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進化し続けるニコニコ動画を支えるのは、「120%」のエンジニア
ドワンゴ夏野剛氏が企む「ニコ動」の次期戦略とは?
15歳の天才エンジニア採用、「ニコニコ入社一時金制度」、2ちゃんねるでのエンジニア募集など、独自の採用手法を展開するドワンゴ。今後、目指すビジネス戦略とは何か。そのために必要なエンジニア像とは?同社取締役・夏野剛氏を直撃した。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.02.18
一つのところにとどまらない。高速で回転するボールのような事業展開
夏野 剛氏
株式会社ドワンゴ 取締役
夏野 剛氏

「ネットに生まれて、ネットでつながる」がドワンゴのキャッチフレーズ。斬新なアイデアと高い技術力を背景に、ネット上で多彩なエンタティンメントコンテンツを展開することで成長を続けている。2008年12月から取締役に就任している夏野剛氏は、同社の企業としての特長をこう語る。

「ドワンゴは、非常にユニークな会社で、今まで一つのビジネス・ドメインに満足して留まることはなかったんですよ。最初に設立されたときは、コンソール・ゲームの会社でした。そこにネットワークという概念を採り入れ、携帯ゲームに乗り出します。ゲーム会社がモバイルを展開しようとしても、ふつうそんなに簡単に上手くはいかない。でもドワンゴは、すっとそこに入っていけた。

 次は着メロ、今でいう音楽配信ですよね。この着メロも、後発だったにもかかわらず、成功しています。クリエイターとかエンジニアとかがなにやらワイワイやっている会社が、東証一部上場を果たしてしまう。そしていまでは、PC上の動画配信の「ニコニコ動画」を始め、これもまた成功に導いてしまう。

 けっしてそれ以前の事業を捨てているわけではない。前のモノは前のモノでやりながら事業を膨らましていく。僕はドコモを辞めるときに、いろんな会社から手伝ってくれって話があったんだけれど、やはりここは社外取締役じゃなく、常勤の取締役として経営に取り組もうと思ったのは、この事業展開のスピードと思い切り、そしてそこに勝算があったからなんですね」

 夏野氏が“勝算”というのは、ITやインターネット革命の大きなうねりだ。その行く先を見すえ、ビジネスチャンスを我がものにすることができた。もちろんこのチャンスは他の企業にもあった。にもかかわらず、すべてがその果実をつかみとったわけではない。

「ドワンゴにはまず技術的な優位性があったと思います。当社のシステムはすべて自社のエンジニアが開発している、内製なんです。ただ、それ以上に大切なことは、技術においても、サービスにおいても、ビジネスモデルにおいても、決して他人と同じことをやらないということ。ドワンゴは新しい技術を使って、いかに新しい価値を生み出すかにこだわり続けてきた企業です。

 絶えず新しい価値を生み続けるためには、技術開発のスピードが速くなくてはなりません。また、ビジネスモデルのフレキシビリティ、まずいと思ったら変えていき、どんどん確実なモデルに進化させていく、そのスピードもきわめて速いものがあります。とにかく先にやること、これがディファレンシエーション(差別化)につながってきたわけです」

 約1800万人が会員で、日本の20代の2人に1人がユーザーといわれる「ニコニコ動画」について言えば、2006年12月に運営を開始してから4年目で、四半期ベースの黒字化を果たした。有料のプレミアム会員収入が順調に増えてきたためだが、そのためには、自前の技術力を背景にした、絶えざるサービス向上の取り組みがあった。夏野剛氏ら社外から招いた経営陣による、ビジネスモデルの洗練に向けたテコ入れも大きく功を奏したといえる。

 技術+サービス+ビジネスモデルの三位一体、それが高速に回転し、からまりあいながら、猛スピードでネットの世界を駆け抜けていく。そんなイメージがドワンゴにはある。

エンターテインメントと海外展開──ニコニコ動画はもっと先をゆく

 とにかく先にやる企業が、これからは何をやろうとしているのだろうか。とりわけ「ニコ動」はこれからどこへ行くのか。エンジニアならずとも興味のあるところだ。

「ニコニコ動画は、機能的にはYouTubeの動画の投稿機能と、Ustreamの生配信の機能と、それにコメントを付けるという意味では、Twitterのような機能があって、それらが融合されたプラットフォームです。そこでは有名な政治家から無名の人まで、同じように情報が発信できる。いまやインターネットの動画サイトのなかで、最も人を集めているプラットホーム。いわゆるインターネットのメディア化が言われるときに、その最も象徴的なプレイヤーになってきました。この地位は、もう揺るがないですね。

 ただ、そこに甘んじているわけではない。これからは、さらに先に行きますよ。まず二つの路線があって、一つはエンターテイメントの方向です。動画というフォームから、今度は興業ですね。ネット上でミュージカルやコンサートなどのアーティスト・ライブを開くと、1万人の方がネットで見るだけのために2000円を払うという世界がすでにできつつあります。これに限らず、ユーザーが面白いと思っていただけること、今まではないエンターテイメントの楽しみ方を、ITのテクノロジーを使って、新しいビジネスモデルを作ってトライしていく、これが1つの方向です」

 そしてもう一つが海外展開だ。これについて夏野氏は具体的なプランをあえて語ってはいない。
「海外進出といっても、今はネットで容易に国境を越えることができる時代だから、海外に乗り込むというイメージではないかもしれない。少なくとも日本だけを土台にしない、日本人だけが相手ではない。そういうビジネスを展開していくということです。かつてならアメリカのIT企業のビジネスモデルに学ぶこともできましたが、インターネットインフラはいまや日本のほうが進んでしまったから、アメリカを真似しても意味がない。先行事例がないことをやる。だからこそ、チャンスがあるんです」と、ほのめかすのだ。

役割分担を超え、プロデューサーが技術を語り、エンジニアがビジネスを語る会社

 夏野氏が繰り返し強調する、ビジネスモデルの「新しさ」。先行事例のない無人の荒野に乗り出す原動力はどこにあるのだろうか。
「まあ、会社全体にそういう雰囲気がありますね。絶えず新しいことをやらないと、ここの人間は生きていけないので(笑)」

 エンジニアやプロデューサーが立てた事業プランを、経営陣が事業性という観点から徹底的に叩き、それをより確実なものにしていくという回路は、自動的に働くようだ。ただ、「事業を考えるのは経営陣、それを実装するのがエンジニア」といった、よく言えば役割分担、別の言葉でいえば頭と手の分離を、夏野氏は否定する。

「そもそも役割分担っていうのが嫌いなんですよ。『これは事務屋さんの仕事、あれは技術屋さんの担当』といった役割分担を、人の意見を排除するツールに使っているのが日本の大企業です。色分けることで自分のテリトリーを守ろうとする動きっていうのがある。僕は、基本的にそういうのは取っ払う。

 それは経営陣の中においてもそうなんです。例えば、西村博之という男は、ドワンゴには籍がない外部の人間なんですけど、彼も当社の中核メンバーですから。彼がビジネスモデルに口を出すこともある。ユーザーインタフェイスの話をすることもある。

 社員のなかでも、プロデューサーだから技術がわからなくてもいいなんてことはあり得ないし、エンジニアだからサービスの内容とかビジネスモデルに無関心でいいということもまたあり得ないんです」

実装力という武器を120%発揮しつづければ、必ずチャンスをモノにできる

 エンジニアに求める資質の話が出てきたところで、さらに突っ込んで聞いてみた。
――ドワンゴはこれからのエンジニアに何を期待しますか。

「Facebookの起業過程を描いた『ソーシャル・ネットワーク』という映画が典型的なんですが、インターネットの世界はですね、サービスの新しいアイディアが出てきたときに、それをコーディングしたやつが勝つ。そういう意味で技術をわかっているということは、1つのアドバンテージを持つわけです。あの映画の中に、Facebookの創始者マーク・ザッカ―バーグと、彼にコミュニティサイトのヒントを提供したウィンクルボス兄弟というのが出てきます。両者の決定的な違いは、マークはプログラミングができたけれど、ウィンクルボス兄弟は、単にアイデアだけで実装はできなかったということ。兄弟は、マークが開発している間、体育会でボートに乗ってた。もちろんオリンピックにまで出たすごいやつらなんですが、プログラミングできなかったために、ついにビジネスチャンスはものにできなかった。
 つまり、エンジニアは実装力という武器をもつ人々なんです。だから、自分の能力を出すことを惜しむな。自分の能力を120%出しれきれば、また自分の能力が上がっていく。出し惜しむと下がっていく。そういう世界じゃないでしょうか、技術の世界は」

 夏野氏が求めるのは、アイデアをカタチのあるものにするために、技術を出し惜しみせず、その実装感覚をたえず研ぎ澄ますことができるエンジニアだ。
「エンジニアはプロ・スポーツの選手と同じで、常に実戦に出ているから感覚が研ぎ澄まされていくけれど、一度プログラミングの業務を離れると、勘が鈍っていくものです。昔の業績じゃなくて、いまどんな能力を発揮できるか。それがたえず問われている。もちろん、将来的には現場を離れ、マネージメントをやりたいという人がいてもいいと思います。ただし、その後は、自分がエンジニアリング能力があるとは思わないことです。一番いけないケースは、技術屋出身だからということで、社長になっても、俺は技術のことがわかるという…。それはウソですよね?」

「120%の力を出しつづけること」──これは、夏野氏の、そしてドワンゴの人材戦略にも通じる話のように思える。
「人間は100人いれば、100人全員性格が違うと思うので、平均的なキャリアパスを描いても仕方がない。英語の点数が何点だからどうこうという議論にも僕は意味がないと思っているんです。その人の能力がたまたまその時代に、その器に必要だった時に、その人が会社にとって一番大事な人になるだけ。しかも、その必要度というのは永続的なものではありません。だからこそ、自分の今の能力を120%出す、120%発揮し続けることが、唯一、確かなキャリア・アップだと思うんですよね」

 120%どころか、今の会社で、自分の力を半分も出し切っていないと思うエンジニアは多いはず。そうした鬱屈感を吹き飛ばすだけの魅力が、ドワンゴにはあるようだ。

株式会社ドワンゴ 取締役 夏野 剛氏

1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA。NTTドコモ時代に、iモードを立ち上げたことで知られる実業家。2008年6月にドコモを退社し、同年7月ドワンゴ常勤顧問に就任、同年12月に取締役就任。ニコニコ動画の「黒字化担当」として活動。2010年より政策シンクタンク大樹総研客員研究員就任。慶応大学政策・メディア研究科特別招聘教授のほか、ドワンゴ他数社の取締役を兼任。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍。

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