ダイバーシティとは?企業が推進する理由や最新動向、働き方の変化を解説

ダイバーシティという言葉をよく耳にするようになりました。企業がダイバーシティを推進することで、今後の働き方はどう変わっていくのか。そして、その変化に対応して、個人としてはどうキャリアップを目指していけばよいのか、企業のダイバーシティ研修や人材育成・組織開発支援を数多く手がける株式会社FeelWorks代表の前川孝雄さんにお話を伺いました。

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そもそもダイバーシティとは何か

ダイバーシティとは、直訳すると「多様性」。性別・年齢・働き方・国籍・障害の有無など、様々な違いを持つ人たちが組織で共に働くようになってきたため、注目されています。

ダイバーシティ&インクルージョンとの違い

企業組織においては、ダイバーシティ&インクルージョンという言葉もよく使われます。インクルージョンとは「包括」「包含」の意。近年では多様性を尊重し、違いを認め、組織内へ受け入れることで「多様な人材を戦略的に活用する」方針を掲げる企業が増えています。

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近年、ダイバーシティが注目される背景と課題

最近ダイバーシティが注目されるようになった背景には、主に「人材不足」と「イノベーションの創出」という2つの要因があると考えられます。

要因1:少子高齢化による人材不足

日本では少子高齢化により、企業の人材不足・採用難が深刻化しています。まず、政府主導による「女性活躍推進」が活発化し、さらにシニア層、外国人採用など、多様な人材活用の潮流が生まれました。

要因2:イノベーションの創出

ダイバーシティ推進によって、企業が目指すのがイノベーションの創出です。バブル崩壊以降、多くの企業は成長軌道に乗れず、発想の転換ができずにいました。そこで時代の変化に対応すべく、多様な考え方・価値観を取り込むことで変革を起こそうとしているのです。

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ダイバーシティ推進で働き方やキャリア形成はどう変わる?

続いては、実際に企業がどのようにダイバーシティ推進を進めているのか、代表的な取り組みとともに、どのような変化が起きているのかをご紹介します。

育児・介護支援、リモートワーク推進などの制度改革

多くの企業が取り組んでいるのが、長時間労働の改善です。時間外・休日労働などを削減しながら生産性を向上させ、社員のワークライフバランスの実現を目指す企業が増えてきました。

育児と仕事の両立支援に取り組む大手企業も増えています。2022年10月からは、「産後パパ育休(出生時育児休業)」が施行されました。企業が男性の育児休暇取得を推進することで、夫婦ともに仕事と育児が両立できる働き方の実現が期待されます。さらに、働き盛りのミドル層の介護離職を防ぐため、介護休暇・介護休業などの制度の導入も進んでいます。

リモートワークは通勤時間のムダが省けるなどのメリットが多く、働き方の柔軟性を高める制度としてコロナ禍が収束しても、継続されるでしょう。出社+リモートワークのハイブリッド型制度を検討する企業も出てきています。

社員の自律的キャリア形成を支援

しかし、各種制度の整備や労働条件の改善など、働きやすい環境を提供するだけでは、人材の活躍や成長にはつながりません。大切なのは、一人ひとりの「働きがい」です。社員が仕事の意義に納得感を持ち、モチベーション高く取り組めること、主体的に考えて動けるチームを築くことで、イノベーションが創出されるといえるでしょう。

また、ダイバーシティにおいては、多様な価値観を持つ人材を活用することも重要です。「こんな仕事をすることで、将来のキャリアを築きたい」という個人の多様な志向や目標を、企業の成長をどうマッチさせていくかを工夫する企業が増えてきています。

例えば、人材を求める部署に社員が応募できるチャンスを提供する「社内公募制度」、部下の育成を目的に、定期的に上司と部下が話し合う場を設ける「1on1ミーティング」を導入する動きが活発です。

「個を活かす」マネジメントスタイルへの変革

これにともない、マネジメントのあり方も変化しています。トップダウンで指示し、プロセスを徹底管理するマネジメントでは、内発的な動機付けにつながりません。部下は「やらされ感」を抱きながら働くことになってしまいます。

部下が何をやりたいのかに耳を傾け、それを役割に落とし込み、自分の仕事の進め方を自分で設計させる。上司はそのプロセスの「伴走者」「支援者」の役割を果たすことが大切になってきています。これからの時代は「管理職」から「支援職」に変わる必要があるでしょう。

スタートアップ企業などは、当初からこのようなマネジメントスタイルで組織作りを行うケースが多いのですが、歴史ある大手企業でも「個を活かす」マネジメントへ変革していこうとする動きが出てきています。

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ダイバーシティ推進における課題とは

一方で、企業がダイバーシティを推進するにあたっては数多くの課題もあります。ここでは代表的な課題をいくつかご紹介します。

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ダイバーシティ推進における企業の認識・理解不足

ダイバーシティ推進は業界や企業によって、熱量や進捗状況の差が大きいのが現状です。経営の根幹課題と捉えて取り組んでいる企業、CSR(企業の社会的責任)の一環と捉える企業もあれば、法律で決まったからやらざるを得ないという認識の企業、旧来の組織構造を重視するために取り組みが遅れている企業も少なくありません。

特に大手企業が完成された仕組みを変えようとする場合、かなりの労力が必要であり、多くの企業が試行錯誤を続けています。経営陣が強い危機感を持ち、変革を図るべく、経営陣が現場まで下りてきて自ら推進するケースも見られるようになっています。

リモートワークの環境整備

働き方の多様化を進める施策の一つとして期待されるリモートワークですが、チームへの帰属意識が薄れ、職場のコミュニケーション不足や育成の機会減少など、チームビルディングが難しくなっているという課題も目立ち始めています。

孤立感を抱く人や自宅で仕事をすることにストレスを感じる人がいるといった問題もあります。住居事情や家庭環境によっては「オフィスの方が仕事に集中できる」という声も少なくありません。

こうした課題に対し、メンター制度などの導入、集合型の新入社員研修の復活、同期ネットワーク作り、郊外にサテライトオフィスを設置するなどの支援などに力を入れる企業が増えています。

企業のダイバーシティの取り組み事例

ダイバーシティを推進している企業は数多くありますが、今回は私営む会社がダイバーシティ研修に関わった企業や取材した実例から、広くお手本にしてほしい企業をいくつかご紹介したいと思います。

本田技研工業

マネジメント層が、学びながら自身の職場で実際に取り組みを並行していく上司力®研修を実施。研修で得た知識・ヒントから、ダイバーシティマネジメントスキルアップを図る。男性の育児参画の促進やLGBTに関するセミナーなども積極的に開催している。

サイボウズ

会社への申請なしで、複業(副業)をすることを奨励。サイボウズ以外の業務知識の習得や新たな人脈形成などの効果も期待している。

三州製菓

女性の活躍を積極的に推進。代表的な取り組みは、社員にメインスキル以外にスキルを身につけてもらうことで、メンバーが育休などで現場から離れてもフォローできる「一人三役制度」。パートタイマーを対象に正社員登用を推進している。

日本レーザー

社員が株主となり、経営に参加できる企業体を実現。業務に関わったメンバー全員が当事者意識を持てるよう、貢献を評価する粗利管理の導入などの業務改善などを行い、20年以上連続で黒字経営を維持している。

ダイバーシティが進む社会で働く個人が意識したいこと

ダイバーシティ推進によって、個人がやりたい仕事や目指すキャリアを支援する制度が増え、働きやすい環境が整ってきました。しかし、働く人にとって優しい環境になってきた一方で、これまでとは異なるタイプの「厳しい環境」にさらされることもあるのです。

例えば、これからの時代、大手企業でも永続的な雇用が保障されなくなっていきます。一方で日本人の寿命は延びていく。働く期間が長期化する未来に向け、自己責任においてキャリアを築いていなかなければならないわけです。

また、労働時間が短縮され、働く時間・場所の柔軟性も高まれば、企業はさらなる生産性やパフォーマンス、そして成果を求めます。また、働き方改革によってできた余剰時間をいかに有意義に使うか、自分自身で考えなければなりません。

このように、個が尊重される社会では、一人ひとりが自律的な働き方・キャリア形成を行う必要があることを意識しておくことが大切になっていくでしょう。

株式会社FeelWorks 代表取締役
前川 孝雄(まえかわ・たかお)氏

前川孝雄さん写真大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。リクルートで『リクナビ』『ケイコとマナブ』などの編集長を歴任し、2008 年にFeelWorks設立。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業・出版事業を営む。ダイバーシティマネジメント推進、リーダーシップ開発、キャリア支援に定評があり、400社以上を支援。株式会社働きがい創造研究所 代表取締役会長、青山学院大学 兼任講師、一般社団法人企業研究会 協力委員サポーター、一般社団法人ウーマンエンパワー協会 理事、iU 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授なども務める。著書は、『本物の「上司力」』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks) 、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『50歳からの人生が変わる 痛快!「学び」戦略』(PHP研究所)など35冊。

取材・文:青木典子  編集:馬場美由紀
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