クリティカルシンキングとは?仕事で役立つ理由と鍛え方を紹介

近年、ビジネスの場で「クリティカルシンキング」が注目されています。物事の本質を見極めることができ、ビジネスの予測精度が上がるとされていますが、具体的にはどんなスキルであり、どのように鍛えればいいのでしょうか。人事・採用コンサルタントであり心理学にも詳しい曽和利光さんに伺いました。

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曽和利光さん顔写真曽和利光さん

株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。

クリティカルシンキングとは?

クリティカルシンキングとは、物事を構造化した上で論理的に問題や課題を分析する思考法のこと。普段、無意識のうちに行っている行動や考え方を「意識化」し、客観的かつ分析的に振り返ることを意味します。

「クリティカル」とは危機的な、重大なという意味ですが、「批判的な」という意味も持ちます。そのため、クリティカルシンキングは「批判的思考」とも呼ばれていますが、批判の対象は他人ではなく「自分自身」です。

つまり、自分の行動や考えは間違っていないか、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込みや偏見)による歪みはないか、自分自身に対して批判的な問いを繰り返し、ロジックを邪魔する要素を排除することが、クリティカルシンキングには必要とされます。

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クリティカルシンキングとロジカルシンキングとの違い

クリティカルシンキングと似たような概念であり、混同している人が多いのが「ロジカルシンキング(論理的思考力)」。ロジカルシンキングは、物事を要素ごとに分解し、推論を積み重ねながら筋道立てて考える思考プロセスのことを指します。

これに対してクリティカルシンキングは、ロジカルシンキングによる「論理的な正しさ」だけでなく、その考えが本当に正しいのか、妥当性はあるのかを考えるプロセスまでを含みます。

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今クリティカルシンキングが注目される背景

昨今、ビジネスにおいてクリティカルシンキングが注目されている背景には、個人の価値観や嗜好の多様化が挙げられます。

ロジカルシンキングによって導き出した1つの答えだけでは、多様化したニーズに対応しきれず、ビジネスの成功を見誤る恐れがあります。

そのため、「この方法、この判断で本当に正しいのか」と批判を重ねながら本質を見極めようとする、クリティカルシンキングのアプローチが重要視されているのです。

クリティカルシンキングが仕事に役立つ理由

クリティカルシンキングを身につける過程では、まず自分のバイアス(偏見)を自己認識することが必要です。このバイアスをコントロールできるスキルを身に付ければ、偏見を外して物事を見ることができるので、「真実をベースに物事が考えられる」ようになります。

クリティカルシンキングは、誰もがビジネスに活かせるスキルです。クリティカルシンキングを鍛えることで、物事を客観的に捉えられるようになるので、相手の考えや意図を冷静に把握できるようになります。それにより、仕事において円滑なコミュニケーションが取れ、協働しやすくなるでしょう。

そして、クリティカルシンキングを磨けば磨くほど、「認知のゆがみ」のパターンが見えてくるようになります。

世の中の圧倒的多数の人は、自身のバイアスをもとに行動しています。つまり、人の「認知のゆがみ」パターンがつかめれば、世の中の動きが予測できるようになり、ビジネスの予測精度も高めることができるでしょう。

これは、人間行動の観察をもとに先行きを予測する「行動経済学」にも近しいので、仕事において世の中の流れや動きを予測する必要があるマーケティング担当者や商品企画担当者などは、特に身につけておきたいスキルです。

世の中全体を読むだけでなく、クライアントのバイアスを探り、考えを予想できるようになれば、商談相手のニーズを引き出すことが重要な営業職においても活かせるスキルと言えます。

また、仕事に関するデータから「この数字が意味するものは何か」を読み解く力がつくので、より正確な判断がしやすくなるというメリットも考えられます。

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クリティカルシンキングの鍛え方

前述のように、クリティカルシンキングは自分の行動や考えは間違っていないか、バイアスによって歪んでいないかなど、自身に対する「批判的思考」が重要です。それにより自身のバイアスを認知できれば、ある程度それを制御しつつ、フラットに物事を見ようと努力することができます。

そのため、クリティカルシンキングを鍛えるには、普段から自分の行動や考え方に対して批判的に捉えたり、第三者からの意見や指示などを鵜呑みにせず「本当に正しいのか」と疑ってみたりする方法が考えられます。

ただ、最も手軽でありかつ有効なのは、「自分のバイアスについて、他人からフィードバックを受ける」方法です。いくら客観的に判断しようとしても、自分のバイアスにはなかなか気づけないもの。ましてや「無意識下にある偏見や思い込み」を洗い出すのはさらに難易度が上がるので、第三者から「あなたにはこんな偏見がある」と指摘してもらうのが一番手っ取り早いし確実です。

指摘してもらうのが難しければ、同じものを見てどんな感想を持つか、周りとすり合わせて意見の違いを洗い出してみるといいでしょう。

例えば、採用担当者であれば、一人の応募者を複数人で見て面接後に感想をすり合わせてみる、営業であれば、新しい自社商品の特徴をもとに「自分ならばどのように売るか」を周りとすり合わせる、などの方法です。周囲のさまざまな意見を通して、自身の思わぬ偏見や思い込みに気づけることと思います。

クリティカルシンキングは継続的に鍛え続けることが重要

トレーニングによって自分のバイアスを認識できたとしても、しばらくすればまた、無意識下にバイアスは生まれます。

人は意思決定の時に、理論をすっ飛ばして経験則やバイアスから物事を判断しようとする特性があります。すべてを論理的に考えると思考がキャパオーバーしてしまうので、無意識のうちに「思考の省力化」を行っているのです。

したがって、クリティカルシンキングを維持するには、定期的にフィードバックを受け、周りと認識のすり合わせをするなどして、バイアスを認識し直す作業が必要です。心理学では、「バイアスを認識して意識的に排除したとしても、1年程度でそのバイアスは戻る」という理論もあるので、少なくとも年に1回は、フィードバックやすり合わせの場を設けることをお勧めします。

もちろん、普段から「批判的に問い続ける」習慣を持つことも大切です。クリティカルシンキングによる本質を見極める力は、短期間で身につくものではありません。普段の生活の中で、「この考えは果たして合っているのか」「本当に間違いはなかったか」と考え続けることで、クリティカルシンキングが磨かれていくでしょう。

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取材・文:伊藤理子 編集:馬場美由紀 撮影:平山諭
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