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『ソフトウェアの世界でキャリアを築く』インタビュー【前編】

「ミーハー」も成長の糧になる
 ジンガジャパン松原氏

ジンガジャパン株式会社・代表取締役社長CEOである松原健二氏のロングインタビュー。自身のキャリアを振り返りながら、日本人がソフトウェアの世界でキャリアを築くために重要な要素を語ってもらう。

(取材・文 吉平健治/構成 Tech総研編集部) 作成日:12.07.04

西海岸でヒトと環境に魅力を感じた 「一度はアメリカの会社で働いてみたい」

―今日はどうぞよろしくお願いします。
はじめに、松原さんがソフトウェアの世界に入ったきっかけを教えていただけますか。

松原さん: まず、大学院を卒業後、日立に11年間勤め、メインフレームとスーパーコンピュータのハードウェアを開発してきました。そしてMITのビジネススクールに留学しMBAを取得した後、オラクルに入社しました。このオラクルへの転職がソフトウェアの世界に入ったきっかけになります。

 
オラクルを選ばれた理由はなんだったんでしょう?
 
松原さん: そうですね、ソフトウェア業界に入ることを積極的に希望して転職したというよりは、アメリカの会社で働きたい、せっかく学んだ英語ベースのビジネススキルを活かしたい、という目的もあってオラクルを選びました。ですから、ソフトウェア業界に入ったのは、どちらかというと消去法的な選び方だったかもしれませんね。
 
なるほど。「消去法的」というのはちょっと意外ですね。では、松原さんのこれまでのキャリアの転換点をおうかがいしたいのですが……。ご自身のこれまでを振り返って、大きな変化のきっかけや機会はありますか?
 
松原さん: 2011年の5月にジンガジャパンの社長に就任しましたが、日本の会社からアメリカの会社、また日本の会社、そしてまたアメリカの会社と、これで4つ目の会社に勤めることになります。
 
アメリカの会社で働きたいと思ったきっかけは、日立時代に仕事で参加したHot Chipsという学会でした。当時私はメインフレームやスーパーコンピュータのハードウェアを設計・開発していたわけですが、仕事の関係でマイクロプロセッサ分野の最高峰の学会に参加する機会があり、学会を通じてアメリカなど世界の研究者や大学の人たちと触れ合うことができました。また、HP社と一緒に仕事をし、数ヶ月間アメリカに滞在する機会もあり、そのころに、アメリカ西海岸の雰囲気や文化に非常に魅力を感じるようになっていたのです。
 
西海岸特有の雰囲気や文化というのは、いったいなんどんなものでしょうか?
 
松原さん: はい、仕事に取り組む姿勢や働く環境などに非常に魅力を感じました。従業員はもちろん会社のために働くわけですが、その中にも切磋琢磨して自分の技術を向上させる個人の実力主義の考え方がありました。
 
当時の日本の大企業とは異なり、会社同士が合併したりと、業界内の労働市場にも流動性があります。自分にとって、こういった文化の違いは大変刺激的でした。それで、人生で一度はアメリカの会社で働いてみたいと思ったのです。このきっかけが1992年のことで、その直後からMBA留学のための受験勉強を始め、1995年には何とかMITのビジネススクール、スローンに合格することができました。この92年は人生でも転機となる出来事があった年でした。学会に参加させてくれた日立の上司たちには今でも感謝しています。

ゲーム事業、CEDEC――「制約の中でベストを尽くす」が、成功のカギ

―松原さんの、ソフトウェア業界における一番の功績や貢献といったら何でしょうか?
 
松原さん: オラクルのときにしていた仕事は、日本とアメリカの間のリエゾン(連絡役)が中心だったので、個人としての功績はあまりないと思っています。自分の功績を挙げるのはやや気がひけますが、コーエーに入社し、オンラインゲーム事業を立ち上げたことでしょうか。当時はまだ、日本のオンラインゲームは黎明期で、この時期にその事業を立ち上げたのは、ゲーム業界へ貢献をしたと思っています。国内だけでなくアジアへもオンラインゲーム事業を展開することができました。自分にとっては意外なことでしたが、コーエーの社長に就いたのも、この事業を育てた結果だと思っています。
 
―企業の外での業界への貢献といえば、ご自身ではなにが思い浮かぶでしょうか?
 
松原さん: 社外における貢献としては、ゲーム開発者カンファレンスCEDECの責任者になったことがあります。CEDECというイベントは1989年に誕生していたので、私自身が設立したわけではありません。しかし、当時ボランティアベースだったコミュニティを、もう一段上のレベルの組織としてまとめ上げたことは、私の仕事になるかと考えています。
 
1,000人程度の規模の参加者が、2010年には5,000人規模にまで広がりました。ゲーム開発者が集う場としては、日本国内では最大、世界で見ても2番目の大きさになります。昔は会場として大学の教室を借りていたので、どうしても150人程度の講演が中心でしたが、最近は大規模な施設を持つパシフィコ横浜へ移り、また同時通訳、ネット中継をするなど、CEDECを発展させました。社外の活動としては一番大きなイノベーションを起こせたと思っています。
 
―松原さんが「成功した」と自分自身で感じられるのは、どういうときですか?
 
松原さん: いや、成功したなどというのはおこがましいですね。まだまだ成長の余地があります。もちろん、26年ほどプロとして仕事してきて、失敗の経験もたくさんあります。周りからのサポートがなければここまでやってこられませんでした。仮に成功したといえるならば、その原因の一つに、制約の中で私なりのベストを尽くしてきたことはあります。それに周りからの助けや運などが組み合わさって、結果を残してこられたのだと思っています。
 
―なるほど……。では、そのベストを尽くされたご経験の中で、印象的なものを具体的に教えていただけないでしょうか? 
 
松原さん: 日立時代のハードウェア分野の仕事でのことですが、自分なりにベストを尽くした経験があります。メインフレームでは、顧客企業の過去のプログラム財産を生かすために、昔のプログラムが動作するよう互換性を維持しています。その一つにプログラムがプログラム自身を書き換える機能があります。メモリがわずか数十KBだったころの名残ですね。
 
1980年代後半にそんなプログラムを書くことは、もはやありえませんでした。しかしメインフレームのビジネスでは、過去のプログラムをより高速に処理することが欠かせません。私は以前のハードウェア処理を見直し、新しい処理へと修正し、競合他社に優る結果を出せました。まさに自己満足の世界の話ですが、若い自分なりに一心不乱で頑張って開発したのを覚えています。
 
―先ほど挙げていらっしゃったオンラインゲームについては、どのように振り返っていらっしゃいますか? 
 
松原さん: オンラインゲームに関しては、最初に担当したタイトルのサービス開始が2003年の6月ですから、今年で9年になります。これだけ長期間にわたり多くのユーザに遊んでもらえるゲームのプロデューサーを務めることができたのは、大変幸せなことだと思っています。このような実績に関しては、立ち上げ当時に「成功した」などという実感を得ることはできません。時間をかけ、今になって振り返ってみて初めて、大きなことができたのではないかと感じています。

エンジニアの活躍のために――企業や大学で、チャレンジと失敗を許す制度設計を

―この業界で、何か気に入らなかったり、不満に思っていることはありますか?
 
松原さん: そうですね、この業界でも、日本人はもっともっと実力をアピールしてもよいのではないかと思っています。日本人も素晴らしい仕事をしているのですが、その内容や結果が世界の目に触れられていません。しかし、この業界で何十年も活躍されている方はたくさんいます。そういった方の世界的なプレゼンスがもっと高くなってもいいはずです。このように隠れて頑張るところも日本人の良さなのかもしれませんが……。
 
―では、日本人がソフトウェア業界で世界的に活躍するためには、何が必要でしょう?
 
松原さん: こうなってしまっている原因の一つには、個人のアピール力の問題がありますが、本質的な原因は、周りの組織やシステムが不十分でしっかりサポートできていないことにあると思っています。世界を見ると、優秀な個人が活躍できる仕組みが整っている環境がたくさんあります。特にアメリカでは評価システムがしっかり整っていて、金銭的な面を含めて個人のサポートが大変効果的に実行できるようになっています。
 
またアメリカでは、新しいことへのチャレンジを後押しする力と失敗に対する寛容さが、文化だけではなくシステムや制度として組み込まれています。七転び八起きできるのがアメリカです。日本だと、チャレンジしようと手をあげても、それを生かす十分な機会がなかなか得られない。特に大企業では社内で一度転んでしまうと、若いときならいざしらず、その組織の中で立ち上がって再度チャンスを得るのは大変難しいことです。
 
―失敗が許されないから、チャレンジもしにくい、ということですね。
 
松原さん: そうです。ソフトウェアのように変化の速い産業においては、これは大きな問題です。チャレンジをしようとする人に対して、業務に専念できるよう他の作業をサポートしたり、初期段階から資金を提供したりする仕組み、さらに大学など、改善できる要素はたくさんあります。ただ、一朝一夕で結果を確かめられるようなことではないので、全体の状況を正しく理解している人が少しずつ新しいイノベーションを起こして切り開いていくしか方法はないのかもしれないとも思っています。
 

技術トレンドに敏感でいるには「ミーハーさ」と「情報の取捨選択」が大切

―現在、技術分野の情報は世の中に溢れ返っています。
その中で、最新の技術トレンドや最先端のイノベーションをどのように追っていますか?
 
松原さん: すべての技術を一人で追うのは厳しいでしょう。ただ技術トレンドに敏感でいるために、私個人としてはミーハーであることが重要だと思います。私は新しいものが大好きなミーハーなので、面白い技術を意識せずに自然と身につけられたと思っています。
 
例えば私が大学生のときは、コンピュータの利用環境は今ほど整っていなかったのですが、そのような中、「UNIX」と聞いただけで、その新しいものに飛びついていったものです。何か面白そうだと思ったら、まず手を動かしてやってみるという性格で、自然と新しいものを身につけていく習慣がありました。それを苦痛に思ったことはありません。
 
―とはいえ、情報のあまりの多さに指針を見失いがちなエンジニアも多いと思うのですが、なにかアドバイスはありますか?
 
松原さん: 情報収集に関して気を付けなくてはいけないのは、やはり取捨選択だと思います。私だけの判断では間違った選択をしている可能性が多分にあります。ですので、友人の助言や、信頼のおけるニュースソースに直接接するようにしています。
 
情報の洪水に溺れてはいけません。情報が耳に入ってくるだけで、単なる知識の中に埋もれてしまう状態は避けなくてはいけません。自分で頭を使って考え、優先順位を付けて判断をするのです。もちろん、選択の仕方は個人の経験を通してしか習得できないので、努力の積み重ねが大切です。私自身もいまだに選択を間違えることがあります。

書籍『ソフトウェアの世界でキャリアを築く』


*このインタビューは書籍『ソフトウェアの世界でキャリアを築く』(Sam Lightstone著・吉平健治訳・オーム社刊)に収録されている吉平氏によるインタビューを、Tech総研編集部が再構成したものです。
 
若手から中堅まで、ソフトウェアのプロフェッショナルを目指すすべての方におすすめできる、『ソフトウェアの世界でキャリアを築く』の詳細はこちらです。
http://ssl.ohmsha.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=978-4-274-06881-2

松原健二氏プロフィール

1962年2月16日生まれ

現職 ジンガジャパン株式会社代表取締役社長CEO
経歴 1986年、東京大学大学院情報工学修士を修了し、(株)日立製作所に入社、メインフレームおよびスーパーコンピュータのCPU開発に参画し、パイプライン処理、キャッシュ制御を担当した。この間、HP社と共同でマイクロプロセッサを開発し、シリコンバレーの雰囲気に接する。
1997年日本オラクル(株)に入社後、米国本社と連携しながらRDBおよびDBツールの開発に関わった。この間、2000年問題担当など営業支援活動も担当した。
2001年(株)コーエーに入社、国内黎明期にあったオンラインゲームおよびモバイルゲーム事業を育てた。2007年に代表取締役社長に就任。2009年にテクモ株式会社との経営統合により発足したコーエーテクモホールディングス(株)および(株)コーエーテクモゲームスの代表取締役社長を務め、2010年11月に退任。
2011年3月ジンガジャパン(株)入社、5月代表取締役社長CEO就任。
その他、CEDEC(日本最大のゲーム開発者カンファレンス)運営委員長、現フェロー
趣味 週1、2回の水泳(ゆっくり1km)、ゲーム(ソーシャルゲーム:CityVille、アクションアドベンチャー:ゼルダの伝説、Unchartedがお気に入り)

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