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DeNAは8月6日、ソーシャルゲームに関心のあるエンジニアやクリエイター向けに「DeNA Social Game Business & Technology Seminar」を開催した。真夏の暑さを吹き飛ばすほどの熱い盛り上がりを見せた同セミナーをレポートする。
(取材・文/中村仁美 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/平山諭)作成日:11.08.30
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キャリア各社がAndroidOSを採用したスマートフォンを市場に本格投入し始めた。携帯電話の市場はこれまでのフィーチャーフォンからスマートフォンへと移行が進んでいる。それに伴い、スマートフォンの特徴を活かしたよりリッチでソーシャル性をもつゲームが続々開発され、人気を博している。DeNAがAndroid端末やiPhone向けに提供している怪盗ロワイヤルはその代表例だ。
そのソーシャルゲーム開発の最先端を走るDeNAが、ゲーム業界の人材向けに、東京・新宿区で「DeNA Social Game Business & Technology Seminar」を8月6日に開催した。150人超のエンジニアおよびクリエイターたちが参加。本来、事前申し込みの同セミナーだが、飛び入りで参加した人も多く、事前に用意した席だけでは足りない盛況ぶりだった。
モバイル&ゲームスタジオ代表取締役会長
宮城大学事業構想学部客員教授 遠藤 雅伸氏 |
セミナーは、著名ゲームクリエイターであり、モバイル&ゲームスタジオ代表取締役会長、宮城大学事業構想学部客員教授の遠藤雅伸氏の基調講演から始まった。同氏が語ったのは、ソーシャルゲームなどゲーム一般における業界の動向について。最初に遠藤氏は現在のゲームを取り巻く環境には次のような特徴があると説明した。第一にライトユーザーの増加である。そのきっかけになったのが、「ソニー・コンピュータエンタテインメントのプレイステーション2(PS2)の発売だった」と遠藤氏。第二はモバイルゲームや携帯ゲーム機の普及・浸透。つまりライトユーザーの人口が増えている今、従来のように家庭でじっくり浸って遊ぶゲームよりむしろ、ちょっとした空き時間で手軽に遊べるゲームが求められているというのだ。
中でも話題を集めているのがソーシャルゲームである。しかしパッケージゲーム開発者の中には、「ソーシャルゲームへの反発感がある」と遠藤氏は語る。 |
今後、スマートフォンの普及が本格化していくと予想されている。
「スマートフォン向けゲームは、まだまだ未成熟な分野。しかもスマートフォンは従来のガラケーに比べ、解像度もCPUパフォーマンスも高いため、ゲーム開発において、さまざまな可能性を秘めている。従来のゲーム機業界に縛られていることなく、新しいものにチャレンジして、日本のゲームを盛り上げていきましょう」
最後に遠藤氏は熱く語り、セミナー参加者にエールを送った。
セッション1の登壇者は、ソーシャルゲーム事業本部ソーシャルゲーム統括部スマートフォンSG部SP企画グループ・グループリーダーの太田垣慶氏。セッションテーマは「スマートフォン向けソーシャルゲームの企画について」。2006年4月に新卒で入社した太田垣氏が最初に携わったのはショッピング&オークションサイト「ビッダーズ」だったという。1年後に「Mobage」に異動。2009年から本格的にソーシャルゲームに携わるようになり、人気ソーシャルゲーム「怪盗ロワイヤル」や「海賊トレジャー」などをプロデュースしてきた。2011年4月に現在のポジションに就いた太田垣氏。今は「スマートフォン向けソーシャルゲームの企画を担当している」(太田垣氏)と言う。
遠藤氏の話でもあったように、ソーシャルゲームはさまざまな可能性を秘めている分野。例えば農場育成ゲーム「Zombie Farm」もバージョン1.02よりソーシャル性を盛り込み、さらに人気を集めている。このように国内外問わず、ゲームにはソーシャル性を盛り込むのが一般的になりつつあるという。DeNAでは今後のソーシャルゲーム市場をどう見ているのか。 |
株式会社ディー・エヌ・エー
ソーシャルゲーム事業本部 ソーシャルゲーム統括部 スマートフォンSG部SP企画グループ グループリーダー 太田垣 慶氏 |
国内のソーシャルゲーム市場で約3分の2を占めているDeNA。その強みについて太田垣氏は次のように説明する。
「当社の強みは2つ。それは優れたゲームデザインパターンを多数保有していることと、ユーザーの購買意欲を刺激し続ける高度な運用能力。フィーチャーフォン版の開発を通じて得たノウハウをスマートフォン版に適用し、グローバルに展開していく」
もちろん、グローバルで勝つためには、強化していかねばならない要素もある。クリエイティブ力はその一つだと指摘する。その強化策として太田垣氏は「海外パートナーと連携することと、ゲーム開発経験者をさらに増やしていくことだ」と言う。
「世界で戦えるという確信はある。私たちの仲間になり、一緒に世界を目指してみませんか?」
そう参加者に呼びかけセッションを終えた。
株式会社ディー・エヌ・エー
ソーシャルゲーム事業本部 ソーシャルゲーム統括部 スマートフォンSG部・SPシステム第一グループ グループリーダー 沖原 正剛氏 |
次に登壇したのはソーシャルゲーム事業本部ソーシャルゲーム統括部スマートフォンSG部・SPシステム第一グループ・グループリーダーの沖原正剛氏。沖原氏がDeNAに入社したのは2010年6月。前職のコミュニティーエンジンではネットワークゲームの開発に携わっていたという。DeNA入社後はプログラマとして、海外版の「怪盗ロワイヤル(Bandit Nation)」、「忍者ロワイヤル」などの開発に携わってきた。 セッションテーマは「ngCoreを用いたスマートフォン向けソーシャルゲーム開発について」。「ngCore」とはDeNAが提供しているスマートフォン向けのゲーム開発エンジンで、一度の開発でiOSとAndroidの双方でゲームを展開することができるというもの。使用する言語はJavaScript。「忍者ロワイヤル」のほか、「プティの王国」「アクアコレクション」などの内製タイトルはすべてngCoreを使って開発されている。
セッションの冒頭、沖原氏は本セッションの目的を次のように明らかにした。 |
それを可能にしたのが、ngCoreが提供するソーシャルゲーム開発に特化した機能の数々である。グラフィックやオーディオ、ネットワーク、デバイス(タッチ、モーション)、ストレージ、UIなどのゲーム向けAPIを提供。またソーシャル向けのAPIとしてもユーザー情報取得やブラックリスト情報など一通り装備しているという。中でも「実装していて便利だと思ったのは、BANKという課金APIだ」と沖原氏。これを使えばたとえ国ごとに課金方式が変わってもその違いを吸収してくれるので、ゲーム側では何も触らなくてもいいようになっているからだ。
今後もngCoreのパフォーマンスや機能改善を行い、「さらにスマートフォン向けソーシャルゲーム開発に最適化させていきたい」と沖原氏。そのほかにも「ngGo(ゲーム開発用ライブラリ)」や「ngBuilder(ngCore専用統合開発環境)」などの開発には欠かせない周辺ソリューションも強化・充実を図っていくことを明言し、セッションを終えた。
株式会社ディー・エヌ・エー
ソーシャルゲーム事業本部 ソーシャルゲーム統括部 スマートフォンSG部SP企画グループ 小林 潤氏 |
沖原氏に代わって登壇したのが、ソーシャルゲーム事業本部 ソーシャルゲーム統括部スマートフォンSG部SP企画グループでクリエイターとして活躍している小林潤氏と船橋慶充氏。
最初に登壇した小林氏は2011年7月1日に入社。それまではあるゲーム会社で15年間、アーケードゲームやコンシューマーゲームのエフェクトエディターの整備などに携わっていたという。セッションテーマは「ゲームを作りやすい環境の準備について」。
そこでDeNAとしては今後、ゲーム開発時間を短縮できるもの、リッチな演出、非プログラマの作業効率を上げるような開発環境を提供していく予定だという。「Particle Editor」(爆発などの演出効果を容易に生成するエディタ)、「Layout Editor」(UIを設計するエディタ)などはその一例だ。これらはすべて「ngBuilder」から利用できるようになるそうだ。 |
続いて登壇した船橋氏のセッションテーマは「アートディレクションについて」。船橋氏は9年間ソニーでモバイル機器のインタフェースデザイン・アートディレクターを務めた後、2011年3月DeNAに転職。DeNA入社後は「忍者ロワイヤル」をはじめとするngCoreで開発したすべてのタイトルについてアートディレクションを担当している。
その背景にあるのが、海外アーティストと協業したことだ。ご存知の通り、忍者ロワイヤルはプレイヤーが忍者となりミッションに挑みつつ、さまざまな宝を争奪していくアクションRPGである。登場するキャラクターに、プレイヤーがいかに忍者らしさを感じられるかが重要なポイントとなる。とはいえ日本人が思い浮かべる忍者と、欧米の人たちが思い浮かべる忍者は同じとは限らない。船橋氏は前職時代に欧州と米国に赴任したことがあるが、やはり現地の人の感覚は現地の人に聞かないとわからないことが多かったという。そこで海外アーティストとの協業することで、その点を解消しようと考えたのだ。 開発スピードの速いDeNAでは、インハウスデザイナー制を採用しており、常にエンジニアと議論を交わしながら、「ソーシャル性を追求している」と船橋氏。担当している4タイトルについて、「費用対効果を考え、新しい機能をどんどん追加していきたい」と語り、セッションを結んだ。 |
株式会社ディー・エヌ・エー
ソーシャルゲーム事業本部 ソーシャルゲーム統括部 スマートフォンSG部SP企画グループ 船橋 慶充氏 |
参加者の熱気を感じた2時間同様、ますます熱くなるソーシャルゲーム市場。そこにエンジニアとして参加し、活躍するにはどのようなスキルが求められるのか、またソーシャルゲーム開発に携わる面白さはどこにあるのか、セッション終了後、沖原氏に話を聞いた。
まずは求められる技術スキルについて。
「身につけておいてほしい技術スキルとしては、サーバーとクライアント双方のアプリケーション開発経験があること。またお客さまに触れるものをリリースしたことがあればなおいいですね。例えばプライベートでゲームを作り、リリースしたことがあるとか。それも立派な経験です」
しかしそれよりも大事なものがある、と沖原氏は続ける。
「自分の強みをわかっていることと、たとえ失敗してもその原因は何か、追究する姿勢があることです。何か一つでも技術的な強みのある人は、新しい技術の習得も容易にできるからです」
最後にDeNAでソーシャルゲームの開発に携わる面白さについても聞いてみた。
「パッケージゲームはリリースすると終了だが、ソーシャルゲームはリリースしてからが始まり。ユーザーの反応がダイレクトにくる。それが開発者としては厳しい半面、面白くもあるところ。DeNAでは理詰めで考えることが徹底している。例えば改良一つをとっても、「なぜ」を徹底的に詰めていく。エンジニアにとって働き心地の良い環境です」(沖原氏)
ソーシャルゲーム開発市場はまだ黎明期。誰もが参入するチャンスはある。ゲームに関心があり、グローバルで活躍してみたいという意欲のある技術者のみなさん。この機会に「Mobage」の開発者サイトからngCore SKDをダウンロードし、ゲーム開発にチャレンジしてみてはいかがだろう。
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