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各分野の第一人者が緻密に予測する、技術の未来図 20XX年のユビキタス ロボット Web
われわれを取り囲むさまざまな技術。あるいは、今後われわれの身近に登場してくるに違いない新しい技術。それらは今後、われわれの生活をどう変えるのか。一線で活躍する3人の研究者、エンジニアに、それぞれがテーマとする分野を核に、未来の姿を語っていただいた。
(取材・文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの) 作成日:06.11.22
技術に携わる人びと自身が描く未来
 現在の技術は、どのような将来につながっていくのか。あるいは、これから登場する技術は、われわれの生活にどんな変化をもたらすのか。
 それはもちろん、その技術に直接携わる研究者やエンジニアが、どんな将来を描き、それに向かってどう取り組んでいるのかに大きくかかわっている。単に“夢見る未来”ではなく、その技術自体を生み、育む人たちが見据えている将来とはどんなものなのか。また、その技術がわれわれの目に見える変化をもたらすのは、いつなのだろうか。
 今回は、ユビキタス・コンピューティング、ロボット、そしてネットワークと、3つの分野で活躍する研究者・エンジニアに、それぞれの未来図と課題、その目標となる時期を尋ねた。
2026年、世界がRPG化する!
実世界を“ソフトウェア”に
 ユビキタス・コンピューティングとは、小さな小さなコンピュータやタグ、センサをそこらじゅうにばらまき、情報のやり取りをできるようにすること。
 確かにそうなのですが、「それでどうなるのか、何をしたいのか」がわかりにくいと言われることがあります。何だか唐突に聞こえるかもしれませんが、ひと言で言えば、「実世界をソフトウェアにする」こと。それこそが、ユビキタス・コンピューティングの本質だと思っています。
 そもそも、実世界でわれわれを取り巻いている環境は、その中で人間が合わせるか、自ら体を動かして変えるかしかない。つまり「ハードウェア」であって、「ソフトウェア」の部分は全面的に人間が負っていた。しかし、センサや端末を至るところに配置することで、環境を制御可能なもの=ソフトウェアで覆っていく。それによって、環境が人間に合わせてくれる。あるいは、人間と人間の関係さえも、コンピュータがよりよく取り持ってくれる。
 サイバー世界の展開力のスゴさは、皆さん、インターネットで実感していますよね。例えばサーチエンジンは便利このうえない。でも、その便利さは、今はまだインターネット上だけのもの。それを実世界に持ってきたい。
 RPGの中では、そのあたりのものを指し示せば情報が取れたり、制御できたりする。実世界でも同じようにできたらいい。いわば「東京をRPGに!」あるいは、「全世界をRPGに!」――それが僕らの目標なんです。
越塚 登さん
東京大学 大学院情報学環
助教授 博士(理学)
越塚登さん

1966年生まれ。トロンプロジェクトに携わり、YRPユビキタスネットワーキング研究所副所長も務める。“環境が人に合わせてくれる”のが、ユビキタスが実現する世界。それは技術がますますユニバーサル(バリアフリー)化することにもつながる、という。手に持つのはRFIDリーダー。
2026年のユビキタスは…
ユビキタスの技術がインフラとして定着。それらが環境を読み取り、人間にとってより“居心地のいい”状態に制御してくれる。
さまざまなモノに情報が付随し、指し示すだけで情報を取得できる。全世界がRPG化。
現在の携帯電話以上に、人びとは随時モバイルツールでコミュニケーション。
インフラ定着には時間が掛かる
 微小なコンピュータ、RFIDタグ、センサ、さらにそれらをばらまいたときに、どんなサーバで管理していくか……。
 技術的な課題もいろいろあるけれど、それらはみな“要素”。技術的には今のインターネットも、PCも、メインフレームも使うだろうし、95%くらいは、既存の技術を生かしたものになるのではないかと思います。最も大切なのは、それらが組み合わさり、インフラとして成立すること。あらゆるものにタグが付き、利用できるようになること。
 それにはあと10年……と言いたいけれど、もしかしたら20年くらいは掛かるかも。
 インターネットも、その基礎となるパケット通信の原理が発表され、実用化が進められたのが1960年代。インターネット自体が商用に開放されたのが90年代。今のように普及・定着するまでには、30〜40年は掛かっているわけです。ユビキタスの研究が行われ始めたのがおよそ20年前。だから、あと20年というわけです。やはり、社会の基盤ともなれば、それくらいの時間はどうしても必要になります。
 もちろん、何かのきっかけで弾みがつけば、あとは一気に普及が進んでいく。そんなフェイズに早く持ち込みたいですね。今、必要なのは、そんな突破口を開くことだと思っています。
 ユビキタス・コンピューティングは、IT分野の中で、コンセプトレベルから手掛けた初めての「日本発」といえる技術。日本のITが世界をリードできるかどうか、その試金石にもなる。その点からいっても、ぜひ成功させたい。
 そしていよいよユビキタスがインフラとして定着したときには……僕自身はと言えば、きっとまた「次の何か」を目指しているんじゃないかな(笑)。
2020年、「ロボットを意識しない時代」がくる
森 政男さん
株式会社テムザック 研究所
研究企画課 主任研究員
プロモーションエンジニア
森 政男さん

1970年生まれ。電機メーカー勤務を経て同社に転職。ロボットの制御システム開発を手掛けた後、現在は顧客に実用ロボットによる問題解決を提案するプロモーションエンジニアを務める。隣はテムザックが開発、会津中央病院(福島県)に納入される「案内ロボット」。「受付ロボット」とともに、病院への実導入は世界初。10月末デビュー。
「ロボットらしくないロボット」が身近に
 ロボットといえば、二足歩行型、そうでなくても少なくともヒト型のものをイメージすることが多いと思います。もちろん、受付や案内、あるいは危険な場所での遠隔操作など特定の用途では、ヒト型のロボットが使われていくでしょうが、一般家庭に“お手伝いさん”として入っていくかどうかは疑問。
 でもその一方で、“いかにもロボット”という感じではない、見方を変えればインテリジェントな家電ともいえるような、そんなロボットたちは、僕らの生活のなかに、将来、どんどん入ってくると思うんですよ。
 例えば、今、僕が非常に興味をそそられているのが「小型飛行ロボット(MAV)」。飛行するロボットは、3次元で移動でき、地面の環境の制約も受けない。こんなタイプも身近に活動するロボットの候補。
 こうしたロボットは、国の振興策にもよるけれど、2015年にはそこそこ、2020年になればかなり普及しているんじゃないかな。そうなったらロボットも自動車や自動改札機と同じ。当たり前の存在として、人は誰もロボットを特別なものとして意識しない。そんな時代になると思います。
「モータ・電池・知能化」が鍵
 もちろん、それには技術の進化が必要になります。特に課題といえるのがモータなどのアクチュエータで、さらに小型・高出力、そして省電力のものが欲しい。既存のモータや油圧シリンダではなく、例えば人工筋肉のような新しい技術が登場してくるかもしれません。電池の小型軽量化も重要です。
 もうひとつの大きな課題が知能化です。現在のロボットでも、各種センサを搭載し、それなりに外部の環境を察知して動くことはできますが、まだまだ“プログラムどおり”の部分が大きい。ロボット自身が、さらに環境を読み取り学習する能力を持たなければ、“どこでも使える”ものにはなりませんよね。
 例えばロボットを量産するときには標準型のプログラムを入れておいて、納入先の環境に応じて学習していき動くというふうなものです。
 それにはCPUの処理能力も大幅な向上が必要になる。ロボット単体に高性能のCPUを搭載するより、負荷の大きい処理はサーバに任せ、ロボット一つひとつはさまざまなセンサを付けた「端末」として動くというほうが実現しやすい。となると、タグやセンサネットワークなど、ユビキタス・コンピューティングの技術の進化やインフラ普及も待ち遠しい。
 ――こうして見ると、本当にロボットはさまざまな技術の総合体ですよね。
2020年のロボットは…
ロボットの知能化が進む。標準・汎用のプログラムに加え、高い学習能力でさまざまな場所・環境に適応。
ヒト型のロボットは、危険な場所での遠隔操作など特定の用途で確実に定着。
家庭や街の中などでは、ヒト型にとらわれない、“インテリジェントな家電”型ロボットが普及。
仕事もロボットやAIがサポート?
 日本はロボットの先進国というイメージがありますが、それはハードウェアにおいてであって、ソフトウェアなどの知能化では欧米が先を行っている。ロボットの普及においても、韓国や台湾では国を挙げて取り組んでいます。僕らも頑張らないと。
 いざ、ロボットが一般家庭にまで普及する時代になったら、僕はどうしているかなあ。もちろん仕事していると思うけれど――手足を動かす作業ならロボットに、思考ならAIに、もっと広範囲に仕事をサポートしてもらっているかもしれない。例えばプログラミングなら、人間が考えづらいアルゴリズムでも、コンピュータがサクサクコードを書いてくれるかも(笑)。
 もちろん、大元の“発想”は、人間がやらないとダメ。モノを作るのも、使うのも、壊すのも、しょせんは人間のやることですから。
2056年、1日65億のWebページが生まれる
あるべき方向へ物事は流れる
 古代ギリシャの古典、プラトンやアリストテレスの本を読むと、今われわれが考えていることとほとんど大差ないことに驚きます。さらにびっくりしたのは、当時からパーティの処世術とか女の子の口説き方なんていう本も出てたんですよ(笑)。哲学にせよ、バカバカしいことにせよ、人は基本的に進歩も進化もしてないんだと思います。
 ただ、人間は変わらなくても、“手段”としての技術は否応なく進んでいく。僕がコンピュータ通信に目覚めたのは小学生のころ、まだ300bpsのモデムの時代だったんだけど、いずれは普通の人が普通にE-mailを使うようになるに違いないと思っていた。何年かしてみんなが本当にE-mailを使うようになって驚いたんだけど、そのときの経験から「突き詰めて考えるとそうならざるを得ない」という未来像があるとすると、物事は必ずそちらに向かうと思うようになりました。それが何年後になるのかはわからないんですけど(笑)。昔と今の大きな違いは、そちらに向かって現実を変えていこうと行動するようになったことですね。
今のインターネットにはWebページが足りない
 今から50年くらい前にアラン・チューリングという人が人工知能の可能性を論じた論文に、50年後の計算機の記憶容量について触れたところがあります。だいたい10Gくらいのオーダーなのですが、オーダーとしてはむちゃくちゃ正しい予想だったと思います。
 それに倣ってあえて未来予想してみると、まず、今のインターネットに一番足りないのはWebページだと思います。今はGoogleで調べると100〜200億くらいのページ数ですが、これは非常に少ない。現在の世界の人口で割ると1人2〜3ページくらいにしかならない。世界中の人がネットに接続され、全員が1日1ページ増やせば1日に65億ページ増える。そうなっていないのは、世界をネットにつなぐという理想が実現されていないということ。こういったことから50年後の予想を言えば、Webページが1日65億ページ増える世の中になっているはず。予想というよりそうなってほしいということなんですけど(笑)。
 もちろん今のブログみたいなものを世界のみんなが書くというわけじゃない。いい方向ばかりに進化していくとは限りませんが、コミュニケーション技術の発達もあるでしょう。携帯電話のオーラルなコミュニケーションは後には何も残らない。E-mailは即時的な1対1の通信が主で、文章とは言えない。ブログは個人の情報発信なのでだいぶましですけど、個人の主観が主となっている。Wikiは個人の主観を超えて客観的な記述を積み重ねようとするところが素晴らしいですね。メールによるコミュニケーションをWikiへと発展させていくにはどうしたらいいかを考えて作ったのが“qwikWeb”です。
 もうひとつ、“Modulobe”というのはモジュールを組み立てて仮想生物を簡単に作れるソフトです。自分が作ったモデルを投稿して共有し、そのモデルを元に他の人が改造して投稿したりと、個人のクリエーティビティを超えて群としてのクリエーティビティがどうありうるかを考えようと作っているものです。
江渡 浩一郎さん
独立行政法人 産業技術総合研究所 情報技術研究部門
江渡 浩一郎さん

1971年生まれ。ネットワークの研究者であり、またそれを用いてメディア・アーティストとしても活躍、数多くの作品を発表。江渡氏が手掛けた“Modulobe”はモジュール(部品)を組み合わせ、PC上で仮想生物を簡単に作り、動かすことができる物理シミュレーション・システム。Webを通じて、自作を公開したり、他人の作品を入手してさらに発展させたりすることもできる。
Dengry
”Dengry” by: Modulobe Project
2056年のWebは…
Webを構成する基本技術、特にHTTPにブレイクスルー的進化が訪れる。
インターネットはすべてがサーバでありクライアントにもなるという構造に。
世界中の人がネットに接続され、1日に65億のWebページが生まれる。
近々、Webの一大変化がやってくる
 Webを構成する基本的な技術はURLとHTTP、HTMLの3つ。この基本構造はWebの発祥からまったく変わっていない。HTMLは大きな進化・変化を遂げましたが、URLとHTTPはほとんど変化していない。URLは“変わらないもの”なので当然ですが、HTTPは変化するべきでしょう。Webの進化がもしあるとすれば、HTTPの進化以外はあり得ない。
 今までのWebの世界は、クライアントが主導権をもってサーバにURLを投げ、結果を受け取るというもの。Ajaxで動的にページを更新させられるようになったけど、クライアント側がトリガーを持つという基本構造は変わっていない。その先を考えると、サーバがクライアントに対して主導権をもつ、つまりサーバがクライアントに更新を伝える仕組みができるはず。Cometという技術がその先駆けで、注目してます。
 さらにその先にはクライアントとサーバという“上下関係”がなくなって、すべてがサーバでありクライアントにもなるという構造が生まれる。今のインターネットの状況では不可能なんですけど、突き詰めて考えるとこうならざるを得ない。ということは、いつかは絶対そうなるはず。Ajaxが登場してみんなが驚いたような変化が、もっと大規模になってやってくるに違いないと思っています。
エンジニアの仕事が、未来図と未来そのものをつくっていく
 3人の研究者・エンジニアが思い描く将来像はいかがだっただろうか。
 これをお読みになっているエンジニアの皆さんの中には、まさに同じ分野で活躍中の方もいらっしゃるはず。「いや、そこには別の、こんな技術も台頭してくるに違いない」「むしろ自分はこんな未来を目指したい」「その実現はもっと早い/遅いはず」などと思った方もいるに違いない。
 確かに、ここに挙げたとおりの変化や進化が起きるかどうかはわからない。思いもよらない代替技術が登場することもあり得るし、社会のニーズや公的施策など、そのほかの要因も絡んでくるからだ。しかし、技術が形作る将来像に、エンジニアが果たす役割が大きいことに変わりはない。
 日々、目の前にある課題に取り組んでいるだけに思えても、その一つひとつが、将来へのマイルストーンでもある。時に目を上げ、自分の技術が目指す将来を思い描き、そこから前倒しに、今の課題を改めて考え直す……。そんなヒントとして、今回のレポートを役立てていただきたい。
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  根村かやの(総研スタッフ)からメッセージ  
根村かやの(総研スタッフ)からメッセージ
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「技術者はシャイですから、『XX年にこうなる! こうする!』なんて大ボラはふかないんですよ」「何年後にどうなる、なんて不誠実なことは言えないなあ」といった強い抵抗にあいつつ、「そこをなんとか!」と拝み倒してお三人から聞き出した“20XX年”。ちょっと地味ではあるけれど、技術者の手の中にある未来図には、実現には程遠い大ボラのユートピアには望み得ないロマンがあふれていると思いました。
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