社会人1年目は辛いと感じやすい?ストレスを感じる理由と乗り越え方を解説

社会人1年目は、生活スタイル全般に大きな変化が生じ、その分ストレスもかかるもの。「つらい」「しんどい」と感じてしまう理由と、うまく乗り越える考え方について、人事・採用コンサルタントの曽和利光さんに聞きました。

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社会人1年目に仕事が辛いと感じる理由

環境が大きく変わるとき、どんな人にも混乱や戸惑いが生じます。特に、お金を払って学ぶ立場だった学生から、対価をもらって仕事をする社会人への移行は、物理的、精神的な変化が大きく、つらいと感じるのはごく自然な心理状態です。

こうした変化を、人事・キャリアの領域では「トランジション」といいます。人に大きな変化をもたらす重大な局面(クライシス)であると同時に、それまでの経験を見直し、新しい選択肢や変化をもたらす転機でもあるとされています。

新しい仕事への適応は誰にとっても大きなストレス

社会人になり、新しい人間関係を築くことや新しい生活リズムに順応することの負担の大きさは、数値として見ることもできます。

アメリカの心理学者・ホームズ(Holmes)博士が1968年に開発した「ストレスランキング」(社会的再適応評価尺度)では、もっともストレスの大きいライフイベントを「配偶者の死(ストレス値:100)」として、さまざまな事象を数値化しています。

それによると、「新しい仕事への再適応」(39点)、「経済状況の変化」(38点)、「仕事上の責任変化」(29点)、「転職」(36点)、「就業・卒業・退学」(26点)、「生活上の変化」(25点)、「習慣の変化」(24点)、「引っ越し」(20点)など、社会人になるにあたり起こりうる変化が、数多く上位に入っています。

ストレス値の合計点が200点を超えると、その後2年の間に、身体的・精神的な疾患を生じる可能性が約50%に上るともいわれています。学生という立場を卒業し、さまざまな生活環境の変化とともに就職することは、そもそも心身へのダメージが大きいことなのです。

社会人1年目にぶつかる「リアリティショック」

社会人1年目のつらさの理由の一つに、「リアリティショック」があります。リアリティショックとは、「理想と現実の間にギャップが生まれ、衝撃を受けること」を意味します。

社会人1年目においては、入社前にイメージしていた仕事内容や職場の雰囲気、人間関係の “理想”と、入社して目の当たりにした“現実”の違いに、ショックを受けてしまうことを指します。

社会人1年目にリアリティショックが起こりやすい背景には、「自己正当化」があります。多くの学生は、半年以上の時間をかけ、悩んだり一喜一憂したりしながら就職活動を進めます。

だからこそ、内定をもらった会社、自分が入社を決めた会社はいいところだと思いたい。そんな心理から、内定を得てから入社までの期間に、「この選択は正しかった」と自己正当化(理想化)が深まっていきます。

理想が高まった状態で入社すると、リアリティショックはそれだけ大きくなります。「こんなはずじゃなかった」という現実に戸惑い、「この職場ではやっていけない」「続けられない」とつらさを感じてしまうのです。

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社会人1年目を乗り切るための考え方

リアリティショックは、入社してから3か月までの間に最大化するといわれています。

その間に、新しい環境に受け入れられているという“受容感”を得られるかどうかが、「もう少し続けられそうな気がする」「やっていけるかもしれない」という自己効力感につながっていきます。

では、どんな行動や考え方が、リアリティショックを乗り越えるポイントになるのでしょう。

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インフォーマルネットワークを広げる

「受け入れられている」という感覚を強めてくれるのが、インフォーマルネットワークです。

インフォーマルネットワークとは、組織のフォーマル(公式)なマネジメントラインではない人間関係を指します。つまり、上司やプロジェクトメンバーなどの仕事上の関係がない人間関係のこと。社内において、その最たる例が、新卒採用の同期です。

企業によっては、入社後のリアリティショックを和らげるために、内定者の期間中に同期同士の仲を深める施策やイベントを行うところも少なくありません。

利害関係のない同期や仲良しの先輩を社内につくることで、仕事上の悩みを相談・共有でき、つらさをある程度解消させることができるでしょう。

理想の働き方、ロールモデルを探しに行く

就職活動では、企業説明会で登壇した先輩社員や人事担当者、面接官の人柄や雰囲気に惹かれ、それが企業選びの決め手になることもあります。

しかし、「こんな人たちと一緒に働けるんだ!」と理想を描いたとしても、配属部署の人間関係がその通りとは限りません。意欲に満ち溢れたキラキラした先輩ばかりがいるかと思ったら、現実は違った。

そんなリアリティショックから、「会社選びを間違えた」と落ち込んでしまうこともあるでしょう。ただ、会社全体を広く見渡せば、「入社したい」と思わせた要素は必ずあるはずです。

部署を超えて、いろんな人の話を聞きに行き、自分が理想とする働き方やライフスタイルを実現させている人を見つけに行くことも、つらさを乗り越えるためにできる一つの行動かもしれません。

現実を見据える一過程として受け入れる

「つらい」「しんどい」という気持ちの正体を理解することもまた、社会人1年目を乗り切る上で役に立つでしょう。

アメリカの精神科医キューブラー・ロスは、人が悲しみやつらさを抱えたときに、それらを受容していくプロセスとして「悲しみの5段階モデル」を提唱しました。

本来は死の喪失に向き合うプロセスとして知られていますが、リアリティショックによって抱えている「つらさ」にも通じるものがあります。

【悲しみの5段階モデル】

  1. 否定:現実を受け入れられず、見ないようにする、なかったことにする
  2. 怒り:「どうしてこんな目に!」などと怒りを抱き、周りのせいにする
  3. 取引:何とかならないかと、周りにすがる
  4. 絶望・抑うつ:避けられないことなのだと理解し、絶望し、仕方ないと腹落ちしていく
  5. 受容:現実を受け入れ、次に進むしかないと前を向く

否定・怒り・取引の段階は、エネルギーを周りにぶつけて足掻(あが)いている状態です。その後、現実を受け入れて「こういうものか」と納得するプロセスがあるからこそ、「今ある環境、与えられた仕事を工夫してやってみよう」と前向きになることができます

つまり、「つらい」状況にある今は、ポジティブな変化への一プロセスだといえるのです。否定・怒り・取引の段階では、「セルフハンディキャップ行動」に陥ることもあります。

「自分が本来のパフォーマンスを発揮できないのは、会社の環境が自分をうまく引き出していないからだ」「本気を出したらできるんだ」と、自らにハンディキャップを加え、できない理由を周りのせいにします。

この状態にあると、人や仕事とのいい出会いがあったとしても、ポジティブに受け止めることができず、チャンスを逃してしまいかねません。

つらさを抱えた今は、「どうせやるなら楽しもう」「せっかくなら工夫しよう」と思える段階に行くステップだと考えてみましょう。

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誰もが新しい環境に何らかのギャップを感じる

理想と現実とのギャップにショックを受けるのは、社会人1年目だけではありません。異動や転職で新しい環境に行けば、何らかのギャップを感じ、適応するために心身へのストレスもかかるでしょう。

自分だけがしんどいのではなく、誰もが自然に感じるものだと思えれば、少し気持ちが軽くなるかもしれません。

株式会社人材研究所・代表取締役社長 曽和利光氏

人材研究所・曽和利光さんのプロフィール画像1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)、『人材の適切な見極めと獲得を成功させる採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)など著書多数。最新刊『定着と離職のマネジメント』(ソシム)も話題に。

取材・文:田中瑠子 編集:馬場美由紀
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