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明日に向かってプログラめ!! vol.9/10 川合史朗@Gaucheは、ハワイで俳優をしている
根強いファンをもつLisp系プログラミング言語のScheme。その処理系である「Gauche」を開発した川合史朗さんは、10年ほど前からハワイにお住まいです。「いつか取材を」とメールでやりとりしていたら、何と現地で俳優をしていると発覚! そんな彼がイベント「Gauche Night」で来日しました。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/関本陽介)作成日:07.06.25
世界を自分で解きほぐしたい。だから芝居とプログラミング
川合史朗さん
3DCG映画「ファイナルファンタジー」で川合さんが構築したデータベースの画面
フルCG映画「ファイナルファンタジー」で、
川合さんが携わったプロダクション・アセット管理システム
2002年度の未踏ソフトウェア創造事業で選ばれた作品、「3Dコンテンツのコラボレーティブオーサリングフレームワーク」のスクリーンショット
2002年度の未踏ソフトウェア創造事業で川合さんがつくった、
「3Dコンテンツのコラボレーティブオーサリングフレームワーク」
のスクリーンショット
昨年上演の「Another Heaven」では主役級を熱演
ハワイで役者さんをされているとは思いませんでした。どんなお芝居をされているのか教えてください。
主に映画と舞台です。映画では昨年、「Sunday Wind」という短編映画が公開されました。真珠湾攻撃直前の1941年のハワイの話で、登場人物は3人の農夫です。2人のハワイアンと1人の日系人なのですが、私は日系人を演じました。
 また、昨年は「Another Heaven」という舞台に出演しました。私の役はKatsu Gotoという実在の人物です。1885年にハワイに移民した日系人で、大きなマーケットを経営してビジネスで成功した人なのですが、人種間の対立もあって殺されてしまうんです。そして芝居の後半では、別の日系人の刑事が犯人を捜すというミステリー仕立てになっています。
上演は何週間くらいだったのですか? また、その前の練習にはどのくらいかけるものなのでしょうか?
上演期間は5週間でした。稽古が6週間ほどだったので、3カ月ほど芝居に入っていましたね。私を含めてフルタイムの役者はほとんどいませんから、稽古は平日が3時間、週末はもう少し長くて5時間くらいです。ただ、きちんとスケジュールを組んでシーンごとに稽古しますから、必ずしも全員が集まるわけではありません。
「Another Heaven」の評価はどういうものだったのでしょうか?
マスコミの反応は2つに分かれました。絶賛してくれる新聞もありましたが、ドラマ、ミステリー、人種的な問題にも焦点を当てた作品でしたので、どれかにテーマを絞ったほうがよかったという意見もありました。私としては、とてもよくできた脚本だと思っています。
Bank of HawaiiのCMで結婚式以来のタキシード
脚本と言えば、ここにお持ちなのが「Another Heaven」の脚本ですね(上の写真で河合さんが手にしているもの)。もちろん英語で書かれているわけですが、英語のセリフはやはり難しいのでしょうか?
アメリカ生活が長いので日常会話は苦労しませんが、発音という意味ではネイティブ並みには話せません。ただ、幸い役どころが日系人ですから、日本語なまりがちょうどよいというか(笑)。2004年の夏に「Cane Fire」という舞台に立ち、そこでも日系人を演じたんですね。お客さんに高齢の日系3世の女性がいらっしゃったんですが、その方が「あなたのしゃべり方は亡くなったおじいさんにそっくりでねぇ……」と感激しておられました(笑)。
現在もお芝居をされているんですか?
3カ月となると家族に相当負担をかけますので、今はないですね。ただ、今年は銀行のテレビCMに出たんですよ。Bank of Hawaiiという大手銀行なんですが、顧客の女性に対して私ともうひとりがタキシードを着てお迎えするという設定です。CMは1日で撮り切りますし、現場の雰囲気も面白く、いい経験をしました。
お話を伺っていると、とてもハワイに来てから芝居を始めたとは思えません。
中学校で演劇部でしたが、役者ではなく照明係でした。高校でもスタッフのつもりで演劇部に入部したら、役者が足りないから出てくれといわれ、それ以来ハマってしまいました。大学でも劇団に入って芝居を続けました。
プロの役者になろうとは思わなかったのですか?
さすがにその決心はつきませんでした。また、小学生のときにラジオを作ってから将来は電気をやると決めて、大学や大学院では電子工学を専攻しました。そちらの方向に進みたいとも思っていたんです。
  芝居への思いが再燃したのはハワイでのことです。2002年くらいから現地の演劇学校のコースに通い、オーディションを受けて、映画や舞台に出演するようになったのです。
(上のモノクロ写真はオーディション用のポートレート。右は「Another Heaven」のパンフレット)
Scheme処理系への不満からGaucheが誕生
しかし、入社したのはSquare USAですよね。
大学院時代に「研究より現場をやりたい」と思って、いろいろなアルバイトをしていました。そのひとつがテレビ局のCGセンターで、1年ほどCGの開発に携わっていたのですが、ここで知り合った方にスクウェア(現スクウェア・エニックス)を紹介していただきました。
プログラミングはいつから始めたんですか?
小学校6年生くらいからBASICを紙で書いたり、パソコンショップで打ち込んでいたのですが、親がパソコンを買ってくれない。悔しくて、中学2年のときにチップを買って自分で組み立てました。高校までは独学で、大学の授業でPascalやFortranなどを学びました。
Lispに出合ったのも大学時代ですか?
そうです。大学生協の古本屋で『CでLispを書く』といった本を買って、やってみたら自分で言語処理系を書けるじゃないですか。しかも好きに機能が増やせるので、これはすごいぞと。
GaucheはSquare USA時代に書き始めたようですけど、きっかけは何だったのでしょう。
理由は2つです。Square USAのときにSTKというScheme処理系を業務で使っていたんですが、メンテが止まっていたのと1バイト1文字で日本語が通らなかったのです。また、Perlも使っていましたが、そのときのScheme処理系はPerlに比べてライブラリが貧弱でした。そんな理由から、Perlを置き換えられるくらいのライブラリをもった、日本語対応のScheme処理系が作れないかと思ったわけです。
  最初の3カ月でソースを読んでバーチャルマシンでコンパイルするところまでいき、それがVer0.1なのですが、そこから先が大変でした。今でも性能や安定性を向上させ続けています。
プログラミングも芝居も一生続けたい
プログラミングの魅力を教えてください。
根本的には作りたいものを作る手段という位置づけですが、プログラミング自体にもパズルを解くような面白さを感じますね。大きなものだと何年もかかるわけですから、日々の楽しみがないと続けられないという面もあります。Lispを使うのは手になじんでいるからですね。
その面白さとは芝居に通じるものでしょうか?
たぶん性格的に、世界を解きほぐしていくことが好きなのでしょう。芝居には脚本という世界がありますが、私は脚本や演出には興味がなく、役者として演ずることで描かれている人間などを見せていくことに魅力を感じます。
 プログラミングにもある世界を実現するという目的があり、その世界を作るタイプのプログラマもいます。しかし私は、世界を自分で作るのではなく、既にある世界をどう分解して組み合わせていくかというアプローチに興味があります。
 Schemeという言語にはA4で50ページくらいのかなり抽象的な仕様がありますが、そこには世界が詰まっています。それを実装で解きほぐしていったのがGaucheなのでしょう。
いつも最後に聞いているのですが、今後の目標などはありますか?
スクウェアに入ったときにはちょっと下心がありまして、ゲーム開発には演出や芝居的な要素が入りますから、芝居もプログラムもできるかなと思ったんです。しかし思い知らされたのは、中途半端に両方できる人は必要とされないという事実でした。まずはひとつの分野でプロの仕事ができないと認められない。だから私は、エンジニアのプロになろうと決心したのです。
 ハワイで芝居を再開したのは、ある程度は技術のプロになったという自覚が出てきたからです。ですから今後もプログラミングと芝居の両方を続けたい。一生続けたいと思っています。
舞台「Another Heaven」を報じるハワイの新聞。写真左端がKatsu Goto役の川合さん
「Another Heaven」を報じるハワイの新聞。
写真左端がKatsu Goto役の川合さん
川合史朗さん 川合史朗さん(38歳)
1969年生まれ。東京大学大学院工学系研究科の博士課程修了後、株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。米Square L.A.(後のSquare USA)に勤務し、ロサンゼルスとハワイで主にゲームと次世代向けCGの研究開発に携わる。この間にScheme処理系のGaucheを開発。スクウェアの米国撤退により、2002年にハワイでScheme Artsを設立する。
Square USA時代に、3DCG映画「ファイナルファンタジー」(英名Final Fantasy: The Spirits Within)の制作にエンジニアとして参加。LispハッカーであるPaul Graham氏の著作の翻訳者としても知られる。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
ハワイに行く取材費は出ない。だけど、川合さんが日本に来る機会があるかもしれない。そんな身勝手な思いからメールで取材依頼をすると、「声をかけていただき光栄です。この企画は楽しみに読んでいます」とのご返事! しかも、何度目かのメールで「本職以外に力を入れているのは役者業です」とのこと。もう、お会いする前から質問で頭がいっぱいでした。

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