創業135年、電話とFAX中心の会社が「Slack」を導入、業務改革・組織改革に取り組む――「GOOD ACTION アワード」受賞・株式会社カクイチ

ガレージや物置、倉庫、ホースなどの製造販売を手掛ける株式会社カクイチ(グループの従業員数約600名)。今年で創業135年を迎える老舗企業です。
これまで同社では、電話とFAXというアナログな方法で業務を進めていましたが、2018年に入社1年目の新入社員がプロジェクトリーダーとなり、グループ全体でチャットツール「Slack」を導入。それを活用することで業務改革と組織改革に取り組みました。

その取り組みは、リクナビNEXT主催の「第7回 GOOD ACTION アワード」(※)を受賞するきっかけともなりました。今回は、このプロジェクトを推進した執行役員 事業戦略部長の鈴木琢巳さん、事業戦略部の服部悠司さん、そして人事担当の堀内美咲さんに取り組み内容を詳しくうかがいました。

※「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION アワード」は、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。

「GOOD ACTION アワード」受賞者インタビュー記事一覧はこちら

カクイチさん01

▲株式会社カクイチ 堀内美咲さん 服部悠司さん

アナログなコミュニケーションでは、社長の思いが現場に正しく伝わらない

――今回の取り組みの背景や、当時抱えていた課題などについて教えてください。

鈴木 当社は明治19年創業。銅鉄金物商からスタートし、現在ではグループ11社を持ち9事業部門を展開しています。拠点は、営業所や店舗など約100拠点に上ります。ただ、会社が大きくなる一方で、事業を多角化しすぎてマネジメントが追い付かない、組織が大きくなりすぎて意思決定のスピードが遅い、事業を取り巻く環境が目まぐるしく変化しているのに社内に危機感がない、人材育成が進まない…など、さまざまな課題が噴出していました。

特に大きな課題だったのが、「社長の発言が現場に正しく伝わらない」という点。ピラミッド型の組織なので、階層が深くなるごとにトップの声が届きにくい状態。そのため、現場が会社の目標や戦略、社長の思いとズレた行動を取っているケースも散見されました。

服部 驚かれるかもしれませんが、当社はついこの間まで業務で使えるツールが電話とFAXだけでした。パソコンは各営業所に1台のみで、皆で共有して使っていました。
電話は1対1のコミュニケーションツールですし、FAXはトップの思いを発信・伝達するのには適していません。月1回、所長会議での社長の言葉を各所長が現場に持ち帰り、メンバーに伝えるのですが、伝達の仕方はそれぞれに任されており、意思統一の面で問題がありました。

――その課題を解決する策が「Slack」ということですが、どういう理由で「Slack」に着目したのでしょう?

鈴木 Slackを導入したのは2018年10月。今でこそ多くの企業で使われていますが、当時はまだ一部のTech系企業でエンジニアが使うツールというイメージでした。ただ、社長は新しいものが好きで、「うちのような創業100年超の企業が最先端のツールを導入したら面白いんじゃないの?」という鶴の一声から今回の取り組みが始まった格好です。それまでは電話とFAXがコミュニケーションツールですから、蒸気機関車から一足飛びにリニアモーターカーに乗り換えるような感覚でしたね。

実際、周りからは反対されました。エンジニアが使うようなツールを、パソコンが営業所に1台しかない会社でどうやって活用するのか?とか、カクイチは社内外とのリアルなコミュニケーションを大切にしてきた会社だから、カクイチらしさが失われるのでは?などの声もありました。ただ、「だからこそ面白い化学反応が起こせるのではないか」という期待もありました。

入社1年目の新人が、Slack導入プロジェクトのリーダーに

――ITツールに慣れていない人が多い中、スムーズに導入を進めるために工夫したことはありますか?

鈴木 実は、Slack導入の半年前に、他社製のコミュニケーションツールを導入していました。ITに不慣れな年配の人もようやくその操作に慣れてきたのに、今度はSlackに切り替えることになり、「いったい何を考えているんだ!」と現場からは大ブーイングでした。

当時、私は情報システム部の部長だったのですが、もし私がSlack導入の旗振り役をやったら現場の反発をもろに食らってしまい、うまく前に進まないと予想されました。そこで、当時入社1年目の柳瀬さんに、Slack導入のプロジェクトリーダーを任せました。

彼女に任せたのは、まずは人柄。度胸があり、難しい課題にも果敢に取り組みやり切る力がありました。そして、入社したばかりなのでまだ社内事情がわからず、「抵抗勢力は誰か」などと考えずフラットに導入を進められるとも思いました。Slack導入に対して不満がある人がいても、「1年目の新人に文句は言いにくい」という心理的効果も狙いました。

全国100拠点に一気に導入を進める必要があるため、各拠点に「ITアンバサダー」という協力者を2名ずつアサインし、柳瀬さんの援護射撃と現場での導入サポートをお願いしました。

柳瀬さんとアンバサダーのコミュニケーションは、Zoomで実施。Slackとはどういうものなのか、活用することで何ができるようになるのかを一つひとつ、丁寧に伝えていきました。彼女が「Slackを使うと会社やほかの拠点のことがわかり、面白いですよ。ぜひ楽しんで使いましょう」と伝えてくれたので、初めは戸惑いもあった各ITアンバサダーも、一緒に面白がってくれるようになりました。

そして、比較的ITリテラシーの高い人がいる5つの拠点に先行導入し、その方法をほかの拠点に横展開。すべての業務と情報伝達方法をSlackという1つのプラットフォームに集約させたことで、若手社員からどんどん浸透が進んでいきました。

服部 そして転機になったのが2019年1月、「社長のつぶやき」という社長専用のチャンネルを作ったことです。

最初の投稿は年始早々で、初詣に行ったことと「2019年はこんな年にしたい」という決意表明でしたが、それに対して若手社員を中心に約250人もの人が返信コメントを投稿したのです。

社長が今考えていることをSlack上でつぶやいてもらったことで、今まで遠い存在だった社長を身近に感じることができ、「Slackを見れば社長の発言が直で見られるんだ」との認識が広まって、一気に閲覧者が増えました。社長と現場の距離がぐんと縮まった瞬間でした。

相談や困りごとはSlackで解決、社内の一体感も強まる

――Slackを活用するようになって、社内にどんな変化が起こりましたか?

服部 まずは、悩みや相談事を、Slackでオープンに投稿する機会が増えたことが挙げられますね。

ある営業所で以前、基礎工事を間違えてしまうという事件があり、困り果てた若手社員が朝4時に図面などの資料をSlackに上げて「どうすればいいですか?」と投げかけたことがあります。すると、すぐに50人以上の人が対応策を返信、全社からカクイチの知恵が集まったことで、お客様対応も丸く収まりました。

当社は平均年齢46歳の会社で、中には若手の面倒を見たい、良い意味でおせっかい好きな人もいます。誰かが現場で悩みをつぶやいていると、顔見知りでなくても自身の知見をもとにどんどんSlack上でアドバイスするという雰囲気が醸成されました。

堀内 個人の感想としては、以前に比べ「みんなで仕事をしているんだ」という実感が得られるようになりました。

今までは電話とFAXでのやりとりのみで、顔も覚えられないし相手がどんな人かもわからない。相手の忙しさがつかめない中で電話するのも気が引けました。しかし、Slackならば相手の時間を奪うことなくいつでも連絡を取ることができ、返信も迅速にもらえます。遠方にある営業所とも連携が取りやすくなり、社内の一体感が強まりました。

そして、「困ったことがあったらSlackで相談する」という文化ができ始めているとも感じます。重い相談から軽い意見交換まで、投稿すれば全国の誰かが絶対にアドバイスをくれる。いろいろな部署、いろいろな立場の方の意見を聴けることで、視野も広がりました。

鈴木 組織としてのスピードも格段に上がりましたね。現場への伝達スピードが2倍になり、現場の情報がトップに集まるので意思決定が2倍になった。結果、4倍以上の効果が得られたのではないでしょうか。

「単なる伝達役」としての中間管理職が見直されるように

鈴木 一方で、Slack導入により明るみに出た問題点もあります。社長の言葉が末端まであっという間に伝わることで、部長や課長といった中間管理職の役割が見直されるようになったのが代表例。これまで組織の中で、情報を武器に部下をコントロールしていた管理職は、「単なる情報伝達役」としての業務が不要になり、存在価値が揺るがされる事態に。部下から「それは社長の言っていることと違うのでは?」と指摘される人もいました。

これに伴い、変革についていける管理職、ついていけない管理職が二極化。会社の戦略やビジョンをもとにSlackをうまく活用しながら自身の部署・チームの戦略を立て、メンバーを導ける人がいる一方で、これまでの考えややり方に固執する人は、管理職からいったん離れてもらうことになりました。

服部 痛みを伴う変化ではありますが、社長は「これこそがDX」と話しています。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、IT化を進めることで今ある業務負担を減らしたり、リソースを増やしたりするのが主たる目的ですが、レガシーな仕組みを崩壊させ新たなものを生み出すのもDXだと。その一つが、今回の場合は「人」だったのだと思います。

――新たに見えてきた「人」という課題に対して、どのように対応しているのでしょう?

鈴木 新たな評価システムの策定など、さまざまな取り組みを行っていますが、代表的なものが「タスクフォース」という組織横断の5名1組で取り組むプロジェクト。取締役会で挙がった全社的な課題に対応しながら、他部署間での連携を促進するという取り組みです。

具体的には、いま直面している課題について、トップから指名された、組織も立場もバラバラなメンバーが集まり、3カ月内で成果を上げるべく連携を取って行動します。最終的には取締役会で提案し、承認されればそれが全社で運用されます。現在、31のタスクフォースが動いていて、さまざま成果を上げています。

タスクフォースのメンバーは経営トップから選出されるので、「選ばれるのが名誉」になっています。もちろん、成果を上げれば正当に評価されるほか、「リーダーの役割に3回成功したら昇格」など、人事考課にもつなげています。先の中間管理職の話で、いったん課長職を解かれた社員が、タスクフォースで活躍し、管理職手当と同等以上の手当を得ているというケースもあります。

可能性を限定せず、「面白い方向」に進みたい

カクイチさん02

――今回の改革を経て、今後どういう会社にしていきたいと考えていますか?

鈴木 もっと面白い会社にしていきたいですね。当社のスローガンは、「やろう、だれもやらないことを」。創業135年、平均年齢46歳、ITリテラシーほぼゼロの会社が、Slackを使いこなすようになったように、どんどん新しいことにチャレンジして世の中にインパクトを与えていきたいと思っています。

Slackはすでに当社の中で「メディア化」していて、さまざまな情報発信や情報共有、コミュニケーションの場になっていますが、今後はメインクライアントである農家さんなどお得意先をチャンネルに招待し、外部と情報共有することでオープンイノベーションを促進したいと考えています。社内とは異なり強制力は働かないので、アナログなアプローチも含めながらより良い方法を検討していきたいと思います。

服部 Slackを入れたことで、会社はガラリと変わりました。変わったことで得られた新たな可能性は無限にあり、「次はどの可能性に挑戦しようか」と選べる状態にあります。

その際、自分たちでカクイチの可能性を限定するのではなく、まずはスローガンに沿って「面白そうかどうか」で進んでいけば、うちの会社らしい事業展開ができるのではないかと思います。そもそも、Slack導入も「うちが最先端のツールを導入したら面白そうだ」という理由から。あれこれ決めすぎず、臨機応変に突き進んでいきたいですね。

リクナビNEXT主催「GOOD ACTION」公式サイト

ライター:伊藤理子 写真:平山諭

Pagetop