の多くが、少ない小遣いを握って駄菓子屋に来る子供たちだったからだ。
そこで1979年に3つ山を「1個売り」にして、値段を10円に戻し、新商品として「コーヒーヌガー」を発売した。パッケージデザインも一新したこのチョコは売れた。

その後、「アーモンド」や「ビスケット」などの種類を発売し、販路の拡大も目指す。減少していた駄菓子屋と対照的に、台頭著しかったコンビニに売り込みを掛けたのだ。この試みは成功し、同社の名を全国的に広めるのだが、問題もあった。チロルチョコは約2.5cm角、このサイズではバーコードが印刷できなかったのだ。
「そこで、バーコードに合わせた約3cm角へと大きくして、価格を20円にしました。ただ、従来のサイズのものもつくっています。数種類が入った『アソート品』の中身は約2.5cm角です」
ちなみに、「コーヒーヌガー」は西日本でよく売れ、関東、特に首都圏では「きなこもち」が人気だという。

半年先の新商品を企画、2月は「ホワイトマシュマロ」を発売

素材を集めて試作を繰り返し、「可食部分」を食べまくる

試作はどのように行われるのか。前述のようにチームでアイデアを出したり、顧客の声を参考にするなどして、最初にテーマを決める。デザインが先行して、「こんなパッケージを思いついた」などの発想から始まる場合もあるという。
テーマを決めるのは基本的に発売の半年前で、季節に合わせて考えることも多い。現在なら秋口の発売になるので、旬の味覚の「栗」や「さつまいも」といったアイデアになる。

「テーマが決まると味や食感を考えますが、経験があるので材料は思い浮かびます。ただ、素材をチョコに練り込むかセンターに入れるか、ペーストにするかパウダーを使うか、材料の配合をどうするかなど、選択肢はとても多いんです」
ある程度アイデアが固まったら、材料メーカーからサンプルを調達。それぞれを単品で味わい、「美味しいかどうか」でスクリーニングする。こうして選んだ材料を使って、組み合わせて、試作を繰り返していく。

「パッケージや包装紙ではない食べる部分を、社内では『可食部分』と呼んでいます。試作で出来上がったチョコ、ビスケット、ヌガー、マシュマロなどの具材ですね。ここを食べて良し悪しを判断します。いつも考えているのは新しい味、新しい食感です」
企画から試作品の完成までが2週間程度、その後は材料や味を何度も変え、いくつものパターンでベストを探る。チームメンバー以外の社員に意見を聞いてつくり直すこともあれば、コンビニなどの担当者に食べてもらって判断する場合もあるという。

最終的に新商品が決まるまでに約2週間、商品によってはもっと長い場合もあるそうだ。もちろん、この過程でボツになるものもある。
「試作品を20〜30種類つくっても商品化に結びつかない場合がある一方で、10〜20種類で新商品となるものもあります。何とも難しいところです」

チョコ

種類がいっぱい、チロルチョコ!

チョコ

試作室で材料を練る女性社員

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左が約2.5cm角、右が約3cm角

新商品「ホワイトマシュマロ」のヒミツは、甘さ抑えめ

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2月18日に発売予定の「ホワイトマシュマロ」(9個入り)

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3種類の「ホワイトマシュマロ」

2月18日に発売予定なのが「ホワイトマシュマロ」(9個入り)だ。この新商品の企画は昨年の夏前から始まったという。
「ホワイトデーに合わせて考えました。白ということでホワイトチョコレートにする案も出たのですが、最終的にマシュマロを使うことに決まりました。春先なので桜をイメージした『チェリーチョコ』という案も出ましたが、ちょっとキワモノだろうと(笑)」
味は「ココア」、「キャラメル」、「イチゴ」の3種。これらの素材をチョコに練り込み、センターにはマシュマロを置き、それぞれの味のジャムを内部に入れた。

「チョコもマシュマロもジャムも甘いので、甘さで味が重たくならないように組成を変えました。イチゴは酸味を強くして甘さを抑え、キャラメルは香料の苦味を強くするなどです。目指したのは『万人に楽しんでもらえる味』です」
7月に企画が固まって試作に入り、形となったのが9月。次が量産化の工程だが、その前にコンビニなどの顧客と打ち合わせ、各社の発注数から初回の生産量を決める。これが発売の4カ月ほど前のことで、その後の生産計画には1カ月かかる場合もあるという。生産量は商品によりさまざまだが、何十万個、何百万個単位で、「きなこもち」は1シーズンで「一億粒」つくったこともあるとか。

「生産工場は福岡県田川市にあります。私は月に1〜2回は工場へ行き、製造ラインの立ち会い、テスト生産、初回生産の立ち上げなどに参加します。新しい製造設備を導入する場合もありますね。新しい食感を出すための充填機などですが、導入の可否は売れ行きの見込みとコストを考えて決めます」

小さなチョコの中に込める、開発者の「世界観」や「こだわり」

最初の開発は「ホットケーキ味」、残念なのは「キャラメルナッツ」

松嶋氏は大学農学部で農芸化学を専攻し、研究室は食品系。卒業後は興味があった菓子メーカーに入社した。1年目から開発チームに配属され、キャンディやグミの食品開発に9年間携わる。そして、5年前にチロルチョコに転職。入社後まもなく担当した「ホットケーキ」には今でも強い思い入れがあるという。こだわったのは「味の再現」だった。

「ホットケーキの要素を分解すると、パンケーキ、その上に載せるバター、ハチミツやメープルなどのシロップになります。そこでバターの味をチョコに練り込み、中にメープルソースを入れました。センターにはパンケーキの食感を出すビスケット、その下はバターとメープル味を合わせたチョコにしました」
これらの味や食感を合わせて総合的な「ホットケーキ味」を出したのだが、社内からは「バターが濃い」「メープルが甘い」など意見が出て、試行錯誤しながら発売まで数カ月がかかったという。この商品は現在、アソート品の「ミックス」などの中に含まれている。

一方では、頑張って開発し、売れると思ったにもかかわらず、イマイチに終わった商品もある。例えば「キャラメルナッツ」。
「キャラメルもナッツも売れ筋のスタンダード。キャラメルはペーストに、ピーナッツはクランチにして、ビスケットを加えました。美味しそうでしょ(笑)。盛りだくさんで食べてもらおうと思いました」

だが、ほかの種類より売れなかったという。「CARAMEL NUTS」と商品名を英語表記にしたために、瞬時には内容が伝わらなかった。こんな理由も考えられたが、売れ行きは季節や気候など多くの要素に左右されるので、決定的な原因はわからないもの。

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松嶋氏の思いがこもった「ホットケーキ」

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「ホットケーキ」の断面

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「キャラメルナッツ」

小さなチョコの中に込める、開発者の「世界観」や「こだわり」

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色々な種類が詰まった「ミックス」(アソート品)

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初代チロルチョコを復刻させた「ミルクヌガー」

現在、「キャラメルナッツ」は生産を縮小しており、商品によっては終了するものも少なくない。それはすべての商品に当てはまる。コンビニなどの売り場スペースは小さいので、自然と定番商品+新商品が置かれるようになる。3〜4カ月単位で新商品が出るため、「きなこもち」のような大ヒット商品でない限りは、新作に置き換えられる運命なのだ。

「ただ、売り上げが好調だった商品は、パッケージを変えて再発売したり、違う形でバージョンアップさせたりします。あるいは、一粒ではなくアソート品の中に含めるなどです」
松嶋氏がチロルチョコに転職した理由は、小さな一粒の中に無限の組み合わせがあり、多彩な味のバリエーションがつくれること。狭くて小さなチョコの中に込める、開発者の世界観やこだわりに惹かれたという。

「もうアイデアは枯渇していますが(笑)、これからも新しい味、今までにない味をつくりたいですね。どこにでもあるものではない、『チロルらしい味』のチョコです」

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