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『攻殻機動隊』の光学迷彩、攻性防壁を実現したSF好きエンジニア
妄想に酔う∞稲見昌彦&富田拓朗のクレイジー技術対談
最先端ネットワーク世界のカリスマプログラマであり、CGアーティストでもある富田拓朗氏。情報世界と現実世界の融合に挑戦し続ける電通大教授、稲見昌彦氏。SF好きを自認する2人の“クレイジーエンジニア”に、技術の夢を存分に語って頂いた。
(取材・文/川畑英毅 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:07.10.23

まだ実現していない「ときめき」はいくらでもある

10月某日夜、富田氏のオフィスで、2人の“クレイジーエンジニア”の対談を挙行。この日が初対面というお二人だが、お互い「一度お会いしてみたかった」と言うだけあり、最初からテンションは高め。まずは、対談場所でもあるコードクリード社打ち合わせスペースのオーディオセットにかかる、富田氏秘蔵のレコードから話が始まった。

コードクリード代表取締役CEO 兼 zigsow取締役 富田拓朗氏
1971年生まれ。幼少時よりコンピュータに触れる。自ら起業した携帯電話向けリアルタイム動画変換技術の(株)セーバーは06年に大手企業に売却。06年にコードクリード社を設立し、次世代技術インキュベーションを中心とした新たなビジネスを仕掛ける。古いコンピュータや、書籍、レコード等の並外れたコレクターでもある。
VS 電気通信大学 電気通信学部 知能機械工学科 教授 稲見昌彦氏
1972年生まれ。東京大学大学院工学研究科博士課程修了。東京大学助手、マサチューセッツ工科大学客員科学者を経て、2006年4月より電気通信大学知能機械工学科教授。米『TIME』誌Coolest Inventionsなど受賞。2008年4月、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に移籍予定。

“何を作るか”は伝えられるものじゃない
富田

 のめり込むものが多い僕ですが、クラシック、ジャズの古いレコードもそのひとつ。目指すレコードを探し出す時は、まさにスナイパー気分。神保町の中古レコードショップを回ったり、ネットで求めたり。でも、レコードって、その盤のプレスの状態、保存の過程などによって、1枚1枚音が違うんです。だから1枚買って終わりじゃなくて、同じものを10枚くらい買ったりする。そして、1枚1枚針を落として聞き比べる。目指す音を出す1枚に巡り会えたときは、体に電撃が走りますよ!(笑)

稲見

 その“一枚”を選び出す基準はどこにあるんですか。

富田

 もちろん、その音の優劣に客観的・絶対的優劣の基準があるわけじゃないんです。あくまでも自分にとって“いい音”の追及です。

稲見

 なるほど、それは納得できます! 技術の世界でも“自分基準”がどこにあるかが、とても大事なんですよね。僕は大学で“モノを作る技術”を教えているわけだけれど、教育の中で伝えられるのは、あくまでも“どう作るか”という過程の技術。そもそも“何を作るか、何を作りたいか”という根っこの部分は教えてどうこうというものじゃなくて、もともと自分の中になければいけないものなんです。それが難しい。


SFが「これが欲しい」を教えてくれた
稲見

 そんな「これが欲しい」の夢が詰まったものといえば、やはりSF小説やアニメ。われわれは「ドラえもん」や「タイムボカン」から入った世代。のび太みたいにメガネをかけてみたいと思いましたよ。いや、いまメガネかけてますけど(笑)。もしかしてドラえもんが出てきてくれないかと、机の引き出しを未練がましく開けてみたり……。例えば、四次元ポケットの中にあるような道具を作りたいと思いましたね。ドラえもんの道具の中ではなんと言っても「どこでもドア」が一番人気だと思うんですけれど、個人的には「もしもボックス」(*1)が究極。「これぞバーチャル・リアリティ!」って感じですよね。

富田

 共通点が多いですね。僕は実写系では「スタートレック」や「ウルトラセブン」が好き。

稲見

 「セブン」は世界観に妥協がない!って感じがいいですよね。

富田

 あとは、「レインボーマン」や「バロムワン」などの超人モノ。「キカイダー01」も好きだったなあ。特にハカイダー(*2)は、あの頭に入っている人間の脳はどうやって固定しているんだろうと不思議でしたねえ。しかも光にさらされていて大丈夫なのか、とかね(笑)。

稲見

 最近、光で神経をコントロールするシステムの研究が出ていましたよ。そういうメカニズムを持ってるんじゃないかなあ(笑)。

富田

 考えてみると、いろいろ不思議なものがいっぱいありますよね。「反重力エンジンって何だ?」とか、「波動砲の波動って何?」とか。でも「それは原理的におかしい」といった、“トンデモ本”方面に行ってしまうと面白くない。そんな奔放な「こんなものがあればいいな」を作り出したクリエイティビティをこそ評価したい。

稲見

 そういったものを考える過程も面白いし、「どうしてそういうものに惹かれたんだろう」と振り返ってみるのも面白いですよね。

富田

 SFを知ることは、いわば歴史を知ることと同じだと思うんですよ。でも、今の科学ではSFはやらない。当然、国語でもやらない。もったいないですよね。

稲見

 そうです! 例えば理科の勉強の中ででも、絶対にSFを扱うべきですよ。SFを読みながら人類の夢を知っていく、という部分が確かにあると思うんです。もちろんひと言でSFといっても幅が広いけれど、その中で自分の肌に合ったものを拾い上げて、その中から「コレは来る!」というものを確立していく……。


注1:昔の電話ボックスのような外見の「疑似体験装置」。中に入って「もしも……だったら」などと指令すると、その通りの世界を体験できる。
注2:「人造人間キカイダー」シリーズに登場する敵役。


“「オリジナル」がますます大切に
富田

 SF小説としては、僕は宇宙モノ、バイオナノテク系、それからメカニカル系が好き。メカニカル系といっても、派手なアクションがあるものではなくて、メカに関連して、人間のメンタリティが描き出されるのがいい。P・K・ディックは、映画化された「ブレードランナー」(*3)を何度観ていることやら。ロストワールド系も面白い。

稲見

 僕はやはりセンス・オブ・ワンダーを強く求めてます。定番ですがJ・P・ホーガンの「星を継ぐもの」シリーズ(*4)や、グレッグ・ベアの「ブラッドミュージック」、A・C・クラーク、I・アシモフ(*5)あたり。60年代から70年代にかけて、なぜあんなにSFが流行ったんでしょう。いまや古典として高い評価を得ている作品が、あの頃に、生物のカンブリア紀爆発のように一斉に出てきているんですよね。そこに描かれていた様々な「夢」を、今の技術はまだ吸収し切れていない。それだけ、僕らにはまだ未来があると言っていいかもしれない。もちろん、サーバースペースは描かれていてもインターネットにあたるものは出てきていなかったり、中高生までガジェット的に携帯電話を使っているようなところまでは想定されていなかったり、というようなこともあるんですが。

富田

 そうした技術の概念に関して言えば、特に最近、僕は“オリジナル”ということにこだわっているんです。これからますます“オリジナル”の意味が面白くなると思う。

稲見

 どうなのかな。“オリジナル”って、蜃気楼の逃げ水みたいなものなんじゃないですか? 何かひとつのモノのオリジナルを探っていっても、そのさらに昔に祖型があり、源流があり……。常に“オリジナル”は相対的な過去にある、そんなふうに思うんですが。

富田

 確かにそうです。ただ、僕が言う“オリジナル”とは、曖昧模糊とした源流探しではないんです。「……のようなもの」という原型はいくらでもさかのぼれるでしょうが、そうではなくて、例えば携帯電話なら携帯電話と名付けられ、コンセプトが具現化した瞬間があると思う。それが今、僕が考えている“オリジナル”です。その瞬間に、それまでぼんやりとしていた概念が集約・体系化されて、そこからまた進化や拡大が始まる。特に今のように科学技術が茫洋と広がってしまったなかでは、それを整理していくことも大事。単に「ないもの」を作るのがオリジナリティなんじゃなくて、マクロ視点からのオーガナイザーが必要なんだと思う。

稲見

 言葉による“可視化”と同様に、モノによる“可視化”もありますよね。世界中の面白い研究をしている人たちと話をするのは、非常に刺激的なんですが、そうするためには、土台としての共通通貨を持ってなきゃいけない。それは自分自身も面白い研究をしていることであり、そのデータやモノを持っていることなんです。僕などは、むしろそのためにこそ研究しているのかもしれない。

富田

 そんな土壌を作っていくべきなんでしょうね。子供の頃のときめきや、まだ漠然としか語られていない夢、そんななかにエンジニアにとっての“チョモランマ”クラスの目標というのが、実はまだいくらでもあるんじゃないかな。


注3:原作はP・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」(1968年)。映画は1982年に公開され大ヒットした。
注4:月面で5万年前の、宇宙服を着た人類の遺体が発見されるシーンから始まるハードSF。専門家の仮説と検証が繰り返され、謎は人類発祥の秘密にまで遡っていく。
注5:A・C・クラーク、代表作は「2001年宇宙の旅」。I・アシモフ、代表作は「ファウンデーション」シリーズや「われはロボット」。ロボット三原則で名高い。


“「今、こんなものが欲しい!」富田拓朗氏

「攻性防壁」は、攻殻機動隊に登場するハッカーの電脳を焼き切るプロテクト技術。現在、zigsowのCTOである田中一秀と一緒に人工知能の技術を応用して、その研究開発を行っています。

 現時点では「攻性防壁」というよりは「身代わり防壁」という段階。クラッキングされたときにシステムの身代わりになって、やられてくれるという健気なテクノロジーです。攻撃パターン等を動的解析し、その傾向をグルーピングし、リアルタイムでそれに対して対応を行うという仕組みで、人工知能というなかなか新しい具体的用途を見いだしにくい技術をふんだんに応用出来ることが開発の面白味でもあります。将来的には応用系として「攻撃を受けたらやり返す」くらいのシステムにまで発展させても面白いかと思っています。

 アニメ中に登場するそのものという訳ではありませんが、今後確実に必要不可欠な技術になると思ったら、つい、やり始めていました。もともとコードクリード社として研究していたのですが、田中がJOINした事で開発が一気に加速しました。

 今現在はα版のレベルで、唯一の問題点は、ネットに迷惑を掛けられないので広域実験が行えないこと。どこかの大規模研究所と共同でやれればいいなと思っています。


“「今、こんなものが欲しい!」稲見昌彦氏

「ヤッターマン」の魅力は、なんと言っても「今週のビックリドッキリメカ、発進!」。ヤッターメカもさることながら、三悪(*6)が毎回、インチキ商売をしながら作ったオリジナリティ溢れるロボットが大好きでした。ボヤッキーは憧れの研究者の一人です。

 今週のビックリドッキリメカ(ゾロメカ)には、研究の観点から大変注目しています。現在研究中の災害のためのレスキューロボットシステムはゾロメカ的な発想で、データ通信を相互に行いながら多数のロボットが被害者の探索を行えるようなシステム構築を考えています。シンプルな機能を持つロボットを大量にという発想は今なお斬新です。

 インタフェース/コックピット系研究者としては、三悪のメカのラグジュアリな内装と「おだてブタ」をはじめとする物理エージェントベースのユーザインタフェースには大変惹かれます。もちろんこちらは、通常の大学の研究費では絶対構築出来そうにないので、それこそ何かインチキ商売の上がりで製作するのが正しいファンのあり方と言えるでしょう!(笑)

注6:ヤッターマンの敵役、ドロンジョ、ボヤッキー、トンズラーの3人。ボヤッキーはメカ・作戦担当。


“ワクワク”は終わらない

上に紹介したほかにも、「20世紀の技術論」から「感動は伝達できるか」、さらには思考のプロセスや読書法まで……。2人の“クレイジーエンジニア”のお話は、夜遅くまで熱心に続いた。聞いていて感じたのは、お2人とも技術や夢の「ときめき感」を熱く抱き続け、それが研究開発の強い原動力になっていること。「未来」が不確かなものに見える今だからこそ、そんな熱い思いがますます重要になってきているのかもしれない。

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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
今回の対談は同年代であり、お互いが好きなSFと技術についてということで、きっと1時間やそこらでも話がまとまらないだろうと予想。お忙しい二人が心おきなく話せる夜の時間帯にセッティングしたのですが、終電ぎりぎりになっても話は尽きず……。ここでご紹介したのは、そのほんの一部ですが、興味深い技術者魂のお話もたくさん聞けたので機会があったらまたご紹介したいと思います。

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