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なぜ彼らはその会社を選んだのか?小さな先端企業に転職した大手エンジニア

企業規模は小さくても、技術力を武器に一目置かれる最先端のニッチ企業。そんな企業に大手から転職してくるエンジニアがいる。待遇や安定性などを考慮すれば、正直、決断に迷うところもあるだろう。彼らの選社眼はいかなるものだったのか。
(取材・文・総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:04.08.25
Part1 増加するスピンオフ型とTLO型のベンチャー企業
 技術に強い中小企業、ベンチャー企業とひと口にいっても、その業種から創業経緯まで各社さまざまである。そこで簡単に類型化をして、最近の傾向を調べてみた。やはり日本には先端技術を売りにする企業が多い。
■ITベンチャーの類型 ■中小企業の創業経緯
 ベンチャーや中小企業をその創業経緯から見ると、近年増えているのが「スピンオフ型」だ(グラフ参照)。特に大手企業出身者が起業して成功するケースが目立っており、技術開発型ベンチャーでは、ザインエレクトロニクス(出身:東芝)、サイボウズ(同:松下電工)、インクス(同:三井金属)などがその好例。
 グラフにはないが、もうひとつの大きな特徴が大学発ベンチャーの増加だ。大学や大学院の研究室と民間企業が組んで起こすTLO型で、バイオテクノロジーなどの分野で顕著である。ただし、設立から事業化までの期間の長期化が課題となっている。
 また、上ではITベンチャーの事業内容を大きく3つに分けてあるが、今年の中小企業白書によると、最も増加率(開業率と廃業率の差)の高い業種は「電気通信に附帯するサービス業」(40.0%)で、2位が「老人福祉事業」(19.3%)、3位が「ソフトウェア業」(13.5%)となっている。やはり多いのは技術特化型の企業だとわかる。
Part2 ベンチャー転職に成功した大手出身エンジニアの選社眼
 大手企業から先端ベンチャーに転職した2人のエンジニアを紹介する。彼らはなぜ転職しようと考えたのか、数ある企業の中から何を決め手にその会社を選んだのか。2人のケースはかなり異なるが、共通項が見えてくるはずだ。
大手通信機器メーカーからLSI設計のできる半導体ファブレス企業へ

松野知愛氏
R&DセンターAAPアプリケーション・リサーチャ
松野知愛氏(34歳)
赴任先の米国ベンチャーで本当のエンジニアを知る

 ハードウェアの設計エンジニアとして、大手企業で5年間勤務した松野さんは悩んでいた。大学で電子工学を専攻し、通信系に興味をもったのが入社の理由だが、実際に設計するのは外注企業で、自分の仕事はその管理業務。これでエンジニアと呼べるのか。
 そこに舞い込んだのが海外赴任の話だ。赴任先は買収した米国のベンチャー、業務内容は当時次世代と呼ばれたATM交換機の開発、仕事はLSIチップの設計。「行かせてくれなければ辞める」と押し切り、1998年から3年間、ボストンで働くことになった。
「赴任したものの、現地では単なる『新入り』の扱いでした。普通に仕事を与えられるのですが、そのレベルの高いこと。ネイティブの英語にもなかなかついて行けず、もうノイローゼの一歩手前(笑)。そこでエンジニアとしてのレベルアップのため、退社後に地元の大学院に通いました。帰ったら寝てしまうので、家では立って勉強していましたね」
 そんな生活の中で新鮮に映ったのが、現地エンジニアの姿。上下関係なく意見交換し、最新技術には積極的に取り組む。実力こそすべての世界で、技術者としてのプライドも高い。松野さんはこれが本来のエンジニアだと感じた。

バージョンアップされ、C言語からの直接コード生成が可能となった「DAPDNA-2」

最新技術を追い続けて、目指すは社員番号ひと桁

 その後、米国でエンジニアとしての自信と実力を身につけるとともに、大学院でコンピュータ工学の修士課程を修了し、2002年10月に日本へ帰任する。しかし、技術が学べず管理業務が中心の会社に戻る気持ちは、既になかった。
「LSI設計のキャリアを積みたくて、大手からベンチャーまで面接を受けました。大手だと『こちらが選ぶ側だぞ』という一方的な態度の企業が多いのに対して、ベンチャーではいきなり製品のデモが始まり、お互いに技術についての意見を交換する、とても刺激的なものでした。特にアイピーフレックスのDAPDNAを見て、ぜひ設計に携わりたいと思いました」
 松野さんは退社日の翌日にアイピーフレックスに入社。DAPDNAの仕様決定、アーキテクチャー設計、コーディング、テストまで全工程にかかわり、今年3月にはDAPDNA-2が発売。現在は新製品の画像処理アルゴリズムを考案中だという。
「米国時代に同僚から聞いた言葉が忘れられません。『エンジニアのセキュリティーは最新技術の習得だ』というものです。企業の規模なんて関係ないんですよ」
 最後に将来の夢を聞くと、「無理かなあ」といいながらもこう答えてくれた。
「ベンチャーの起業、あるいは創立メンバーになることです。『目指せ、社員番号ひと桁』です(笑)」

松野さんの決め手 エンジニアのセキュリティーは企業規模でなく最新技術の習得
アイピーフレックス株式会社
2000年設立。2002年にアプリケーションに応じてチップの回路構成を瞬時に変更させる、ダイナミック・リコンフィギュラブル・プロセッサ「DAPDNA」の開発に成功。「DAPDNA-2」が今年7月、NTT研究所が開発した世界最速(10GB/s)のパケット識別・転送処理ボードに採用された。
大手キャリア系SIerから新しい挑戦のできるITベンチャーへ

城戸忠之氏
システム開発グループディレクター
城戸忠之氏(36歳)
仲間と仕掛けた社内ベンチャーで新システムを開発

 新卒で入社して11年、COBOLでのメインフレーム構築から始まりC/S、Web系システムまで、城戸さんはシステム開発一筋のエンジニア人生を送ってきた。そしてプロジェクトリーダーとなり、ベテランの域に達した彼に芽生えたのは、新しい何かを始めたいという気持ちだった。
「会社の仲間と話し合って、社内ベンチャーを起こしました。そこで生まれたのが会社主催外部向けセミナーの受付システムです。上司に掛け合って予算を付けてもらい、ある部署で事業化が決まりました。実行部隊は3人。1年ほどの開発期間の後に完成し、親会社で使用され、最終的にはパッケージ製品として販売されました」
 しかし彼は製品化まではかかわっていない。なぜなら、そのころにはディー・エヌ・エーに出向していたからだ。きっかけは関係先企業への出向要請。城戸さんは「外のベンチャーを肌で感じたい」と強く思ったが、「32歳の俺でいいの?」というためらいもあった。ようやく手を挙げたのだが、何と希望したのは彼ひとり。こうして2000年2月から1年間、唯一の出向者としてディー・エヌ・エーで働くこととなった。

「ビッダーズ」のトップ画面。2002年からショッピング機能が追加された

構築した「ビッダーズ」を最後まで見守りたい

 当時のディー・エヌ・エーは、前年11月にオークションサイト「ビッダーズ」を立ち上げたばかり。機能拡張が大きな課題となっていた。システム以外の仕事がしたいとカスタマーサポートに回っていた城戸さんだが、「システムできる人、いないか?」のひと声で再び開発者の道に。総勢6人のシステム屋が小さなマンションの1室で開発を続け、気づけばプロジェクトマネジャーになっていた。
「手掛けたプロジェクトは2001年5月にカットオーバーしました。出向期間は2月まででしたから迷いましたが、当時の上司とも相談して、4月から正式に転職・入社しました。最後までやり抜きたかったし、オープン後も見守りたいと思いました。それに、自分の努力で会社を大きくできる醍醐味は、前社では味わえません」
 現在は約30人の開発部隊を率いているが、夢は1000人規模のプロジェクトマネジャーとして、一大システムを築くことだという。
「遠くに目標を置いて、常に新しいことがしたいですね。勤務先選びで大切なことは、やりたいことができるかどうかだと思います」

城戸さんの決め手 結果はもちろん大切だが、個人的には経過のほうが大事
株式会社ディー・エヌ・エー
1999年設立。オークション&ショッピングサイト「ビッダーズ(http://www.bidders.co.jp)」、法人向けサポートサービス「クラブビッダーズ」、リサイクル総合情報サービス「おいくら」などを開発・運営。「ビッダーズ」は会員数約250万人、一日のページビュー約1200万件(2004年7月現在)と日本最大級。
Part3 将来有望な「小さな先端企業」はこうして探す
 ネットバブルのブームは既に去り、ベンチャー企業は選別されて新しい局面を迎えている。そんな時代には、転職先としてどのような企業を考えればよいのか。ベンチャー企業を含めた多くの経営者から高い支持を集める、米倉誠一郎教授に話を聞いた。
米倉誠一郎氏
一橋大学イノベーション研究センター教授
六本木ヒルズアーク都市塾塾長

米倉誠一郎氏
今だからこそ大手企業の隙間が突ける

 研究開発型の中小企業やベンチャーが、膨大な開発費を注ぎ込む大企業に技術力で勝てるのか。私はその可能性は十分にあると思います。なぜなら、現在では多くの大手企業で選択と集中を進めており、開発の対象を絞り込んでいます。同時に、企業の研究所は縮小傾向にあります。技術の隙間が広がって、参入の余地が増えているのです。
 もうひとつの追い風は、「次の技術」が見えない時代であること。5年前にADSLがこれだけ普及すると考えた人は何人いたでしょうか。だれかが「面白そうだ」と始めて、相乗りする人が増えてきて、新しいデファクトが出来上がる。そんな時代にはアイデアとスピードが勝負どころですが、大企業ではアイデアの製品化までに時間が掛かる。フットワークの軽いスタートアップスや中小企業が有利になるのです。
 ただし、チャレンジの数は打たなければなりません。成功の確率はやはり低いですから、起業するベンチャーが増え、それぞれの企業で多くの技術やアイデアを出すことが必要です。

目利きはいない、自分で創る

 私が惹かれるベンチャーの分野は、エネルギー、IP、ソリューションです。ソリューションとは、技術で問題を解決するビジネスのこと。例えば、病院にはマネジメントという意識がないからかなり業務効率が悪い。IT化すれば患者を待たせず、かつ個人にあったサービス(治療)が提供できるシステムがつくれるわけです。
 また、ベンチャー起業の目的とは、小さな会社をたくさんつくることではありません。マイクロソフトやインテル、シスコシステムズといった大企業に成長する企業を設立することです。その一方で、オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)のようなニッチ市場を狙う戦略もあります。これは、患者数が少ないために利益が見込めず、大手企業が開発をしり込みしている医薬品のことですが、大学の研究室とTLOで起業し、うまくアウトソースすれば利益の上がるビジネスになる。そんなニッチで社会的に意義のある分野も多くあります。
 このようにベンチャーの分野も形態もさまざまですが、転職先として選ぶ基準は個人の人生観と情報量としかいいようがありません。そして、会社以外のネットワークがないと情報量は増えません。社外の人脈を広げたり、ベンチャー企業の講演会に参加したりするうちに、「この技術がすごい」「このチームで働きたい」といった気持ちが出てくると思います。
 そこで考えるべきは、「本当にマーケットが喜ぶことかどうか」と「皆がやりたいことなら既に遅い」ということです。

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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
このレポートをつくるに当たって、ベンチャー企業について調べました。そして、驚きました。独自の技術で新しいビジネスを始めようとするエンジニアの多さを、改めて実感したからです。また、取材をした松野さんと城戸さんからは、「自分の足で立っている」という印象を強く受けました。私はこれからも積極的な、そんなエンジニアを応援します!

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