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今年1月OpenFeintを完全子会社化することで、世界で1億ユーザー超の会員規模を擁することになった「GREE」。その巨大インフラを支えるために、開発現場では何が行われているのか。サーバー基盤、アプリ基盤開発のメンバーに、その技術力の高さ、今後の技術的課題などを聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.06.29
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プラットフォーム開発本部
エンジニア 恵比澤 賢氏 |
2011年3月時点で、国内会員数が2500万人を突破したソーシャル・ネットワークキング・サービス(SNS)の「GREE」。2000万人の大台に乗った2010年6月から、わずか9カ月で25%の伸びを示している。月間ページビューは350億以上、サーバー台数は数千台規模にのぼり、ピーク時の最大同時接続数は1万を超えるという。今年4月には米OpenFeintとの協業も始まり、今後、サービスを支えるインフラはますます巨大なものになることが予想される。こうしたインフラ基盤開発に挑むのが、プラットフォーム開発本部インフラチームのエンジニアたちだ。
インフラチームは「GREE」のサービスを提供するに当たり欠かすことのできない、サーバーやネットワーク機器などのファシリティの管理・運用・設計を担当している。恵比澤賢氏は、その中で主にサーバーの管理・運用に関わるエンジニアだ。
サーバー管理ツールは、市販のものやオープンソースのソフトウェアなどがいくつもあるが、「GREE」のサーバー群はそれらの製品が想定している環境とは量的・質的に異なるため、独自に管理ソフトウェアを作り込まなければならない。 |
例えば、少人数で大規模なインフラを運用するために必須の監視システムは、軍用の早期警戒管制機をもじって、社内では「AWACS(エーワックス)」と呼ばれている自作ツールだ。
「サーバー数千台を一つひとつ登録するような作業が必要となると、そういう作業を自分たちでやらなければいけないが、それは大変。人的負担を軽減したいし、自動化ツールで運用コストを減らしたい。スケーラビリティを確保しつつ低運用コストを実現することに重点を置いて開発しました」(恵比澤氏)
インフラチームには、恵比澤氏のように組込み系ソフトウェアを開発していたり、他にも大手SIer出身であったり、大規模Webサーバーの開発・運用経験をもつなど、様々なバックグラウンドのエンジニアがいる。それらの知見を、国内有数の大規模SNSの実務に導入するために、社内では始終議論が行われる。「幅広い知見を持ち寄ることで、一つの常識にとらわれず、独自のツールが開発できるという点でもユニークだと思います」と恵比澤氏は言う。
バックグラウンドは様々だが、グリーに入社するとみな一様に驚くことがある。それは「GREE」のサービス品質についての高い基準だ。多くのWebサービスでは、ユーザーアクセスが比較的少ない時期を見計らって、サービスを中断しメンテナンスを行うのが常識。ところが、「GREE」ではメンテナンスを行っても、サービスは止めない「無停止メンテナンス」が基本なのだ。
「『GREE』がスタートして以来、それが続いています。最初は僕も驚きました。深夜に止めるのは普通だと思っていましたから。ユーザーの皆様に少しでも不便な思いをさせることのないように、できるだけのことをやります。無停止メンテナンスのためには、サーバー構成を冗長化するなどいくつかのノウハウがあります。障害発生時だけでなく、サーバーの増強時にもサービスを止めないノウハウもあります。実際は泥くさいところで、エンジニアが頑張ることもあるんですけど」と、恵比澤氏は笑う。
前職はネットワーク機器のファームウェア開発。サーバーに関わるようになったのは、グリーに入社してからだ。だが、ネットワークのプロトコルへの理解や、限られたリソースのもとで最大限のパフォーマンスを実現しなければならない前職でのソフトウェアスキルを、今の仕事にも十分活かしている。
「ただ、前職と違うのはスピード感。以前は開発期間は“数カ月”というオーダーだったのが、今は“数日”ですからね。日付の単位がまるで変わってしまった。僕らの仕事は、苦労してシステムを開発しても、半年ですぐに旧世代扱いされてしまいますから」(恵比澤氏)
システムを旧世代のものとし、常に効率を図るのは開発者でありユーザーでもある、グリーのエンジニア自身だ。先の「AWACS」も2010年の開発だが、すでに次世代版の開発がスタートしている。外部ベンダーに頼らず、自らツールやシステムをつくりながら、決してその出来映えに満足しないエンジニアたちなのだ。
グリーはこの1年、米国のOpenFeintを買収するなど海外展開を強めている。これはサーバーエンジニアにとっても「大きな転機になる」と、恵比澤氏。海外展開に伴ってグループのサーバー管理をどのように見直すか、まさに社内で白熱した議論が進んでいるところだ。今回その詳細は明らかにされなかったが、さまざまなアイデアが飛び交っているという。これからグリーに入社するエンジニアにとっても、その議論の坩堝に巻き込まれることは、快感であるに違いない。
「単に既存のツールを使って、サーバー構築・運用・監視をするだけではなく、ツール類を自ら開発ができる人、開発したい人にとっては面白い職場だし、ちょうど今、面白いフェーズにあると思いますよ」(恵比澤氏)
2001年千葉大学工学部卒業。インターネットイニシアティブを経て、2009年2月にグリーに転職。サーバーやネットワーク機器などのファシリティの管理・運用・設計を担当。
プラットフォーム開発本部
リーダー 梶原 大輔氏 |
同じプラットフォーム開発本部でアプリケーション基盤チームを率いるのは、入社4年目の梶原大輔氏だ。このチームのミッションは、ミドルウェアの導入・運用、画像配信サーバーの構築や、Flash変換などに関わる画像処理ツールの開発、さらにWebアプリケーション・フレームワークの開発に至るまで多岐にわたる。加えて、エンジニアの開発環境を整備し、エンジニアの情報共有をリードすることも、梶原氏の仕事になっている。 Webアプリケーション・フレームワークについては、「ごく簡単に言ってしまうと、ボタン一つ押せばWebアプリやWebゲームのソースコードが書けてしまうという開発環境です。一般のアプリケーション開発でも、プラットフォームに合わせたフレームワークが整備されますが、Webアプリ、とりわけWebゲーム開発に特化したものは、社内はもちろん業界内でも少ないと思います」と、梶原氏。
これまでもグリーには「Ethna(エスナ)」と呼ばれるPHPで開発したWebアプリ・フレームワークがあった。もともとは同社のCTO藤本真樹氏が開発したもので、現在はオープンソースとして公開されている。 「各チームのノウハウはそれぞれ異なることもあります。同じ機能を実現するノウハウも、それぞれが自信を持っている。そこをいかにまとめて、全員にとって良いものを作るか、そのコミュニケーションの取り方が難しいですね」(梶原氏) |
エンジニア全体の開発環境を整備するのも、梶原氏の担当だ。最近は、フレームワークへの要望、障害報告、開発コードのレビューなどをまとめる「開発課題定例」という週一回の定例会議を司会運営している。
「みんな普段ため込んだものを、ガンガンぶつけてきます。私は司会という立場で、なんとかその意見をまとめて、自分たちで改善するという方向にもっていこうと努力しています」(梶原氏)
梶原氏が入社した4年前、エンジニアは10人程度にすぎなかった。ざっと見渡せば誰が何をやっているか一望できた。それが今は何倍にも人数が拡大している。そのままにしていると、チーム間のコミュニケーションが失われ、情報が閉ざされてしまうことにもなりかねない。Wikiなどで意見を取りまとめることもしているが、それにも限界がある。多忙な業務の時間を割いてでも、課題を抱えている現場のエンジニアを会議に招集し、顔と顔をつき合わせて議論を闘わせることが重要なのだ。
「『GREE』のサービスのグローバルな拡大によって、これからのサービスの開発体制もどんどん大規模になっていくと思います。規模は大きくなっても、スピードは落とせない。そのためには、サービス開発を支えるプラットフォーム、フレームワーク、開発基盤の拡充が重要になります」(梶原氏)
今後ますます増大するインフラチームの役割。それを担うための人材強化は焦眉の課題だ。
「Web業界はもちろんのこと、SIer、ゲーム会社、組込み系ソフトウェアなど、いろんな経験者が欲しいですね。人が多彩であればあるほど、チームは強化されるはず。今、中にいる人が考えつかないような、新しいアイデアをどんどん注入して欲しいと思っています」と、梶原氏は中途採用エンジニアへの期待を語っている。
広島大学大学院で情報工学を専攻。2006年ヤフー入社。動画共有サービスなどを開発。2007年1月にグリーに転職。サーバー運用システムなどを開発。
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2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る
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