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世界進出への足がかりを求めて、海外のソーシャルゲーム・プラットフォーマーとの事業提携、買収を強めるグリー。サンフランシスコ近郊では、OpenFeint社との協業が4月から始まった。グローバル企業へと脱皮するその瞬間を、現地で取材した。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.06.02
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取締役 執行役員CFO 国際事業本部長
青柳 直樹氏
バーリンゲーム駅(Burlingame)
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カリフォルニア州・バーリンゲーム(Burlingame)は、サンフランシスコのダウンタウンから車で30分ほどの郊外にある高級住宅地だ。瀟洒な街並みの一角にグリーの米国法人、GREE International, Inc.の拠点の一つがある。 もともとバーリンゲームには、4月にグリーが買収・子会社化したOpenFeintが本社を置いている。ソーシャルゲーム・プラットフォーム大手で、とりわけスマートフォン向けゲーム配信に強みをもつ企業だ。同社との協業を加速するため、サンフランシスコ市内のGREE Internationalのオフィスから、あるいは東京・六本木のグリー本社から、続々と経営陣やエンジニアがバーリンゲームに集結しているのだ。
真っ先に乗り込んできたのが、グリーで取締役執行役員CFO・国際事業本部長兼GREE International CEOを務めている青柳直樹氏だ。 確かに今回サンフランシスコのダウンタウンを歩いてみたが、スマートフォンの浸透度は予想以上だった。米国のビジネスパーソンが愛用するのはBlackberryという思い込みがあったが、いまや彼らの手にはスマートフォン。学生、若い女性、さらにはタクシーの運転手まで、簡易カーナビのようにしてスマートフォンを車内に置いている。そのメガトレンドは、いずれは日本の、そして世界の流れになるはずだ。
買収先のOpenFeintは、ゲーム配信サイトとして会員数8000万人という巨大な顧客資産を持つ企業だ。しかし、青柳氏に言わせれば、「まだ磨かれていないダイヤモンドの原石のような会社」。そこにグリーが日本で培った、ソーシャルゲーム・プラットフォームのノウハウを注ぎ込み、世界のソーシャル・ネットワーク市場の制覇をめざす。
もちろん、海外にオフィスを設ければ、それだけでグローバルビジネスが始まるというわけではない。日本からの人材投入と現地の採用をミックスさせ、市場の特性や文化、取引慣行の違いを吸収し、より強いチームを作っていくことが欠かせない。 ソーシャルゲーム業界に限らず、これまでの日本企業の海外進出にあたっては、送り込まれた現地でオフィスを探し、人材を採用し、提携先と交渉し、市場を切り拓いてきた先遣マネジメント部隊の役割は大きかった。海外市場にこそ精鋭を送り込む。かつての商社や製造業の海外進出で起こったことが、いまソーシャルゲーム業界でも始まっている。 |
全世界のユーザーに向けたプラットフォームの運営、世界のデベロッパーが開発するソーシャルゲームの流通という新しい課題に向けて、グリーのグローバル事業はいま本格的なスタートを切ったばかりだ。このグローバル展開をサービス開発面で支えるのが、荒木英士氏だ。 グリーとOpenFeintは、スマートフォン向けのソーシャルゲーム・プラットフォームを世界に展開するという事業目的が一緒。いずれの経営陣も若く、深夜にもメールがやりとりされるというワークスタイルやスピード経営にも似かよった雰囲気がある。なにより、世界のデベロッパーやユーザーにとって最も使いやすいプラットフォームを作りたいという思いは双方とも強いものがある。
OpenFeintは北米中心の英語圏、グリーは日本をカバー。さらにグリーはアジアのプラットフォーム企業とも提携している。北米のデベロッパーがアジアに展開したり、日本のデベロッパーが北米に展開するチャンスが新たに生まれるのだ。 ただ、OpenFeintは、ゲーム配信プラットフォームは展開するものの、自社製ゲームは開発していない。ここがグリーとは異なる部分だ。またゲームの多くはダウンロード売り切り型。そのプラットフォームには1万9千社のデベロッパーが参加していて、その数は圧倒的だが、「GREE」の『踊り子クリノッペ』や『釣り★スタ』のような課金収入で成功したゲームは少ないと言われる。荒木氏いわく、「どうやったらヒットゲームがつくれるのか。マネタイズも含めてグリーのノウハウには一日の長がある。実際にモデルとなるようなゲームをグリーが開発し、その成功例を示すことで、OpenFeintのデベロッパーを刺激していく」ことも、グリーの役割になる。 ゲーム開発にあたっては、コミュニケーション・サービスについてのきめ細かい気配りなど、日本企業の良さが存分に発揮されることになるだろう。また、膨大なアクセスをデータマイニング技術で分析し、そこからゲームの次の成長や新しいサービスを生み出していくグリーならではの数値管理技術も、惜しみなく投入されるはずだ。 「モバイル・ソーシャルという分野で世界初めての10億人が使うサービスを創りだす。シリコンバレー企業のスピード・ダイナミズムとグリーのサービス企画開発能力を組み合わせれば、可能性は無限に広がります」 と、荒木氏は協業の近未来を見通す。 |
ソーシャルネットワーク統括部長
プロデューサー 国際事業担当 荒木 英士氏 |
OpenFeint買収の前に、グリーは6億人以上のユーザーを抱える中国テンセント(Tencent)や、東南アジア、インドおよび南アフリカでSNSを運営するプロジェクト・ゴス(Project Goth)と業務提携を発表している。ゴス社が運営するモバイル向けソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「mig33」というSNSプラットフォームは、東南アジアなどの新興国を中心に4700万人の会員を集めている。
グリーの海外拠点は、米国だけでなく、中国、シンガポール、英国にも拡大することを発表している。グローバル展開に伴ってエンジニアの働き方はどう変わるのか。
「東京でももちろん海外向けのゲームを開発できますが、やはり現地の文化を深く理解し、現地エンジニアと毎日議論しながら一緒に開発するほうがよりよいものができるはず。東京、カリフォルニア、アジア、欧州と、これからは拠点を選ばず世界中あらゆる場所で世界に向けた開発ができるという心構えが必要になる」と、荒木氏は語る。
中でも米国西海岸は、IT・ネットワーク・ゲームの世界では優秀なエンジニアを輩出する場所。地元の大学出身者はもとより、MITなど東部の大学の出身者までもが、活躍の場を求めて企業の門を叩く。 グリーはこの4月から、社員を3カ月程度海外に派遣する「海外派遣育成制度」を始めている。派遣対象の社員はエンジニアやデザイナーを含む全職種。職務の達成具合などに基づいて希望者を審査する。この審査をクリアできれば、中途であれ新卒であれ関係なく、また社員の年齢も問われない。実際、昨年の新卒社員が1年間の日本での業務経験を経て、サンフランシスコに送り込まれている。これからのスマートフォンビジネスは完全なボーダーレスの時代に入る。その雰囲気を海外で体験することで、エンジニアとしてのスキルと感性は否応なく磨かれるに違いない。 |
バーリンゲーム市内の様子
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2002年、慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、ドイツ証券会社投資銀行本部にて本邦テクノロジー・メディア企業の株式公開支援やM&Aアドバイザリー等の業務を担当。2006年3月にドイツ証券を退社し、グリー株式会社に入社。2006年7月、グリー株式会社 取締役に就任。
2005年8月入社。PC版グリーのPMを経て、06年以降『踊り子クリノッペ』の企画・開発を率いる。「モバイルプロジェクト・アワード2008」で優秀賞を受賞。ソーシャルゲーム事業、PC版SNSのリニューアル、スマートフォン版SNSの立ち上げなどコミュニケーション・サービスとしての「GREE」の構築に関わる。2010年秋から国際事業の専任担当を務めている。
GREE Internationalの設立、OpenFeintの買収に伴って、日本のグリーからも次々にエンジニアがサンフランシスコ拠点に参加している。そのうち3人のエンジニアに、海外で働く醍醐味を聞いた。
ゲームプラットフォームのバックエンドシステムの開発や、エンジニアのマネジメントを担当しています。現在のOpenFeintで流通しているのはカジュアルなゲームがほとんどで、ランキング機能などは備えているものの、日本のソーシャルゲームほどユーザー間のコミュニケーション機能はリッチではありません。その部分を、私たちのノウハウで強化し、将来的には「GREE」のゲームをOpenFeintでも流通できるようにしていきたいと思います。ソーシャルグラフをうまく活用したプラットフォーム設計のために、OpenFeintのエンジニアと協力しつつ、アーキテクチャやプラットフォームの機能を検討していきます。
OpenFeintのエンジニアのしっかりした仕事の進め方に感心することもありますし、スケーラビリティという観点でこちらからアドバイスすることもあります。OpenFeintはRuby、「GREE」はPHPとお互いに使っている言語は違いますが、Webサービスのアーキテクチャとして考慮するべきポイントは同じで、共通の問題認識を持ちつつ、タスクを進めています。
もう一つの私のミッションは、現地でエンジニアを採用すること。この1年でGREE Internationalのメンバーを今の数倍規模まで増やします。採用面接は、Skypeや電話で行うことも多く、アメリカの広さを感じます。
「GREE」の名前は米国ではまだ知られていませんが、OpenFeintはみんな知っています。そこを買収した日本の企業で、資金力も大きいし、ソーシャルゲームのノウハウもあるということで、エンジニアの注目を集めています。ただ、西海岸には競合のゲーム企業やプラットフォーム企業がたくさんあるので、競争は激しい。でも、競争があるほどみんな燃える。そんなスタートアップ企業の雰囲気をあらためて楽しんでいます。
日本ではフィーチャーフォン向けに提供してきたプラットフォームを、iPhoneなどスマートフォンに対応させるプロジェクトに関わっていました。調査の一環でOpenFeintのプラットフォームを知り、よくできているなと感心していました。そのときはOpenFeintの人達と一緒に仕事をすることになるとは思ってみいませんでした。
こちらでは山家と共に、OpenFeintプラットフォームを拡張して自社のソーシャルゲームと結びつける仕事をしています。OpenFeintは様々な機能を持っていますが、我々の求めるソーシャルゲームを実現するためにはまだまだ足りない機能があります。それをOpenFeintのエンジニアと一緒に開発し、OpenFeintプラットフォームがソーシャルゲームにとって大きな可能性を持っていることを示したいと思っています。
これは8000万人のOpenFeintユーザーにはもちろん、1万9千のゲームデベロッパーにとっても大きな刺激になるはず。課金収入で収益を上げる新しいビジネススキームが生まれます。ユーザー、デベロッパーともに桁違いに規模が大きいだけに、僕らの責任も重大です。
西海岸には日本の企業も多数進出していますから、Twitterで知り合った他社のエンジニアとも交流が始まりました。その紹介で先日一緒に食事した方が、FireFoxのMozillaプロジェクトのメンバーだったりとか。そういうすごいエンジニアと普通に街で出会える。あらためてITの本場、アメリカに来たんだというリアルな実感がありますね。
日本と北米のモバイルゲーム事情には若干の違いがあります。こちらでは3Gでの通信事情が良くないこともあり、モバイルで遊ぶWebベースのゲームは流行っていない。FacebookのゲームはWebですが、主にPC上で使われている。ですから、モバイルゲームというとスマートフォンのネイティブアプリを指すのが一般的。デバイスにダウンロードしてそこで遊ぶわけです。ソーシャル要素が少ないのが良くも悪くも特徴です。
そんな事情をくみながらも、日本で培ったソーシャル要素を盛りこんで、これからのスマートフォンソーシャルゲームのリファレンスモデルを示したいと思っています。日本で培ったソーシャルゲーム開発や運営ノウハウを現地採用のエンジニアに伝え、開発をスケーリングさせます。分かりやすく伝えるには、実例を示すのが一番。そのためにソーシャルゲームを新たにこちらで開発し、運営していきます。グリーが日本から世界に進出し、「OpenFeintと合体すると、こういうアプリが登場するんだ」というスタンダードを示したいと思っています。
もちろんゲーム自体を東京で開発することは不可能ではないですが、市場の感性を取り込んだ上で、さらに開発・運営ノウハウの共有を行うためには、やはり現地に来て、現地の人と一緒に仕事をすることが大切。その空気感みたいなのを感じながら、1本新たにゲームをつくり、近いうちにリリースしたいと思います。そうやって北米のゲームデベロッパーを盛り上げ、いずれは彼らのアプリを全世界に展開していきたいと考えています。
カリフォルニアで仕事をするのは今度が2度目ですが、シリコンバレーはエンジニアにとって刺激あふれる所です。様々なカンファレンスが頻繁に開かれていて、それらに気軽に顔を出せる。また、ハッカソンなどのイベントも多いです。そこでいろんな情報が集まるし、人との出会いもある。そういう楽しみを僕自身が期待しています。
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2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る
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