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エンジニア給与“知っ得”WAVE! Vol.77 国家資格が有利?IT系資格で会社にいくらもらえるか
ITエンジニアのスキルを証明するものとして、国家資格、ベンダー資格など資格試験がある。資格取得をひとつのステップとして取り入れているIT系企業も多いが、重要なのは資格取得に向けたモチベーションの維持。報奨金や資格手当がないと、やっぱりやる気は起きないものなのだろうか。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/kucci(クッチー) 撮影/加納拓也)作成日:08.02.12
資格手当、合格報奨金のない職場が7〜8割って、ほんと?
 国家試験、民間試験を問わず、レベル別に階層化されたIT資格試験の体系は、エンジニアにとっては、自分の知識を試すのに格好の対象だ。企業からすれば、資格取得者を社内にそろえることで、顧客からの信頼を得やすい、つまり営業効果が上がるという狙いもあるだろう。

 しかしながら、最近は公的なIT資格試験の受験者数は減少ぎみといわれる。資格がなくても仕事はできるし、実際、多忙な業務のなかで資格試験のために時間を割くことは、それなりの努力と覚悟のいることだからだ。資格試験に向けたエンジニアのモチベーションをアップするためには、“飴”つまり報奨金や資格手当などを用意する必要があるだろう。資格取得だけが目的ではないにしても、結果的にはそれにつながるキャリア研修、スキルセミナーなどのスキルアップ支援制度もできればあったほうがいい。

 今回は、資格取得についてITエンジニア200人に本音、資格手当や報奨金制度など支援制度の実態について聞いてみた。アンケートでは、複数の国家資格・民間資格を挙げて、それぞれについて取得した場合の資格手当・合格報奨金の有無およびその金額について尋ねている。驚くべきは、資格手当で75%、合格報奨金で80.5%の人が、「上記の資格について、手当等は支給されない」と答えていることだ。さらには、「勤務先にキャリア支援制度がない」が7割以上という結果も出ている。

 もちろん、ITエンジニア個人へのアンケートであるため、自分が取得しようとしている資格については資格手当が出るのか、そして、それがいくらになるのかは知っていても、すべての資格についての実態を把握しているとは限らない。とはいえ、かなり厳しい実態ではある。
DATA1 「勤務先にキャリア支援制度がない」が7割以上
DATA1 「勤務先にキャリア支援制度がない」が7割以上
合格報奨金が10万円以上は6つの資格
 資格手当や合格報奨金が出るとすれば、それはどのようなものがあるかも、もちろん尋ねている。回答が集中したのは「基本情報技術者」「ソフトウェア開発技術者」「初級シスアド」「テクニカルエンジニア」などの国家資格だ。月々の資格手当も、「システムアナリスト」で平均2万6000円、「プロジェクトマネージャ」で1万4900円、「テクニカルエンジニア」の「データベース」「ネットワーク」「システム管理」「エンベデッドシステム」がいずれも1万1000円台(488万円)になっている。

 これに対してオラクル、シスコシステムズなどの各ベンダーや、民間団体が実施するいわゆる民間資格は、資格手当の額そのものは国家資格とそう大差はないものの、「資格手当あり」とする回答者の数は相対的に少なかった。

 今回の調査だけで、企業が民間資格より国家資格を重視していると結論づけることはできない。技術分野や対象の幅が広い国家資格と、特定ベンダーの技術に特化したベンダー資格を一律に比較することもまた難しい。だが、とりあえず国家資格にチャレンジすれば、なんらかの金銭的バックアップはあるらしいという、ひとつの傾向はみてとれるだろう。

 ちなみに合格報奨金で平均額10万円台のものは6つあった。金額の多い順番からいうと「CCIE-RS(シスコシステムズ)」(15万円)、「システムアナリスト」(14万9500円)、「プロジェクトマネージャ」(12万5952円)、「システム監査技術者」(12万833円)、「上級シスアド」(11万2895円)、「ORACLE MASTER platinum」(10万円)となっている。
DATA2 月々の資格手当平均額は約1万円、合格報奨金は約6万円
資格名
資格手当
支給額
(平均)
合格報奨金
支給額
(平均)
CISCO系 CCDA 21,250円 23,750円
CCDP 12,500円 43,333円
CCDP-WAN Switching 5,000円
CCIE-RS 5,000円 150,000円
CCIE-WAN Switching 14,000円
CCIR-ISP DIAL 5,000円
CCNA 11,250円 25,000円
CCNA-WAN Switching 5,000円 70,000円
CCNP 19,250円 43,333円
CCNP-WAN Switching 5,000円 70,000円
JAVA系 Javaプログラミング能力検定試験1級 10,000円 20,000円
MS系 MCP 10,600円 16,643円
MCSE 12,500円 28,571円
NTT系 .com Master 1,000円 27,500円
ORACLE系 ORACLE certified developer 15,000円 37,500円
ORACLE MASTER platinum 19,000円 100,000円
ORACLE MASTER gold 10,777円 47,692円
ORACLE MASTER silver 6,625円 27,083円
UML系 UMLモデリング技能認定 2,000円 48,000円
その他ベンダー、
プロマネ、コンサル系
XMLマスター 5,000円
Sun Java Certification 5,000円 50,000円
PMP(Project Management Profes) 60,000円
情報処理技術者試験系 システムアナリスト 26,000円 149,500円
プロジェクトマネージャ 14,900円 125,952円
アプリケーションエンジニア 14,142円 98,600円
ソフトウェア開発技術者 9,000円 61,296円
テクニカルエンジニア(ネットワーク) 11,727円 92,500円
テクニカルエンジニア(データベース) 11,727円 86,905円
テクニカルエンジニア(システム管理) 11,556円 86,750円
テクニカルエンジニア(エンベデッドシステム) 11,750円 92,188円
テクニカルエンジニア(情報セキュリティ) 10,125円 70,882円
情報セキュリティアドミニスレータ 8,375円 67,778円
上級システムアドミニストレータ 10,444円 112,895円
初級システムアドミニストレータ 3,667円 15,150円
システム監査技術者 14,750円 120,833円
基本情報技術者 4,650円 28,259円
システム運用管理エンジニア 9,000円 95,714円
ネットワークスペシャリスト 9,500円 83,636円
データベーススペシャリスト 9,333円 98,571円
マイコン応用システムエンジニア 9,333円 30,000円
第一種情報処理技術者 9,385円 37,500円
第二種情報処理技術者 5,071円 15,556円
会社のサポートに半数以上が不満たらたら
 こうした資格取得について、エンジニアは本音ではどう考えているのだろう。
「自分のスキルアップにつながる」と積極的にとらえている人は55%だった。その一方で、「資格などなくても仕事に支障がないので、興味なし」とする人が全体の4分の1(24%)いることにも注目したい。また、「会社からの推奨があるのでしかたなく取得している」(14%)という人たちの“しかたなく”という言い方も気になるところだ。

 理想的にはエンジニア自身のスキルアップ志向と、資格取得の形でそれをバックアップする会社の姿勢とがかみ合ってほしいところだが、必ずしもそうとはいえない現状があるようだ。

 そのことは「あなたの会社の資格手当・合格報奨金制度や、キャリア支援制度に対しての満足度を教えてください」という質問への回答からもうかがえる。会社のサポートに対して「とても/まあまあ満足している」のは全体の1割(11%)にすぎない。「どちらともいえない」の33%はおくとしても、「やや/かなり不満である」が57%と過半数を占めているのは重要だ。彼らはなぜ不満なのか。「かなり不満」と答えた人の理由をアトランダムに拾ってみよう。
DATA3 会社のキャリア支援制度に半数以上が「不満」
DATA3 会社のキャリア支援制度に半数以上が「不満」
30代前半(30〜34歳)・ハード系エンジニアの年収・残業代・労働時間は?
「資格手当てに不満」の理由
支援制度があれば自己スキルの向上UPにつながると思う(システム開発/32歳)
そもそも資格を取得しようという方針がない。そういった面での向上心をもちづらい環境だ(システム開発/25歳)
社員がスキルアップできる環境を整えるべきだと思う。(女性であっても!)(運用・サポート/30歳)
IT系の会社として技術者の価値を理解していない(パッケージソフト開発/38歳)
資格を取れというが、報酬および支援はない(システム開発/39歳)
個人的に学校でも行きたいけれど、そんな時間も支援もないから(システム開発/29歳)
 つまり、不満の理由の多くは、資格取得やスキルアップをサポートする会社の体制がないことに向けられているのだ。たとえ資格取得が奨励されていたとしても、その気力を奮い起こすだけの金銭的インセンティブがなく、また日々の多忙に追われて時間的余裕もないとすれば、やる気は起きないのは当然だろう。技術は人が担うもの。IT企業にとって人材の質こそが最大の資産であることは事実だし、企業もまたその点をPRする。しかし、実態はとなると、いかにもお寒いかぎりなのである。
もっと金銭的な援助を、そして時間を……
「あなたが会社に期待するスキルアップのための支援制度とは何ですか」という質問への回答も、なかなか切実感の伝わるものだった。以下のように、カネと時間のサポートを期待する声がえんえんと寄せられる。
30代前半(30〜34歳)・ハード系エンジニアの年収・残業代・労働時間は?
会社に期待するスキルアップのための支援制度
資格支援のために奨励金を支給してほしい(システム開発/26歳)
受講料、参考書代の負担をしてほしい(システム開発/28歳)
参考書代などの支給や、セミナーなどの無料受講、受験料の負担をしてほしい(システム開発/32歳)
合格一時金や手当の支給、資金と時間の支援がほしい(システム開発/35歳)
資格試験の期間中は仕事のサポートをしてもらえるといい(システム開発/31歳)
 こうしてみると、資格についての意見の中で全体の4分の1を占めた「資格などなくても仕事に支障がないので、興味なし」とする人たちも、もし会社がバックアップさえしてくれれば、資格にチャレンジしたいと思う人はいるのではないだろうか。そういう態勢がないから、資格に興味を失ったというふうに理解できないこともないのである。

 むろん会社が資格手当を支給しなかったり、合格報奨金をケチったりするのは、業務の品質と効率向上、ひいては業績アップという観点からみたとき、エンジニアの資格取得がどこまで役に立つのかということに疑問を抱いているからでもあるだろう。つまり資格と業務の関連について、費用対効果の判断がつきにくいのだ。このあたりを客観的に示す経営指標はいまのところ存在しない。

 とはいえ、技術者のスキルを客観的に評価する資格制度は、その制定過程をみても、何も国や特定の大手ベンダーが上から一方的に押しつけたものではなく、IT業界が技術者のスキルの底上げのために業界ぐるみで賛同したものであるはずだ。そうした資格を定めておいて、その取得は個人任せというのではあまりにも無責任というべきだろう。
あきらめずに自前で勉強を続ける人々
 しかし、たとえ会社のサポートが得られないとしても、すべてを会社のせいにして、スキルアップをあきらめるのは、いかがなものだろうか。「あなたが個人でスキルアップやキャリアアップのために使っている金額と内容を教えてください」という質問では、「特になし」が大半を占めたが、なかには金銭的に自腹を切ったり、自分なりの工夫を凝らして、頑張っているエンジニアもいる。
30代前半(30〜34歳)・ハード系エンジニアの年収・残業代・労働時間は?
個人でスキルアップやキャリアアップのために使っている金額・内容
月々2000円未満。個人で本屋に行き、参考となりそうな専門書を購入する(パッケージソフト開発/36歳)
月々2000円程度。弁理士試験の参考書や答練参加のため(研究・特許/35歳)
講座受講・テキスト購入。5000円程度(社内情報システム/39歳)
書籍はなるべく会社や公共の図書館を使うようにしているので、ほぼ0円(システム開発/36歳)
 ただ、お金はかけていないとはいえ「最新のWeb技術を主にWebサイトから学ぶ」(研究/特許・33歳)など、自己啓発のためにネットを活用しているエンジニアは少なくない。こうした努力の積み重ねが業務に生かせれば、結果的にはその人のエンプロイアビリティ(雇用される力)を高めることになる、と期待したい。
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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
休日によく書店巡りをするのですが、技術書コーナーでは熱心に技術書選びをするエンジニアらしき方々をよく見かけます。けっして安くはない技術書やセミナー参加を支援してほしいという気持ちには納得します。最近は、ITエンジニアのスキルアップやキャリア支援に注力する企業も増えているようなので、会社選びのポイントのひとつに入れてみるのもいいかもしれませんね。

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