共感力が高い人と低い人の違いとは?ビジネスで使える共感力の高め方

昨今のビジネスでは、部署・職種の枠、会社の枠、業界の枠を越えてさまざまなバックグラウンドの人が連携・協業する機会が増えてきました。そのような場面で重視されるのが、他者への「共感力」です。ビジネスシーンで共感力が必要とされる理由、共感力を発揮する効果、共感力の高め方などについて、公認心理師・精神保健福祉士の川島達史さんにお話を伺いました。

会話するビジネスパーソンのイメージ画像
Photo by Adobe Stock

ビジネスで求められる共感力とは

そもそも人はなぜコミュニケーションをとるのでしょうか。コミュニケーションは、大きく分けると「目的を達成するためのコミュニケーション」「人間関係を築くためのコミュニケーション」があります。

目的達成のためのコミュニケーションの場合、ロジカルな会話で成立するため、「感情のやりとり」はそれほど必要がありません。一方、悩みを相談できるような信頼関係を築き、「この人と一緒に仕事がしたい」と思えるようになるためには、「共感」を伴うコミュニケーションが欠かせません。

また、ビジネスとは突き詰めると「人が抱える悩みや感情を理解し、改善・解決すること」を目的とします。つまり、人の気持ちがわからなければ、ニーズをつかむことができません。ニーズに沿う商品やサービスを生み出したり販売したりするにあたっては、共感力は非常に重要です。

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共感力が高い人の特徴と低い人との違い

共感力が低い人と高い人の違いは、どのようなシーンで表れるのでしょうか。共感力が高い人の4つの特徴と低い人との違いを解説します。

1.質問する

共感力が高い人:相手の「感情」を引き出す
共感力が低い人:「情報」を確認する質問だけで終わる

例えば、同僚が「旅行に行ってきた」と話したとしましょう。「いつ?」「どこへ?」「何を目的に?」「交通手段は?」といった5W1Hの情報を聞くだけでは、共感のしようがありません。

共感力が高い人は「楽しかった?」「いい思い出はできた?」などと、感情を問う質問を投げかけます。それを受けた相手はエピソードを楽しそうに話し、感情の共有につながるでしょう。

悩みや苦労などのネガティブな話題であっても、質問する際は「何がつらい?」など、感情を引き出すワードを入れるのがポイントです。

2.相手の悩みに反応する

共感力が高い人:まずは感情を受け止める
共感力が低い人:即座に課題解決に走る

「最近、どうしても遅刻してしまうことが多くて、自己嫌悪です」。そんな悩みを聞いたとき、「なぜ遅刻するの」「どうすれば遅刻しなくなるだろう」と、すぐに「原因分析・課題解決」しようとする人は少なくないと思います。悪いことではありませんが、共感しているとは言えません。

上記のように相手が「自己嫌悪」という感情を吐露しているのであれば、それを受け止め、共感する言葉を返すことが大切です。

このときのコツの一つは「相手の感情を繰り返す」です。ただし、「自己嫌悪に陥っているんだね」とそのまま返すのではなく、「自分のことが嫌いになってしまっているんだね」と、相手の言葉を少し変えて返すと自然です。

また、明らかに相手に非があったり理不尽なことを言っていたりする場合でも、まずは相手の立場に立って受け止め、相手の状況を認める姿勢で向き合います。心理学的には「無条件の肯定」といいます。

例えば「仕事でやる気がでない。どうしても納期が遅れてしまう」という部下がいた場合、上司の反応としては、「やろうと思う気持ちはあっても遅れてしまうんだね。一緒に対策を考えよう」と共感することが大切です。

このように共感すれば、部下は「相談してよかった。改善に向けて努力しよう」と前向きな気持ちになれるでしょう。

3.議論する

何かのテーマについて議論するとき、共感力が低い人と高い人では「主語」が異なります。

共感力が高い人:「そうか、山田君は○○と感じているんだね。 なるほど、鈴木さんは○○な気持ちなのか」
共感力が低い人:「私としては○○してほしい」「会社としては○○だよ」「社会的には○○だよ」

共感力が高い人は、主語を相手にして「あなたの立場ならそう感じるのも当然だよね」と、相手の立場を尊重しながら対話を進めます。

4.対話するときの態度

対話をするときの態度も、共感力の有無によって変わってきます。

共感力が高い人:相手に身体の正面を向ける/目を合わせる/言葉に感情を込める/話す速度を相手に合わせる
共感力が低い人:腕組みをする/目を合わせない/言葉が棒読み/早口

こうした態度から、相手は「話をちゃんと聞いてもらっているか」を感じとり、信頼して話せる人かどうかを判断します。

このほかに、「間の取り方」も大切です。対話中、相手が考え始めて沈黙の時間が流れることがあります。雑談などであれば、会話が途切れると気まずく感じ、急いで新しい話題を振ったりするでしょう。

しかし、悩み相談の場面では、共感力が高い人は相手が考える時間やペースを尊重します。あえて質問せず、話し始めるのを待つのです。

一方、共感力が低く、かつ頭の回転が速い人は、自分が主導権を握り、次々と質問を投げかけてしまう。その結果、相手は本当に言いたいことが言えなくなってしまうのです。

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ビジネスシーンにおける共感力の活かし方

ビジネスシーンでは、共感力を活かすことでどのような効果が得られるのかをお伝えします。

チーム・組織の健康度の向上

チームのリーダーや組織のマネジャーなどが共感力を持てば、メンバーの悩みをしっかりと受け止めることができます。また、メンバーが嫌がることを理解できるので、無意識にパワハラをしてしまうこともなく、きめ細やかな配慮ができ、適切なリーダーシップを発揮できるでしょう。

そうすればメンバーのメンタルヘルスが向上し、仕事への集中力が高まることで、生産性向上や目標達成につながります。離職を防ぐ効果も期待できそうです

営業力の強化

人は商品の購入やサービスの利用を検討する際、品質の良さだけでなく「誰が勧めてくれたか」を重視します。

販売・営業担当者が自分の気持ちに共感しながら商品を提案してくれれば、信頼感を抱き「この人からなら安心して購入できる」と思うものです。顧客の信頼獲得=営業力強化につながります。

顧客のニーズに沿う商品開発

共感力が高ければ、人の悩みを理解したり想像したりすることができるため、悩みを解決できる商品やサービスの企画・開発が可能になります。顧客からの支持を得て、業績を拡大することができるでしょう。

ビジネスで役立つ共感力を高める方法

ビジネスシーンで共感力を高めるためには、次のことを意識してみてください。

「わかろうとする姿勢」を持つ

「人の気持ちがわかるようになろう」と、共感のハードルを高く設定しすぎた結果、「うまくできない」と悩む方もいらっしゃいます。しかし、心理学のプロであっても全てを理解することはできません。

大切なのは、「わかろうとする姿勢」です。実際にわかるのは部分的であったとしても、「わかろうと意識して頑張る」姿勢は相手に伝わり、それだけでも信頼を得られるでしょう。まずは「スキル」よりも「姿勢」を身に付けましょう。

自分の価値観は白紙にする

自分の価値観が入ると、他者に共感することが難しくなります。いったん「自分」は脇に置いておいてください。

イメージとしては、「真っ白なキャンバスに、相手の状況を描いていく」。その人がどういう状態にあり、どんな感情を抱くに至ったのかを明確にしていき、それをもとに感想を話すのです。

最初から自分の考えや価値観をキャンバスに描いておくと、それがジャマになり、相手の状態を正しく理解できません。

食わず嫌いせず、多様な価値観に触れる

自分が興味のないものであっても、世の中のさまざまな価値観に触れ、さまざまな感情の揺れ動きや解釈の仕方を学びましょう。

例えば、引きこもりの人の支援では、対象者の部屋を訪れると、最初は嫌がられ、追い返されたりもします。しかし、その際に部屋にある漫画やゲームタイトルを見て、その漫画を読んだりゲームをしてみたりして、次回訪問時に話題にすると、心を開いてもらえてうまくいくことがよくあります。

多様な人の気持ちに共感するためには、さまざまなジャンルのテーマに好奇心を持ち、体験を増やしていくといいでしょう。

「来談者中心療法」を学ぶ

心理療法のアプローチを体系的に学んでみるのも有効です。特に、アメリカのカール・ロジャーズが提唱した「来談者中心療法(クライエント中心療法)」では、「あるがままの自分を受け入れる」「相手の考えや感情を自分のことのように感じる姿勢」「相手の考えや行動を肯定的に受け止める姿勢」などを重視しています。具体的な技法を学び、実践してみはいかがでしょうか。

共感力をつけてこそ、本質的な仕事ができる

どのような仕事においても、「人が抱える悩みを解決する」という根本は共通していると思います。そうした意味でも、人の悩みへの共感なくして良いビジネスはできません。

お客様に、そして仲間の気持ちに寄り添う共感力を磨くことで、本質的な仕事ができる人が増えれば、社会も豊かになっていくでしょう。多くの人が共感力によって仕事の質を高められることを応援しています。

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株式会社ダイレクトコミュニケーション代表(公認心理師・精神保健福祉士)
川島 達史氏

株式会社ダイレクトコミュニケーション代表(公認心理師・精神保健福祉士)川島 達史氏_プロフィール画像コミュニケーション講師。精神保健福祉士。これまで10~70代の3000人以上に雑談スキルを指導。大学院では雑談の研究を行い、会話トレーニングを開発した。自身も対人恐怖症に苦しめられ引きこもりを経験。家族にすら顔を合わせられない状況から抜け出すために、会話術を勉強しては部屋のポスターに向かって各3000回ほど練習。症状が良くなったものもあれば悪化したものもあり、会話術には間違ったやり方や取り入れるコツがあることを体感。社会復帰後は一般企業で働いたのち「ダイレクトコミュニケーション」を設立。自身の体験と生徒の反応、検証データを大事にしながら首都圏と関西圏で講座を開催している。著書に『結局どうすればいい感じに雑談できるようになるんですか』(サンマーク出版)『嫌われる覚悟 ~「考え方」が変われば好かれるようになる~』(マイナビ出版)など。

取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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