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ATRAC開発者、Music Storeマネジャー☆先駆者たちの証言 ソニー、Excite技術者を直撃!!音楽配信に生きるスキル
今夏のiTunes Music Storeの日本上陸以来、話題沸騰のインターネット音楽配信。その音楽配信サービスを支えているのはエンジニアたちであるが、実際、彼らはどんなスキルをもち、どう活用しているのだろうか、現場のエンジニアに直撃インタビューしてみた。
(取材・文/藤本健 総研スタッフ/根村かやの) 作成日:05.12.14
Part1 こんな音楽配信技術が欲しい!
エンジニアの音楽配信サービス利用経験率は22.7%
 音楽配信と、iPodをはじめとするメモリ型・HDD型のポータブルプレイヤーは、切っても切れない関係にある。Tech総研の読者であるエンジニア300人にアンケートを行い、そのポータブルプレイヤーの所有率を調べたところ48.0%だった。また実際に音楽配信サービスを利用した経験のある人が22.7%という結果だった。
 現在、音楽配信市場は急成長しているが、比較的新しもの好きが多い傾向にあるエンジニアたちで、こうした数値となっていることからも、今後ますます伸びていくことが予想される。

 もちろん、みんな音楽が好き、音楽を聴くことが趣味で、利用しているわけだが、技術的関心をもっている人も少なくないようだ。具体的には「音質や回路部分などオーディオ機器としての性能」「MP3、ATRAC3、AACなどのCODECのシステムについて」「課金システムについて」などが挙がっている。
 特にCODEC(データ圧縮システム)については、どう音質に違いが出るのか、もっと音をよくする方法はないのか、互換性を向上させることはできないのかなど、関心の高い人が目立った。
これまでインターネット音楽配信サービスで曲を購入したことがありますか?どこのサービスで購入しましたか?
不満が集中するのは「DRM」
 そんなエンジニアたちに、今後の音楽配信サービスについて意見を求めてみると、やはり技術的側面を含めいろいろな声が返ってきた。結構多かったのがDRM(著作権管理技術)に関する要望。「プレイヤーやCD-Rに書き込む回数制限を撤廃してほしい」「DRMは健全な利用者にとっては利便性が低く、著しくサービスが低下している」といったものだ。ビジネスの根幹技術であるだけに、難しい問題だ。
 その一方で、「聴き疲れしないハイファイ部分を重視したプレイヤーが欲しい」「USBメモリプレイヤーを通常のオーディオやカーステレオに差し込むだけで音楽が聴ければよいと思う」などプレイヤーに対する意見もあった。

 全体として、ユーザーとしての見方はもちろん、エンジニアならではの技術への関心がうかがえるアンケート結果となったが、さらに、「音楽配信の仕事に興味がありますか」という質問に対しては「興味がある。この世界に入ってみたい」と答えた人が48.7%にものぼった。
 では実際に音楽配信の現場で活躍しているエンジニアは、どんなスキルをもち、それを生かしているのか。2人の実例をみてみよう。
Part2 現場のエンジニアに聞く「音楽配信を支える技術」
エキサイト株式会社 音楽配信技術 直接的ではないけれど、業務系SEの経験は確実に役立っている
 メーカー系SI会社でSEをしていた小笠原剛さんがエキサイトに転職したのは、2003年4月。通信関連の大規模なシステムが中心で、エンドユーザーの顔が見えないのに不満を感じ、もっとコンテンツ寄りの仕事をしたいと考えたのがきっかけだという。
「入社当初はモバイルサイトの立ち上げを担当しました。既存のサイトへの依存性がないため、初めての仕事としては入りやすく、この仕事をこなしつつ会社になじんでいきました。ちょうど1年ほどたったころ、“日本でも音楽配信を”という機運が高まり、当社でも動き出したため、私の仕事もそちらへシフトしていったんです」と小笠原さん。
ユーザー視点を技術に反映
 エキサイトは以前からエキサイト・ミュージックという音楽情報サイトを運営していた。またそれとは別に映像のVOD配信サービスも行っていて、配信ビジネス自体はこれが初めてではなかったのだが、そうした環境にエキサイト・ミュージック・ストアが追加される形になった。
「他社では普通、配信のシステムをゼロから作ると思いますが、当社の場合、既存のシステムを利用しながら作るという特殊な環境にありました。そのため、既存のデータベースとどう整合性を作るか、また利便性を高めるかというのが課題でした。
 例えば、単純な話でいうと、アルファベットを半角にそろえるといったところからですね。だって、ユーザー視点で考えて、洋楽の曲名が全角で表示されるというだけでかっこ悪いじゃないですか。
 また、著作権処理も面倒ですが重要な仕事です。地味で地道な作業ではありますが、細かなことをいろいろとやっていますよ」
エンドユーザーの反応がダイレクトにわかる喜び
 一方でサーバー側のアプリケーションをC++からJavaへ移植するなど、業務内容は多岐にわたっていたようだ。
「華やかな世界というわけではないのですが、ユーザーの反応がダイレクトにわかるようになったのはうれしいし、やる気にもつながります。また以前のSEの仕事が直接役に立っているわけではありませんが、そのときの経験は確実に生きています。データベース系の知識をはじめ、勉強しなくてはいけないことが山ほどありますが、逆にいうと、『データベース系の技術は勉強する必要があるな』と判断できたのはそれまでの経験のおかげかもしれません。仕事はきつくなった面もありますが、何より、楽しいです。
 いつかはミュージシャンでいうところの“代表作”といえる、みんなが知っているようなプロジェクトを手がけたいですね。もちろん、それが今のエキサイト・ミュージック・ストアになるかもしれませんが」と小笠原さんは話してくれた。
小笠原剛さん
エキサイト株式会社
エンタテインメント事業部
音楽サービスグループ マネージャー
小笠原剛さん
エキサイト・ミュージック・ストア
エキサイト・ミュージック・ストアは、邦楽、洋楽を問わず13万曲を超える曲をWMA形式で配信している。アーティスト名やアルバム名、楽曲名などで検索することもできる
http://www.excite.co.jp/music/store
ソニー株式会社 オーディオ圧縮技術 音楽にかかわる仕事をしたいという思いで、大学時代からCODECを研究してきた
東山恵祐さん
ソニー株式会社
技術開発本部
オーディオコーデック開発部 2課
シニアエンジニア
東山恵祐さん
NW-A1000
11月19日に発売されたソニー・ウォークマンの最新機種、「NW-A1000」。このオーディオプレイヤーの中枢部には、オーディオ圧縮技術であるATRACが搭載されている。
 大学の研究室での研究内容が仕事に直結するというケースは一般的に少ないが、それを実現させたのが国産のオーディオ圧縮CODEC、ATRAC3plusを開発した東山恵祐さんだ。
「オーディオのCODECではなく、人間の話し声を扱うスピーチCODECを大学、大学院で研究していました。高校時代から音楽関係の仕事に就きたいと思っていて、それに関連しそうな研究をしている大学を選んだというのがそもそもなんです。
 就職の際にも、その延長線上ということでソニーを選びました。もちろん、希望どおりの部署に配属される保証はなかったのですが、ズバリのところに入れてうれしかったです」(東山さん)
「勉強と研究」から「開発の現場」へ
 もっとも、同じ音を扱うCODECでも、スピーチCODECとオーディオCODECでは大きく違うという。声を通すことを目的としたスピーチCODECに音楽を通すと、まともな音として再現できなくなってしまうのだ。入社当初は、改めて圧縮の基礎を勉強することで1年を費やし、実際の開発に携わるようになったのは2年目の99年からだったとのこと。

「インターネットを使った音楽配信がテーマとして上がり、それにマッチしたATRAC3のエンコーダーの開発に取り組んだのが、実質上の仕事のスタートでした。
 ただ、CODECは規格がガッチリと決まっているだけに、新たな技術を追加することが困難です。ATRAC3は132kbpsでMD相当音質を実現することを目標に開発された規格なので、それよりも低いビットレートにおいて実現できる音質には限界がありました。そこで、より高い圧縮効率を実現できるような新しい規格を作ってみたいと思うようになりました。その願いがかない、ATRAC3plusの開発にはスタートから携わることができ、2002年末にようやく発表へとこぎ着けました」(東山さん)
「自分が作ったんだ」という実感
 もちろん、その間にはいろいろな苦悩もあったようだ。実際、同期入社の友人たちは、次々と新製品を開発して世の中に送り出しているのに、自分の作っているものは最終製品ではないし、開発にも時間がかかっていて、仕事成果の実感がわかなかった。
「実際にリリースし、他社へ売り込みにいったり、プロモーションしたりするようになって、ようやく『自分が作ったんだ』という実感をもてるようにはなりました。音の違いに関するデモデータを作ったり、それをプレゼンテーションしたりするのも楽しいですね。
 ソニーミュージックやソニーピクチャーズなどといったコンテンツホルダーとのやりとりが多いのも、この仕事の面白いところです。実は新入社員時代に、ソニーミュージックのマスタリングスタジオで研修させてもらったことがあります。わずか1カ月でしたが、そのときの人脈が今の仕事にもつながっているんですよ」
 仕事の楽しさをそう語る東山さんだが、今後もずっとCODECに携わりたいかどうかは、わからないと言う。しかしこれは、CODECだけにこだわらないという意味で、音楽にかかわる技術の仕事に就いていたいという気持ちは高校時代から変わらないとも言う。
Part3 音楽配信サービスはエンジニアが切り拓く
 今回、話を聞いたのは音楽配信サーバーを運用・管理する小笠原さんと、オーディオCODECを開発する東山さんの2人だったが、音楽配信にかかわるエンジニアの職種はこの2つに限らず幅広い。オーディオそのものの技術に携わる人もいれば、課金の仕組みやDRMに対する取り組みをしているエンジニアもいる。また、楽曲のデータベース作りや、パソコン上のプレイヤー開発といった仕事もある。

 ネットビジネスの世界はマーケティング主導で作り出され、展開されていくケースが多い。レーベルやアーティストとの契約関係がサービス充実の鍵を握っている音楽配信サービスも、その例外ではない。
 ただし、今どんどんと成長する、この音楽配信の分野に携わるエンジニアの数は増え続けている。このような現時点では、エンジニアのアイデアや開発した技術から新たな世界が広がる可能性が、比較的大きいといえるだろう。
 そう考えればさまざまなチャンスも多く、面白そうな仕事がいっぱいな音楽配信サービス。本当の意味でこのビジネスが成功するかは、これからのエンジニアたちの働き次第といっても過言ではなさそうだ。
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  根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ  
根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
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取材中、小笠原さんも東山さんも「海外で××がサービスを始めたのが○年で〜」「○年ごろのブロードバンド化の状況は〜」と、この10年ほどの状況が、次々と口をついて出てきました。音楽配信の世界は、短いながらも濃密な歴史が織り成されている真っただ中なのだと実感しました。そしてお二人には、“作られる”歴史の中を生きるだけでなく、その一端を“自ら作る”人ならではの自信と魅力が満ちあふれていました。
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