リーダーシップとは『赤ちゃん』である―社会起業大学講師が考える幸福なキャリアの築き方

ビジネススクール「社会起業大学」の事業総括であり、学生を前に講師も担う瀬田川史典さん。瀬田川さんは、「自分らしさを大切にし、認め合うことで皆がハッピーになれる」と語ります。今回の記事では、瀬田川さんがビジネススクールの学生と日々向き合う中で考えた「自分らしさに基づくキャリアの築き方」についてお聞きしました。

社会起業大学 事業統括 瀬田川 史典(せたがわ ふみのり)氏

中小企業診断士 キャリアコンサルタント。生涯学習開発財団認定 キャリア診断士。塾講師、教育系ベンチャー企業、IT人材育成企業を経て、P.F.ドラッカー氏が終身名誉顧問を務めるグローバル人材育成プロバイダーに参画し営業・サービス戦略立案に従事。過去2社において会社が傾き2度のリストラを目の当たりにする。
その中で、「これからの時代は、一人ひとりが自らのキャリア形成に責任を持ち、会社に依存せず自立的に生きていく時代になり、誰もが起業家的に生きることが求められる」と考えるに至り、社会起業大学に参画。事業統括として、スクール運営全般に従事。授業および個別キャリアカウンセリングを担当。

しっかりと準備した講義が不好評だった理由

――現在のお仕事を始めた頃は、どういったことをされていたのでしょうか?

こちらに入社するとすぐに仕事が始まったので、慌ただしくスタートしたことを覚えています。授業で講師をすることもあれば、学生と個別面談をすることもありました。さらに、学生と一緒にソーシャルビジネスなどの現場を訪ねる「スタディツアー」の企画やビジネスコンテストの運営など、経験したことのない仕事もやりましたね。

当時、特に苦労したのが授業の講義でした。社会起業大学はビジネススクールですから、時には目上の人に対して授業をすることもあるわけです。この意味では大学時代にアルバイトをしていた塾講師とはまったく緊張感が違いました。

ですから、とにかく最初は「しっかり準備をする」ことを心がけていましたね。専門的な書籍を読み、言葉ひとつ説明するにしても、きちんと論証されたエビデンスを調べて授業に臨んでいました。他のビジネススクールにも負けないクオリティにしようという気負いもあったと思います。

ところが、どうも学生の反応が良くなかった。しかも、こちらが気負えば気負うほどに、学生の満足度が下がってしまっているような気がして……。

――それは不思議ですね。何が原因だったのでしょう?

今にして思えば、「教科書的」になっていたことが良くなかった。そのことに気付かされたのは、ある授業のときでした。その時は仕事が重なり、それまでのように十分な準備ができず、「今日は自分の言葉で話そう」と意識を切り替えて授業に臨んだんです。すると、私自身はっきりと感じられるくらい学生の反応が良くなりました。

たとえば「リーダーシップ」について説明をしていたのですが、あらためて自分の頭で考えてみると、「リーダーシップとは赤ちゃんである」という言葉が浮かんだんです。

もちろん、「リーダーシップ」については多くの本や論文があり、私も中小企業診断士の試験勉強でも学んでいました。でも、そういう知識は置いておいて、自分の頭で考えたところ、オリジナルな言葉が出てきたというわけです。

ちなみになぜリーダーシップが赤ちゃんなのかと言うと、リーダーには圧倒的な好奇心がありますよね。さらに「しょうがない」と思わせる可愛げがある。そして最大の報酬は「笑顔と成長」。そういう意味ではリーダーと赤ちゃんって共通しているな、と。

こういう説明をしたところ、中には私の言葉をマーカーで線を引いてくれる人もいて、「なるほど、これでいいんだ」と腹落ちしました。それまで私は「講師は知識を身につけて上から指導するもの」と思い込んでいましたが、実はそうではなく、時には一緒になって考えてみることも大切なのだと今は考えています。

――授業のやり方を変えてから、学生から他に反響はありましたか?

ある女性の学生は、「最初の頃は瀬田川さんのことが嫌いだったけど、後半は授業が楽しくなりました」と言ってくれました(笑)。私はどちらかというと固いタイプの人間なので、「ビジネススクールなのに楽しくやる」ということに最初は「それでいいのかな?」と感じていたのですが、肩の力が抜けたことで、学生にとっては、かえって良くなったのかもしれません。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「ビジネス力」×「社会貢献力」×「自分らしさ」の重なるキャリアを追求する

――たしかに、楽しくなければ学習は続きませんよね。ちなみに、授業では起業するためのスキルなどの習得を目指しているのでしょうか?

このスクールは「社会起業大学」という名前ではありますが、私たちは、会社を設立する起業がすべてと考えているわけではありません。それはあくまでもひとつの方法でしかなくて、「その人なりの生業を起こす」ことが大切だと考えています。

ですから、個人事業でもいいし、会社に勤めながら週末にボランティアするのでもいい。会社の中で新しいプロジェクトを立ち上げてもいいわけですよね。そう考えるとやり方は人それぞれです。私はそういう生き方を応援していきたいと思っています。

社会起業大学には、私が入社する前から「ソーシャルバリュー」という考えを大切にしてきました。これは、「ビジネス力(稼ぐ力)」と「社会貢献力」、そして「自分らしさ」の3要素が重なるところを追求することで、それぞれの生き方を見つけようとするモデルです。

たとえば「社会課題を解決したい」という想いがあっても、そこに「自分らしさ」がないとそれまでの行動を変えるのは難しいですし、継続させるためには「ビジネス力」も必要でしょう。

ですから、社会起業大学の授業では、ビジネスモデルの作り方を学ぶだけでなく、自分の原体験を掘り下げるワークや、対話や実践に重きを置くワークなど、一般的なビジネススクールには見られないようなカリキュラムもあるんです。

――たしかに、ビジネススクールで「自分らしさ」を追求するというのは珍しい気がします。

そうですね。でも、本当に幸せなキャリアを作るためには、自分らしさを大切にすべきだと考えています。そもそも、「デコ」があって「ボコ」があるのが人間ですからね。

一般的には「周りの空気を読んで合わせられる人」が優秀と考えられることが多いですが、完全に合わせられる人なんていません。だからこそ、ある意味で誰もが現状の生き方に悩んでいる現実があると思っていて。だったら、まずは自分のデコボコを認めて、それを活かせるように試行錯誤していく方がいいと思うんですよね。

そういえば「社会起業大学には変わった人が集まる」と言われるようなことがあるんですけど、それはきっと「本来の姿に戻れる場所」だからかもしれない。私はそうした個性を尊重したいと思っていますし、そのために日々試行錯誤しています。

――最後に、自分らしいキャリアを築くために必要な考え方についてお聞かせください。

私自身、過去に2度のリストラを経験していますし、大変なこともいろいろとありました。でも、そういう出来事そのものに客観的な評価があるわけではないんですよ。どう捉えるかは完全に自分の気持ち次第ですから。

「ナラティブ」という人生を物語のように捉える考えがあるのですが、自分の人生を振り返って、そこの意味付けを変えていくことで、自分に自信を持てたり、未来に向けてのエネルギーが湧いてきたりします。

そういう風に人生を自分だけの物語だと考えることができれば、なんとなく未来も楽しみに思えてくる。ですから、とにかく自分の人生を前向きに楽しみ、主体的に選び取ることが大切なのだと思います。

文・小林 義崇 写真・刑部友康

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