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急速に進むサイバーエージェントのスマートフォン対応。その背景にはエンジニアやクリエイターたちの柔軟な技術対応力があった。スマートフォンという未知の領域を突っ走った、彼らの1年を振り返る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:12.01.11
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サイバーエージェントの主力事業である「Ameba」関連事業。会員数約1800万人(2011年9月時点)を誇る国内有数のコミュニケーションサービス「Ameba」はブログを基盤として、アバターコミュニティ「アメーバピグ」やミニブログサービス「アメーバなう」など関連サービスが次々とヒットを生んでいる。2011年は「スマートフォン元年」として重要な意味を持つ1年だったが、サイバーエージェントでも、この「Ameba」をスマートフォン市場にいかに迅速・的確に対応させるかが大きな技術的課題となった。
アメーバ事業本部 スマートフォンディビジョン Webディベロッパー 原 一成氏 |
同社が重点を置いたのは2つの技術領域だ。一つは、これまでは主にPCやフィーチャーフォン向けに提供していた「Ameba」を、スマートフォンブラウザ対応すること。もう一つは、iOS、Androidなどのスマートフォン向けのネイティブアプリを独自に新規サービスとして提供していくことだ。前者のスマートフォンブラウザ対応については、HTML5、CSS3、JavaScriptなどの技術が欠かせない。
「HTML5が社内で話題になったのは、2009年頃です。興味のある技術者を集めて社内初のHTML5勉強合宿を開催しました。新技術へのアンテナや成長意欲が高いメンバーが多く、みんなで切磋琢磨して勉強をしていたため、HTML5の習得は早かったと思います」 「学生時代からHTMLが好きで、その表現の可能性を追求してきました。Flashはあまり詳しくないのですが、HTML5で表現力が豊かになって、Flashと同等、それ以上のものが表現できるようになったのは、個人的にも嬉しいです。Flashディベロッパーは表現に対するセンス、スキルの高い人が多いため、協業しながら、HTML5にもうまく取り込みより面白いWebを作っていこうと思います」(原氏) |
FlashとHTMLは本来、拮抗するものではなく、協調していくものだ。しかし、スマートフォン市場の拡大に伴い、さまざまな制約が出てきた。iOSではFlashは動作せず、AndroidでもOSバージョンによってFlashへの対応はまちまちだ。そのため、スマートフォン向けのサービスではFlashコードを書き換えなければならない。具体的には、FlashアプリのうちActionScriptで書かれた部分をJavaScriptに置き換え、さらに全体の見た目をHTML5やCSS3に置き換える。
「『アメーバピグ』のクライアントサイドはFlashで動作しているため、スマートフォン市場への展開においては、それをいかに効率的に変換するかが鍵になります。社内のエンジニアでWikiベースの情報交換のためのサイトを作って、日々のTipsをそこに溜め込んでいきました」
むろんひとつひとつのコードを手作業で書き換えるのは大変な仕事。Flashのコードを、CSS3などに自動変換するツールは、アドビシステムズ公認のものも含めていくつかあるが、それらを試しながら、原氏らは自社開発の変換エンジンを作成中だ。しかし、コードを書き換えれば、PC版とスマートフォン版が全く同じように動くわけではない。UIやユーザーエクスペリエンス(UX)の細かい襞(ひだ)は、単なるコード変換だけでは伝わらないものがある。インターフェイスの精度を高めるためには、そもそも変換する部分を少なくするという工夫も必要になる。また、異なる描画方法を選択するというのも有効な手段である。
スマートフォンにとっては、アルファチャンネルを含む画像はデータ量が膨大で、CSSで表現しようとすると、表示毎に毎回計算され、パフォーマンスが極端に落ちることがあり問題になっていた。それらを画像やCanvas(JavaScriptを使って動的に描画するための仕様)に置き換えるというのも、Tipsの一つだ。
「スマートフォンのUIに対応させるためには、本当は変換ツールに頼らず、手動で最初から書き直したほうがいいため、そのようにしている部分もあります。ただ、対応を急がなければならないゲームなどはツールの助けも借ります。このあたりはケース・バイ・ケースです」と、原氏はスマートフォン対応の悩ましい部分を語る。
原氏は、もう一つの技術領域、iOS、Androidなどのスマートフォン向けのネイティブアプリ・ハイブリッドアプリの開発にも関与しつつ、現在は「Ameba」の新しいサービスづくりにも関わる。これまでのPC・フィーチャーフォン向けのサービスの移植ではない。スマートフォンに特化した新しいサービスだと言う。
「詳しいことはこれからですが、スマートフォンに合った機能を盛りこんでいきたいです」
まだ入社4年目ながら、原氏はいまや社内のスマートフォン技術に関する勉強会を自ら主宰する立場だ。社内のマークアップエンジニアやFlashディベロッパーなどが、HTML5などの新しいスマートフォン技術を学ぶ絶好の場になっている。「社外に向けてやっても決して見劣りしないレベルがあります」と自負する。スマートフォン市場の成長と軌を一にしたような、瞬く間のエンジニアスキルの成長。そうしたシーンは、サイバーエージェントではよく見かけるものである。
アメーバ事業本部の切通伸人氏は、「アメーバピグ」をiOS、Androidで楽しむためのネイティブアプリ開発と、そのサーバサイドの技術実装に関わるエンジニア。「もともとはプログラマでもFlashディベロッパーでもありませんでした」と語る切通氏の最初のキャリアは、アニメーション制作会社での3DCGのグラフィック制作。Flash全盛の時代はWebアニメを作成。職種はクリエイターであり、プログラマではなかった。Javaでプログラムを書くようになったのは2004年からである。
「技術や経験があるからその仕事に就いたというより、仕事を通してその技術を磨いてきたという繰り返しですね。プロジェクトの度に一つひとつスキルを積み重ねてきました」
アメーバ事業本部 システムディベロップメントグループ プログラマー 切通 伸人氏 |
切通氏は多くのプロジェクトに関わっているため、ここの話題は、「アメーバピグ」のスマートフォン版のネイティブアプリの開発に特化しよう。「アメーバピグ」のAndroid版ネイティブアプリは2010年にβ版としてリリースされ、AIR for Androidの先駆けとして注目された。iOSへの展開も試みたが、制約が多いことから、「アメーバピグ」のスマートフォン対応は別の切り口から挑戦することとなった。その経験を経て切通氏がいま開発に取り組むのは「ピグトーク(仮称)」。2012年初頭にリリースされる予定だ。ハイブリッドタイプのアプリだが、一般的なハイブリッドタイプではなく、サイバーエージェント独自の開発手法となる。 iOS、Android両対応のネイティブアプリだが、PCの「アメーバピグ」がよりリアルタイムに近い同期コミュニケーションをサービスの中心に据えているのに対して、スマートフォン版は非同期コミュニケーションを重視しているという。スマートフォンユーザーは、長時間楽しむというより、手が空いたり回線がつながったときに、自由に「アメーバピグ」を楽しむ。非同期は苦にならない。これは、最初のAndroidアプリの経験から導き出したユーザー行動の特徴だという。
スマートフォンでも動作の遅さが気にならないように、キャッシュの効率的活用も重要なポイントだ。 |
スマートフォン版では「後ろ向きの画像情報を無くした」というのも大胆な試み。アメーバピグの中でアバターが活き活きと動くためには、後ろ姿の絵の情報も重要なのだが、キャッシュ容量や通信スピードが限定されるスマートフォンでは、それがネックになることもある。あえて後ろ姿をカットして容量を落とした。
「画像は重要ですが、後ろ姿がなくても二次元画像としては十分楽しめるはず。スマートフォンではむしろコミュニケーションを楽しむという利用がメイン」と、切通氏はユーザーの行動を分析する。
そもそもスマートフォンアプリを、Webビュー部分とネイティブコードで書かれた部分を合体させた「ハイブリッドタイプ」で製作したのも、キャッシュの扱いにかかわる。Webビューではキャッシュを行わず、キャッシュ情報はすべてネイティブコードで処理するため、通信時の表示の遅延が極力抑えられるのだ。ボタン表示や吹き出しのテキストの部分なども、そのデータはサーバではなく、スマートフォン・デバイスのローカル側に置いている。サーバとの通信負荷を極力減らすことで、より快適なUIを実現している。
ひと口にスマートフォンへの移植と言っても、こんなにも工夫がある。最初のAndroidでの試行錯誤が生かされている。
「ユーザーが本当にやりたいことは何だろうか。アバターそのものというより、アバターを介してつながる友人たちとのコミュニケーションじゃないか。スマートフォン版開発を通して、そのことに改めて気づきました」
と切通氏は振り返る。
「ソーシャルサービスでは、実現したいイメージというのがとても重要だと思います。自分の現在のスキルではできないけれども、こういうことができたら、きっとユーザーは楽しむことができると考えることが必要で、それが自分の成長にもつながります。現状のスキルをベースにして発想すると、途端にサービスは貧弱なものになってしまいます。今もチームのブレーンストーミングでは、デザイナーさんに『技術のことは考えず絵を描いてみて』と、チャレンジを促すようにしています」
プログラミング知らずのクリエイターが、プロジェクトを通して開発言語やスクリプトを覚え、プログラムスキルを蓄えていく。その道のりは決して平坦ではないが、高いモチベーションを持てば、道は開ける。切通氏の例はそんな一つの実例だ。
法政大学経営学部卒。2008年サイバーエージェント入社。フロントエンドのエンジニアとして、「Ameba」「アメーバピグ」のスマートフォン対応に取り組む。
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アニメ製作会社を経て、2005年からサイバーエージェントで就業。「Ameba」の各種機能の開発を経て、現在は、「アメーバピグ」のスマートフォン版のアプリとサーバサイドの両方を担当する。
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