• はてなブックマークに追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
今年はスマホ元年。Web対応とネイティブアプリの開発を急展開!
サイバーエージェント長瀬氏が明かすスマホ開発戦略
2011年をスマートフォン元年ととらえ、スマートフォン向け開発を急速に進めるサイバーエージェント。同社の技術推進本部本部長、長瀬慶重氏に社内製作スマートフォンのネイティブアプリの開発をはじめとした開発戦略を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:11.05.30
この1年が勝負をわける。スマートフォン市場での存在感を示す
長瀬 慶重氏
株式会社サイバーエ一ジェント
技術推進本部本部長
アメーバ事業本部 ゼネラルマネージャー

長瀬 慶重氏

「2011年はスマートフォン元年。現在、広告、サービス、アプリ開発の全面でスマートフォンへのシフトを猛スピードで進めているところです」
 と語るのは、サイバーエージェントの技術推進本部本部長、長瀬慶重氏だ。アメーバ事業本部のゼネラルマネージャーも兼ね、同社のスマートフォン対応の陣頭指揮を執る。

 この4月にも広告関連事業で、同社のスマートフォン対応が急ピッチで進んでいることを示す、いくつかのプレスリリースがあった。一つは、同社の子会社である株式会社CAリワードが、スマートフォン向けリワード広告商品の提供を開始したこと。また、株式会社ディー・エヌ・エーとスマートフォンのアドネットワークの分野で事業提携し、4月には合弁会社「株式会社AMoAd」を設立した。

 広告事業のスマートフォン対応を急ぐ背景には、もちろん国内における携帯電話の総出荷台数に占める割合の増加と、それに伴うスマートフォンアプリ市場の拡大がある。同社のコミュニケーションサービス「Ameba」へのスマートフォン経由のアクセス数は月間約9億PVに達し、その伸びは拡大している。これまで培った、フィーチャーフォン向けのサービス実績やノウハウを活かして、スマートフォン向けアプリケーション事業の強化も進む。昨年には、「株式会社アプリボット」「株式会社ポットタップ」などのアプリ開発子会社などを次々に設立している。

 スマートフォン市場は、これまでのフィーチャーフォンとは違い、グローバルにマーケットが広がっているのが特徴だが、米国西海岸に置かれたサイバーエージェント・アメリカは、海外ユーザーを意識したスマートフォン向けのサービスやアプリを開発している。すでにアプリランキングで上位にランクインするヒット作も生まれているという。
「この1年間にスマートフォン市場の波に乗れるかどうかは、サイバーエージェントの今後5年間の事業を担う鍵になると言っても過言ではない。どれだけユーザーに対して存在感やインパクトを与えられるか、私たちも必死です」と、長瀬氏は語る。

ネイティブアプリ開発は、チャレンジングな領域

 サイバーエージェントのスマートフォン対応で、重点を置くのは2つの技術領域だ。一つは、これまでは主にPCやフィーチャーフォン向けに提供していた「Ameba」などの各種Webサービスを、スマートフォンブラウザからもきちんと利用できるようにすること。もう一つは、iPhone、Androidなどのスマートフォン向けのネイティブアプリを独自に新規サービスとして提供していくことだ。

 前者のスマートフォンブラウザ対応については、HTML5、CSS3、Javascriptなどの技術が欠かせない。
「これまでPC、フィーチャーフォン向けに開発してきた社内のエンジニアも、新しい技術要素への関心は高いし、技術スキルも蓄積されています。これらのエンジニアはスマートフォン開発を通じ、さらに経験を積んでもらっています。もちろん、エンジニアの中途採用を通して、この領域の技術をもっと厚くすることも大きな課題です」(長瀬氏)

 HTML5やJavascript開発者の中途採用戦略では面白い取り組みを始めている。モバイルサービスの企画・開発を行う株式会社カヤックと共同で、Webクリエイターやエンジニアのブログラミングコンテストを行い、ユニークな人材の発掘を始めたのだ。昨年12月から今年にかけて開催された、「SPEC - Flash and HTML5 -」がその一例。この4月に、サイバーエージェントは株式会社カヤックに1億円の出資を行っており、こうした共同のイベントは今後も様々な形で展開されそうだ。

 もう一つのネイティブアプリ開発は、サイバーエージェントにとってチャレンジングな領域である。開発言語一つとっても、iPhoneであれば「Objective-C+Xcode」、Androidであれば「Java+Eclipse」というのが、プラットフォーム側が推奨する開発環境。ここから大きく外れるわけにはいかない。PCでのWebアプリ開発などに比べると、開発技術の選択自由度は低いと言われる。

「私たちは元々Webアプリのエンジニア集団なので、一つのブログラムをクライアントアプリケーションのパッケージとして提供することにはあまり行っていません」と、長瀬氏は開発環境の違いを指摘する。

 そのため、現在ネイティブアプリ開発を内製で進めるために、いま大胆な技術シフトを行っている。
「例えば、これまでWebアプリを開発していたエンジニアやクリエイターの多くを、スマートフォンのネイティブアプリ開発にあてています。現在、アプリを開発するラインは10本、1ラインあたり5名程度のチームがネイティブアプリ開発に携わっています。元々スキルの高いエンジニアたちですから、1〜2本作れば、ネイティブアプリ開発に慣れてくる。その力が、今後のスマートフォン対応の母体になるはずです」

 もちろん、アプリの数が10ですむはずもない。長瀬氏は4月27日に東京・お台場で開かれたカンファレンス「スマートフォン2011春」で、「2012年までの1年間で、スマートフォン向けの自社アプリを100本開発する」ことを宣言しているからだ。年内に100本の社内製作アプリ開発。その目的を達成するために、とうてい自社内の技術シフトだけでは足りない。外部からエンジニアを中途採用することが必須になる。

 ちなみに、このカンファレンスでは、サイバーエージェントのスマートフォン戦略の重要ポイントがいくつか語られた。コミュニティプラットフォーム「AmebaSP」(Ameba Smartphone Platform)を構築し、オープン化することや、Android向けの独自アプリケーション・マーケット「AppMarket」を構築することもその一つだ。

携帯電話、ゲーム業界のエンジニアに熱い視線

 自社製のスマートフォンのネイティブアプリの開発にあたっては、同社は5つのカテゴリー戦略を立てている。

  • (1) ゲームは最も重要なもの
  • (2) 芸能人ブログとの連携を可能にするエンタテインメント系アプリ
  • (3) チャットのようなソーシャルコミュニケーションサービスに特化したアプリ
  • (4) カメラなどのユーティリティ・アプリ
  • (5) 英語教材などの教育系アプリ

 それらを開発するためには、Objective-CやJavaなどネイティブ言語への深い理解は欠かせない。たとえ効率的な開発ができるツールが用意されていたとしても、ベースの言語についての理解が中途半端だと、開発の主導権を握れないからだ。

 そうした前提の上に立って、エンジニア中途採用の要件について長瀬氏は、こう語る。「スマートフォンのネイティブアプリ開発に特化した人材が、市場にきわめて少ないことはわかっています。そのため、別の市場から採用し、その技術をスマートフォンに転用していくことが必須になる。これまでシビアなメモリ管理など制約事項の強い環境で開発してきた人、たとえばフィーチャーフォンのプリインストールアプリ開発や組込み技術などに携わってきた人、あるいはゲーム業界でパッケージゲームの開発をしてきた人などに来て欲しいと思います」

 昨年から今年にかけての、国内におけるスマートフォンの隆盛は、従来の携帯電話、ゲーム業界にいるエンジニアにもひしひしと伝わっているはずだ。「いま、スマートフォンの流れに乗り換えよう」と考えるエンジニアには、サイバーエージェントが求める人材要件は魅力的に映るに違いない。スマートフォンのネイティブアプリ開発では、OSやデバイスメーカーが推奨する開発環境に一定の縛りがあると前述したが、その反面、まだ発展途上の分野だけに、エンジニアの創造性が大いに期待されていることも事実だ。

「iPhoneではObjectiv-Cが標準の開発言語となっていますが、それ以外にもTitaniumという技術やUnityといったオープンソースのゲームエンジンを利用して書くことも可能です。実は選択肢はたくさんあって、一つのものに収斂するまでにはしばらく混沌とした状況が続くと思います」  と長瀬氏は言う。

 長瀬氏によれば、TitaniumはJavascriptの開発者がスマートフォンアプリ開発に移行するのに役立つツール。ただし、動きのスピードが速いゲーム開発にはあまり向かない。一方で、Unityはワンソースで、プレイステーションやAndroidなど複数OS向けにゲームを開発できるのが利点で、今後スマートフォンアプリのゲームを作るには欠かせないツールになっていくと見ている。
「実際、我々のチームでいま走り出している10の開発ラインでも、開発ツールはそれぞれ違います。それぞれの開発環境の特性をみながら、エンジニアが何を使いたいかでツールを選択していくことができます。もちろん自己責任が原則ですが、技術の選択にあたっては、エンジニアの自由を広く認めています」

 この自由と自己責任は、実はサイバーエージェントらしさでもある。サイバーエージェントは、トップダウンではなく、エンジニアが裁量を持って、導入する技術や仕様を決めることができる。
「世の中でよいといわれているからそれを選ぶのではなく、まずは自分たちの自己責任で試して、それぞれのツールの特性を理解し、使いわけていく。そうしないとエンジニアのスキルというのは絶対に伸びないと思います」と長瀬氏はいう。

 一見、遠回りのようにみえて、実はその試行錯誤が企業の技術蓄積の上では最も速い近道だというのだ。グローバルなスマートフォン市場への展開にあたっては、海外のプラットフォーム提供企業や技術開発ベンチャーと提携したり、M&Aを積極的に進める企業もある。しかし、サイバーエージェントはそうした戦略を取らない。

「事業の短期的な成長にはそれもありかもしれませんが、自社でエンジニアを育て、自社のカルチャーを大事に成長することが、中長期的には強みになると思います」
 と長瀬氏は、サイバーエージェントの技術戦略のコアにある思想を語るのだった。

全員でゲーム開発状況を“ラッシュ”。社内競争と協業がマーケットの未来を拓く

「Ameba」のスマートフォンアプリ開発チームは昨年4名でスタートし、あっという間に60人規模まで増えた。今後数カ月でさらに100名まで拡大する予定だ。独特なデスクの回りに、プロデューサー、エンジニア、クリエイターが集まりディスカッションしている。プロジェクトメンバーにおける女性の比率が高いのに驚く。一方で、壁にはゲームタイトルごとの星取り表が貼り出され、ダウンロード数が可視化されるようになっている。どのゲームがヒットしているかが一目瞭然なのだ。

「プロジェクトの成果に対しては、そのプロジェクトが責任をもってもらうのは当然ですが、そのプロジェクトの成果物、例えば一つのゲームに対して、他のラインのメンバーを含めて全員がレビューして、フィードバックする仕組みがあります。僕らはそれを映画会社が完成前のフィルムをみんなでレビューする仕組みになぞらえて“ラッシュ”なんて呼んでいます。互いがライバルであると同時に、技術成果をシェアする共同開発者でもある。一握りのカリスマ職人がヒットを出すのではなく、組織全体として次々にヒットを生み出していく仕組みを私は作りたいですね」
 と、長瀬氏は語る。

 技術開発の自由と自己責任。内製主義とスピード。クリエイティビィティと情報共有。これら一見、矛盾するかのように思われる両面を担保しながら、アメーバ状に発展していく組織カルチャー。スマートフォン市場への進出にあたっても、サイバーエージェントらしさは失われないのだ。

株式会社サイバーエ一ジェント 技術部門 執行役員 技術推進本部本部長 アメーバ事業本部 ゼネラルマネージャー 長瀬 慶重氏
大学院を卒業後、大手ソフトウェア会社に就職。大手通信会社の業務システムの開発などを経て、サイバーエージェントに入社。「Ameba」をはじめ、サイバーエージェントの新規サービスの開発を担当してきた。技術オリエンテッドな会社作りを目指している。
  • はてなブックマークに追加
  • Yahoo!ブックマークに登録

このレポートに関連する企業情報です

■メディア事業/EC、オンラインゲーム、情報ポータルなど ■広告代理事業/インターネット広告、検索エンジン広告、SEo、Webサイト制作など ■Ameba関連事業/コミュニケーションサービスAmeba、アメーバピグなど ■投資育成事業続きを見る

あなたを求める企業がある!
まずはリクナビNEXTの「スカウト」でチャンスを掴もう!
スカウトに登録する

このレポートの連載バックナンバー

人気企業の採用実態

あの人気企業はいま、どんな採用活動を行っているのか。大量採用?厳選採用?社長の狙い、社員の思いは?Tech総研が独自に取材、気になる実態を徹底レポート。

人気企業の採用実態

このレポートを読んだあなたにオススメします

Ameba、アメーバピグで蓄積されたプログラミングノウハウを探る

サイバーエージェントの進化し続けるJava技術力とは

人気企業の採用実態サイバーエージェントは「Ameba」「アメーバピグ」などサービスの基本システムを、Javaで開発している。そのため、エンジニアの…

サイバーエージェントの進化し続けるJava技術力とは

来春には大阪、福岡に開発拠点を設置

サイバーエージェント、スマホ技術者の育成と採用強化

人気企業の採用実態サイバーエージェントのスマートフォン対応が急速に進んでいる。積極的な中途採用を展開してきたが、スマートフォン開発経験者はまだ市場…

サイバーエージェント、スマホ技術者の育成と採用強化

動くアバター「アメーバピグ」、自社開発の検索エンジンetc.

エンジニアの成長が新事業を生むサイバーエージェント

人気企業の採用実態一見不可能なアイデアも技術でカタチにしてしまう。そんなエンジニアが存分に自分のスキルを試せるフィールドをもつサイバーエージェント…

エンジニアの成長が新事業を生むサイバーエージェント

“シンプルかつリッチ”を目指すスマホ向け究極のブログサービス

Amebaの新スマホブログ「Simplog」開発秘話

サイバーエージェントがスマートフォン向けの新しいブログサービスを8月にリリースした。「Simplog」は“シンプルだけ…

Amebaの新スマホブログ「Simplog」開発秘話

新しい仮想ライブのフロアは、今夜もアバターたちで大賑わい

アメーバピグ新サービス「ピグチャンネル」開発舞台裏

サイバーエージェントのコミュニティサービス「アメーバピグ」は、2012年7月新たに動画コンテンツを共有しながら楽しめる…

アメーバピグ新サービス「ピグチャンネル」開発舞台裏

こんな時代に人事が欲しがる

年収1000万円超プレイヤーの自己投資術

不景気だから年収が下がるのは当たり前、と思ってはいませんか? 世の中には、こんな時代でも年収が上がり続ける「不況知らず…

年収1000万円超プレイヤーの自己投資術

この記事どうだった?

あなたのメッセージがTech総研に載るかも

あなたの評価は?をクリック!(必須)

あなたのご意見お待ちしております

こちらもお答えください!(必須)

歳(半角数字)
(全角6文字まで)
  • RSS配信
  • twitter Tech総研公式アカウント
  • スカウト登録でオファーを待とう!
スマートグリッド、EV/HV、半導体、太陽電池、環境・エネルギー…電気・電子技術者向け特設サイト

PAGE TOP