これまでのビジネスシーンに多かった「自分の仕事は自分で責任を持つべき」「誰かに助けてもらうのは甘えだ」という考え方。しかしリモートワーク時代に必要なビジネススキルは、「周りに助けを求めるスキル」だと言われています。
そこで今回は、「ヘルプシーキング」に関するワークショップ型セミナーや講演を数多く行っている、働き方改革・人材育成プロフェッショナル・小田木朝子さんに話を伺いました。
株式会社NOKIOO 取締役 経営学修士 小田木 朝子さん
通販企業やIT企業での法人営業を経て、2011年にITサービス開発を行う株式会社NOKIOOの創業に参画。教育事業担当役員として、企業や行政に女性活躍・働き方改革・人材育成事業を提案している。女性のためのオンライン・スクール事業「育休スクラ」(⇒)の運営や、仕事がもっと楽しくなる“知恵とヒント”をVoicyで平日毎朝10分配信中(⇒)
目次
助けを求めることは甘えではなく、ビジネススキルである
リモートワークを推進する企業が増加し、同僚と離れて働くことが当たり前になってきた昨今。誰がどのような仕事をしているのかわからなくなってきたという人もいるのではないでしょうか。
また、私たちは家族の育児や介護などのライフステージにおける変化、あるいは、本人の病気や怪我、交通機関のトラブルなど不測の事態と向き合いながら仕事をする必要があります。時には引き継ぎも満足にできないまま、自分の仕事を誰かにバトンタッチしなければならないシーンも出てくるでしょう。
小田木朝子さんは、周りに助けをもらうヘルプシーキングをこれからのビジネスパーソンには必須のビジネススキルだと言います。
──そもそも「ヘルプシーキング」とは?
一人で抱え込まず、周りに助けを求めながら仕事に取り組む力を「ヘルプシーキング 」といいます。「シーキング」とは「探し求める、見つける(Seeking)」。働く時間や環境が制限される時に、協力を仰げる味方を増やそうという考え方です。
これからの時代、誰もが子育てや介護、病気など様々な事情を抱えながら、多様なライフステージで働き続けることになります。すると、「子どもが体調不良で急に病院へ行かなければならない」「介護のヘルパーさんが見つからず、仕事ができない」といった事態に直面し、期限までに求められる成果を上げられない場合も出てきてしまいます。
このとき重要なのは、一人で困りごとを抱え込まないこと。チームや組織にいち早く状況を共有し、臨機応変にリカバリーできる体制を整えることです。求められる成果が出せないときは早めに状況を共有し、「誰か仕事を助けてほしい」と、周りにサポートを求めて行動すること。これが「ヘルプシーキング行動力」です。
──なぜ今、ヘルプシーキングが必要なのでしょうか。
リモートワークで物理的に空間を共有しない相手と働くことがスタンダードになっていく中で、ヘルプの声をあげること、その声に耳を傾け、チームとして仕事を期限通りに正しく終えることの重要性が高まっています。ヘルプシーキング行動力は自分のためでなく、チームのために必須の行動と認識し、“誰もが”身に付けて磨くことが求められるビジネススキルです。
多くのビジネスパーソンには、仕事は自分一人で成し遂げなければならないという強い「思い込み」があります。我慢強い日本人の性質もあってか、ビジネスパーソンのうち9割が、人に助けを求めることが苦手だという調査結果もあるほどです。
一方で、周りに適切な助けを求め、人の手を借りられる人の方が職場の評価が高いというデータも出ています。それに加えて、社外の人や異なる強み、ポジションを持つ人と臨機応変に協力し合うフラット型組織へと組織形態が変化しつつあります。
自分にはない強み・弱みを持つ人と様々な情報を共有して助け合うことで、個人も組織も発展していこうという流れになっているのです。
ヘルプシーキングでメンバーの成長や生産性向上に繋げよう
──ヘルプシーキングがもたらす効果は?
メンバーの成長やモチベーション向上、生産性アップにつながります。何かあっても助けてもらえるという信頼関係のあるチームなら、安心して自分の能力を発揮できるため、高い成果を上げられるはずです。
誰かにヘルプを求めるということは、他のメンバーにとっては専門外のテーマや役割にチャレンジすることになります。これを時々「専門外の仕事なのに申し訳ない」という人がいますが、実は逆なんですね。
専門外の仕事にチャレンジすることで、その人は成長できるので、新たなキャリアが開けることにもつながります。困ったときに助けを求められる心理的安全性の高いチームは、メンバーのモチベーションが高く、人材定着の効果もあります。
他のメンバーと助け合うために仕事の標準化や業務プロセスの適正化を進めれば、生産性が向上しますし、不測の事態に対するリスク管理にもなります。多くの人の力や知見を生かし、助け合ったほうがより高い成果を出せるチームになるのです。
──具体的にどのように行動すればよいのでしょうか?
公私のスケジュールをオープンにし合い、個々人の抱える仕事について背景やリスクとなりそうなことを共有しておくといいでしょう。このとき、「自分の抱える事情」と「どうしてほしいか」をセットで伝えると効果的です。
例えば、クラウド型のカレンダーで「子どものお迎え時間」や「誕生日会」「通院」といったプライベートの予定を共有するのも一つの方法です。プライベートの予定を事前に登録しておけば、そこにミーティングなどを入れられてしまうこともありませんし、個々人の抱える事情を察してもらうこともできます。
ヘルプシーキングを発揮するときに重要なのは、タスクの依頼だけをしないことです。「子ども急に熱を出して」「プライベートでトラブルがあって」など、 自分の抱える事情をまず情報共有し、相手の共感を得た上で助けを求めれば助けてもらいやすくなるでしょう。
属人化を防ぎ、自分自身のビジネススキルと人格を磨こう
──周りに助けを求めるのが下手な人の特徴は?
判断遅れと心理的ハードル、自分でやった方が早いという思い込みが重なると、助けにくくなってしまいます。
1.甘い予測と判断遅れ
業務の進捗予測が甘かった結果、状況判断が遅れてリカバリー困難になるまで業務を抱えこんでしまうケースがあります。これでは相手の業務を調整する余裕がないため、助けたくても助けることができません。仕事が遂行できなくなるリスクがわかった時点で早めにヘルプを出せば、余裕を持って依頼を引き受けてもらえるでしょう。
2.「思い込み」という心理的ハードル
「頼まれたら迷惑なのでは」、「大変なのはみんな同じだから」という思い込みは、心理的ハードルを生みやすく周りに助けを求めづらい要因となってしまいます。これが1の「判断の遅れ」につながり、周囲も助けにくいという悪循環になってしまいます。
3.自分でやった方が早い症候群
自分しか仕事のやり方がわからない、業務が整理されていないなどの理由で、周りに依頼すると逆に時間がかかってしまうケース。これはそもそも仕事が属人化していることが原因。周りにいつでも引き継げるような、情報共有資料を用意しておきましょう。
ヘルプシーキング行動力はどう磨く?
──ヘルプシーキング行動力を磨くにはどうすればいいでしょう。
緊急時のみならず、日ごろから備えておくことが大切です。いつでもお願いできるようなわかりやすい仕事の進め方をしているか、業務に必要な資料・情報は見やすい場所にあるか、業務工程が見える化できているか、それから「助けを求めたら、ヘルプしてくれる人間関係」ができているかも重要なポイントです。

1.仕事の進め方
仕事の工程管理やスケジュール作成が余裕をもった進行になっているか。また、そのスケジュールや工程を他のメンバーと共有できているかが重要です。
そのためには、一人ひとりがビジネススキルを高める努力も必要です。工程管理や情報共有、セルフマネージメント力、相手の状況を推し量れる想像力やコミュニケーション力などを、日々磨き続けなければなりません。個々人が高いプロフェッショナリズムを持っていれば、困ったときにも助け合いやすくなります。
2.情報収集と共有ができているか
仕事や家庭、体調など仕事を進める上でリスクとなりそうな状況を共有しておいたり、自分の担当業務で今後起こりそうなことやネックとなっていること、他のメンバーの抱えるタスク量を把握しておいたりすることも重要なポイントです。
自分の担当業務については、緊急事態に陥ってから急に引き継ぎ資料を作るのは難しいはず。日ごろから、担当業務に関する資料は整理して共有フォルダに入れておく、仕事の手順を文書でまとめておき、仕事の属人化を防ぐなどといった対策をしておきましょう。
3.協力したいと思えるビジネスパーソンであるか
自分自身が、周りが協力したいと思えるビジネスパーソンであるかどうかも重要なポイントです。仕事に真剣に取り組んでいるか、誰かにサポートしてもらったら心から感謝しているか、逆に助けを求められたら快く助けているか。こうした人としてのあり方や人格そのものが、協力してもらえる人であるかどうかにかかってきます。
【まとめ】助けを求め、協力し合うスキルを高めよう
様々な立場の人が多様な働き方で関わり合い、柔軟な対応が求められる中でチームとしての生産性を高めるためには、自身が抱える事情をオープンにし適切なタイミングで助けを求めることが必須となります。
これから先、雇用形態や働く場所、勤務時間帯などが個々人によってバラバラになる中で高い成果を上げるためには、個々人がプロとしてビジネススキルを高めることと、ヘルプシーキングを駆使して周りの人と協力し合うこと、その両方が必要になってきます。