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明日に向かってプログラめ!!PARTU vol.1/10 竹内郁雄@Lispハッカーは、日本のゲルトミューラーなのだ
明日に向かってプログラめ!!の全10回が終わり、ご好評におこたえしてPART2をスタートさせました。その第1回目に登場いただくのは日本人ハッカーの大御所、竹内郁雄さん。筋金入りのサッカーファン、プレーヤー、そして監督でもある氏は、サッカー好きが高じてRoboCupを始めたそうです。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/関本陽介)作成日:07.09.21
プログラミングとは、作文である
竹内郁雄さん
災害対策本部での情報提示画面
災害対策本部での情報提示画面。画面左上が使用中のアイコンの凡例、左側が警戒や指令などの文字列表、右側は携帯電話で撮影した土砂崩れの写真
3枚の大型モニターで表示させたGoogle Earthの画面
3枚の大型モニターで表示させたGoogle Earthの画面
ポジションはフォワード、審判員資格もゲット!
サッカーはいつごろから始められたのですか?
中学生の最後からですね。ずっと続けていたんだけど、サッカー部などには所属していなくて、大学のときにサッカーサークルに入ったくらい。それが入社したNTTの研究所でサッカー大会があり、40m近いロングシュートを決めたらサッカー部に誘われてね。研究所だけでなく現業も含めての部なんだけど、29歳になって生まれて初めて猛練習をしました。
 土・日はもちろん、1年の半分はサッカー漬け、最盛期で1年の4分の3は練習していたかな。
その後は監督にもなられたとか。
電気通信大学に移ってからも続けていました(笑)。自宅から電通大まで行く途中にちょうど研究所があって、位置的にもやるしかないと。ただ、選手は仕事で忙しいから試合で欠員が出る場合があって、そんなときは選手としても出場。58歳で公式戦に出たのは最年長記録じゃないかな(笑)。
 東京大学にきてからは後任に監督を譲ったけど、今の監督も仕事が忙しいうえに浦和レッズの大ファン。年間シートをもってるくらいだから、やっぱり見に行っちゃうよね。だから私が今でも「監督代行」として指揮することがある。チームの皆に楽しくサッカーをやってもらうには、年齢が上のほうがいいのかも。
竹内氏のキーボード
ポジションはどこですか?
こう見えてもフォワードで、ヘディングが得意。もう40歳を過ぎていたけど、審判員の講習で、代々木公園のサッカー場で練習試合があってね。コーナーキックからヘディングを決めました。自分で言うのも何だけどチョーすごいシュートで、周りが驚いていた。今でもクリアに覚えています。
 もともとキーパーの弾いたボールとか、バーに当たって跳ね返ったボールをヘディングで入れるのが得意。そんな私に付いたあだ名が「ゲルトミューラー」(ドイツ史上最高のストライカーでデル・ボンバー[爆撃機]と呼ばれた選手)。ひげが似ているだけで、それほどうまくないけど。
お話にありましたが、サッカーの審判員の資格もおもちとか?
3級審判員。2級も取りたかったけど、年齢制限なんかがあってね。ほら、この29番のユニホームがサッカー部のもので、こちらが審判員の笛とレッドカード(写真)。レッドカードを出すときは腕を高く上げなければいけない。
あの、誠に申し訳ないんですけれど、ユニホームを着てそのポーズをお願いできますか……。
いいよ。ちょっと待ってね。
ロボカップ・レスキューからIT防災の道へ
竹内さんはサッカーが好きでRoboCupを始められ、2001年にはRoboCup Rescue(災害救助活動用ロボットによるシミュレーション)の第1回世界大会で優勝されました。これをきっかけに「IT防災」の研究に取り組み、最近では「マルチマウスミドルウェア」を開発されています。
どれも学生諸君の仕事ですけど。
 入ってみると、防災の分野ではあまりIT化が進んでいなかった。例えば災害時には対策本部が設置され、各部署の人が集まってさまざまな情報を報告したり共有したりするわけだけど、いまだに大きな紙地図を使って、そこに付せんを張ったり書き込んだりしています。
 これではそのグループにしか情報は伝わらないし、リアルタイムの更新も難しい。また、他所からの情報もファクスや電話でやり取りしていた。そこで大学院生の上田真史君を中心に開発したのが先ほどの「マルチマウス」で、これは1つのモニターに独立した複数のマウス(最大109個)が使えるミドルウェア。もうひとつは、複数のモニターで1つの画面を表示させるソフトウェアを開発した。
  すべてをデジタル化して入力し、記録し、情報共有するわけですね。
竹内氏 そう。例えばノートPCを2×3で6台並べて、1つの大画面で地図を表示させる。こうしたソフトはほかにもあったけど、こいつは自由度が高くて、表示する範囲を指定できたり、「のりしろ」も入れられる。隣同士のモニターでは端の部分で地域が重なるから、のりしろを幅1pほど入れると地図がとても見やすくなるんだね。
 その大画面をプラットフォームにして、複数の人が独立したマウス操作で情報の入力などをするわけ。カーソルを色分けし、必要があればエリアごとに動作範囲を固定させて、それぞれの処理を行う。一方で、現場にいる方には携帯電話で位置情報付きの情報や写真を送ってもらい、地図に加えたりもできる。実証実験も行っていて、かなりいい感じに進んでいます。
防災だけでなく、ほかの用途にも使えそうですね。
マルチマウスはゲーム、会議、サッカーのような団体競技のイメージトレーニングにも使えるね。はこだて未来大学の研究室では、バスケットボールに使うプログラムに応用されているし。
 マルチモニターのほうは見るだけで面白い。学生がやっていたのは、壁一面に5台のプロジェクターでパノラマ写真を投影させるとか、大きなモニターを並べてGoogle Earthを表示させるとか(上の写真)、Windowsのフォルダの中の何百というファイルを見せるとか。高解像度の巨大画面に表示され、カーソルがモニターを飛び越えていくから、皆が驚いた(笑)。
最近は「宇宙カレンダー」の関数プログラムを作成
プログラミングを始めたのはいつごろからですか?
私はチョー奥手で大学院1年のとき。日本のプログラマの第一世代と第二世代の間で、そもそも計算機がなかったからね(笑)。研究室の先生に古い東芝の計算機を「触ってみないか」と言われて、それから病みつき。外部記憶装置が紙テープで、オセロゲームを作ったりしていました。もちろん、コテコテのアセンブラで。
NTTの基礎研究所に入社されてからはどうでしたか?
入って1年もたたないうちに、名機と呼ばれたDECの「PDP-11」が来てね。うれしくてうれしくて、もう、なめるように使った。今の電卓より能力は劣るのだろうけど、当時の価格で1000万円くらい。天国にいるような気持ちで、アセンブラでLispの処理系を作ったりしました。
 そのうち5人でLispマシンを作ろうという話になり、OSを全部Lispで書いたりして、「TAO/ELIS」というLispマシンを作った。そうしたらNTTが民営化されて売れって話になった。そこそこ評判はよかったんだけど、私に言わせれば完成版じゃないからこっちは不満でね。そこで、ハード屋とソフト屋の4人が集まって、本業以外の時間で再挑戦。石(CPU LSI)を焼くところから始めたんだけど、これだけで2年掛かった(笑)。
最近はどんなプログラムを書かれました?
ちょうど先週、「夏のプログラミング・シンポジウム」というのがあり、若い人が来るから彼らの「生き血」を吸おうと参加を決めた(笑)。そうしたら条件があり、好きな言語でカレンダーのプログラム(与えられた年と月のカレンダーを出力)を書いてこいという。結局、私は遅刻してしまいました。 竹内氏のキーボード
  なぜですか?
忙しくて、その日の朝から書き始めたからです。ただ、カレンダーのプログラムなんて手あかがついているから、宇宙のカレンダービジネスを作品にした。例えば「火星で商売を始めるあなたへのカレンダーです」という具合。
 火星には月(衛星)が2つあって、大きく見えるほうが7.66日で火星を1周する。ただ、1カ月が7.66日ではさすがに短すぎるから3回まわったら1カ月とすると、28カ月で1年。火星
は地球と同じくらい自転軸が傾いているので四季(夏至、冬至、春分、秋分)があるから、4の倍数でちょうどいい。24日と25日の月を交互にして、うるう年も考慮して、曜日は南総里見八犬伝の「仁義礼智信忠孝悌」、月は面倒くさいから、い月、ろ月のように「いろは」で作った。「く月」まであったけど(笑)。
想像もできませんが……こうしたカレンダーのプログラムを作ったのですね?
正確にいうと、こうした基本データを入れるとカレンダーが自動生成される、カレンダー関数生成プログラムを作ったんです。水星でも木星でも自由に指定できるし、ほかには武田信玄カレンダーとかね。武田信玄が戦国時代を勝ち抜いて、1603年に征夷大将軍になったとする。そうしたら「風林火山」曜日を作ったんじゃないかと。その仮定で今日、今月のカレンダーが出てくるわけ。
 これをウソ・カレンダーと名付けました。ウソはUSOで「Universal Standard Organization」の略。ISOでなくUSO。資料は前の日にウィキペディアで調べておいたけど、プログラミングが昼まで掛かって、遅刻してしまった。
話は変わりますが、この道具一式(上の写真)は竹内さんのお葬式っぽいんですが……。
NTTの研究所時代の生前葬の遺品です。じゃまになったので最近送られてきました。写真は20代のとき、忘年会か何かで酔っ払って、上司の眼鏡をぶん取って掛けているものだな。写真をそのまま学会発表に使ったら怒られちゃいました。
知っていました? ある検索エンジンに「竹内郁雄」と入れると、関連検索で「変人 竹内郁雄」と出てくるんです。
えっ、あ、ホントだ。
竹内郁雄さん 竹内郁雄さん(60歳)
1946年生まれ。東京大学大学院理学研究科数学専攻修士課程修了。工学博士。日本電信電話公社(現NTT)の基礎研究所、NTTソフトウェア研究所などを経て、1997年に電気通信大学の情報工学科教授、2005年より東京大学大学院の情報理工学系研究科創造情報学専攻教授。日本におけるLispの草分け的な存在であり現役のハッカー。また、研究室を率いてのRoboCup出場・優勝、IPA「未踏ソフトウェア創造事業」のPMとして若手プログラマの発掘・育成、災害時や防災へのIT活用など、非常に多面的な活躍で知られる。著書、訳書多数。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
とっても失礼な言い方なのですけれど、竹内先生はカワイイ方です。特に無邪気な瞳が少年ぽいです。そうでなければ、火星カレンダーとか武田信玄カレンダーとか思いつきません。ちなみに鵺(ぬえ)が退治された1333年(平家物語による)を火星元年とすると、火星は地球の2倍弱回転が遅いので、今年は火星暦で359年だそうです。

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明日に向かってプログラめ!!

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