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国家試験、民間試験を問わず、レベル別に階層化されたIT資格試験の体系は、エンジニアにとっては、自分の知識を試すのに格好の対象だ。企業からすれば、資格取得者を社内にそろえることで、顧客からの信頼を得やすい、つまり営業効果が上がるという狙いもあるだろう。 しかしながら、最近は公的なIT資格試験の受験者数は減少ぎみといわれる。資格がなくても仕事はできるし、実際、多忙な業務のなかで資格試験のために時間を割くことは、それなりの努力と覚悟のいることだからだ。資格試験に向けたエンジニアのモチベーションをアップするためには、“飴”つまり報奨金や資格手当などを用意する必要があるだろう。資格取得だけが目的ではないにしても、結果的にはそれにつながるキャリア研修、スキルセミナーなどのスキルアップ支援制度もできればあったほうがいい。 今回は、資格取得についてITエンジニア200人に本音、資格手当や報奨金制度など支援制度の実態について聞いてみた。アンケートでは、複数の国家資格・民間資格を挙げて、それぞれについて取得した場合の資格手当・合格報奨金の有無およびその金額について尋ねている。驚くべきは、資格手当で75%、合格報奨金で80.5%の人が、「上記の資格について、手当等は支給されない」と答えていることだ。さらには、「勤務先にキャリア支援制度がない」が7割以上という結果も出ている。 もちろん、ITエンジニア個人へのアンケートであるため、自分が取得しようとしている資格については資格手当が出るのか、そして、それがいくらになるのかは知っていても、すべての資格についての実態を把握しているとは限らない。とはいえ、かなり厳しい実態ではある。 |
DATA1 「勤務先にキャリア支援制度がない」が7割以上 |
資格手当や合格報奨金が出るとすれば、それはどのようなものがあるかも、もちろん尋ねている。回答が集中したのは「基本情報技術者」「ソフトウェア開発技術者」「初級シスアド」「テクニカルエンジニア」などの国家資格だ。月々の資格手当も、「システムアナリスト」で平均2万6000円、「プロジェクトマネージャ」で1万4900円、「テクニカルエンジニア」の「データベース」「ネットワーク」「システム管理」「エンベデッドシステム」がいずれも1万1000円台(488万円)になっている。 これに対してオラクル、シスコシステムズなどの各ベンダーや、民間団体が実施するいわゆる民間資格は、資格手当の額そのものは国家資格とそう大差はないものの、「資格手当あり」とする回答者の数は相対的に少なかった。 今回の調査だけで、企業が民間資格より国家資格を重視していると結論づけることはできない。技術分野や対象の幅が広い国家資格と、特定ベンダーの技術に特化したベンダー資格を一律に比較することもまた難しい。だが、とりあえず国家資格にチャレンジすれば、なんらかの金銭的バックアップはあるらしいという、ひとつの傾向はみてとれるだろう。 ちなみに合格報奨金で平均額10万円台のものは6つあった。金額の多い順番からいうと「CCIE-RS(シスコシステムズ)」(15万円)、「システムアナリスト」(14万9500円)、「プロジェクトマネージャ」(12万5952円)、「システム監査技術者」(12万833円)、「上級シスアド」(11万2895円)、「ORACLE MASTER platinum」(10万円)となっている。 |
DATA2 月々の資格手当平均額は約1万円、合格報奨金は約6万円 |
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こうした資格取得について、エンジニアは本音ではどう考えているのだろう。 「自分のスキルアップにつながる」と積極的にとらえている人は55%だった。その一方で、「資格などなくても仕事に支障がないので、興味なし」とする人が全体の4分の1(24%)いることにも注目したい。また、「会社からの推奨があるのでしかたなく取得している」(14%)という人たちの“しかたなく”という言い方も気になるところだ。 理想的にはエンジニア自身のスキルアップ志向と、資格取得の形でそれをバックアップする会社の姿勢とがかみ合ってほしいところだが、必ずしもそうとはいえない現状があるようだ。 そのことは「あなたの会社の資格手当・合格報奨金制度や、キャリア支援制度に対しての満足度を教えてください」という質問への回答からもうかがえる。会社のサポートに対して「とても/まあまあ満足している」のは全体の1割(11%)にすぎない。「どちらともいえない」の33%はおくとしても、「やや/かなり不満である」が57%と過半数を占めているのは重要だ。彼らはなぜ不満なのか。「かなり不満」と答えた人の理由をアトランダムに拾ってみよう。 |
DATA3 会社のキャリア支援制度に半数以上が「不満」 |
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つまり、不満の理由の多くは、資格取得やスキルアップをサポートする会社の体制がないことに向けられているのだ。たとえ資格取得が奨励されていたとしても、その気力を奮い起こすだけの金銭的インセンティブがなく、また日々の多忙に追われて時間的余裕もないとすれば、やる気は起きないのは当然だろう。技術は人が担うもの。IT企業にとって人材の質こそが最大の資産であることは事実だし、企業もまたその点をPRする。しかし、実態はとなると、いかにもお寒いかぎりなのである。 |
「あなたが会社に期待するスキルアップのための支援制度とは何ですか」という質問への回答も、なかなか切実感の伝わるものだった。以下のように、カネと時間のサポートを期待する声がえんえんと寄せられる。 |
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こうしてみると、資格についての意見の中で全体の4分の1を占めた「資格などなくても仕事に支障がないので、興味なし」とする人たちも、もし会社がバックアップさえしてくれれば、資格にチャレンジしたいと思う人はいるのではないだろうか。そういう態勢がないから、資格に興味を失ったというふうに理解できないこともないのである。 むろん会社が資格手当を支給しなかったり、合格報奨金をケチったりするのは、業務の品質と効率向上、ひいては業績アップという観点からみたとき、エンジニアの資格取得がどこまで役に立つのかということに疑問を抱いているからでもあるだろう。つまり資格と業務の関連について、費用対効果の判断がつきにくいのだ。このあたりを客観的に示す経営指標はいまのところ存在しない。 とはいえ、技術者のスキルを客観的に評価する資格制度は、その制定過程をみても、何も国や特定の大手ベンダーが上から一方的に押しつけたものではなく、IT業界が技術者のスキルの底上げのために業界ぐるみで賛同したものであるはずだ。そうした資格を定めておいて、その取得は個人任せというのではあまりにも無責任というべきだろう。 |
しかし、たとえ会社のサポートが得られないとしても、すべてを会社のせいにして、スキルアップをあきらめるのは、いかがなものだろうか。「あなたが個人でスキルアップやキャリアアップのために使っている金額と内容を教えてください」という質問では、「特になし」が大半を占めたが、なかには金銭的に自腹を切ったり、自分なりの工夫を凝らして、頑張っているエンジニアもいる。 |
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ただ、お金はかけていないとはいえ「最新のWeb技術を主にWebサイトから学ぶ」(研究/特許・33歳)など、自己啓発のためにネットを活用しているエンジニアは少なくない。こうした努力の積み重ねが業務に生かせれば、結果的にはその人のエンプロイアビリティ(雇用される力)を高めることになる、と期待したい。 |
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